眼底検査

◈ 眼底検査

眼底の光学的検査には直像検査(直接法)と倒像検査(間接法)がある.観察方法としては,直像鏡・倒像鏡・細隙灯顕微鏡などを用いる.

眼底検査に用いる機械を検眼鏡という.検眼鏡の歴史1851 年までさかのぼることができる,とのことである.


@直像

T直像鏡検査

眼内を直接のぞきこんで観察する.
利点は検査場所の制限が少なく機動性があること,乳頭・黄斑部の観察には勝れるが,度に見渡せる視野が狭く周辺部は見えにくい.透光体の混濁にも影響されやすい.無散瞳では,倒像鏡より見えやすい.

  1. )観察の原理と直像鏡の構造

    検者・被検者が共に正視眼であれば,方の眼底から発した光は瞳孔を通り角膜から眼外へ出ると平行光線となる.これがもう方の眼に入るとその眼底面に結像する.
    被検者眼の屈折力約+60 diopter で被検者眼底 O を 拡大していることになり,倍率は約15倍の正立虚像 I となる.眼底像の位置は検者の遠点にある.
    この共役関係を原理として,光源を内蔵し照明光が瞳孔面で収束するようになっているほか,視度補正用の補助レンズ(回転レンズ板,特にRekoss板 ・・レコス氏は考案者だそうです)や各種フィルタを組み込んであるものが直像検眼鏡である.

    A直像鏡
  2. )検眼鏡の準備 機械のチェック

    直像検眼鏡の外観は右のようである.
    直像検眼鏡は,ピント合わせのために示指で視度調整用回転レンズ板を回す.視度調節すなわちピントは,検者の屈折度被検者の屈折度である.被検者の屈折度は不明のことが多く,検査中に調整する必要が生じる.

    スイッチを入れ,明るさが十分であるか確認する.トランス式の場合,無用に電圧を上げないように注意する.
    瞳孔の下半分で眼内を照らし上半分で観察するため,照明光は角膜上で最小の光束になるように作られている.検眼鏡の観察孔にできるだけ近付くために,眼鏡使用者も裸眼で観察するとよい.穴を覗く時,目を付けるようにする原理である.この被検者と検眼鏡との距離を確認しておくこと.
    眼底が見えない場合,多くは照明光が瞳孔領に入っていない.レンズ板を回すときや見る部位を移動するときは,ブレないよう保待することが大切である.

    B直像鏡検査1
  3. )検査の準備

    検査室は暗いほうがよい.
    散瞳には,トロピカミド(トロピカマイド,副交感神経抑制)あるいはフェニレフリン(交感神経刺激)を用いる.実際の散瞳薬は,両者の合剤となっている(商品名:ミドリンP® ). 作用は15〜30分で発現し,1〜2時間持続,4〜5時間で消失する.
    注意点として,(閉塞隅角)緑内障発作を誘発する危険がある(抗コリン作用性薬剤に共通).眼底検査時には,生理的瞳孔径に回復する時にリスクが高いとされる.
    散瞳作用のある点眼薬には,アトロピン・シクロペントラート・アドレナリン(エピネフリン)があるが,眼底検査のためには用いない.

  4. )観察法

    回転レンズ板に示指をかけて検眼鏡の柄を握る.
    のぞき穴から向こうを見るためには出来る限り近づくことで視野が広くなる.空いた手で被検者の上眼瞼を押さえ,閉瞼動作を制限することもある.

    正面で向き合う体勢では左右対称,すなわち被検者の右眼(左眼)の検査には,検者は右手(左手)で検眼鏡を持ち右眼(左眼)で観察するのがスマートである.これにより,右手左手とも示指でレンズ板をスムーズに回せるようにならなければならない.
    ベッドサイドで被検者が仰臥位の場合では,検者は頭部側にまわるほうが見易いことが多い.

    写真は回転レンズ板の縁に掛かった指の状態である.もし,裏返しの検眼鏡のまま構えると少なくとも実習点は落第となるので,念のため.

    C直像鏡検査2
  5. )観察の実際

    被検者には正面視をしてもらい,検眼鏡の光源を直視しないように伝える.検者の背後に目標があると良い.検眼鏡を構えて観察孔から被検者を見ながら瞳孔領に光を入れると,眼底から明るい反射が返ってくる(徹照).これが眼底観察の第歩である.この反射により透光体の混濁の存在が知れる.たとえば初発白内障では,混濁部は暗い影となる.また投入角度を動かしたとき赤色反射が変化すれば,眼底の病変を示唆するものである.
    そのまま被検眼に近づくと眼底が見えてくる.正面やや外側からがよいだろう.ピントはレンズ板を回して調節する.
    D ピントを合わせながら網膜血管の走行を追い,太い方へ辿ると乳頭に行き着く.あるいは光源を注視させれば中心窩が見えるから,光を追わないように被検者に伝えそのまま鼻側網膜に移動すると乳頭が見える.

