視神経症

optic neuropathy

§ 視神経症

病 態視神経線維の機能障害.発症の場は髄鞘(脱髄性)か神経細胞(軸索変性)か,となる.

❶原発性:多発性硬化症とその亜型.中枢神経髄鞘抗原を標的とする自己免疫性炎症.しばしば視神経炎として,原因不明に扱われる.
❷感染性:中枢神経への病原体(結核,梅毒,ウイルス,など)の侵入
❸遺伝性:Leber遺伝性視神経症,など
❹栄養障害,中毒・代謝性・薬剤性,低酸素性および虚血による脳脱髄症候群,周囲病変の圧迫・浸潤,vit B₁₂欠乏など.緑内障性や強度近視性は別に扱う.
❺経過により,神経線維の部分あるいは大部分が喪失し視神経萎縮に至る.

  1.  脱髄性視神経炎
    いわゆる,視神経炎 optic neuritis

    分 類

     ➊特発性(原因不明) 65%.MSその他の全身疾患を否定.典型的視神経炎,といわれる.
     ➋多発性硬化症 multiple sclerosis (MS)の視神経炎 25%,
     ➌視神経脊髄炎 neuromyelitis optica (NMO)の視神経炎 10%ほど,といわれる.Davic
     ➍急性散在性脳脊髄炎 acute desseminated encephalomyelitis (ADEM)の視神経炎

    症状・所見典型的視神経炎

    ①急性の片眼性の視力低下で発症,②9割に眼球運動痛,③患眼にRAPD陽性,④様々な視野異常,⑤15~45歳,⑥75%が女性,
    といった特徴がある.

    ◎鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
    【1】確定は髄液検査による.IgG上昇・オリゴクローナルバンド・ミエリン塩基性蛋白陽性の証明  MS
    【2】視力低下,中心暗点:心因性視覚障害(対光反射,視覚誘発電位など他覚的所見が重要)に注意.
    【3】眼底所見:乳頭正常のときは黄斑ジストロフィ,Leber遺伝性視神経症などに注意.乳頭腫脹の場合は前部虚血性視神経症が鑑別上重要で,高年齢,血管障害を起こしやすい基礎疾患,乳頭異形成(低形成や傾斜)があるときや,水平半盲があるときは虚血性を疑う.
    【4】その他の(非典型)自己免疫性視神経症:別に扱うべきとの説がある.
    【5】小児の視神経炎

  2.  炎症
    1. 自己免疫
      • 多発性硬化症multiple sclerosis (MS)

        多発性硬化症はオリゴデンドロサイトを標的とする脱髄炎症である.

        球後視神経炎での初発は,数年で1030%が多発性硬化症に移行する. 難病医学研究財団 難病情報センター

      • 視神経脊髄炎スペクトラム neuromyelitis optica spectrum disorders
        • AQP4抗体陽性視神経炎 アクアポリン

          アストロサイトに存在するAQP(anti-aquaporin)4 が標的抗原となりニューロンを直接傷害し,さらに好中球・好酸球やマクロファージなどの免疫細胞が病変部位に浸潤して重度の炎症を引き起こす,視機能の予後不良の自己免疫性視神経症である.視神経障害が強い視神経脊髄炎(neuromyelitis optica;NMODavic)とスペクトラムが重なり,重症側の 2/3 は光覚なしとなる.抗AQP4抗体の有無を確認する重要性が強調されている.中枢神経のアクアポリン色素上皮細胞内のリポフスチンの増加は機能障害を示唆する.

        • MOG抗体陽性視神経炎(慢性再発性炎症性視神経症

          ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(myalin oligodendrocyte glycoproteinMOG)は髄鞘オリゴデンドロサイト表面にある.
          小児や若年者で,ウイルス感染やワクチン予防接種が先行し発熱・頭痛・嘔吐などとともに視力障害が発症する急性散在性脳脊髄炎において,抗MOG抗体が証明される.

        • 特異抗体

           抗AQP4抗体

           抗MOG抗体

      • 自己免疫性神経症

        MS・NMO以外の自己免疫性の炎症反応のカテゴリー.膠原病に視神経炎の合併は多い.すなわち栄養血管炎としての性格となる.

        • 自己免疫疾患に合併する視神経症

          SLE,Sjögren,ANCA関連血管炎などで全身症状と共に眼症状をきたす.

