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What's TPCISS (Teikyo Patient Care Information Service System)

「テプシス」と呼んでください!

 来年(1997年3月)よりICUに新しい『医療支援システム』が導入されます.このシステムは、恐らく日本で初めて(世界でも初めて)のシステムになる予定です.そこで、これからどのようなシステムが導入されるのかご紹介しましょう.

 あと5年で21世紀です.21世紀の救急医療はどのような形になるでしょう.「情報化社会」と言われ「コンピューターの時代」と言われて久しいですが、現実には、これまでコンピューターの能力は期待されていたほど使いやすいものではなく実用的レベルに達しているとは言い難いものがありました.

 しかし、この数年21世紀を予感させる2つの大きな変化が起こりつつあります.一つはコンピューター技術の進歩です.この数年のコンピューター技術の進歩は目をみはるものがあり、今やコンピューターなしには生活が成り立たない時代になりつつあります.例えば、朝買い物にコンビニに行くとしましょう.アルバイトの高校生がいとも簡単にバーコードリーダーでレジをこなしています.今では、どこの店で、何時頃に、何才くらいの女性の客が多く、どんな商品の売れゆきが多いかなどが全国レベルで分っていしまうことをご存じでしょうか.宅急便では、何時受け取った荷物が今どの車でどこを走っているかまでが分る、そんなことが企業では当たり前になりつつあります.自動改札も、テレホンカードも、ATMも、もうこれなしでは生活できないまでになってきました.ICU(Intensive Care Unit)は「集中治療室」言われますが、果たして本当にIntensive(集中)なのでしょうか.国家試験をパスし、二十歳を過ぎた諸氏が「伝票が間違ってる」だの「書くところが違う」だの、ポケットに入り切らないほどのボールペンを詰め込んで駆けずり回っている姿は、どう見ても21世紀の姿とは思えない.コンピューター技術の導入が最も遅れているのは医療の現場なのではないでしょうか.
 もう一つは「インターネット(INTERNET)」の普及による「情報革命」です.これは19世紀、内燃機関の発明で始まった「産業革命」にも匹敵する新しい時代の到来と言っても過言でないでしょう.某テレビコマーシャルに「やっと、例の博士論文を書き上げたよ.資料はインディアナ大学で調べて..」と初老の農夫が孫娘と畑の中を歩きながら話すシーンが出てくるのを記憶されている方も多いでしょう.正にINTERNETにより「情報」は物理的な空間を越えたのです.これからは必要な情報を如何に効率よく手に入れるかが重要な能力となるでしょう.医学に関わらず、科学技術の進歩は日進月歩どころか「分進秒歩」の勢いです.しかし、新しい技術がどんどん生まれれば医療はどんどん良くなるのでしょうか.最新のCTやMRIをアマゾンの奥地に持って行ったら役に立つのでしょうか.医療のレベルを上げるには一部分だけが最先端でもだめなのです.全体のレベルを高め、必要としている技術と知識が何なのか見極め手に入れることが大切なのです.そのためには常に同じ水準を保ち、過去の成果が評価できなければなりません.コンピューターとINTERNETの技術は、その実現に大いに貢献するでしょう.

 我々が診療を行う場合、患者の理学的所見ばかりでなく形態学的、生理学的、生化学的検査成績などを総合して病態を把握します.しかし、これらの所見を総合的に把握するのは容易なことではありません.レントゲンはシャーカステンで、血液検査は検査伝票で、バイタルサインはベッドサイドの温度盤でといった具合です.どうしてすべての情報をベッドサイドで見ることができないのでしょう.温度盤一つとってもそうです.例えば、IN-OUTバランスを見て輸液量を検討しなければならないとしましょう.確かに、2時間毎の輸液量と尿量は分ります.しかし、この12時間で、あるいはこの7日間で水分バランスはどうなっているのか、NaやKのバランスは、カロリーの投与量はとなると気の狂いそう計算が待ち受けています.結局、面倒臭いので「どんぶり勘定」で済ませてしまうことが多いのではないでしょうか.血液検査の所見についても同じことです.CRPの変化やBilの変化を見るときも、せいぜい2つか3つ前のデーターと比較し、わずかの変化に一喜一憂する.況してや尿量やバイタルサインとの関係など、よほど暇なレジデントでもいない限り一覧表で見たりグラフで眺めることなどおぼつかないでしょう.どうして全体の変化が簡単に捉えられないのでしょうか.
 更に、診療のレベルを上げ保って行くのには、患者から得られる情報だけで十分でしょうか.同じ経験を持ち、同じ知識を持ったチームであれば可能でしょうが、現実にはそうも行きません.大学病院は教育機関でもあり知識と技術を継承し、かつ高めて行かなければならない使命があります.「たまたま今日は○×の担当だったから運が悪かったね」では済まされません.最低限保たれなければならない基準が必要です.しかも何時でも誰でもその基準が参照できなければなりません.どうして参考書を何冊も捲らないと知りたい情報が手には入らないのでしょう.どうして同じことを何度も説明しなければならないのでしょう.どうして診療の場で診療に必要な病態や疾患の情報が参照できないのでしょう.

