糖尿病網膜症

糖尿病 diabetes mellitus:DM 図01

糖尿病 DM は,インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,種々の特徴的な代謝異常を伴う 症候群である.その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する.代謝異常の長期間にわたる持続は動脈硬化症を促進させ,特有の合併症をきたしやすくなる.

合併症は糖尿病神経障害・糖尿病網膜症・糖尿病腎症(大合併症.この順で頻度が増加する,とのことである)で,細()血管障害 microangiopathy という.
糖尿病が危険因子となり罹患率が高まるとされる疾患には脳血管障害・虚血性心疾患・閉塞性動脈硬化症があり,大血管障害 macroangiopathy という.

「糖尿病網膜症」とは合併症と言うより血管変化は糖尿病病変そのもの,との考え方による.網膜症は罹病期間に比例して発症し,糖尿病患者の3人に1人は有網膜症と推計される.また視力障害は緑内障,加齢黄斑変性とともに,成人における中途失明原因(視覚障害認定交付)の第位である.

§ 概  念

糖尿病網膜症 diabetic retinopathy は眼底の血管障害,すなわち高血糖による血液性状の変化と高血糖にさらされた血管壁の変性(特に動脈硬化)である.酸化ストレス亢進に伴い蛋白糖化最終産物(advanced glycation end products:AGEs)が過剰に産生・蓄積する.AGEsと結合した周皮細胞はアポトーシスに,内皮細胞からはVEGFが誘導され,或いはプロスタサイクリン産生を低下させて血栓傾向を引き起こし,マクロファージの網膜遊走をもたらし,血管壁の基底膜肥厚をともなう特徴的な細小血管症がおこる.すなわち,
毛細血管基底膜の肥厚(細小血管硬化と見做す)と周皮細胞の脱落は初期の特徴的病変として知られ,この基本病変は血管内皮細胞の増殖と共に方では透過性亢進(浮腫・出血・白斑)を,方では白血球粘着能の亢進と共に虚血変化(血管閉塞)をきたす.さらに高血糖下の Müller細胞はVEGFを産生し,網膜毛細血管の透過性を亢進させる(タイト結合の構成蛋白質をリン酸化し,バリア機能を低下させる).蛍光眼底造影検査を行なえば特に毛細血管の透過性亢進は初期から確認され,検眼鏡上の所見に先行することがわかっている.この血管壁異常部分から高率に毛細血管瘤が形成される,と考えられている.

VEGF血管内皮細胞の分裂・増殖+血管透過性亢進+白血球の関与(血管壁への付着) 炎症反応
  そういえば 大昔には糖尿病性網膜炎 retinitis diabeticaとか言ってた.なお下図で,壁細胞周皮細胞,です.

図02

硝子体中には炭酸脱水酵素が増加.pHの上昇から血管透過性亢進を起こすとのこと.方で,血管内皮増殖阻害作用や遊走阻害作用が低下する.

眼底の代謝環境が悪化すると,毛細血管閉塞毛細血管瘤形成網膜浮腫が進行し,さらにサイトカインにより血管内皮細胞・線維芽細胞の増殖が促される.毛細血管瘤は壁細胞の変性部から変形が進行する.小動脈から毛細血管に移行する部位で,かつ内顆粒層に多発する.これらは灌流圧調整の負荷が大きい部分であるとか,エネルギー代謝が活発な部分であるため,血管瘤形成 陳旧化が網膜内循環障害を加速させる,と解釈されている.基底膜が肥厚し,あるいは血栓を作り最終的には内腔が閉塞する.
増殖した内皮細胞は管腔をつくり新生血管となる.はじめは網膜内細小血管異常の状態で現われ,さらに重症化すると線維膜を土台として増殖・成長する.
新生血管は異なる血液循環系の接点,あるいは血管構築形態が変化する領域で発生・成長する.眼内の循環系とは網膜循環と脈絡膜循環であり,それらの接点は虹彩・毛様体部と視神経乳頭部である.眼底網膜の血管構築は後極部から中間周辺部にかけて最表層(神経線維層レベル)の毛細血管網構造が疎になり,それより周辺部で緩徐な血管閉塞が進行する.この領域と視神経乳頭部が眼底での新生血管の 好発部位 である.
虹彩面・隅角線維柱帯は血管内皮と親和性が高く,増殖した内皮細胞が隅角に張り付くと房水流出の抵抗のため眼圧のコントロールが出来なくなる.この病態が続発緑内障である (血管新生緑内障)

