乳頭腫脹

disc swelling

§ うっ血乳頭

  1. うっ血乳頭 papilledema choked disc 図 01

    病 態

    頭蓋内圧(脳圧/脳脊髄圧/髄液圧)の上昇による視神経の軸索流が障害され生じる非炎症性・受動性の乳頭腫脹で,通常両眼性.
    髄液を介して視神経を圧迫し,篩状板前部において軸索が腫大する.軟性白斑は cytoid bodyを含む腫脹軸索を示し,出血は軸索間にみられる赤血球である.周囲の毛細血管・小静脈~網膜中心静脈が圧迫されると,拡張・蛇行・透過性亢進・細胞外浮腫と病状が進行する.視神経後半部に浮腫は生じない.

    頭蓋内圧亢進に因らない乳頭腫脹は,乳頭浮腫 という.
    頭蓋内圧亢進の基準は200mmH2O  20mmHg

    所見・症状: 写真で確認

    乳頭は境界不鮮明で発赤・混濁・腫脹し,硝子体中に隆起する.表面の毛細血管は拡張,網膜静脈は拡張・蛇行し, 静脈拍動 が消失する.初期の浮腫は鼻側から生じ,上下→耳側に拡大する.乳頭境界を越えて周囲へ広がった腫脹は,隣接部網膜を圧排する.圧排された網膜には しわ  (円周あるいは円弧状;Paton's line 図のやじり ・・)ができる. 急激な頭蓋内圧上昇の時は神経線維層の混濁範囲は広く,火炎状出血(図のやじり ・・)を伴う.緩徐な上昇では狭い範囲の割に突出度が大きかったりする.長期にわたると,乳頭周囲に軟性白斑・出血・星芒状白斑がみられるようになる. 図 02
    Mariotte盲点の拡大が認められるのは,乳頭周囲網膜の損傷のためである.漿液性網膜剝離をきたすこともある.乳頭腫脹は軸索輸送が障害されて起こり,陥凹は比較的残る.細胞外浮腫が加わると生理的陥凹を埋め,動静脈の本幹や篩状板は透見できない.
    慢性化しない限り,視力・色覚は良好に保たれる.原因が除去されれば,視力予後は良好である.慢性化すれば視神経萎縮におちいり,視力が低下し,不規則な視野障害をのこす.

    原 因: 図 03

    脳腫瘍,頭蓋内出血,特発性頭蓋内圧亢進(良性頭蓋内圧亢進),髄膜炎(梅毒性,結核性,等.

    ◎OCTでは頭蓋内圧に押されてBruch膜が硝子体側へカーブしている状態が描出される(右組織図 矢印.

    前頭葉の腫瘍や蝶形骨髄膜腫で,腫瘍側が視神経萎縮で他側がうっ血乳頭となるものがある(Foster Kennedy症候群)

    小児では視交叉近傍の腫瘍(頭蓋咽頭腫,胚細胞腫など)の進展に伴い第3脳室の Monro孔を閉塞しうっ血乳頭をきたすとともに,視交叉部の圧迫性・浸潤性視神経症を生じることがある.小児では「うっ血乳頭(初期)は視力低下をきたさない」という原則はあてはまらない.視力障害を訴える小児では見 「両眼性の視神経炎」にみえても,必ず頭蓋内占拠性病変を神経放射線学的に除外する.

  2. 乳頭浮腫 disc edema

    病 態視神経症(炎症,虚血もあり),高血圧性乳頭浮腫,網膜中心静脈閉塞,ぶどう膜炎,眼窩腫瘍,まれに低眼圧で.ということで,血管病変が主であることがわかる.これらにより,うっ血乳頭と区別するが,組織所見は共通である.

    浮腫が前面にある病態では表層毛細血管が反応し,炎症では後毛様動脈系の深部血管が反応する.
    なお,病理でいう浮腫とは間質の浮腫性水分を指すことで,軸索の容積増大に原因がある場合では,腫脹とするべしとの意見も多い.視神経乳頭の隆起は,後天性に視神経乳頭が腫脹して隆起する乳頭腫脹(disc swelling)と,先天性に構造上隆起している乳頭隆起(disc elevation)とに分かれる.

  3. 偽うっ血乳頭偽乳頭浮腫 pseudopapilledema

    かつては境界不鮮明ということで視神経炎だったが,すっかりOCT画像上での神経線維層隆起がポイントになったようだ.
    時に,視神経ドルーゼンによる場合がある.

    そんな訳で,乳頭隆起を先天性乳頭隆起と後天性乳頭隆起に分けるとかで,腫脹は隆起(disc elevation)に取って代わられようとしている.

  4. 眼圧と脳圧 図 04

    ◎ 頭蓋内圧に対抗しているのは眼内圧である.そして両者を隔てているのが篩状板である.
    ちなみに側臥位での正常な脳圧を 100~150 mmH2O として,坐位での眼圧を 10~20 mmHg とすると,眼圧脳圧とわかる.
    眼圧が上がれば眼圧脳圧となる.脳圧が上がれば眼圧脳圧となる.
    同様な圧勾配の変調は眼圧が下がりすぎても同じとわかる(そういう訳で,極端な低眼圧では乳頭浮腫を生じる)

    緑内障の立場で

    100~150 mmH 8~11 mmHg ( 980~1470 Pa(1 mHO=9806.65 Paとして)
    10~20 mmHg  136~272 mmHO ( 1333~2666 Pa(1 mHg=101325/0.76 Paとして)

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2023

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