[[ 教育講演1:『糖鎖認識による細胞接着と組織傷害』 ]]

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司会: 大原 毅 ( 横須賀共済病院 )
教育講演1:『糖鎖認識による細胞接着と組織傷害』

大阪大学医学部バイオメディカル教育研究センター
臓器制御学研究部       宮坂 昌之 教授


 多細胞体の発生と分化には細胞間相互作用が必須の役割をする。細胞間相互作用には、お互いに離れた細胞が液性因子を介して情報を交換する場合(遠隔情報の交換)と、お互いに近接する細胞同士または細胞とそれをとりまく細胞外基質が接着分子とよばれる分子群を介して情報を交換する場合(近接情報の交換)がある。すなわち接着分子は単に細胞接着のための「糊」として機能するのみならず、細胞の機械的な接着というみかけの機能を通じて外界の情報を細胞内に伝達するという機能をもっている。接着分子研究はここ数年の間に著しく進み、インテグリン・ファミリー、免疫グロブリン・スーパーファミリー、セレクチン・ファミリー、ヒアルロン酸レセプター・ファミリー、シアロムチン・ファミリーなどの接着分子ファミリーの存在が明らかになるとともに、それぞれのファミリーに属する数多くの接着分子が同定され、その構造と機能が次第に明らかにされてきた。接着分子の生理的意義の解明も進み、応用研究として接着分子の機能制御による生体反応の調節が試みられている。最も成功をみているのは移植における拒絶反応の抑制、および急性炎症の抑制であろう。また、癌細胞転移においても接着分子の関与が示され、接着分子の機能制御は医学上の重要問題として提起されつつある。

 接着分子の中でもシアリルルイスxやシアリルルイスaなどの糖鎖を認識する特徴的な分子セレクチンは、急性炎症の重要なメディエーターとして注目を浴びている。また、ヒアルロン酸認識分子として注目されているCD44も糖鎖認識分子であり、セレクチン同様、さまざまな組織傷害に関与する可能性が示唆されている。本講演ではこれらの糖鎖認識分子について解説するとともに、虚血再潅流障害などのさまざまな病態への関与について触れたい。  

 


帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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