乳頭面や網膜の新生血管は,硝子体を支柱にして立ち上がる.網膜の代謝環境が悪化し線維化が進行すると増殖膜あるいは線維血管膜 fibrovascular membraneという状態になり,硝子体の加齢・変性と共に線維膜や硝子体は収縮する.収縮のひずみは新生血管や網膜に及び破綻性の硝子体出血や牽引性網膜離となる.

視力は黄斑部の状態に依存するため,しばしば網膜症の程度(重症度)とは致しない.視力喪失を来たす病態は,黄斑症増殖網膜症である.
黄斑症 maculopathy とは,黄斑浮腫,虚血変化,それらに続発する網膜色素上皮障害である.黄斑浮腫は網膜症全体の 14 ほどに合併する.網膜症自体の進行程度にかかわらずどの時期でも発症しうるもので,黄斑機能が損なわれる.
増殖 proliferation とは,ひとつは牽引性網膜の発症を意味し,網膜全体の機能が損なわれる.もうひとつは血管新生緑内障の発症を意味し視神経機能が損なわれる.ともに最終的な病態である.

写真で確認
牽引離のイメージ図
続発緑内障

網膜症の発症は,糖尿病診断後平均8年とされる.初診時点でHbA1C8.5%以上(JDS値)で網膜症発症のリスクが上昇する.新たな発症は年に3.3%ほどと考えられている.悪化率は1%ほどである.
別のデータでは,罹病5年で10%,罹病10年で30~50%,20年では70~80%で何らかの所見が認められる.

般に合併症は,神経障害>網膜症>腎障害の順で発症する.また,動脈硬化で代表される加齢変化が加速する.動脈硬化年齢は実年齢の120%歳といわれる.これにより非糖尿病と比べ,循環障害(脳梗塞・心筋梗塞)の発症は糖尿病予備群で2倍,糖尿病群で3倍とのことである.また有網膜症では4人に1人の割合で冠動脈疾患が見つかっている,とのことである.網膜症が進行すると非増殖網膜症で1.3倍,増殖網膜症で2倍の心筋梗塞・死亡数となるそうである.

§ 診 断・分 類

眼底所見はまず出血の形や分布をチェックする.出血点と区別がつきにくいのが毛細血管瘤であるが,小さい赤点の散在は毛細血管瘤としてよい.浮腫の存在を確認することは相当に難しいので白斑を頼りにする.硬性白斑は浮腫の存在を,軟性白斑は虚血の存在を示しているからである.蛍光眼底造影写真ではまず点々と毛細血管瘤が目に留まる.過蛍光(漏出)をマークすれば血管瘤の周囲と共に,低蛍光の周囲にも過蛍光を生じている.  たとえば

さらに血管特に静脈の変形は前増殖期の所見として隣接する領域の虚血変化を示唆し,部分的な過蛍光は増殖変化への移行を強く疑う.目が粗くやや拡張した毛細血管は,閉塞しかかった毛細血管床部での動静脈シャント様あるいは網膜深層での新生血管と見做される 網膜内細小血管異常 intraretinal microvascular abnormalities(IRMA)である.これらにより乳頭面や網膜での新生血管の有無をチェックする.

なお,糖尿病黄斑症は,別に扱う.

Davis分類
臨床的に運命を決めるのは新生血管(増殖変化)の有無であり,これにより段階(あるいは4期)に分ける.

図03

Scott分類
古典的であるが教科書的に重要である.おおよそ以下のようなものである.

