硝子体の病態

 Ⅰ

硝子体 病態 Ⅱ 

§ 硝子体

図 01

  1. 解 剖 【  復習

    硝子体 vitreous body は眼球内部を満たし,網膜を支える.鋸状縁から毛様体扁平部にかけて内境界膜との接着が強い部分がある.硝子体基底である.基底部より後半が後部硝子体となる.網膜内境界膜に接するのが 後部硝子体膜 である.基底部より前半分では前部硝子体として毛様体皺襞部−後房−水晶体に面している.
    基底部のほか生理的にやや強く接着する部位がある.すなわち,
    ①視神経乳頭周囲,②黄斑周囲,③網膜血管周囲,④赤道部付近,である.内境界膜が菲薄であることで内境界膜上にグリア細胞が増殖し易い場,と考えられている.

図 02 図 03

  中心窩部の硝子体癒着は ここ

OCT画像は乳頭縁での硝子体癒着を示している.
主要な有形成分はコラーゲンとヒアルロン酸である.液化部にはコラーゲンがない.

  1. 発 生

    眼杯の内部は中胚葉由来の第次硝子体であるが,その後外胚葉由来の(網膜が関与する)次硝子体におき替わる.Zinn小帯と硝子体基底部が第次硝子体としての位置づけである.
    硝子体動脈は Cloquet管として痕跡になっている.硝子体動脈系遺残 persistent fetal vasculature(PFV) には,瞳孔膜線維,Mittendorf斑,硝子体胞,Bergmeister乳頭,第次硝子体過形成遺残,等がある.

  2. 加 齢

    図 04
    図 05

    加齢変化とは,水の放出(液化 liquefactionsynchysis)と有形硝子体の収縮 syneresisである.液化硝子体が硝子体皮質外に流出すると硝子体は虚脱し,その結果 後部硝子体剝離(PVDposterior vitreous detachment)をきたす.
    液化は基本的な加齢変性である.硝子体は光(特にUVA400~320nm)を通すことで活性酸素を生じ,液化を加速させる.これに因り,液化腔(lacuna)形成の好発部位は黄斑部らしい.後部硝子体皮質前ポケットである.液化は10代後半には20%ほどであるが,40歳以降で著明に進行する.網膜病変の存在も液化を加速させる.液化腔の部が破れると部分的に後部硝子体離が発生することになる.

    後部硝子体剝離は30歳頃から観察され,傍中心窩・黄斑周囲から徐々に拡大すると考えられている.次いで中心窩部が,乳頭部が最後に離れる,とのことである.視神経乳頭縁に接着していた硝子体断端がそっくりはずれると輪状の灰白組織として観察される.乳頭前グリア環,すなわち Weiss ring である.80歳で5人中4(80)に見られ,強度近視眼では10歳ほど早まる,また女性で早まるとのことである.

    ◆ 硝子体膜に硝子体液が移動するような穴(欠損部)ができる状態を,浸食(erosion)されると表現する.

    ◆ 組織上では,内境界膜側に硝子体コラーゲン線維の破片を残して分離する.

  3. 癒 着

    赤道部〜周辺に生じる網膜硝子体変性で,典型では網膜格子状変性で健常部との境に沿って(病的な)癒着がある.増殖病変では後部硝子体膜を足場として新生血管が発育する.新生血管周囲に線維芽細胞やグリア細胞が増生すると線維血管増殖膜となり,強固な癒着となる.後部硝子体剝離の時や増殖膜の収縮をきたした時,網膜を牽引することになる.

    ◆ 増殖とは組織の創傷治癒である.結合組織の修復には線維芽細胞が関与し,神経組織の修復にはグリア細胞が関与する.ピュアに云えば前者はファイブローシスfibrosis,後者はグリオーシスgliosisとなる.

§ 病態と関連症状

構造の変化(収縮・濃縮),網膜境界面の変化,網膜からの増殖組織(線維血管膜),透過性亢進などが原因で,透明度が変わる.これらにより自覚症状を発する.ここに胎生期遺残物が加わる.多くは網膜疾患ぶどう膜疾患として扱う. 【  飛蚊症・光視症 】

飛蚊症硝子体混濁が網膜に作った影.
光視症網膜への機械的刺激(末梢性の場合)
いずれも急激な発症は後部硝子体剝離に伴う現象である(ことが多い).硝子体が関与しない光視症や閃輝暗点に類する症状は別に扱う.なお臨床の場では,飛蚊症+末梢性光視症は網膜裂孔形成を疑う.さらに硝子体出血があれば,裂孔形成の頻度が高くなる.
霧視
そのた

§ 硝子体出血 vitreous hemorrhage

通常は,網膜固有血管あるいは新生血管の(硝子体牽引による)損傷が原因となる破綻性出血に因り,硝子体中に拡散したもの.出血部位は網膜前(後部硝子体膜下)ないし硝子体ゲル内(特に液化腔内),時に水晶体直後の硝子体窩内となる.
網膜および網膜血管の破綻は,後部硝子体離が誘因.従って高率に網膜裂孔形成を示唆するはずであるが,マレに裂孔をまぬがれたり,視神経乳頭周囲表層血管の損傷によるものがある.
外傷(眼打撲)はこれらが極端に発生したもの,と考えることができる.

