• 1.痔の発生について
  • 図1痔(痔核)が生じる原因については過去にはA:血管起源説、B:血管過形成説が主流でしたが、現在ではC:支持組織減弱説が主流となってきています。

    A:血管起源説とは
    痔核(じかく)は直腸下部と肛門にある血管のうちの静脈が膨らんでできる静脈瘤であり、痔核の発生には排便時にふんばる、肛門部に力を入れるといった怒責(どせき)排便によって、骨盤から下の下半身の静脈血流の流通阻害が生じることが原因であるという考え方です。つまり静脈がうっ血して静脈が膨らんでしまうという説です。しかし現在では様々な研究により静脈はうっ血しても拡張していないことなどが証明されており、この考え方は廃れてきています。

    B:血管過形成説とは
    あたかも性器の勃起のように血管内に血液が充満する、動脈と静脈が交わって肛門を閉めることに役立つとされていた構造物(Corpus cavernosum recti)が過形成(発達しすぎる)することが原因では、という説である。しかし、現在ではこの説も切り取った痔核を顕微鏡で詳細に検査したところで血管の過形成が認められなかったことから否定的な説となってきています。

    C:支持組織減弱説とは
    肛門を閉鎖するために必要な肛門クッションと呼ばれる組織が外側へと滑り出すことで生じるという考え方です。痔核が生じる場所である肛門管内の粘膜の下には多数の血管や筋肉(Treiz' muscle)、弾性繊維から作られる組織が肛門クッションとして存在しています。肛門クッションが排便時に肛門の外に向かって押し出されること、または怒責(どせき)をすることで充血してしまうことで、肛門管の粘膜下にある粘膜や粘膜下組織を肛門括約筋(肛門を締める筋肉)に固定し、粘膜下の血管を支えている筋肉(Treiz' muscle)が引き伸ばされて、弾性繊維が切れてしまい肛門クッション自体が大きくなり脱出や出血を来たすようになるという考え方です。現在はこの説が痔核を生じる原因として有力な説となってきています。

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  • 2.痔の種類について
  • 図2痔(痔核)の種類は大きく分けて、肛門の奥にある歯状線よりも上方(直腸側)にできる内痔核と、歯状線の下方(肛門皮膚側)にできる外痔核の2種類に分けられます。

    A:内痔核とは
    内痔核は肛門管から直腸の粘膜で覆われています。内痔核は単独で存在することは少なく、成長していくと外痔核として存在することが多いです。通常のいわゆる「痔」とは内痔核のことをさしている場合が多いです。内痔核は痛みを伴うことはありません。内痔核が存在する直腸~肛門間粘膜には痛みを感じる知覚神経が存在していないためです。よって痛みが生じている場合には外痔核と考えていただいていいと思われます。

    B:外痔核とは
    外痔核は歯状線から下に存在しており、肛門の皮膚や扁平上皮という肛門管の粘膜に覆われています。排便後に肛門を紙で拭く場合にイボのようにふれ、痛みを感じるものは外痔核です。外痔核は内痔核とことなり、知覚神経が存在する場所に生じるため痛みを伴います。

    痔核が2種類に大きく分けられることは前で述べましたが、次は内痔核、外痔核の細かな分類についてご説明します。

    • ①急性期の痔核
    • a:血栓性痔核
      痔核の本体は血管ですが、その血管の中に血液の塊「血栓」を形成したものです。主に外痔核で生じます。血栓が外痔核の血管内に生じると血管の周囲に浮腫を来たし腫れ上がります。この際に炎症が生じ痛みの原因となります。
      b:疳頓(かんとん)痔核
      肛門の外に脱出したり、また、戻ったりと繰り返した痔核は、脱出した際に肛門を締める肛門括約筋により締め付けられて肛門内に戻りにくくなります。このように肛門外に痔核が脱出しっぱなしの状態を疳頓(出っ放し)痔核といいます。疳頓してしまう痔核の中には血のめぐりが悪くなってしまうために血栓を作りやすくなります。そのため痛みが強度になります。