Scott所 見病 態
0病的所見を認めず
Ⅰa毛細血管瘤単純網膜症
Ⅰb静脈の変形・軟性白斑・高度の浮腫増殖前網膜症
出血・硬性白斑単純網膜症
Ⅲab出血・白斑の増加単純網膜症
硝子体出血増殖網膜症
Ⅴa線維血管膜
Ⅴb線維血管膜(強い静脈変化
網膜

Scott分類では,Ⅳ.硝子体出血  Ⅴ.増殖網膜症 と進行するような病期分類であるが,実際は増殖つまり血管新生が先にあって硝子体出血をきたすものである.Scottのオリジナル(1951,53,57)では蛍光眼底造影検査法はこの世に存在していなかった.新生血管発生の病態が確認されたのはその後のことであるので止むを得ない.
Ⅰ(b)  Ⅴ(b)が重症・活動性の増殖過程(いわゆるB),Ⅴ(a)は軽症の新生血管』という認識となる.5157年版でⅡ(a)(b)(c)などとあるにはあるが,煩雑だろう.そうすると,新生血管の発生タイミングは・・強いて言えば Ⅲ(c) となるか

ちなみに,Scott分類は生きた化石である(大事にしよう)

福田分類
Scott分類を発展させて考案された.

良性網膜症(A群)所 見
単純網膜症A1:軽症単純網膜症毛細血管瘤・点状出血(わずかな硬性白斑があってよい
A2:重症単純網膜症しみ状出血・硬性白斑(わずかな軟性白斑があってよい
増殖停止網膜症A3:軽症増殖停止網膜症軽症・陳旧性新生血管
A4:重症増殖停止網膜症陳旧性硝子体出血(半年以上進行なし
A5:重症増殖停止網膜症陳旧性増殖組織(半年以上進行なし
悪性網膜症(B群)
軽症悪性網膜症B1:増殖前網膜症明らかな活動性病変
( 網膜内細小血管異常・軟性白斑・火炎状出血・網膜浮腫・静脈拡張・蛍光眼底造影での無血管領域 など
B2:早期増殖網膜症乳頭部以外の新生血管( 検眼鏡的に増殖組織なし)
重症悪性網膜症B3:中期増殖網膜症 乳頭部の新生血管( 検眼鏡的に増殖組織なし)
または 後極部のびまん性浮腫
B4:末期増殖網膜症 新鮮な網膜出血,硝子体出血
B5:末期増殖網膜症進行性の(硝子体中の線維血管性)増殖組織,出血
合併症(治療後
():黄斑病変():虚血性視神経症
():血管新生緑内障()(牽引性)網膜
():光凝固後():硝子体手術後

図04

糖尿病網膜症新国際分類
(International Clinical Diabetic Retinopathy Disease Severity Scale.AAO,2002)
 網膜症と黄斑症を重症度分類とした.

網膜症重症度レベル所 見
 網膜症なし異常所見なし
 軽症非増殖網膜症毛細血管瘤のみ
 中等症非増殖網膜症毛細血管瘤以上の所見がみられるが,次の所見よりも軽症1)
 重症非増殖網膜症 以下の所見のどれかを認め,かつ増殖所見のないもの2)
 1.20個以上の網膜内出血を眼底四象限でみとめる
 2.はっきりとした数珠状静脈を眼底象限で認める
 3.明確な網膜内細小血管異常(IRMA)をみとめる
 増殖網膜症 以下の所見のいずれかを認めるもの
 1.新生血管
 2.硝子体/網膜前出血

リスク
1) 1 年後の早期増殖網膜症への進展:5.4 〜 26%
    1 年後のハイリスク増殖網膜症への進展:1.2 〜 8.1%
2) 1 年後の早期増殖網膜症への進展:50.2%
    1 年後のハイリスク増殖網膜症への進展:14.6 〜 45.01%

問題点
軟性白斑≒虚血,という点を無視している.蛍光眼底造影所見に頼らないことで,虚血変化の概念をカットしたのか 数珠状静脈を見つければ虚血アリ,と見做すのか 単純化しようとしたのか

