発行日2006年5月30日
セネガル保健人材開発促進プロジェクト
   
         
     サヘル通信4,5月号をお届けいたします。
 今年も4月5日よりENDSS、州保健研修センター(CRFS:准看護師養成学校)の入学試験が実施されました。ENDSS看護学科は新卒入学定員60名に対し出願者が2,994名(倍率49.9倍)、社会人入学定員10名に対して42名(4.2倍)、助産学科は新卒入学定員70名に対し出願者が2,095名(29.9倍)、社会人入学定員6名に対して28名(4.7倍)、准看護師は定員150名(5CRFS、1校各30名)に対して出願者1,210名(8.1倍)でした。出願者数(新卒入学)は看護学科35%、助産学科15%、准看護師17%と昨年に比べそれぞれ増加しています。セネガルでは保健医療従事者不足が深刻であるため、正看護師、正助産師、准看護師の国家資格を得た者は全員が公務員として採用されることが当面約束されています。この出願者の増加は国家試験に合格すれば公務員になれること及び就職先が確実にあるということが大きく影響していると言われています。
 5月初旬には佐久総合病院より出浦喜丈先生に短期専門家として約2週間来ていただきました。セネガルの地域保健に関する国家政策・戦略を決めるためのセミナーでの「日本の地域保健と佐久病院の病院をベースにした地域保健活動とその成果」についての講演と、ゴサス保健区の視察を通じて同区で行われている地域保健員養成・活動システムについて評価をしていただきました。
  今月号は、看護学科地域保健実習巡回指導に同行し37ヶ所のヘルスポストを巡った澤田専門家と、イスラム教団ムーリッドについて酒井専門家に寄稿してもらいました。
   
         
    I. 看護学科地域保健実習巡回指導とFAYE先生     澤田和美専門家
 看護学科3年生の地域保健実習が4月17日から7週間行われていますが、その4週目に当たる5月8日から3年生の担任のTHIAM先生と2005年12月から教員になったFAYE先生が巡回指導に出かけました。FAYE先生に初めて巡回指導に出かけた感想、先生になっての思いを聞いたのでご報告します。
 彼女は助産師ですが、看護学科の教員をしていて1年生の担任です。毎年経験の浅い先生が巡回指導に同行して指導法を学ぶのですが、話があったとき、将来3年生を教えることも考えて承諾したそうです。彼女の関心は学生がどのように指導されているか先輩教員のTHIAM先生から学ぶことと、さらにヘルスポストの現状を見ることでした。FAYE先生自身タンバクンダ州で1992〜1998年まで、ファティック州で1998〜2003年まで働いていましたが、その頃と比べるとヘルスポストはとてもよくなっているということでした。電気や水があること、さらに物品も豊富になっていて、またヘルスポスト長(看護師、以下ICP)の住まいの多くにはパラボラアンテナもついていることに驚いていました。
 地域保健実習の巡回指導は、実習目的に基づき学生がどこまで達成できたか、それぞれの到達度に従い、残りの実習期間の方向付けをしてきますが、THIAM先生は学生の報告や記録から学生の状況をすばやく判断して一人一人にあった指導をして、まさにアートの領域でした。FAYE先生も同様にそれを感じていました。そしてTHIAM先生はFAYE先生が学生を指導する時間を作るのですが、その中でFAYE先生も自分の指導法を見つけているようでした。また今後報告書を二人で書くそうですが、FAYE先生は丁寧にノートを取っており、そこには各ヘルスポストで助言を受けたことが書かれていました。実習終了後にICPにお礼状を出したほうがいいというアドバイスがあったこと、また今後学生数が急増するので、実習場所の候補となるヘルスポストについても記し、来年以降の事前調整 (教員が実習前に候補となるヘルスポストを訪ね、実習目標を説明し学生実習を受け入れてもらえるか、期間、性別、宿泊先などを調整する)のときに役立てたいと考えていました。そして、学生が実習をする時に最も重要な指導者となるICPのプロフィールを十分に知る必要があり、ENDSSの卒業生であるか、学生に対する指導力を事前調整で見てくることが大事だと話していました。
 彼女が2年前にENDSSの管理教育学科に入学した動機はダカールでの仕事がしたかったからだそうです。リプロダクティブヘルスのコーディネーターとして、継続教育にもかかわっていた彼女は、管理教育学科卒業後は管理者として仕事をしたいと考え、就職希望先にはダカール州の2つの地域を書き、一番下にENDSSと書いたところENDSSに配属されたそうです。FAYE先生はENDSSで働き始めて半年になりますが、同期で入った他の先生とメリットが少ないと話しているそうです。その理由としては、新人教員は給与の基準が低い上、前職ではトレーニングを受ける機会もあり、そのときには収入も物品も入手することができた上、海外研修に行く機会もあったが、ここではその機会が減ること、学士号をとることも保障されているわけではないからだそうです。ENDSSでの仕事のよいところは、ダカールにいられることだと話しているそうです。しかし、一緒に働いている看護学科の先生には同じようなプロフィールで助産師である人が3名いるし、地方で働いていた頃から知っている先生もおり、新しい知識を得ることは好きなので、悪いことばかりではないそうです。今までは資格を持った人への教育をしていましたが、今度は学生の教育をする教員としての能力を高めて、教育についての特別な技能を身につけたい、また学士号が取れる機会を得たいと考えているそうです。日本へいくカウンターパート研修があったら行きたかったと話していました。
左からTHIAM先生、FAYE先生、学生 日本の協力によって建設されたヘルスポスト
   
