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コンピューターを使ったスライド作り [1]

帝京大学救命救急センター
鈴木 宏昌

Emergency Nursing 1997;連載「学会発表の Know How」
コンピューターを使ったスライド作り [1]

  かつては「読み書きソロバン」が教養人としての基本能力でした。しかし、これからは「read, write and computing」が現代人の基本能力となるでしょう。医師であれ看護婦であれ我々は、研究や経験から得られた新しい知見を広く公開し医学/看護学の発展に寄与する責務があります。研究の成果を公表する場として現在「学会」あるいは「研究会」での口演が一般的ですが、Internetの発展により近い将来発表の形態も大きく変わるかもしれません。いづれにしても、keywordは「multimedia」です。情報の伝達は五感を通じて行われます。口演は「音声」を主な媒体とした情報伝達ですが、時として文書よりも早く多くの人に情報を伝達することができます。しかし、つい居眠りをした経験があるように、単調な音声伝達は必ずしも効果的に情報を伝達できません。情報の伝達を印象づけるには2種類以上の感覚を同時に刺激することが効果的であるのはゲームセンターやディズニーランドで経験済みのこことでしょう。
  どんなにすばらしい研究をしても、それが正しく多くの人に伝達されなければ価値がありません。口演で使う「スライド」は「視覚」を刺激する効果的な方法ですが、目的はあくまでも「研究の内容を理解してもらう」ことであることを忘れてはなりません。10年ほど前にはスライドと言えばレタリングで作った原図を撮影した「ブルースライド」が中心でしたが、現在ではコンピューターで作られた「カラースライド」が主流になっています。これからスライド作りを学ぶなら、レタリングを学んでも無駄でしょう。そこで、コンピューターグラフィックでどのように「カラースライド」を作るのか、どのように表現すれば理解しやすりスライドができるのか、その基本とテクニックを2回に分けれ解説します。

I.【必要な道具】

  最低必要なものは次の3つです。1) personal computer、2) film recorder、3) graphic softwareです。総論的を言えば、それぞれに多くの種類もあり長所や短所もあるのですが、実際的には参考にならないでしょう。そこで、今回使うシステムに限定して紹介しましょう。

  1. Personal Computer:
      Macintosh が初心者には一番扱いやすいコンピューターでしょう。機種は予算次第ですがどの機種でも可能です。異なるのは作業をするスピードです。作業速度に大きく影響するのは RAM と呼ばれるメモリーの大きさです。16MB以上は必要でしょう。具体的には Performa 5260(実売価格16万円前後)やPerforma 5430(実売価格26万円前後)が現在手ごろな機種でしょう。

    【Performa新製品情報 http://www.apple.co.jp/product/961112pf.html】

  2. Film Recorder:
      パソコンで作ったグラフィックをスライドフィルムに焼き付ける機械です。高価なため個人で購入するのは非効率的です。医局や看護部単位で予算を組まなければならないでしょう。予算が許せば画質の点ではPersonal LFR PLUS(89万円)がおすすめですが、POLAROID HR6000(69万8000円)でも充分きれいなスライドができます。その予算もないという場合2つの方法があります。最近では 3)のソフトウェアで作ったファイルをフィルムに出力するサービスを行っている会社が数多くあります。枚数が多いと高額にないますが、出力する枚数が少なければ機械を買うよりは安いでしょう。もう一つの方法は、モニターの画面をカメラで撮る方法です。カメラと三脚さえあれば可能ですが、見ている画面のままを撮影するので解像度は画面の解像度に依存します。

    【POLAROID HR6000 69万8000円〜 日本ポラロイド(株)電子映像部 TEL.03-3438-8879 http://www.polaroid.co.jp/j-text/prodj5.html】
    【Personal LFR PLUS 890,000円 (株)イメージアンドメジ ャーメント 03-3365-3641】

  3. Graphic Software:
      多くの種類がありそれぞれに一長一短があります。Macintosh用のスライドプレゼンテーション用ソフトウェアには DeltaGraph Pro 3.5J、Microsoft PowerPointやAldus Persuasion 3.0などが一般的です。大切なことは、迷うより一つを使いこなすことです。ここでは、Delta Point社の「DeltaGraph Pro 3.5J」と言うソフトウェアを使います。このソフトウェアの優れた点は、医学発表で多く使われるグラフ表現の自由度が高いことです.