黄斑症重症度レベル所 見
 糖尿病黄斑浮腫なし後極部に網膜浮腫による肥厚,硬性白斑がない
 糖尿病黄斑浮腫あり
  軽症黄斑浮腫
  中等症黄斑浮腫
  重症黄斑浮腫

問題点
詳細は略すが,光凝固治療の基準にしては中心窩からの距離が示されていないという指摘がある.もっと現実には,黄斑浮腫は極めて厄介な病態で,最近では光凝固だけでなくいくつかの手段を組み合わせる治療を検討する.
およそEBMとかエビデンスなるものは治療の拠りどころ(レシピ)ではあり,全国的あるいは世界的な医療水準の維持に貢献しているに違いない.研究の立場ではデータの比較に共通の条件は不可欠である.他方ではEBMに従わないと訴訟時に不利だったりする.
が,ひとりひとりの病態の個性には対応し切れない.このさじ加減というのはどの分野にも当てはまるようである.

§ 検  査

図05

蛍光眼底造影では,血管病変すなわち毛細血管瘤・毛細血管閉塞・網膜内細小血管異常・新生血管の確認,透過性亢進・胞形成の確認ができる.
出血斑は赤血球であり,造影写真では暗くなることに注意.
網膜電図(ERG)では,律動様小波が消失する.内顆粒層(特にamacrine細胞)起源の律動様小波は,網膜循環障害の影響を受けやすい.虚血が強くなると,b波(Müller細胞・双極細胞起源)振幅が小さくなる(negative-b).これらは網膜内層の障害を示している.
なおS錐体ERGの研究では病早期からの感度低下が起こり,網膜外層に於ても異常が生じている,とのことである.

 網膜内細小血管異常あるいは網膜内微小血管異常(IRMA)は,主に蛍光造影所見を基とする.

網膜症の自然経過例

図07 →→
ca10y
図08
§ 治  療

視力(自覚症)は網膜症の程度・進行(重篤度)とは,しばしば致しない.視力を左右するのは,たいてい黄斑障害の程度と透光体の混濁ということになる.黄斑障害といえば主原因は浮腫あるいは牽引剥離であり,透光体混濁は硝子体出血あるいは白内障といったところである.
本症は悲惨な予後がはっきりしている.増殖網膜症が単純網膜症になる(戻る)ことは,あり得ない.これにより治療のスタンスは視機能の保存という事になる(主な責任部位が透光体である場合は例外的に視力の回復が期待できる).治療は内科的な血糖コントロールが第

  1. )血糖コントロール

    網膜症のリスクが著明に増加するのは,HbA1C 6.5%以上(JDS値)’空腹時血糖値 140mg/dℓ 以上75g経口糖負荷試験で 2時間値 230240mg/dℓ 以上である.網膜症悪化を抑制する血糖コントロール閾値は,HbA1C 6.5%以下(JDS値)空腹時血糖 110mg/dℓ 以下食後2時間血糖180mg/dℓ 以下である.

    現在,網膜症の程度と統計学的に相関する全身状態は「HbA1C」である.初診時HbA1C 8.5%以上(JDS値)は,網膜症発症の危険因子である.HbA1C 7%前後(JDS値)でコントロールされた場合の網膜症発症リスクは,9%のコントロールで3年以上経過した時の14である.同様に網膜症進展リスクは12である.HbA1C値を 1 ポイント低下させることで,網膜症の発症・進展を21%抑制できる.10%低下させると25%抑制できる.

    図06

    HbA1C 6.5%未満(JDS値)であれば部の可逆性変化も含め網膜症の発症・進展は有意に押さえられる,ということから,HbA1C 7%未満(JDS値)を目標とすることが現実的とのエビデンスがある.それでも網膜症発症は完全には予防できない.このへんの要素に血圧や脂質代謝があるらしい.これらにより,
    高血圧(収縮期圧10mmHg の低下で網膜症悪化リスクが13%減少),高脂血症(特にLDLコレステロール対策.高HDLコレステロール値が進行抑制に関係するという),喫煙,肥満に対する管理などを要する.

