ウォッチング人間は勝手なものです。一頃「自然保護」の御旗の元、「バードウォッチング」なる趣味が流行ったことがあります。自然の中で野鳥を観察し、自然を保護する意識を培おうという誠に結構な趣味であります。しかし、鳥の側からしてみれば迷惑千万でしょう。「のぞき見」されるわけですから。餌を取り損ねる瞬間でもご披露すれば喝采でしょうし、交尾の瞬間なぞご覧に入れようものなら歓喜してくれるでしょう。 「ウォッチング」のウォッチ(watch)も「ルックス」のルック(look)も「見る」と訳せますが、lookはただ目で見ること、watchは注意深く観察する意味合いをもっています。
実は外科医の間でも「ウォッチング」という言葉を使うことがあります。大きな手術の術後、患者さんのベッドサイドで夜通し付きっ切りで術後管理をすることを言います。我々が研修医の頃は大きな手術があれば、研修医は当然のようにこの「ウォッチング」をしなければなりませんでした。外科という分野は一種の「職人」でありますから、徒弟制度が厳然として残っています。「親方」の命令は絶対なわけです。こうした徒弟制度が良いとは言えませんが、「職人」である以上身体で技術を身につけることも必要なのです。 「何で一晩中見てなくっちゃいけないんですか?」 「無駄じゃないですか! そのために当直がいるんだし...」 「ちゃんと指示は書いたんですから、帰らせて頂きます」 「君ね、一人前の外科医になりたいんだったら...」 「それじゃ、辞めます!」 「......」 |
鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
Hiromasa Suzuki, MD