         
   

II. 金は天下のまわりもの−お金の行方−       酒井雅義専門家
  セネガルのイスラムは非常にユニークである。特にセネガルを起源とする教団で、国内で多数派を占めるムーリッドは、異端といえるほどの独自性を持っている。今回はムーリッド教団を紹介したいと思う。なお、ムーリッド教団に関する記述は「可能性の国家誌」の受売りです。
 ムーリッド教団が設立したのは1886年、いまから120年前のことである。バンバの教え、ムーリッドの教義の核となるのは「労働とは祈りの形態である」という労働思想であり、日々の労働そのものが徳を積む行為、つまり祈りであるとする点である。さらにムーリッドの教義は「規律」を信徒に求める。この規律とは信徒はマラブー(イスラム導師)に帰依し、絶対的に服従することを指す。マラブーは信徒と神を仲介する存在であり、教徒の労働の成果の一部を受け取る権利があるとされ、マラブーにとって非常に都合の良い教えともいえる。当初ムーリッドの教義の実践の場となったのが「ダーラ」と呼ばれる農業共同体であった。ダーラではマラブーの指導のもと5歳から15歳位のターリベ(信徒)が親元を離れ住込み、落花生栽培を行ないつつ共同体を形成した。収穫した落花生は市場で売られ、教団に富を運んだ。仏植民地政府がマラブーの力を必要としたのは経済的に安上がりで、かつ統治の上で有益であったためである。一方、60年のフランスからの独立後、新政府はマラブーに対抗できるだけの経済力も、統治能力もなく、教団との関係は「もちつもたれつ」にする以外なかった。政府は民衆からの政府批判や地方で暴動が起きないよう指導してもらう代わりに国有地を教団に譲渡した。
 独立以前にはダカールにはムーリッドが住居する区画はなかったといわれる。都市に入ってきたムーリッドは「ダヒラ」と呼ばれる組織を作り、ダヒラを通しマラブーへの献金を行うようになった。1970年、1980年代を通じてムーリッドの勢力基盤は地方から都市へ移り、ダヒラも各地方都市で形成された。都市に定着したムーリッドは商業の領域、インフォーマル・セクターで活躍し始める。その活動領域はセネガル内に止まらずアメリカ、フランス、イタリアにも進出し、「ムーリッド商人」として本国との絆を保ちながら活動している。パリの観光地でエッフェル塔の模型やアフリカの民芸品を売っているアフリカ人がムーリッド商人である。
 現在ではムーリッド教団は経済、政治にも大きな影響力を与えるほど強大となっている。イメージとしては国家の中にムーリッドを信奉する国家が出来上がっている感じでさえある。政治的には現大統領は熱心なムーリッド(大統領就任後にムーリッドになったと噂される)であり、経済的には教徒がインフォーマルセクターを牛耳っている。ムーリッドの最高権威者がYESといえば、例え大統領がNOと言っても信徒は教団に従うであろう。信者から教団への献金の流れは出来上がっている。例えば小型バスを使ってダカール市内に行き、路上販売人からTシャツを買い、屋台で食事をしタクシーで家に戻るとする。インフォーマルセクターに属する小型バス、路上販売人、屋台、タクシーへ支払ったお金の一部は信徒を介し、教団へ流れ込む。天下の回りものであるが、ここセネガルでは、好むと好まざるに関わらず、お金はムーリッド教団へ流れる仕組みとなっているのだ。

トゥーバにあるムーリッド教団の総本山モスク
   
     
    III. お知らせ
 
プロジェクトのホームページ5.サヘル通信内に「プロジェクト・ニュース」を新設いたしました。プロジェクトの活動状況を随時アップデートしてお伝えしております。どうぞご覧ください。
 
     
   

4,5月の主な活動
ENDSS教員セミナー(4月)
タンバクンダ・サンルイ州の教育者へのトレーニング(4月)
地域保健セミナー(5月)
看護学科3年生地域保健臨地実習巡回指導(5月)
ゴサス保健区ASC・マトロン活動全体報告会(5月)
 
     
   
     
  プロジェクト代表事務所 Bureau au Ministe´re de la Sante´ et de la Pre´vention Me´dicale
Rue Aime´ Ce´saire, Dakar, Senegal
 
  郵便物送付先 C/O JICA Senegal Office
B.P. 3323, Dakar, Senegal
 
  電話・FAX・Email・HP Tel/Fax: +221-864-29-98
Email: padrhs1@arc.sn
HP:http://project.jica.go.jp/senegal/6421060E0/index.html
 
     
   
     
     

2006.08B