    方,血糖コントロールの際に急激に(6か月でHbA1C値 3%以上)下降させると網膜症の進行が認められる.特に未治療例では内科治療を始めたとたんに網膜症が悪化・視力が低下するといったことが少なくない.罹病期間10年以上,当初のHbA1C 9%以上(JDS値),血管透過性亢進の強い網膜症(福田 AⅡ・b)を有する場合にリスクが高い.この初期悪化(early worsening )は開始6から12か月で顕著であることがわかっている.よってコントロール当初の血糖下降速度が極めて重要である.
    糖尿病合併妊娠では網膜症が急激に悪化する.網膜光凝固治療が間に合わなかったりする.

    HbA1c以上の数値は2012年以前の記述をそのまま引用した(JDS値).その後検査法の変更のため基準値が変わっている.このあたりは読み替えに注意が必要である.  【基準値の読み替えについては こちら

  2. )光凝固治療

    レーザー光凝固は,照射部の網膜・脈絡膜を瘢痕・萎縮させることで,栄養・酸素要求量が制限され増殖因子の放出抑制をはかる.すなわち相対的に代謝環境を是正することで,正常部(特に黄斑機能)の保護と新生血管の発生防止を目的とする.
    汎網膜光凝固によって,増殖網膜症による重度視力障害は6年の経過観察で60%,黄斑症による中等度視力障害は3年の経過観察で66%,それぞれ抑制できる.  治療のスタンス

  3. )硝子体手術

    硝子体出血・網膜離などをきたした増殖網膜症に対し,出血混濁の除去・増殖膜の除去・牽引を解除・離した網膜を復位させる,などの観血的手段が必要となる.血管新生緑内障の発症も高率に抑制できる.硝子体細胞はマクロファージ由来と考えられ,サイトカインの存在によって血管内皮細胞の増殖に加担する.すなわち無硝子体であることは新生血管を発生しにくくする条件となる.

  4. )薬物治療

    透過性亢進と新生血管発生に関わる主役はVEGFである.VEGFを制御できれば,ずいぶん予後が変わる訳である.決め手はこれから.
    AGE形成阻害薬で血液網膜関門が保護されるとのことである.

  5. )最終的には, 視覚障害への対応 が求められる.

§ 網膜症の悪化因子

罹病期間,高血糖(HbA1C高値),腎症の存在,高血圧,貧血,脂質代謝異常(高脂血症),妊娠,喫煙,
網膜は長期の血糖コントロールを記憶している,といわれる.罹病期間×高血糖を意味している.

 Ⅰ型糖尿病では,罹病期間5年未満で17%,1519年で81%に網膜症が認められた.
    Ⅱ型糖尿病では,罹病期間5年未満で14%,1519年で57%に網膜症が認められた.― 平成3年度糖尿病調査研究報告より

 9年の経過観察期間中,HbA1Cが平均 6%未満(JDS値)であれば網膜症発症は零であった. 8%以上では40%の有症率であった.初診時のHbA1Cが9%以上(JDS値)であるとき,その後の3年間のコントロールが平均7%であると5%,8%であると10%,9%では20%の網膜症発症であった.― 平成6年度糖尿病調査研究報告より

 空腹時血糖値で 126mg/dℓ 以上から,経口ブドウ糖負荷試験2時間値で 198mg/dℓ 以上から網膜症の頻度が増加した.

 30歳以下では,罹病期間’‘HbA1C高値’‘蛋白尿’‘拡張期高血圧,と重症度が関連した.

 30歳以上では,罹病期間(あるいは若年発症)’‘HbA1C高値’‘蛋白尿’‘収縮期高血圧’‘BMI低値,と重症度が関連した.

 高血圧は血管内皮の伸展損傷をもたらし,VEGFの活性化を促すと考えられる.

§ 脈絡膜症

La choroïdopathie diabétique (Saracco Jb et alJ Fr Ophtalmol 5,1982)によると,
網膜血管と同じような変化(filling delay ~ ischemic zone,microaneurysms,vascular anomalies,etc)がある,とのことである.

