乳頭部先天異常

congenital anomaly of the optic disc

§ 先天異常

  1.  大きさの評価

    通常は形状の異常として観察される.評価手法として乳頭面積が注目されている.ほぼ正規分布を示すことから,±2SD をはずれたものはsmall disclarge discとなる. 図 01 OD

    ・乳頭面積視神経乳頭の大きさと眼軸長や屈折値は相関する.眼底写真上で視神経乳頭の大きさを評価するには便宜上,DM/DD比(乳頭黄斑間距離乳頭径)を用いる.
    乳頭径だけでいえば,巨大乳頭は視神経線維総数は正常範囲と見なせることから相対的に陥凹部面積が多くなる.小乳頭では陥凹は小さくなり,しばしば神経線維本数も少ないようである.
    (ただし,乳頭の サイズ と 神経線維 はそれぞれ別の概念である.少神経線維の場合は視神経低形成となり,視野視力異常が生じることになる.)

    ・小乳頭縦径で1.5mm以下,乳頭面積は1.6mm²以下.micropapilla
    小乳頭には神経線維の量的な過不足の意味はなく,篩状板部が狭い optic disc hypoplasia乳頭低形成ということで,crowded 込み合った乳頭,などともいう.これにより偽乳頭浮腫(偽視神経炎)の所見となる. 非動脈炎性前部虚血性視神経症の危険因子のほか,緑内障眼での C/D比の評価に注意.

    図 02

    ・正常範囲乳頭面積は1.62.8mm²

    ・巨大乳頭縦径で2.2mm以上,乳頭面積は2.8mm²以上.macropapilla,あるいは megalopapilla
    小乳頭と対照的ではあるが C/D比の評価に注意が必要なのは同じ.視神経コロボーマ,朝顔症候群や乳頭ピットなどに注意.

    生体眼の画像解析では 縦径 1.42~2.27(平均1.82)mm, 横径 1.32~2.11(平均1.70)mm, 乳頭面積 1.57~3.66(平均2.43)mm², 辺縁部面積 0.75~2.94(平均1.65)mm², とのことである.

    C/D上記の小中大において辺縁(rim)面積が同じであれば神経線維本数も同じ,と考える.この場合,小サイズ乳頭でのC/D比=0.3は,中サイズではC/D比=0.5,大サイズではC/D比=0.8,に相当する.
    平均サイズに於てC/D比=0.7以上では病的とし,GONを疑うとされる. 大きさ・陥凹の評価

  2.  低形成 hypoplasia 図 03

    臨床的に遭遇するのは小乳頭 undersized discに於て,病理組織的には神経線維欠損の有無が問題となり,右図の B 乳頭低形成,あるいは D 視神経低形成か,がポイントとなる.

    網膜神経節細胞の過剰アポトーシスに起因する視神経低形成では,細胞数の減少と軸索の伸展不良がある.脳や眼球自体も種々の形成不良を伴うが正常形状のこともある.神経線維が形成されないと視神経自体は視神経鞘と網膜中心動静脈と支持要素のみ,とのことで,これらは極めて少ないことになっている.球後の細い視神経が証明できれば本症となる.部の視神経が機能している,あるいは部分の形成不良であれば視野障害として認められる.例えば両鼻側半盲では非交叉線維の欠損を示している.

     〖上鼻側網膜の菲薄神経線維層  (SSOH)〗
    図 04
    図 05

    視神経部分低形成 optic nerve hypoplasiaでの視野障害は,多くが Mariotte盲点から連続する くさび状あるいは おうぎ状の欠損あるいは沈下であり,視野障害に致する網膜神経線維層の菲薄化,対応する視神経乳頭部辺縁 rim厚の菲薄化,非進行性,通常は無自覚,などを特徴とする.これらにより,視野障害が見られない乳頭低形成(小乳頭)とは区別して認識する.
    般に視力は中心窩乳頭黄斑線維束の形成と関係するため,乳頭の見かけの恰好とは無関係である.

SSOHsuperior segmental optic (nerve) hypoplasia は良好な中心視力と下方視野欠損を示すものである.乳頭上部に低形成所見(topless disc)があり,緑内障もどきとして紛れ込んでいるらしい.
検眼鏡的には,上方辺縁部が薄いことで網膜中心動静脈の出入が上方に片寄っている.外周にはしばしば幅広白色の強膜輪 scleral haloがみえる.本来の神経束である小さく見える視神経乳頭部(内輪)をまだらな褐色黄色調の色素輪(外輪=強膜網膜色素上皮層)が取り囲み 重輪(double ring sign) を構成するものを典型とする.オリジナルレポートでは糖尿病の母親の子に発生しやすいとのことである.

図 06

右図視神経乳頭は両眼とも,上半分が蒼白で且つ superior peripapillary scleral halo を伴い,網膜中心動脈の流入部がやや上方へ偏位する.乳頭の所見に致しHFAでは左眼のほうが重度である.ここでは重輪は形成されていないようである.

NSOH兄弟病変のnasal segmental optic (nerve) hypoplasia もそこそこに存在するらしい.これは 耳側視野欠損 を示す.
これらにより,広義に SOH と見做せるバリエーションは,恐らく少なくない.