    まず視神経乳頭を観察し,乳頭周囲の眼底,乳頭から4方向に走る主要血管,黄斑部,周辺部の順に観察する.
    直像検眼鏡の場合,ある部位にピントが合っているとき,隆起や陥凹があるとピントが合わない.凸凹の程度を推定するには,補正レンズ 3 D の差が約 1 mm の高低に相当するとして計算する(単眼倒像検査では視差を利用して立体関係を把握する).


U倒像鏡検査

E倒像

照明光を凸レンズで集光して眼内 O を照らし,眼底像は凸レンズの手前に結像する倒立実像 I を観察する.実像位置は検者の明視域になければならない.倍率は 2〜4 倍で細かい観察には劣るが,視野が広く眼底周辺部まで無理なく観察できる.単眼倒像鏡と双眼倒像鏡がある.

(1)単眼倒像鏡検査
F

検者・被検者の姿勢の制限がなく,中間透光体の混濁にも影響を受けにくく,眼科診療のスタンダードとなっている.文字通りの単眼視であることから眼内所見の立体的把握には(双眼式と比較すると)ハンディであるが,実像の特性として奥行きが強調されるため,慣れれば相当程度の立体把握も可能となる.
通常,散瞳下で光源を内蔵した手持ち式の倒像電気検眼鏡をもちいる.

  1. )観察の原理と単眼倒像鏡の構造

    眼底を照明するための電気検眼鏡には光源・コンデンサレンズ・プリズムのほか,絞りと各種フィルタが内臓されている.
    集光レンズには+14 D(正視の場合,約4倍の倍率),+20 D(同,約3倍),+28 D(同,約2倍)を用いる.
    この順に観察視野が広くなるが,暗くなる.

G
  1. )観察法

    検者は,利き手に検眼鏡を持ち同側の片眼で観察する.照明光が出る頭部を眼窩下縁に付け,被検者の瞳孔内を照らす.照明光とできるだけ並行に頭部のプリズムのすぐ上から瞳孔領を見る.この徹照ができれば眼内の明るい反射が見える.集光レンズは利き手と反対で持つ.被検者眼のすぐ前から徐々に離していくと瞳孔内に眼底が見えてくる.

(2)双眼倒像鏡検査

両眼立体視を可能にしたもので手持ち式と額帯式がある.額帯式は方の手が空き,強膜圧迫子の使用のほかスケッチなどが楽である.しかし,手持ち型は視野の確保に,額帯型では頭部の圧迫感などに難点があったりする.


V.細隙灯顕微鏡を用いる眼底検査

眼底の詳細な観察には,種々のレンズを用い細隙灯顕微鏡の光学切片で網膜硝子体を拡大・立体視するほうが優れている.
レンズには接触型と非接触型があり,顕微鏡の作動範囲内に眼底像を作り拡大観察する.

  1. )接触型レンズ

    角膜にコンタクトさせるため表面麻酔の点眼と,緩衝用粘弾物質(商品名:スコピゾル®)が必需である.最良の状態で観察できる.代表は Goldmann three mirror で中央で後極部の観察,三面鏡で赤道部・周辺部・隅角部と切り替えていく.細隙灯顕微鏡の照明細隙光は基本設定が縦長であるので,眼底の360度を平均してカバーするためには細隙光の向きを回転させなければならず,また中央部は正立像であるがミラー部は鏡像であり,観察像の連続イメージを得るのにやや難がある.倒立像で観察するレンズには Panfunduscope をはじめとして拡大率・観察視野の異なる各種が市販されている.(スリット光を移動させれば)一度に見える範囲が広いため眼底の光凝固術での利用が多い.拡大率と観察視野は両立しない.接触レンズでは感染に注意が必要である.

  2. )非接触型レンズ

    Hrubyレンズは多くの細隙灯顕微鏡に付属する,−60D弱の中和レンズである.前置レンズの元祖のような存在であったが,操作性・倍率・解像力とも,次のレンズにとって代わった.
    +90Dレンズは細隙灯顕微鏡で観察する倒像検眼法で,最近の一般的な手法となっている.非接触であるために感染のリスクが減らせるほか角膜面にスコピゾルを残すこともなく,簡便であり手術直後でも安心である.後極部が主な観察範囲となる.
    +78Dレンズのほうが倍率が高いが焦点距離が長いため,細隙灯顕微鏡の動作距離がやや窮屈である.

W.フィルタの使い分け

その他

とらえるべき所見を確実に把握するためには,対象となる解剖学・組織学の理解,疾患・病変の系統的理解と,スケッチが欠かせない.ポジティブな所見・ネガティブな所見を正しく評価しよう.


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