§ その他の糖尿病眼合併症

白内障➜ソルビトール(代謝産物)蓄積に伴う含水量の増加,
角膜障害(神経症➜知覚低下,上皮基底膜異常・細胞接着障害による上皮症➜点状表層角膜症・再発性びらん・遷延性など.上皮異常の影響・細胞接着障害による内皮症➜内皮細胞の変形・密度の低下
縮瞳傾向,散瞳不良(糖尿病瞳孔)➜散大筋障害,交感神経障害,
虹彩毛様体炎➜細血管症虹彩色素上皮の障害,
眼筋麻痺(第3,4,6神経)➜血管閉塞,
視神経症➜血管閉塞(乳頭深部では虚血性視神経症として乳頭表層では糖尿病乳頭症として, など.

参照 エッセンシャル眼科学 第8版 312ページ:糖尿病網膜症

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§ 内科的には

種類
1.Ⅰ型糖尿病:膵β細胞の破壊
2.Ⅱ型糖尿病:インスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)
3.その他の特定の機序:他の疾患や病態に伴うものと遺伝子異常が同定されたものに大別
4.妊娠糖尿病

有病率
診断
*境界型空腹時血糖値100 ~ 109mgdℓ を正常高値とし,要注意と見做す.空腹時血糖値100mgdℓ を超えると本物への移行率が高い,とのこと.
*診断基準
    ①早朝空腹時血糖値 126mgdℓ 以上,
    ②75g経口糖負荷試験で 2時間値 200mgdℓ 以上,
    ③随時血糖値 200mgdℓ 以上,
    ④HbA1c値が 6.1%(JDS値;日本での測定法.欧米ではNGSP相当値=JDS+0.4)以上,
 ・初回検査で①②③④のいずれかを認めた場合「糖尿病型」と診断し,後日の再検査で①②③のいずれかで「糖尿病型」が確認されれば確定.または①②③のいずれかと④で「糖尿病型」が確認されれば確定.
 ・①②③のいずれかで「糖尿病型」を示し,かつ,ⓐ糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在かⓑ確実な糖尿病網膜症の存在のいずれかで確定.
 ・ そのた
*内科管理

日本糖尿病学会「血糖コントロールの指標と評価」(2007)
指標不可
不十分不良
 HbA1c値()5.8 未満5.8 ~ 6.5 未満 6.5 ~ 7.0 未満 7.0 ~ 8.0 未満8.0 以上
 空腹時血糖値(mg/dℓ)80 ~ 110未満110 ~ 130未満130 ~ 160未満160以上
 食後2時間血糖値(mg/dℓ)80 ~ 140未満140 ~ 180未満180 ~ 220未満220以上
日本糖尿病学会「血糖コントロールの目標」(2013)
コントロール目標値(※4
目標(NGSP値)血糖正常化を目指す際の目標(※1合併症予防のための目標(※2治療強化が困難な際の目標(※3
HbA1c値()6.0未満7.0未満8.0未満

※1 適切な食餌療法や運動療法だけで達成可能な場合,または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする.
※2 合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする.対応する血糖値としては,空腹時血糖値 130mg/dℓ未満,食後2時間血糖値 180mg/dℓ未満をおおよその目安とする.
※3 低血糖などの副作用,その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする.
※4 いずれも成人に対しての目標値であり,また妊娠例は除くものとする.

