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帝京大学医学部第6学年 第1回卒業試験(外科学・救急医学/熱傷) 98

 鈴木 宏昌(担当分)

  • B81 熱中症でないのはどれか。 【正解】

    1. 日射病
    2. 熱性痙攣
    3. 熱疲労
    4. 熱射病
    5. 熱痙攣

  • 回答数および回答率(正解率:75.8%)
    1. 3  (2.5%)
    2. 91  (75.8%)
    3. 5  (4.2%)
    4. 2  (1.7%)
    5. 19  (15.8%)

【 解 説 】   『熱性痙攣』は小児で高熱(発熱)とともに痙攣(全身性)を起こす病態を指す言葉で高温環境による生体障害とは異なるので正解は【 b. 熱性痙攣】である。
  正解率は高かったが、『熱性痙攣』と『熱痙攣』の違いを誤って覚えていたものがあったものと思われる。是非この機会に再確認して欲しい。

  熱中症とは高温環境で起こる生体の障害を総称した言葉で、次の4種類の病態が含まれる。

  1. 日射病
  2. 熱痙攣(heat cramp)
  3. 熱疲労(heat exhaustion)
  4. 熱射病(heat stroke)

  無論、この順に重症と言えるが、このように分けられる理由は、それぞれに障害の主たる病態が異なるためである。特に、日射病と熱痙攣は、後2者と大きく異なる。一般に体温の上昇を伴わない
  日射病は、炎天下の運動をしていて経験したものも多いだろう。これは、直射日光などにより体表(皮膚)末梢血管が拡張したり、骨格筋の血流量の増加に心拍出量が対応できず起こる循環不全で、起立性低血圧に似た病態で循環血液量そのものの減少はない。
  したがって、症状としては『立ちくらみ』のように一過性の意識障害を起こし倒れる。冷汗をかき、顔面は蒼白で頻脈であり血圧は低い。しかし、病態から分るように発熱はなく発汗異常もない。体温は正常かむしろ低い。治療は簡単で、涼しい場所に運び、下肢を挙上するなどショック体位をとらせて飲水させる。

  熱痙攣はそう簡単に倒れない。病態の主体は低張性脱水である。高温多湿の環境で長時間作業をし、飲水のみで水分の補給を行なっていると、発汗によりNaやClが失われ低張性脱水となる。
  したがって、発汗は著明であり体温の上昇を伴わない。著明な低Na血症、低Cl血症となり随意筋の一過性の痙攣を伴う。筋肉の痙攣は有痛性で、『てんかん』のような全身性の痙攣を伴うことはなく、意識障害も一般にない。強い口渇、嘔気、嘔吐、眩暈などを伴っている。治療はNaとClの補給であるから、生理的食塩水や乳酸加リンゲル液の輸液である。

  人間は発汗により体温を調節している。ちなみに、必ずしもすべての哺乳類が発汗により体温調節を行なっているわけではない。馬は発汗により体温調節を行なうが、犬はパッティングと言い、舌を出してハアハアして呼気により体温調節を行なっている。
  上記2者は体温調節という意味では、まだ自己体温の調節機能は破綻していない。熱疲労熱射病はこの体温調節機構が破綻した病態である。
  熱疲労熱射病の大きな違いは、高体温による臓器障害があるかないかの違いである。この境界となる体温が41℃前後である。41.5℃以上になると細胞内のミトコンドリア機能が障害され、42〜43℃になると数分で細胞障害は不可逆的になると言われている。
  熱疲労は、体温の上昇を伴うが40℃(41℃とする教科書もある)以下で体温による細胞障害はなく高度の脱水によるhypovolemic shockが病態の主体をなす。したがって、血圧は低下し頻脈(hypovolemic shock)であり、発汗は続いているが体温調節が及ばず体温の上昇(40〜41℃以下)を伴っている。このまま放置すれば、高度の脱水のため発汗はできなくなり、体温の上昇が持続して高体温による細胞障害(多臓器障害)を伴う熱射病に至ってしまう。したがって、早急に体温を下げるための冷却処置を行なうとともに大量の補液を行なわなければならない。
  更に『オーバーヒート』してエンジンが焼き付いた状態が熱射病である。多くの場合医療機関に到着する時点では既に発汗も停止し皮膚は乾燥し触ると熱い。体温の測定は中枢体温が重要で、体表から冷却されていると腋窩体温は深部臓器の温度を反映しない。体温が41℃を越えているようなら、如何なる手段をもっても冷却して体温を下げないと時間とともに細胞が破壊され続ける。したがって、熱射病では、発汗は停止し皮膚は乾燥し紅潮している。体温は41℃を越え、種々細胞障害の所見が見られる。具体的には高度の脱水に伴って、意識障害、ショック、肝逸脱酵素の上昇、腎不全(無尿、BUN,Crの上昇)、筋逸脱酵素の上昇、血液凝固異常(DIC)の所見が見られる。したがって、細胞障害の程度が予後を左右し高体温となってからの時間が長ければ当然予後は不良である。



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帝京大学救命救急センター
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Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@med.teikyo-u.ac.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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