        • 全身症状に乏しい視神経症

          抗核抗体,抗SS抗体,リウマチ因子,抗カルジオリピン抗体(抗リン脂質抗体),抗好中球細胞質抗体(ANCA),甲状腺関連抗体(抗サイログロブリン抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)陽性例など自己抗体を認めながら全身症状の発症の無い視神経症.経過中,全身症状を合併することは少なくない.

      • 免疫異常
        • paraneoplastic optic neuropathy
          悪性腫瘍による自己抗体性の炎症.CV2 CRMP-5抗体など.
    2. 乳頭炎 papillitis

      乳頭の発赤・腫脹,網膜静脈の拡張・蛇行といった変化が見られれるもの.
      前部視神経炎のほか,膠原病や感染性炎症の可能性が大きい(次項)

    3. 視神経網膜炎 neuroretinitis あるいは浸潤性視神経症

      炎症性細胞浸潤あるいは病原体によるもの(真性炎症)では視神経網膜炎となるものがある.Bartonella(猫ひっかき病),イヌ蛔虫症,トキソプラズマ,梅毒,結核,レプトスピラなどの感染が原因で,黄斑を含む網膜浮腫,視力障害をきたす.
      Leber レーベル 星芒状視神経網膜症() (idiopathic stellate neuroretinitis)は,乳頭腫脹に加え黄斑に星芒状白斑が出現した所見の臨床名.
      浸潤性視神経症というと,腫瘍細胞浸潤やサルコイドーシスによる肉芽腫を含めることが多い.

    4. 乳頭血管炎 optic disc vasculitis

      だいたい静脈炎網膜中心静脈閉塞様の所見となる.血管混濁が強いと,樹氷状血管炎のカテゴリーになる.蛍光眼底造影所見は血管壁組織染程度から閉塞性血管炎まで多様.ぶどう膜炎に重なる.

  3.  循環障害

    ① 虚血性視神経症 ischemic optic neuropathy

    病 因短後毛様動脈の閉塞,すなわち脈絡膜循環障害に視神経乳頭が巻き込まれたものが前部虚血性視神経症である.篩状板部の模式的な血管支配は,⓵前篩状板部は脈絡膜血管から,⓶篩状板部は ZinnHaller動脈輪経由と軟膜動脈の反回枝,⓷後篩状板部は軟膜動脈の反回枝とわずかな網膜中心動脈の枝による.これにより前部虚血性視神経症は,篩状板とその手前の虚血変化となる.
    篩状板より奥での循環障害が疑われた場合は後部虚血性視神経症となる.軟膜血管系の閉塞となるが,実体はよくわからない.障害部位を篩状板部(の直後)とする意味では後毛様動脈障害であるが,より上位の眼動脈内頸動脈障害も含めると眼虚血症候群の範疇となる.
    動脈閉塞の原因としてⓐ非動脈炎型と,ⓑ動脈炎型に分ける.

    症 状片眼に突発する視力障害は,進行にある程度の時間経過がある視神経炎と対照される.

    所 見視神経乳頭は虚血性浮腫を示す(下記).これにより血流測定によると他眼より低下している状態が証明される.このほか網膜軟性白斑cherry red spot網膜新生血管虚血性虹彩炎低眼圧虹彩新生血管などの所見が合併する.すなわち低環流圧による所見である.
    動脈炎型のほうが視力予後は不良で,最終的には視神経萎縮となる.

非動脈炎型虚血性視神経症動脈炎型虚血性視神経症
年 齢40歳以上(平均68歳50歳以上(平均75歳
視機能障害急激な視力障害・視野障害.ただし各程度あり.
典型では水平半盲,時に中心暗点や弓状暗点
急激で重度の視力低下
しばしば両眼性,予後不良
視神経乳頭所見蒼白浮腫(pale disc edema)に,出血を伴う(75%
小乳頭が危険因子(disc at risk)と考えられている.
蒼白・浮腫
随伴症
全身状態
眼球運動痛が無い眼痛,側頭部圧痛がある.
頭痛,発熱,倦怠感,そのた
基礎疾患
(原因)
高血圧(53%
糖尿病(33%
喫煙習慣・高脂血症・抗リン脂質抗体症候群 など
巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎
血沈亢進(50mm/1h以上
CRP高値
地域(人種差)本邦欧米

*水平半盲:視神経乳頭部を含め脈絡膜は上下に分割されたような血管支配が多いためとされる.
網膜中心動脈も視神経乳頭でまず上下に分岐という感じになる.