    【DeltaGraph Pro 3.5J 29,800円 (現在の最新版は Ver 4.0 です) 販売:日本ポラロイド(株) 03-3438-8879】

      以後の解説では、Macintoshの基本的な操作方法は理解していることを前提にします。また、本文はプログラムの解説書ではないのでDeltaGraph Pro等の詳細な使い方については各々のマニュアルを参考にして頂き、どのようなスライドを作れば良いのかを中心に話を進めることにします。

II.【スライドプレゼンテーションに使うスライドの種類】

  学会や研究会など我々が医学/看護に関する口演で使うスライドは大まかに分類すると次の5種類になります.

  1. Opening Slide: [カラー図-1-a]
      一番最初に使われるスライドで、口演のタイトルと演者名や施設名、あるいは内容の項目などを提示します。必ずしも必要ではありませんが、聴衆を引きつけ、これから話す内容に注目させる効果があります。

  2. Text Slide (tables, contents, explanation etc.):[カラー図-1-b]
      文字が主体のスライドです。言葉の説明や箇条書きにした話の内容などに使われます。表も文字を主体としたスライドの一つです.

  3. Schema Slide (schema, graph, etc.):[カラー図-1-c]
      研究の方法や結果を図やグラフによって分りやすく表現するスライドで、シェーマや漫画などを使ったスライドも同類でしょう。
  4. Graphic Slide (Photograph, X-ray film, etc.):[カラー図-1-d]
      実際のカラー写真やレントゲン写真を提示するスライドです。
  5. Ending Slide (conclusion, summery, etc.)[カラー図-1-e]
      口演の最後には「結語」あるいは「まとめ」のスライドが使われます。ここに主張しようとする内容が凝縮されるわけです。基本的には文字を主体としたスライドです。

カラー図表 ページ1

III.【スライド作りに当たっての全般的な注意】

  具体的なスライド作りに入る前に、全般的な注意事項について説明しましょう.

  1. スライドの目的
      スライドは理解を助ける道具です。したがって、如何に訴えようとする内容を理解し易く表現するかを考えなくてはなりません。理解困難にするようなスライドは無用なばかりでなく罪悪でさえあります。理解の補助にならないスライドは、スライドの本来の目的を失っていると言えるでしょう。

  2. スライドは聴衆のために作る
      スライドは聴衆のために作るのであって、自分の備考のために作るのではないということです。得てして発表者は自分の理解しているレベルでスライドや講演の原稿を作ろうとします。研究発表はある限られた非常に特異な分野の最先端の内容であるのが普通です。学会の性質や聴衆のレベルにもよりますが、必ずしも聴衆は演者と同じレベルの基礎知識を持っているとは限りません。スライドは聴衆に理解してもらうためのものですから、演者は常に聴衆のレベルにあわせて聴衆が容易に理解できるように講演の内容やスライドを作らなければなりません。演者の「常識」は決して聴衆の「常識」ではないことを明記すべきです。スライドは聴衆の理解を助けるために利用するのであって決して自分の理解を整理するために作るのではありません。

  3. スライド内容は単純明解に
      日本の学会では発表時間は短く、およそ5〜7分、長くても10分程度です。そこで少ないスライドに沢山の内容を詰め込もうとしがちです。しかし、1枚のスライドが映写される時間はせいぜい数10秒です。この短い映写時間に理解できる情報量には限りがあります。いくら沢山スライドに盛り込もうとしても理解してもらえなければスライドを作る意味がありません。なるべく単純明快で示したい要点が一目で分かるスライドにしなければなりません。折角苦労して調べたデータですから全部提示したい気持ちは分かりますが、そこをグッと堪えて主張したい要点以外のデータはすべて省かなければなりません。そのためにも各々のスライドで「訴えたいことは何なのか」をハッキリさせることが重要なのです。どうしても複雑なグラフを提示する必要がある場合には、聴衆が十分理解できるだけの時間スライドを映写し要点を解説しなければなりません。