  1.  下方コーヌス/下方後部ぶどう腫/傾斜乳頭 tilted disc

    図 14 tilted

    傾斜乳頭眼杯裂閉鎖不全による前後軸方向の傾きに因り,
    ❶上耳側 rimが隆起,❷下鼻側 rimが低い,❸網膜血管の逆位,❹下方コーヌス,内下方豹紋眼底,❺横長乳頭,等を示す.
    例えば単純に下方コーヌスがあれば6時方向下むき,要するに下方rimの高さがない.視神経乳頭面がお辞儀して前かがみになって,断面では高低差が生じるということで,傾斜方向すなわち下方の引っ込んだ低い rim部ないしは下方コーヌスや,(下鼻側下耳側の)下方ぶどう腫と関連がある病態が傾斜乳頭である.下方の神経線維が少ないとして,乳頭下方の部分低形成とする見方もある.

    図 15 TD

    上記視野欠損引用例では下耳側7時半方向へ乳頭傾斜(下耳側rimが低い状態)を示す,という説明もできようが,乳頭長軸の回旋方向は逆,と分かる.

    図 16 OD 図 17 OS
    図 補

    上症例の問題は,ほぼ菲薄脈絡膜のみであるが,下方後部ぶどう腫の境界が黄斑を横切るとき,高頻度に漿液性黄斑剝離・脈絡膜新生血管が発症し黄斑変性になる基,となるようである(傾斜乳頭症候群 tilted disc syndrome tiltconusectasia syndrome)

    図 18 OD 図 19 OS
    図 補

    ここでは黄斑下の下方ぶどう腫の境界部分において,菲薄脈絡膜とともに色素上皮剝離が描出されている. 近視のカテゴリーは こちら 】 

    眼杯裂(後部)閉鎖に関わる形成異常(Fuchs coloboma)は,状況のバリエーション(程度差)が大きい.いびつな陥凹に多分岐を示す異常網膜血管を認める場合は視神経乳頭コロボーマ optic disc colobomaの可能性が高い.異常陥凹は緑内障性陥凹とも紛らわしい.下方コーヌスの存在は最も軽微な眼杯裂閉鎖不全と考えられる.これらにより,下方に豹紋を認めるのみのことも少なくない.

    眼底のコロボーマでこれ以上の変化は,脈絡膜病変( 脈絡膜コロボーマ )のカテゴリーとして扱う. コロボーマの写真 】 

  2. 下図で 傾斜乳頭 としているのは乳頭が反時計回り(左眼では時計回り)に回転していることを指しているようである.しかし,この所見に於て 傾斜乳頭 という表現は,特に説明がなければ 誤り である.

    図 07

    傾斜 とは,強膜に対する視神経付着角度の傾斜によるrim部の高低差,特に 前傾視神経付着を指す概念である.図では平面での回転を指していると思われ,よって 回旋乳頭(tortion) のように云わねばならない.

    なお近年,近視変化と緑内障との関連で変形乳頭としてこれらの 回旋乳頭縦長乳頭 が注目されており,下耳側の rimの評価に苦労する.

  1.  乳頭形状・血管走行のバリエーション・追加

    図 08 図 09 図 10
    図 11 図 12 図 13
  2.  乳頭部ドルーゼン  disc drusen

    乳頭部ドルーゼンは,星状膠細胞腫 astrocytoma のカテゴリーである.これにより結節状・桑実状と形容されることがある.なお小児においては埋もれていて乳頭浮腫とまぎらわしい,とのことである.
    そのた,カルシウム,ムコ多糖,アミノ酸,核酸,などの沈着もある.

  3.  偽視神経炎   pseudoneuritis optica / 偽乳頭浮腫 pseudopapilledema

    乳頭部は発赤・境界不鮮明を示す.般に強膜乳頭部が小さいこと(小乳頭,または乳頭低形成)で神経線維や血管要素が混み合っているため,と説明される.これにより陥凹が形成されにくいが,時に胎生期グリアの残存がみられる.器質病変ではなく視力・視野などの機能障害はない.頭蓋内病変の問題もないが,うっ血乳頭や視神経症()と紛らわしい(だからこそ ではあるのだが)
    OCTでは密集した神経線維とされる乳頭面がみごとに凸に描出され,新たな解釈が加わるであろう.

  4. 図 20 OD 図 21 OS

    *先天性乳頭隆起

    図 22 上膜
  5.  そのほかの形成異常 malformations

    epipapillary membrane(persistent hyaloid vasculature, ② Bergmeister papilla, ③ morning glory, ④ disc pit, ⑤ cyst または乳頭周囲ぶどう腫 peripapillary staphyloma, ⑥ PHPV, ⑦ 逆位 situs inversus myelinated fiber, etc

  6.  異形成 displasia 図 23 異形成

  7.  無形成 aplasia 図 24 無形成

    眼底には視神経乳頭も網膜血管も認めず,帯が脈絡膜としてみえる.前眼部を含め全眼球に重度の形成異常を伴うことで,極めてまれ.
    報告のある病理組織像では,網膜内層が欠如し網膜外層は異形成をきたしている,とのことである.眼杯周囲の間葉細胞,胎生裂形成,網膜神経節の分化異常・発達異常等の様々なタイミングで発症することで,多様性を持つと説明される.

    この状態では,optic nerve aplasia 視神経無形成と optic disc aplasia 乳頭無形成は同じカテゴリーで扱う.

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2022

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