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司会: 岡田 正 ( 大阪大学小児外科 )
教育講演2:『アポトーシスとFas』

京都大学ウイルス研究所 米原 伸 教授

 多細胞生物の形態形成時には細胞死がひろく認められる。また、細胞死は生体の恒常性の維持にも必要である。がん化可能な細胞や自己に反応する免疫細胞は細胞死によって除かれる。このような細胞死はアポトーシスである。アポトーシスの誘導に関わる遺伝子はC. elegans(線虫)で解析され、線虫からヒトまで保存されている2種類の遺伝子が明らかとなった。線虫のアポトーシス誘導に必須の遺伝子ced-3とアポトーシスの阻止に機能するced-9はヒトのcaspase(ICEファミリープロテアーゼ)とbcl-2ファミリーの遺伝子に対応する。生物が進化すると、caspaseを活性化するためにいくつものシステムが用意された。細胞の増殖を制御する分子がアポトーシスを調節する機構が知られている。また、死独自の新しい誘導システムも存在する。我々が発見したFas抗原(Fas)は細胞表面のレセプター分子で、細胞の外からアポトーシス特異的な刺激を伝達する。ここでは、我々の最近の研究結果を中心に、Fasを介するアポトーシスの生理機能と分子機構について解説する。
 Fasのloss of functionミュータントであるlprマウスの解析結果から、Fasは末梢の活性化したT細胞やB細胞の死に関与し、末梢における自己反応性免疫担当細胞の除去に関わっていることが明らかとなった。Fasの生理的役割をさらに解明するために、抗Fasモノクローナル抗体を正常マウスや自己免疫疾患マウスへ投与しin vivoでアポトーシスを誘導した。その結果、アポトーシスを誘導した臓器(胸腺・肝臓)は速やかに再生すること・自己抗体の産生、糸球体腎炎、唾液腺炎、リウマチ様関節炎が顕著に治癒することが明らかとなった。
 ヒトT細胞白血病を引き起こすウイルスHTLV-1のがん遺伝子Taxはリウマチ様関節炎などの自己免疫疾患も発症させる。Taxの分子機構としてNF-kBやCREBなどの転写因子活性化 やCDK inhibitorの阻害が報告されている。Taxによるがんや自己免疫疾患の発症には、アポトーシスの抑制も関与するのではないかと考え、解析を行った。Tax遺伝子を一過性に発現させ解析した結果、TaxはFasを介するアポトーシスだけではなくがん抑制遺伝子p53を介するアポトーシスも抑制すること・Taxの転写活性化とアポトーシス抑制能とは相関しないこと・ caspase-3(CPP32)活性化の上流でTaxの作用することが明らかとなった。Taxはcaspaseその もの、あるいはその上流に位置するシグナル伝達分子に直接あるいは間接に作用し、 アポトーシスを抑制すると考えられる。また、我々の研究室で最近明らかになりつつあるFa sを介するシグナル伝達系の新しい分子機構についても解説したい。

   米原 伸     京都大学ウイルス研究所
   がんウイルス研究部門  生体発がん機構研究分野
   TEL 075-751-4783  FAX 075-751-4784
   Email:syonehar@virus.kyoto-u.ac.jp  

 

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