  4. 画面を有効に利用できる構図
      スライドの大きさは25×35mmですから、有効に利用できる画面の比率はほぼ2:3です。この有効画面全体を効率的に利用しなければなりません。中央に小さな字で表示したり、1行だけ長い文を入れたりすると遠くから見る聴衆には文字が判読できなくなってしまいます。[図-1]

  5. 簡明な見出し(タイトルを付ける)
      各スライドには、何につ説明しているかが分かるような明快なタイトルを付けるべきです。タイトルがないと聴衆はスライドの内容から何について示しているのかを一々考えなければならず、理解するのに時間がかかってしまいます。

  6. 効果的演出(何を強調したいか)
      スライドで特に強調したいところは太くしたり色を変えたりアンダーラインを引いて強調します。余りに単調で全ての文字や線が同じだと聴衆はどこに注目して良いのか分からなくなってしまいます。各々のスライドにはそこで強調したい内容があるはずです。注目してもらいたい部分を強調すると理解が早くなります。

  7. 数表よりはグラフを
      数値を読み取って理解するには時間がかかります。折角視覚に訴えるスライドですから見て直感的に分かるグラフを有効に使いたいものです。数字だと大小の比較が理解し難いものです。特に桁が変わると大きく感じられ、例えば85と97の変化より97と106 の変化の方が大きく感じてしまいます。実際は前者の差は12で、後者は9の差しかありません。その点グラフは視覚的に大小の違いを表現するのに優れています。[図-2]

  8. スライドの嘘
      上の例で分るように画像情報は聴衆に強く印象付けられます。それだけにスライドによる画像情報は誤った、または「嘘」の情報を伝える可能性を秘めています。科学的な発表では、何が真実であるかを明かにした上で訴えたい趣旨をはっきりさせなければなりません。

  9. 背景の統一
      「背景」とはスライドを作るキャンバスの下絵のようなものです。出てくるスライドごとに異なった背景では、聴取は疲れてしまいます。一つの口演では背景も一つに統一すべきです。

IV.【スライドの部品と各要素】

  現在のパソコンはMacintoshにしてもWindowsにしてもGUI(Graphical User Interface)と言う目で見た図形や文字をmouseと呼ばれるpointing deviceによって画面上の矢印を動かして直感的に操作するようになっています。こうしたパソコンで画面(キャンパス)にスライドの画像を作るのには、どのプログラムでも、どのパソコンでも共通した「部品(Object)」と言った考え方を理解していると分りやすいのです。そこで「DeltaGraph Pro 3.5J(DGP)」を前提に、「部品」の構造を説明します。
  DGPを起動すると、まずデータビューウィンドウと呼ばれる「表」が現れます。この表はグラフを書くためのデータを入れるものです。このウィンドウの下にあるナビゲーションバーと呼ばれるグラフビューのボタンをクリックすると、窓の中に白紙のキャンバスと道具箱(ツールボックス)が現れます。このキャンバスの上にスライドのレイアウトを作って行くわけです。

  1. 「部品」を選ぶ
      部品を選ぶには、ツールボックスの左上にある矢印(ポインターツール)を選びます。[図-3]

  2. 「部品」の種類
      部品には次の3種類があります。各々の部品は更にいくつかの要素から成り立っていて、スライドを作るということは、これらの部品をキャンバスに配置し、各々の要素を好みの色や形に変えることなのです。

    1. 文字(テキスト)
    2. 図形(線、曲線、四角、丸など)
    3. グラフ

    各々の部品の選び方や描き方はDGPの解説書やマニュアルをご覧下さい。

  3. 「部品」の要素
      大切なのは各々の部品がどんな要素で成り立っていて、どんな選択が可能かを知ることです。部品の要素を変更するには、部品やその一部の要素を選択して、選択したものに対して変更を加えるのです。

  4. 「部品」の移動
      どの部品もキャンバスの上をどこにでも移動することができます。ポインタツール (矢印)で「部品」の中央を摘んで(マウスのボタンを押したまま)ドラッグするだけで移動できます。各部品は、選ばれると「部品」の回りにオブジェクトハンドルと呼ばれる四角が四隅に現れます。

