帝京大学病院駐車棟天井の繊維状物質について

2000年 帝京大学医学部5年生 社会医学実習第10班報告より

大坪哲三、岡村悟、志田勇人、田中俊江、三神昌樹、山本厳

 
 

 
 

 

 

 

 

 

 

 


実習期間:2000年7月10日〜22日

指導: 岩田豊人(元労働省産業医学総合研究所、元帝京大学、現秋田大学助手)

山内泰子(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学)

監修:矢野栄二(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学)

    神山宣彦(元労働省産業医学総合研究所、現東洋大学教授)

 

*本報告は上記学生実習班のレポートより、帝京大学病院駐車棟の繊維状物質に関する研究部分を監修の上再構成したものである。


はじめに  

我々の身近な帝京大学病院の駐車棟の天井には、見るからに石綿に似た繊維状の物質が付着している。駐車場など鉄骨でできている構造物は、駐車中の車の火災等があった場合、熱で鉄骨が変形するのを防ぐため、耐熱処理をすることが義務づけられ、こうした鉱物繊維が吹き付けられているのである。
 そこで我々は下図のような方法で、この鉄骨を覆う物質(以下、帝京 パーキング シーリング:略してTPC)を採取し、厚生労働省産業医学総合研究所で分析した。

 

 

 

 

 まず我々は、この物質を特定するため、厚生労働省産業医学総合研究所(略して産医研)の鉱物学研究者の方々の協力を得て、解析を行った。解析はX線回折法と走査型電子顕微鏡による形態観察および成分解析である。

1. 試料の粉末X線回折分析:

非晶質ないし結晶質の非常に細かい物質の存在が推定される。炭酸カルシウムが結晶性物質(中央のピーク)として確認されたが、石綿の存在を考えさせるピークは認められなかった(図2)。
 走査型電子顕微鏡観察では、幅が10μm以上ある太くて長い繊維と、幅数μm以下の細くて長い繊維が主に存在するほか、球状粒子の化学組成はSiとCaに富み、Al、Mgを含むものでロックウールの組成に一致する。その他の粒子は吹き付け材に使用されたセメント物質ないしガラス物質と考えられる(図3)。
 

図2 TPC中繊維状物質のX線回折(ピークはカルサイト=炭酸カルシウム)

 

 

        図3 TPC中繊維の走査電子顕微鏡像 (非晶質の大きな繊維と、その表面に付着した小さな粒子が見られる)

以上の結果から、吹き付け材に使用されていた繊維状物質は非晶質人造繊維の一つのロックウールと判断される。X線回折で確認された炭酸カルシウムは繊維などの表面を覆うようにして生成していると考えられる。吹き付け材としてはロックウールとセメントが使用されたと推定されるので、この炭酸カルシウムに空気中の二酸化炭素が結合して吹き付け後に二次的に生成したものと考えられる。

 

 

 *培養細胞を用いた実験

1.目的

 帝京大学駐車棟の天井より採取した試料(TPC)につき、その細胞障害性を、KB細胞を用いたMTT法によって検査した。

2.材料と方法

  ヒト咽頭癌細胞(KB細胞)を実験用のシャーレにとりわけ、各シャーレにクリソタイル(1,0.5,0.25mg/ml3通りの濃度で各3皿ずつ)、ロックウール(8,4,2mg/ml3通りの濃度で各3皿ずつ)、TPC8,4,2,1,0.5mg/ml3通りの濃度で各3皿ずつ)、対照(PBSのみを3皿)を混合したPBSを添加し、炭酸添加の上、2日間培養した(図4)。その後、各シャーレにMTT試薬を加え、生存細胞によるフォルマザン産生を利用し、吸光度測定によって、対照実験を基準とした生存細胞の相対的量を調べ、添加物質の細胞障害性を調べた。

3.結果

シャーレ単位面積当たりの対数変換した資料重量濃度に対する生存細胞数を図5に示す。なお実験の際、ロックウールの添加量を誤ったため、予定とは異なる濃度となっている。


図4 培養24時間後の実体光学顕微鏡像

 

 

 

 

図5 各試料を加えたときの細胞増殖抑制

4.考察

 これらを各物質の各濃度について平均すると、ロックウールより、TPCの方が細胞障害性が強いと言える。TPCの主成分は、ロックウールであるが、TPCは、吹きつけ材を採取してきたものなので、吹きつけ固定用のコンクリート砕粒等を含んでおり、これらのため細胞障害性はロックウールより強かったと考えられる。

  なお2001年、国際がん研究機関(IARC)はワーキンググループにおいてロックウールの発がん性を詳細に再評価し、ロックウールやガラスウールなどの人造鉱物繊維の発がん性分類をグループUB(ヒトに発がん性を持つ疑い)からグループV(ヒトに発がん性を持たない)に変更した(下記URL参照)。

参考

http://www-cie.iarc.fr/htdocs/monographs/vol81/81.html

 

 

本報告を含め本学5年生の社会医学実習は以下の中にまとめられている。

1.       矢野栄二、田宮菜奈子、長谷川友紀:模擬演習(Simulation Exercises: SE) による公衆衛生教育.日本公衆衛生雑誌 45: 270-278, 1998

2.       矢野栄二、田宮菜奈子、村田勝敬:学生参加型の衛生学公衆衛生学教育.日本公衆衛生雑誌 46: 644-649, 1999

3.       矢野栄二、山内泰子、田宮菜奈子(編)ケースメソッドによる公衆衛生教育:Simulation Exercise (SE), 南江堂、東京、2000

4.       矢野栄二、山内泰子(編)ケースメソッドによる公衆衛生教育(第2巻)篠原出版新社、東京、2003

5.        矢野栄二、山内泰子、高木晴良(制作) ケースメソッドによる公衆衛生教育 (CD-ROM)メディア教育開発センター 千葉 2004.

また、この他各年ごとの報告を収録したCD (eSE)は教室で配布している。

 

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