② 糖尿病性視神経症 diabetic papillopathy

病 因視神経乳頭での細小血管障害 microangiopathy

  1.  遺伝性

    1. Leber遺伝性視神経症 (Leber レーベル 's hereditary optic neuropathy )

      ミトコンドリア異常(11778番塩基,3460番塩基,14484番塩基の変異.)として有名(その他の塩基変異:15257,4160,9438,9804,9101). 初発病変はX型網膜神経節細胞(midget細胞→P経路)らしい.酸化ストレスを軽減できずにアポトーシスをきたす.乳頭腫脹(乳頭周囲網膜神経線維層の肥厚)・発赤は発症前から認められ,拡張性微細血管症を示すが,血液関門機能は保存される.flash VEPで,早期から潜時の延長よりも振幅の顕著な低下が特徴とされる.

      片眼発症時には,発症眼に相対的瞳孔求心路障害(RAPD)を認めるが,程度は小さい.また,全病期を通じ,視力低下や視野障害の程度に比し,対光反射障害は非常に軽い.メラノプシン産生内因性光感受性網膜神経節細胞やW細胞が障害を免れていると考えられている. CFF(critical flicker frequency)の低下も軽度である. Y型網膜神経節細胞(parasol細胞→M経路)ないしは外側膝状体 大細胞層が保全されるためと考えられている. M系  P系

      慢性期には神経線維層の萎縮・菲薄化を示す.11778番変異例で視力予後が最も悪く,0.3以上に回復するのは 7 %,3460変異で 30%,14484変異で 50%とのことである.
      アンドロゲン受容体が関与する,とか,女性ホルモン(エストロゲン)が神経栄養保護因子になっているらしい,とかで,10~20代の男性に好発する.かつては家族性視神経萎縮と言った,遺伝性ミトコンドリア病の1つ.細胞質遺伝.

      Leber日本医学会用語では『レーバー』 難病医学研究財団 難病情報センター

    2. 常染色体優性視神経萎縮 (Kjer ケーア )

      特に後極部において網膜神経節細胞の変性が次的に進行し,視神経は結合組織に置き換わる.これにより乳頭の耳側蒼白が特徴とされる.乳頭面積・乳頭径も小さいのだそうだ.
      視力障害は緩徐に進行するが,重症度はマチマチである.比較中心暗点盲点中心暗点を示し,後天第(青黄)異常分類不能となる.OCTでは,乳頭黄斑間の神経線維層・神経節細胞層の菲薄化が特徴(Leber病では乳頭周囲全周で高度に萎縮する).ERGでは律動様小波の減弱や錐体応答でのPhNRが減弱,とのことである.
      発症は10歳以前と2030歳の峰性を示す.これにより小児の視力低下の原因として重要である.
      OPA1遺伝子(3q29)の変異  ミトコンドリアのタンパク構造異常・代謝エネルギーの不足をきたし,アポトーシスにかかわる.進行性外眼筋麻痺,ミオパチー,難聴などとの合併例が多い,とのことである.
      18q12.2-12.3,ほかに19番22番染色体.など

    3. 常染色体劣性視神経萎縮(Behr)

      早期小児期発症.運動失調,精神発達遅延,等を伴いBehr症候群と認識されている.まれ.
      OPA1遺伝子(3q29)の変異

    4. Wolfram症候群

      小胞体が標的になり脆弱化をきたす全身性疾患.常染色体劣性遺伝性.若年発症の糖尿病が初発症状となり,次いで視神経萎縮により視力障害をきたす.加えて内分泌代謝系、精神神経系が広範に障害される.
      WFS1遺伝子(4p16.1)の変異

    5. 常染色体劣性視神経萎縮まれ

      OPA6遺伝子(8番染色体)

    6. 性染色体劣性視神経萎縮まれ

      OPA2遺伝子(Xp11.4-11.21)

    7. 遺伝性視神経症では対光反射に関与するメラノプシン神経節細胞が比較的維持されることで,視力に比し対光反射が良好な事が多い,そうである. メラノプシン神経節細胞