  5. 「部品」の大きさを変える
      「部品」の大きさはオブジェクトハンドルやサイズ変更ハンドルを摘んでドラッグすることで簡単に行えます。いろいろ試してみるとどこを摘むとどう変形するかが分ります。

  6. 「文字(テキスト)」の要素 [図-4]
      「文字」部品は、実は2つの部品が組み合わさってできています。文字そのものと文字を取り巻く四角い枠です。したがって、各々の要素を変えることができます。文字そのものは次のような要素からなりたっています。

        
    1. フォント(書体):  文字の書体を選ぶことができます   
    2. サイズ:  文字の大きさを選ぶことができます   
    3. スタイル(装飾):  太字にしたり、斜体にしたり、下線を入れたりすることができます   
    4. 位置揃え:  書かれた文字を右揃えにしたり左揃えにしたりできます   
    5. 色:  文字の色を選べます   
    6. 影付け:  文字をダブらせて影付きの文字にできます

      これらの文字の要素を変更するのは、画面最上段にあるメニューバーのテキストから選べます。「文字」部品の枠については、「図形」部品と同様に各々の要素が変更できます。

  7. 「図形」の要素   [カラー図-2]
      四角や丸、多角形など「図形」部品は次の2つの要素から成り立っています.


    1.   図形の輪郭を示すのは線です。線は次の2つの要素からなりたっています。線の「太さ」と線の「色」および「パターン」です。


    2.   輪郭に囲まれた内部が面で、面についても「色」と「パターン」が選択できます。 線と面から成り立つ「図形」もダブらせて影を作ることができます。

      実はコンピューターで扱う「図形(絵)」には2通りあります。ここで言う「図形」と言うのは点と点を数学的に結びつけて描かれた四角とか円などの単純な図形で「ドロー系」と呼ばれています。一方、小さな点の集まりで描かれた「絵」は「ピクチャー系」と呼ばれます。ピクチャー系の図形はドロー系のように自由に各要素を変えることができません。

  8. 「色」と「パターン」  [カラー図-2]
      「線」にしても「面」にしても、色の指定は次の原則に従います。

    1. 「前景色」と「背景色」
        「線」も「面」も基本的に一色の「背景色」(裏打ち)の上に「前景色」で指定された色で「パターン」で指定された絵柄を塗ることになります。通常は前景色で「塗りつぶす」指定になっているので前景色に指定された色に全体が変わります。

    2. 「前景色」の「パターン」
        「前景色」を塗る「パターン」(絵柄)を選ぶことによって「網掛け」を付けることができます。

      DGPでは、ツールボックスの一番下で「線の太さ」を変えることができ、その上の欄の重なった四角で線の「色」(前面色と背面色)を変え、下段の四角で「パターン」を選択できます。更に上の欄では、面についての「色」と「パターン」を指定することができるようになっています。「線」の種類を変えたり、「影付け」を行ったり、「ブレンド」(グラデーション:段階的に色が変わる)の指定はメニューバーの「ドロー」の項目から指定することができます。

  9. 「グラフ」の要素
      グラフも一つの「部品」として指定することができます。グラフは「文字」と「図形」の要素の組み合わせで、軸や折れ線、あるいは棒や円弧などの各部分が選択できるようになっていて、各々について「文字」部品や「図形」部品の要素を変更で来ます。グラフの各要素については次回の「V.スライド作りのポイント 2.グラフのスライド」で説明します。

  10. 「部品」の順番
      「文字」や「図形」「グラフ」などの部品は、丁度キャンバスの上に紙で作った部品を置くようなもので、作られた順に置かれて行きます。したがって、部品同志が重なると、後から乗せた部品が前面になり古い部品は後ろに隠れてしまいます。部品を重ねて表現するとき、メニューバーの「ドロー」の中にある「配置」で描く順番を変えることができます。

  こうした「部品」や「要素」についての「フォント」「色」指定の考え方は、DGPばかりでなくあらゆるプログラムについてMacintoshでもWindowsでも共通なのです。
次回はいよいよ各スライド作成のポイントを紹介します。

コンピューターを使ったスライド作り [2]


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