【 解 説 】
この問題は、正解率が17.6%と極めて低く見直し、削除、訂正の検討の対象となった問題であるが、以下の説明の通り不適切とは思われず、学生に是非とも知っていて頂きたい内容であるため削除は考えいない。
破傷風は外傷に伴う特殊な感染症として重要である。発症数は少なくなってきたが、未だに致死率の高いく、その予防に大きな力が注がれている。ここで重要なのは、予防のための処置と発症した破傷風そのものの病態や治療を理解することである。
破傷風の特徴は細菌そのものによる障害ではなく菌体の出す外毒素による障害が致命的となり得る点である。破傷風の起炎菌は、嫌気性グラム陽性桿菌であるCrostoridium tetani であるが、致死的病態を引き起こすのは、菌体毒素であるtetanospasminである。病原菌が嫌気性菌であることからも分るように、感染創は開放性よりも閉鎖性の創部であることが多く、外毒素が問題なのであって菌体そのものには大きな細胞障害性はない。
現在、破傷風の発症患者は決して多くなく、医師になっても経験する機会は少ないが、発症した『破傷風』の致死率は未だに20%近くあり忘れてはならない疾患である。
この症例は、実際救命救急センターに搬入された症例で比較的典型的な破傷風の経過を示している。
破傷風は潜伏期が比較的長いのも特徴で、一般的に受傷後1〜2週間して発症する。破傷風の診断で重要な KEY WORD は、初発症状と開咬障害、onset time 、痙攣、と血圧変動である。
潜伏期が長いため、初感染創は治癒していることもあり本人に外傷の自覚がないことも多い。この症例では病歴の聴取で2週間前に左手にトゲを刺したことが分ったが、本人の自覚はない。したがって、外傷の既往のはっきりしない症例も多く、創部からの破傷風菌が同定される
初発症状は、肩が凝る、何となく首筋が固い、ものが食べにくい、などと訴えることが多い。開咬障害は最初食事が食べにくい、あるいは噛みにくいなどの訴えが多く、開咬させるとこの症例のように、門歯列間で1横指ほどしか口が開けなくなる。重症度の目安としてonset time が重要であるが、この onset time は受傷から痙攣発症までの時間ではなく、初発症状から痙攣までの時間であるので間違いやすい。Onset timeが48時間以内の症例は一般に重症で予後不良とされている。破傷風で起こる痙攣は腱反射の亢進を伴った骨格筋の硬直性の痙攣で、顔面に強く起こったものを痙笑(sardonicus)を言い、重症例で背筋の硬直により弓なりに身体が反る体位を後弓反張(opisthotonus)と言われている。更に重症では全身の痙攣を伴うが意識障害は一般的に起こらない。
治療で注意しなければならないのは、予防のための治療と発症した破傷風の治療を区別して理解することである。
破傷風沈降トキソイドは、弱毒化した破傷風外毒素そのもの(抗原)であって能動免疫を得るための薬剤である。したがって、発症している破傷風には無効である。一方、破傷風人免疫グロブリン(テタノブリンR)は免疫グロブリン(抗体)そのもので受動免疫を得られる。発症した破傷風では1500国際単位を3日毎に3回投与することもある。何よりも、破傷風は細菌感染症であることに変りはなく、外毒素を産生する菌の除去が最優先される。具体的には、感染創と思われる外傷部位があれば開創しdeburidementを行ない、適切な抗生剤を投与する。抗生剤として、ペニシリンGが現在も有効で第一選択薬である。
したがって、a), b), c), e)が誤りであることが理解していただけると思う。
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