 HbA1C糖化ヘモグロビンと国際標準化.
グルコースと結合したヘモグロビン.血糖マーカーとして過去2か月前後の平均的な血糖の状態が把握できる.統計学的に網膜症に関与する因子として意味を持つ.HbA1Cの基準範囲は4.35.8%(JDS値).例えば,10%超だと入院管理をすすめられたりする.
日本での測定法(JDS値)のほうが新しく高精度とのことであるが悲しいかな試薬がマイナーらしく,標準化が遅れたにもかかわらず世界的には(論文として発表されている検査法として)NGSP値が多数を占めていることでアメリカに押し切られ,国際化のために多勢に傾くことになり2011年中に欧米での表記に右倣えするそうである.NGSP相当値=JDS()+0.4 ということで,切り替えの日付に注意!)
*JDS:japan diabetes society/http://www.jds.or.jp/
*NGSP:national glycohemoglobin standardization program
臨床の場での切り替えは2012年4月1日 とのことである.NGSP相当値というからには元データはJDS値になるのかな.
▤ HbA1c国際標準化
そんなわけで平成24年度から本格的にNGSP値が導入されることになった.要するに但し書きを付ける必要がある,ということだ.但し書きには種類ある.「JDS値」「国際標準値」「NGSP値」である.現在まで(おそらく将来的にも)日本での測定用試薬(認証標準物質)による数値が「JSD値」ということで,国際標準値()=JDS値()+0.4()になる.2011年時には「NGSP相当値」と言ってたもので概算値らしい.その後,検証が済んだとのことで換算式が確定した.すなわち,NGSP値()=1.02×JDS値()+0.25 または JDS値()=0.980×NGSP値()-0.245,ということでJDS値()の 5.09.9 のレンジでは NGSP値()=JDS値()+0.4 が成り立つことにより国際標準値をNGSP値とすることに矛盾しない,との見解である.
正確には,こちらのファイルで確認されたし.
2014年4月以降 NGSP値へ完全移行されるとのことである.

 GAグリコアルブミン(糖化アルブミン.
過去2週間前後の平均的な血糖の状態が把握できる.基準値は12.316.3%で,高血糖状態では高値になる.
HbA1c値は指標として認知されているが,HbA1c値は透析患者にとって見かけ上低くなることで,GA値を推奨する研究者も多い.この場合,3で割ってHbA1cの換算値とする.

 1,5 AG1,5 アンヒドロ-D-グルシトール.
数日ぶんの日内変動による瞬間的な高血糖は,1,5 AG 値に反映される.食後血糖値の変動も把握できるとのことである.
基準値は14μgmℓ 以上(男性1545/女性1229)で,高血糖状態では低値になる.

1型と2型
*1型:インスリン依存型糖尿病
膵β細胞の破壊によりインスリンが出ない.全体の1割ほどで,主に若年者となる.自己免疫疾患とされているが,炎症が証明されない特発性も多い.
*2型:インスリン非依存型糖尿病
でぶ体型のインスリン抵抗性(インスリン感受性の低下)とやせ体型のインスリン分泌不全がある.これに遺伝因子と環境因子(生活習慣 肥満・喫煙・運動不足)が関わる.全体の9割ほどで,主に中高年となるが近年,10代発症の2型DMが重要視されている,とか.ヤングはやはり,疾患への認識がなく網膜症を重症化させてしまうとのことである.

図09

*インスリン分泌には基礎分泌と追加分泌があり,病初期には追加分泌の立ち上がりが鈍いために食後高血糖を示し,進行すると基礎分泌の低下のため空腹時高血糖を示すようになる.
インスリン分泌能の進行性の低下は膵β細胞の機能低下であり,ここに小胞体ストレスによるβ細胞死(アポトーシス)が想定されている.

その他のコントロール指標
標準体重の維持BMI22kgm2
血圧130/80mmHg未満
総コレステロール200mgdℓ未満
中性脂肪(早朝空腹時150mgdℓ未満
LDL-コレステロール120mgdℓ未満
HDL-コレステロール40mgdℓ以上

§ 妊娠と糖尿病

妊娠糖尿病  gestational diabetes mellitus 
 妊娠中にはじめて発見または発症した糖代謝異常で,明らかな糖尿病は含めない.妊娠女性の高齢化により増加(35歳以上の妊婦では25歳未満より8倍).あらかじめ有糖尿病の上で妊娠した状態は「糖尿病合併妊娠」として,またはそれまで見逃されていたと考えられる耐糖能異常は「妊娠時に診断された明らかな糖尿病」というように別に扱う.

問題点
 巨大児(胎児の過体重)

§ 遺伝

2015

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