糖尿病網膜症の光凝固適応及び実施基準  

  1. 単純網膜症では,黄斑浮腫の予防ないし治療,および,増殖化の予防が主要な目的である.
    具体的には,螢光眼底造影で網膜血管に透過性亢進があり,特に黄斑またはその近接部位に透過性亢進があり,視力に影響しているときには積極的に光凝固が勧められる.
    眼底中間部に無血管領域があるときには,増殖前の状態である可能性が大きいので,この部位への光凝固を加える必要がある.
  2. 増殖網膜症では,新生血管の退縮および新しい新生血管の発生予防が光凝固の主目的になる.新生血管そのものを直接凝固することは必要ではなく,蛍光眼底造影で発見される無血管領域を主対象とし,無血管領域が3象限以上に存在する場合などでは,汎網膜光凝固を実施する.
    虹彩ルベオーシスのある場合にも,増殖網膜症に準じた扱いをする.
  3. すでに硝子体網膜間に癒着があり,牽引性網膜剥離や硝子体出血が発症しているときには,光凝固のみではこれを治療しがたい.光凝固のみで糖尿病網膜症すべてを有効に治療できると過信してはならず,このような場合には,硝子体手術を前提として光凝固を実施する.

以上の原則に基づいた光凝固の実施基準を具体的にまとめた.

病型検眼鏡所見蛍光造影所見光凝固対象部位備考
単純
網膜症
・びまん性網膜浮腫広範な血管拡張と透過性亢進後極部を除く病巣部位増殖前網膜症に移行しやすい
増殖前
網膜症
・急性型
 軟性白斑の多発と血管異常
(網膜内細小血管異常または
 静脈数珠状拡張
血管拡張と透過性亢進が目立つ病巣部位は網膜全体あるいは後極部黄斑を除く病巣部位軟性白斑のみが主要な所見の場合は光凝固非適応
・慢性型
 白線化血管
 網膜内細小血管異常
広範な血管閉塞血管閉塞域硝子体剥離があれば増殖化しにくい
増殖
網膜症
・新生血管広範な血管閉塞
新生血管からの蛍光漏出
血管閉塞域
(汎網膜光凝固)
硝子体出血は何時でも起こりうる
・線維増殖合併
同上同上(増殖膜は除く)
・硝子体牽引合併
同上同上(網膜剥離部は除く)硝子体手術を前提
黄斑症・単純浮腫(びまん性)黄斑周囲のびまん性透過性亢進格子状光凝固黄斑症以外の周辺部にも注意を払う
黄斑牽引病変は手術適応
・単純浮腫(限局性)毛細血管瘤病巣部位
・嚢胞様黄斑浮腫嚢胞造影びまん性の蛍光漏出は格子状光凝固
限局性の蛍光漏出は病巣凝固
・輪状網膜症硬性白斑内の異常血管異常血管黄斑から離れていれば不要
・脂質沈着透過性亢進病巣及び格子状凝固
・虚血性黄斑症黄斑部血管閉塞非適応
隅角及び虹彩新生血管広範な血管閉塞
循環遅延
汎網膜光凝固隅角閉塞の程度により他の治療を併用

糖尿病網膜症で光凝固を実施するにあたっては,事前に硝子体観察と蛍光眼底造影を行うことが望ましい.
起こりうる合併症に関して患者に十分な説明を行う.また,どのような状態に対し,どのような光凝固を行ったかを,その後の経過を含めて内科主治医に連絡するのが望ましい.

  平成6年度糖尿病調査研究報告:清水弘  

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