    • ②血管性痔核と粘膜性痔核
    • a:血管性痔核
      血管性痔核とは膨れてしまった血管が固まりのようになり作られます。主に壮年の方にできやすく、出血を来たすことが多いです。
      b:粘膜性痔核
      粘膜性痔核とは直腸内~肛門管の粘膜が肛門の外に脱出して生じるものです。主に老年の方にできやすく、粘膜がはがれたり粘液が出てきたりすることが多いです。
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  • 3.痔の進行度について
  • 痔核で生じる症状は出血、脱出です。痔核の進行度はこの2つの症状で分類されます。現在用いられている進行度の評価方法は2種類あります。
    A:St.Marks Hospitalの分類
    この分類はSt.Marks Hospital(セントマークス病院)というイギリスにある、高名な大腸肛門病の専門病院で提唱されている分類方法です。主に痔核の脱出の程度で分類します。
    1度:排便時に出血するが、痔核が脱出しないもの
    2度:排便時に痔核が脱出するが、安静時には自然に肛門内に納まっているもの
    3度:脱出してしまった痔核を肛門内に戻しても肛門括約筋(肛門を締める筋肉)が緩いため、わずかな腹圧ですぐに痔核が脱出してしまうものと分類しています。
    B:Goligher の分類
    この分類方法はイギリス人のGoligher(ゴリガー)という先生の分類方法です。
    1度:痔核の最初の時期であり、排便時のみ肛門管内に痔核が出現するもの
    2度:怒責の際に痔核の粘膜が肛門外に現れるが、怒責が終わると自然に肛門内に戻るもの
    3度:排便の際に脱出し、手で押し込まないと肛門内に痔核が戻らないもの
    4度:痔核が肛門の皮膚の部分まで伸び、粘膜が脱出しっぱなしで肛門内に戻らないものと分類されます。
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  • 4.痔核の治療について
  • 痔核の治療方法は、痔核自体が良性の疾患のために過度の侵襲は避けられれば避けなければいけません。しかしながらお薬の治療ではどうしようもない場合もあり、その際には外科的治療(手術治療)を行うこととなります。

    A:保存的治療
    いわゆるお薬で行う治療方法です。Goligher分類の1度から2度の方に行われます。痔核が生じる原因、痔核が脱出する原因として硬い便を強くいきんで排便することがありますので、便秘の治療が必要となります。便秘に対して緩下剤や下剤を使用することとなります。また痔核からの出血や痔核の浮腫に対しては座薬、軟膏といった外用薬が使用されます。

    B:手術治療
    保存的治療で症状が少しは軽くなるものの、まだ痔の症状が残る方には手術治療が選択されます。手術治療も様々な方法があります。主にGoligher分類の3度から4度の方に行われることが多いです。

    ①結紮切除法
    痔核の根本の血管を糸で縛り、痔核を中心として痔核と粘膜を放射状に切除する方法です。(痔核の血管を完全に切り取ってしまう方法)主に腰からの麻酔(下半身麻酔)で行われることが多いです。治癒するまでの期間は約3週間で、粘膜の再脱出を防ぐことが可能であるため、一般的な手術方法として普及しています。また、あらゆるタイプの痔核に対して対応可能な手術方法であるので、内外痔核の場合や急性期の痔核の場合でも良く行われています。
    図3

    ②ゴム輪結紮法
    特殊な結紮器具を用いて、痔核にゴム輪をかけて縛り10日ぐらいかけて痔核を脱落させる方法です。(首根っこを縛られるとそれより先の部分に血が行かなくなって腐って落っこちるのと一緒です)この方法は内痔核に対して行われます。しかし、小さな痔核の場合はゴム輪を掛けることができないため、この方法では手術できません。また、外痔核ではゴム輪をかけた場合に痛みが生じるため行うことができません。
    図4

    ③PPH法
    脱出した痔核を含めて、たるんで伸びてきてしまっている直腸肛門粘膜を器械吻合器を用いて環状に切除してしまう方法です。この方法では歯状線よりも上方で粘膜を全周に切除するため痛みが少ないといわれています。しかし、時に肛門括約筋も一緒に切除してしまう恐れもあり、高度な技術を要します。

    ④注射療法
    a:痔核硬化療法
    痔核と痔核根部にある血管周囲の粘膜下にフェノールアルモンド油を注射し、痔核の血管の周囲に炎症をわざと引き起こし、炎症の治癒過程で見られる線維化(硬くなること)を利用して痔核内の血液量を低下させ粘膜を固定してしまう方法です。これは出血を繰り返す内痔核に適していますが、効果は1年以内と短期間であるといわれています。

    b:四段階注射法
    図5フェノールアルモンド油による注射硬貨療法の効果が短期間であるという欠点を補うために開発された方法です。中国の中医研究院広安門院、史教授考案の消痔霊(しょうじれい)という、硫酸アルミニウムカリウムを主成分とする薬を用いた硬化療法が原型となっています。消痔霊の主成分の硫酸アルミニウムカリウムには血管の収縮、止血及び炎症を生じさせる作用があるとされ、痔核に注射することで血管を収縮させ血流を遮断し止血、痔核の収縮を計るものです。また、炎症を起こさせることで粘膜を粘膜下の組織を括約筋に固定するという作用もあります。日本ではこれを更に改良し副作用が生じづらくしたジオン注®(三菱ウェルファーマ株式会社)という薬を開発し、そのジオン注を用いた四段階注射療法が現在注目を集めてきています。これは硫酸アルミニウムカリウムにタンニン酸を加えてあるジオン注を痔核に直接4回に分けて注射する方法です。麻酔は局所麻酔にて行うことができ、術後の痛みも結紮切除法に比較して少ないものです。しかし、再発する可能性としては術後1年で約1割程度とされ、結紮切除法に比較しやや高いとされています。
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