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猫にKOBAN

  最近、町中でよく「KOBAN」を見かける。日本も国際化したもので、我が帝京大学最寄りの「十条」(北区:埼京線沿線)でも商店街を歩いていて理解できない会話をよく耳にする。必ずしも英語圏の外国人ではないにせよ今や英語は標準的なinternational languageであることには間違いない。私は2年ほど、いや、小児期を加えると4年ほど海外で暮らした経験があるが、日本人観光客の多くなった現在でも海外で日本語の表記を見かけることは、極限られた空港くらいなものであるのは寂しく感じていた。
  一方、日本では「ローマ字」があり、駅名も地名も、時には店の名前も「ローマ字」が併記してあり、海外の人々が日本を訪れてもさぞ心強いことだろうと多少誇らしく思っていた。しかし、よく考えてみるとこの「ローマ字」ほど「役立たない」と言うより、日本を誤って伝えてしまう表記はないことに気づくのである。「KOBAN」を「コバン」あるいは「コバーン」と発音することはできても、「コーバン」と発音できる言語があるだろうか。日本全国「交番」に「KOBAN」の看板が掲げられてあるのは滑稽とさえ思われる。

  そういえば、「役に立たないもの」の喩えに「猫に小判KOBAN」と言うのがある。

後談:「KOBAN」の由来

  最近ネットサーフィンをしていて、警察庁のホームページ(http://www.npa.go.jp/police_j.htm)を拝見する機会があり、常々疑問に思っていた「KOBAN」の疑問を「意見」として投稿いたしました。つまらない『TAWAGOTO』にもかかわらず、ご丁寧なお返事をお送りいただきましたのでご紹介いたします。「KOBAN」の使用にあたっては、やはり多くの案が出されたようです。

鈴木宏昌 様
  「KOBAN」という表記は確かに「こばん」と読めます。「KOBAN」を採用した当時から「KOUBAN」あるいは「K−OBAN」「KOHBAN」という案も検討されていました。
しかし、その当時すでに英語圏では「KOBAN」という表記が定着していました。そこで、外国においては固有名詞でもあり、表示板等として用いるに当たっては「KOBAN」の表記が見た目にもすっきりしてよいことから採用したというものです。
ニューヨーク州立大学教授のDavid H.Bayley氏も著書「新・ニッポンの警察」(1991年邦訳版刊)の中で、「kobanシステム」という表現を用いており、また平成7年警察庁地域課発行「ふれあい−KOBAN 地域とともに」の巻頭言の中で同氏は「koban」という表記を用いています。類似した表記の例として「東京」「大阪」は英字表記する場合「TOUKYOU」「OUSAKA」でも「T−OKY−O」「−OSAKA」でもなく、「TOKYO」「OSAKA」と綴られますが、外国人は「東京」「大阪」と発音しています。
なお、最新版のオックスフォード大辞典(当方では未確認ですが)ほか現在英語圏で用いられている辞典・事典には「KOBAN」が掲載されているものもありますので、ご確認頂ければさいわいです。

注:文中「−O」という表記がありますが、これは「O(オー)」の上に「−(伸ばす記号)」が付いているものを表していますので、ご了承下さい。

警察庁 広報室(担当:小林)

 失礼とは思いましたが、次のような私見を御返信いたしました。

取るに足らない個人のTAWAGOTOにもかかわらず、ご丁寧なお返事を頂き恐縮いたしております。

  ついでながら個人的な意見を述べさせて頂きますと、私は母国語としての日本語を大切にしたいと考えている国民の一人です。日本語が極めて優れた言語であると感じる理由の一つにカナ表現があります。すなわち、アルファベットを使わない言語であるにもかかわらずあらゆる発音を表音文字として表現することができます。これが故に飛躍的な速度で異国の文化を取り入れることができたのだと思います。しかし、その弊害もありました。本来の発音とはかけ離れた表現や誤った発音を表音文字であるカナで表現したため、外来語でありながら海外では全く通じないという言葉も多く生まれました。私たちの専門分野の専門用語でも、本来英語でありカナで表現されているが故に、当然通じるものと思い海外でとんでもない恥をかくことがあります。「コーヒー、プリーズ」が通じないことは多くの日本人が経験したことがあるのではないでしょうか。
英語圏でも、特に米国はあまり母国語としての英語にこだわりがなくスラングの多い国です。これは米国が本来多民族国家であることが大きく影響しているものと思われます。一方、同じ英語圏でも英国は保守的で母国語としての正しい英語(発音も表現も)の継承に熱心であります。最も有名なのはフランス人です。フランス人は母国語としてのフランス語の継承に保守的な国民です。
アメリカ人が外国である日本の紹介として交番を「KOBAN」と表現したからと言って、あるいは辞書に「KOBAN」を載せたからと言って、本来の日本語の発音をアルファベット表記したローマ字があるにもかかわらず英語で「KOBAN」と表記するのは、何か母国語を自ら軽んじているように感じるのは私だけでしょうか。ローマ字はアルファベットではありますが日本語であり、日本語の発音がされるべきものと思います。むしろ日本人としてはローマ字を正しい日本語の発音で表現することを教えるべき立場にあるように思われます。
ちなみに、日本の国語辞典には「こおばん」や「こーばん」はなく「こうばん」だと思います。
日本人の観光客も多くなり、アメリカでもローマ字風に「OMIYAGE」などと書かれた看板を目にするようになりましたが、英語である「coffee」を「KOHI」とか「C-OH-I」などと表現した看板や、「police office」に「KOBAN」と書かれた看板など見たことがありません。ましてや「ポリス オフィス」などとカタカナで書かれているのを見たことはありません(知らないだけかもしれませんが)。
確かに「TOKYO」「OSAKA」などは一般化しつつありますが、外人が(英語圏の人たちが)正しく「とうきょう」あるいは「おおさか」と発音しているとは思えません。「ト*ッキョー」「オーサ*ッカ」(*はアクセント)ではないでしょうか。これは正しい日本語の発音ではありません。

確かに言葉というものは生き物です。諸行無常であり時代とともに変わり行くものです。しかし、言葉というものは文化でもあります。自分も20〜30年前には「最近の若者は....」と言われてきたわけですが、それでも母国語としての日本語に、また日本の文化に誇りを持ち正しい日本語を次世代に伝えて行きたいと思うものであります。
海外に生活し、旅行するにつけ、日本の治安の良さを実感します。犯罪件数にしても検挙率にしても日本の警察機構は決して欧米に劣るものではありません。国際化の時代だからこそ、日本人はもっと母国に自信と誇りを持つべきであると思います。海外に生活した経験から一層その思いを強く感じております。

1国民として、更なるご活躍を念じ、可能な限りの支援をして行きたいと存じます。
ご無礼の段、ご容赦ください。


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帝京大学救命救急センター
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Teikyo University, School of Medicine

鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
Hiromasa Suzuki, MD

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