  2.  圧迫,あるいは浸潤性視神経症
    鼻性視神経症(副鼻腔囊胞・慢性副鼻腔炎などによる圧迫・感染),甲状腺視神経症(総腱輪部での外眼筋の腫大による,あるいは自己免疫反応)IgG4関連視神経症,
    視神経膠腫,頭蓋咽頭腫,視神経髄膜腫,脳動脈瘤(内頸動脈眼動脈,
    腫瘍細胞の浸潤は,白血病・悪性リンパ腫,副鼻腔原発腫瘍など.病原体の浸潤は,アスペルギルスやムコール(真菌,

    ⌘ IgG4関連眼疾患 は涙腺腫大を伴う唾液腺炎により,かつてMikulicz病と云っていた病態が代表である.視神経周囲,強膜など特に眼窩内のさまざまな眼組織に腫瘤,腫大,肥厚性病変をきたし,圧迫性視神経症にも注意が必要になる.

  3.  外傷
    視神経の前半部・後半部ともにあり得るが,通常は視神経管部の傷害を指す.骨折のほか物理的変形が認められなくても視力障害を示すものがある.視神経管内視神経部で出血・浮腫が生じているためと考えられている.
    OCTでは軸索障害と細胞細障害が並行する所見を示す,とのことである.

  4.  代謝障害 metabolic optic neuropathies

    (1)両側性・対称性の視力障害を特徴とする,網膜神経節細胞病.

    (2)中心視力の低下,色覚障害,盲点中心視野欠損,視神経乳頭耳側萎縮,乳頭黄斑神経束神経線維層の特異的な消失を伴う.視神経中央部は細い線維で構成され代謝の要求量が多いため,影響を受けやすいと考えられている.
    薬剤性視神経症では,視力低下は両眼性で薬剤使用中はそのまま進行する.中止により進行が止まる,CFFは初期から低下する,対光反応は迅速なことが多い,などの特徴がある.

    (3) OCTでは黄斑部内層障害が先行し,神経線維層の菲薄化も耳側象限から拡大する.細胞体障害を示している,とのことである.

    (4) 3つのサブカテゴリーに分類される.
    代謝性視神経症の大部分はミトコンドリア障害 mitochondrial impairment に関係している.無髄部軸索ではミトコンドリアが豊富なのに比べ,有髄部では少なく障害されやすいと考えられている.病理学的には脱髄となる.

    ⌘遺伝変性 heredodegenerative
     Leber遺伝性視神経症,優性遺伝性視神経萎縮,など
    ⌘栄養障害(欠乏) nutritional deficiencies
     ビタミンB1欠乏,ビタミンB12欠乏,葉酸欠乏,たばこ・エチルアルコール中毒(各種ビタミン欠乏),エタンブトール ethambutol(亜鉛欠乏),など
     糖尿病ニューロパシー(酸化ストレス,虚血),インターフェロンα(虚血,
    ⌘中毒 toxicities(神経毒・損傷)
     シアン化物 cyanide,クロラムフェニコール,メチルアルコール,シンナー(主に,トルエン),有機リン,重金属(タリウム・鉛),キノホルムや有機水銀(軸索変性),アミオダロン,シスプラチン,タモキシフェン(中毒あるいは血管炎),など

  5.  小児の視神経炎
  6.  MRI による鑑別
     STIR法により眼窩内視神経や炎症の活動性を,FLAIR法により頭蓋内視神経を描出する.
     断面の位置決めは視神経の走行に沿うスライスのReid基準線による.

  7.  瞳孔反応 relative afferent pupillary defectRAPD

    片眼性の突然の視力低下があり,矯正視力も低下していれば交互点滅対光反射試験(swinging flashlight test)を行う.
    患側・健側の交互光入力で比較し瞳孔径に差があれば,縮瞳の弱い側に RAPD (相対的瞳孔求心路障害)陽性 と表現する.
    患側で散瞳してくる状態が,Marcus Gunn 瞳孔である.
    球後視神経炎など眼底に変化が発生しない場合でも,患(または障害の強い)眼の視神経路の信号伝達が他(健常)側に比べて低下することから,縮瞳刺激が弱くなることで,左右差が生じる.

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2023