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化学(損傷)熱傷 (chemical injury/burn )

【 I N D E X 】
【化学熱傷の頻度】
【原因物質の分類と作用機序】
【化学熱傷の特徴】
【化学熱傷の治療方針】
【特別な処置を要する化学熱傷】
  1. フッ化水素酸:
  2. クロム酸:
  3. イソシアネート:
  4. ナトリウム・カリウム合金:(含む生石灰)
【上部消化管の化学熱傷:腐食性食道炎】
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【化学熱傷の頻度】

 正確な統計がなくて不明。厚生省人口動態統計からすると「薬用を主としない物質の毒作用(N.980-989)」による死亡は年間3429人(1989)で皮膚に傷害を及ぼす可能性のある薬物では68人である。(服用か吸収か不明)

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【原因物質の分類と作用機序】

 傷害の程度が 1)濃度、2)量、3)接触時間、4)温度、に依存する一次刺激物質(primary irritant)は次のように分類される。

 作用機序は、基本的には化学的作用による蛋白凝固壊死である。

  1. (塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、燐酸、など)

      蛋白質と結合しacid-albuminateを作る。要するに蛋白凝固壊死を起こすが、酸は吸水性があり水分を吸収し固い乾性壊死組織となる。最も刺激作用の強いのはフッ化水素で深部組織まで壊死となる。(塩酸→灰白色:漂白作用)(硝酸→黄色:キサントプロテイン反応)(硫酸→黒褐色:炭化作用)

  2. アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、など)

    1. 吸水作用:細胞内脱水となる
    2. 鹸化作用:脂肪変性起こし、反応熱を生じる
    3. Alkaline proteinate形成:
        蛋白と反応しalkaline proteinateを形成。可溶性OH-イオンを含み深部組織に反応が拡大し深部組織に達する

      高濃度(pH>11.5)では接触数分後に刺激感じるが、低濃度では麻酔作用が先行し数時間後まで刺激を感ぜず治療が遅れる。

  3. 腐食性芳香族(フェノール、フェニルヒドロキシアミン、フェニルヒドラジンなど)

      蛋白の凝固壊死。種類により酸あるいはアルカリとして作用。

  4. 脂肪族化合物(ホルムアルデヒド、イソシアネート、酸化エチレン、エチレンイミン、三塩化酢酸、など)

      脱脂作用と蛋白変性作用。

  5. 金属及びその化合物(ナトリウム、酸化カルシウム、塩化亜鉛、四塩化チタニウム、炭酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、ベリリウム塩、バリウム塩、マグネシウム、水銀及びその化合物、など)

    1. 水と反応、強酸と反応熱を発生:
        2Na + 2H2O → 2NaOH + H2

        CaO + H2O → Ca(OH)2

        TiCl4 + H2O → Ti(OH)Cl3 + HCl (強酸・高熱)

    2. 水溶液が酸・アルカリ:
        Ba(NO3)2 → Ba++ + 2NO3-

        Na2CO3 → 2Na+ + CO3--

    3. H2ガスを発生:
        2Mg + 2H2O → 2MgOH + H2

  6. 非金属及びその化合物(燐、燐化合物、硫化水素、塩化硫黄、二酸化硫黄、過塩素酸、フッ素化合物、四塩化炭素、臭素、など)

      反応性に富み、酸化して自身は強酸となる。

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【化学熱傷の特徴】

  • 損傷の持続時間:

     高熱による熱傷では接触開始とともに破壊が始まり、除去されると停止するが、化学熱傷では化学反応とともに進行し、除去されても内部に浸透した薬物が不活化されるまで進行する。

  • 初期に深度が評価できない:

     初期に深達度を正確に評価できない。IIsの深度であっても水疱を形成しないことがある。皮膚の色調が変化してしまうため、色調による深度の評価ができない。

  • 他臓器の毒性:

     薬物により腎毒性、肝毒性を来すものがある。

  • Burn Wound Sepsis:

     二週間以内では細菌が検出されることは少なく、Burn Wound Sepsisは少ないと言われている。

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【化学熱傷の治療方針】

  • 出来るだけ早く、大量の水で長時間洗浄:

     長時間行うほど有効。6〜12時間を目安。中止して局所の熱感、疼痛が再燃するなら更に洗浄。局所に点滴で持続滴下する方法もある。過度の冷却には注意。洗浄の目的は、

    • 薬物の除去と希釈
    • 化学反応の停止、緩和
    • 組織pHの正常化
    • 組織代謝の抑制による消炎効果
    • 反応熱の冷却
    • 薬物吸水性の拮抗

  • 原則として中和剤は用いない:

     中和剤を用いない理由は、

    • 中和反応による熱の発生
    • 中和できるくらいなら水洗できる
    • 容易に中和できないなら中和剤も大量に必要
    • 浸潤した薬剤の中和は出来ない
    • 中和剤を常備するのは実際的でない
    • 直ぐに使えない

  • 局所の治療は熱傷に準ずる:

     IIs〜IIdのことが多い。IId〜IIIと判断されたら躊躇なくデブリードマン、植皮を行う。

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【特別な処置を要する化学熱傷】

  • フッ化水素酸:

     猛毒性強酸。50%以上では直後より疼痛。20%以下では疼痛出現まで8時間以上要する。

    • 大量の水で洗浄:

    • カルシウム・マグネシウム製剤で中和:
      • 局所: 8.5%グルコン酸カルシウム(カルチコール)を有痛性受傷部周囲に皮下浸潤注射。

      • 動注:カルチコール10ml + 5%ブドウ糖液(or生食)40ml を4時間かけて動注。

       効果判定は、疼痛の軽減。

    • 積極的デブッリードマン:
        爪下の浸潤では躊躇なく抜爪

    • 肝・腎傷害、低カルシウム血症:
        吸収量が多ければ要注意。

  • クロム酸:

     猛毒性。皮膚からの吸収速やかで臓器不全となる。体表面積1%程度でも各種臓器不全が報告されている。5時間までに血中濃度ピークとなる。

    • すべての組織を切除:

    • 血液透析:
        広範囲か治療開始遅れたら血液透析が必要

  • イソシアネート:

     発砲樹脂やプラスチックの原料。水溶液で猛毒シアン酸(HOCN)。

    • 汚染部をイソプロピルアルコールで洗浄:
        毒性少ないウレタンとなる

    • 大量の水で洗浄:

  • ナトリウム・カリウム合金:(含む生石灰)

     熱媒体。不安定な個体。水と激しく反応し高熱、強アルカリとなる。

    • 可及的に機械的に除去:
        いたずらに時間を費やすより水洗

    • 大量の水で洗浄:

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【上部消化管の化学熱傷:腐食性食道炎】

  自殺企図によることが多い。日本では酸性腐食剤、欧米ではアルカリ性腐食剤が多い。最近、農薬、洗剤、洗浄剤によるものが多く報告されている。

  • 酸性腐食剤による傷害:

     表面組織が凝固壊死し、表面を保護するため深層に達することが少ない。食道より胃病変が中心。。

  • アルカリ性腐食剤による傷害:

     誘拐壊死を起こし深層までおよぶ。食道病変が中心。いづれも、濃度・量・接触時間・胃内容物・嘔吐・逆流などにより傷害はさまざま。

  • 口腔内病変と胃・食道病変は相関しない:

     口腔内にも発赤・水疱・潰瘍・痂皮形成起こるが、食道や胃病変の重症度と相関しない。

  • 初期治療方針:

    1. 催吐は禁忌:
       逆流により傷害を増強。

    2. 胃洗浄:
       洗浄剤として牛乳が第1選択。
      • 蛋白質の緩衝作用がある
      • 胃管から回収できる
      • 入手容易で、取り扱い簡単
      • 服用薬品名不明のことが多い

    3. 急性期合併症:
       ショック、喉頭浮腫、縦隔炎、食道穿孔、胃穿孔に注意。

  • 慢性期合併症:
      食道狭窄、幽門狭窄を起こすことがある。
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[ REFERENCES ]
 最新の熱傷臨床ーその理論と実際ー. 平山峻,島崎 修次編. 克誠堂出版株式会社,東京,p.422-426,1994.

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帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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