 TPCISS(テプシス)は、こんな非効率的な20世紀の医療を変える新しい医療環境を目指しています.では、TPCISSでどのようなことが可能になるのでしょう.

  • どこにいても見られる: すべての情報がベッドサイドでもNsセンターでも、医局でもカンファレンス室でもどこででも見ることができるようになります.

  • すべての情報が一元化: すべての情報とは、今まで温度盤に記載されていた「バイタルサイン」や「IN-OUTバランス」「検査結果」などの患者さんの情報ばかりでなく、診断や治療、看護を進めて行く上で必要な情報すべてが含まれます.

  • ONLINE入力: 患者さんの情報では、ECG、A-line、Puls Oxymeter、体温や自動血圧計などモニターからの情報やレスピレーターからの情報ばかりでなく血液ガスなどの検査データーも自動的にONLINEで取り込まれます.

  • 記録の省力化: これらONLINEの情報に対しては、Nsはただ取り込まれた情報が正しいか否かをチェックするだけですみます.

  • 簡単な入力: 今まで温度盤に記載していた「尿量」や「輸液量」などはベッドサイドの端末の画面に触れて選択するだけで入力することができます.後の面倒臭い計算は、すべてTPCISSが処理します.

  • 分りやすい表示: こうして入力された患者さんの情報は、グラフや表などに分りやすく表示され、あらゆる角度から患者さんの病態を把握することができます.その分、患者さんに直接接し、きめ細かなCAREをする時間が増えます.

  • その他の情報: 我々が患者さんのCAREをする場合、患者さんの病態を把握し、今までの知識と経験から方針を決定して行きます.しかし、我々の扱う患者さんの病態は非常に多彩であり、常に時間を争う急性期の患者さんです.医学の進歩は日進月歩であり、常に最新の知識や情報を得ることは困難です.TPCISSは最新の知識や皆の経験を蓄積し公開することができます.ベッドサイドで患者さんのデーターを見ながら、必要な知識や情報も検索して見ることができます.

  • 世界の情報: 見ることができる情報は、この救命救急センターの中で蓄積された情報ばかりではありません.世界中の情報がINTERNETを通して見ることができるようになります.

  • 成長するシステム: 患者さんの情報が集まれば集まるほど、このシステムは価値が出てきます.例えば、「こんな患者が前に来たことがあるけど、どんな治療をしたっけ?」と言った時、今までは「歩く生き字引(アヤフヤな)」に頼っていましたが、TPCISSでは患者の病態や病名、入院した時期などからその時の記録を正確に再現することができます.また、治療に必要な薬剤の情報や治療方針などは、逐次更新することができ、情報が蓄積すればするほど便利になります.

  • 事務処理の簡略化: TPCISSは、患者さんのデーターはすべて一元的に管理します.何度も患者の名前や住所、電話番号などを入力しなくとも、どのような組み合わせでも表示することも、入力することも可能です.しかも、どこで入力しても、誰が入力しても良いのです.更に、TPCISSでは薬剤投与の指示や処置などが記録され、医療事務や物品薬剤管理を容易にします.

  • 最先端の技術: こうしたシステムは、INTERNETの最先端の技術を利用し実現されます.しかし、利用するUSERは、ただ画面を指で押して欲しい情報を選択する方法だけを覚えれば良いのです.

  • 万全のセキュリティー: このシステムを利用できるのは、資格をもった救命救急センターのスタッフだけで、患者さんの、そして医療者の重要な情報は、万全のセキュリティーシステムによって保護され外部に漏れることはありません.
『医療支援システム』
  一般的には『患者監視システム』あるいは『患者監視装置』もしくは『患者モニタリングシステム』と呼ばれている装置が最も連想しやすいと思われます。『患者監視装置』という表現は『患者』個人の人格を『監視』の対象としている印象を強く受ける日本語であるため『患者監視』という言葉の使用は不適当である旨のご指摘を頂きましたので、漠然としてiイメージし難いかも知れませんが、誤解を避けるため『医療支援システム』と訂正しました。
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帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine

鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
Hiromasa Suzuki, MD

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