図 06 図 補 図 補

新生血管の存在は,般に増殖網膜症を示す.これは後極部の所見で診断がつく.毛様体扁平部新生血管も重要である.
原疾患そのものによる網膜出血(たとえば,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症)や脈絡膜出血(たとえば,加齢黄斑変性)が陳旧化して硝子体中へ拡散するような場合は,硝子体混濁のカテゴリーとなる.

    図 07
  1. 片眼性(両眼の罹患はあるが連動せず,左右別個の経過の意

  2. 両眼性

§ 硝子体混濁 vitreous opacity (hazy media)

  1.  硝子体混濁opacitas corporis vitrei(OCV) / Trübung

    硝子体中に浮遊・拡散する物体を総称したもので,硝子体線維の変化や硝子体出血・炎症細胞(炎症とは要するにぶどう膜炎)などが原因となる.
    だいたいは,飛蚊症 の原因を指している.胎生期遺残物を含めた硝子体組織の部,あるいは後部硝子体離に伴う混濁となれば病的には扱わず,「生理的飛蚊症」なる言い方がある.治療不要,もしくは治療の対象にしない,ということである.
    色素,出血の拡散やぶどう膜炎では原因の検索・治療が急務となる.

    1. )先天性混濁

      1. 硝子体動脈(次硝子体)遺残:前方遺残,後方遺残

      2. 次硝子体過形成遺残

      3. 硝子体内浮遊物(囊腫,など

    2. )内因性(変性)混濁

      1. 硝子体融解
        硝子体収縮を含む線維変化と液化.主として加齢や近視による変性.

      2. 硝子体閃輝症 scintillatio corporis vitrei
        多くは無自覚・無症状である.

        1. 星状硝子体症 asteroid hyalosis(Benson)
          膠原線維に付着した脂肪酸石灰(鹸化カルシウム)を主とする結晶(カルシウムリン酸塩).眼底検査時に雪玉様の小球物質としてみえる(球状とは単に out of focus のため)
          可動性は少ないと言われる(硝子体ゲル内に存在し沈殿はしないが,少しは動く・・・ 中央写真).だいたいが片眼性のようである.
          加齢変化の環としてめずらしいものではなく全身疾患との関連も否定的とされるが,1/4 は有糖尿病とのことである.

        図 08 図 09 図 10
        1. 硝子体閃輝性融解 synchysis scintillans
          コレステロールを主成分とする結晶(コレステリン).眼底検査時に金色点状に反射する.膠原線維に付着していないため沈殿する(可動性がある,と表現).前房に出てきたりもする.
          比較的まれ.コレステロールは赤血球由来とのことである.眼外傷や硝子体出血後の変性融解による,ということで視力への影響は原疾患に依存.

      3. 後部硝子体剝離
        Weiss ring が確認できれば確実である.
        後部硝子体剝離は飛蚊症の原因として,網膜剝離の誘因()として,それぞれ記述がある.

    3. )外因性(続発)混濁 図 11

      1. アミロイド変性 amyloidosis
        原発アミロイド症の部分症状の.網膜血管周囲に沈着したアミロイド線維が硝子体中へ広がり,膠原線維周囲へ沈着したもの,とのことである.硝子体混濁は『グラスウール様』と形容される.視力障害を示す.

      2. 透過性亢進による混濁
        ぶどう膜炎などでは,血液-眼関門の破綻により血漿たんぱくが漏出しびまん性に混濁する.房水の flare(フレア,光梁)に相当する.

      3. 細胞成分
        炎症細胞(好中球,リンパ球,貪食細胞 ・・・
        血液(≒硝子体出血.上記 経過は長期間残存したり黄色化しながら吸収されるなど,さまざま.
        色素上皮細胞の遊走(網膜裂孔,網膜色素変性 ・・・
        腫瘍細胞(悪性リンパ腫 ・・・

    4. )液化

      変性に因る.加齢のほか,近視眼,未熟児網膜症,家族性滲出性硝子体網膜症,Wagner病,Stickler症候群,等でみられる.

    5. )硝子体内増殖

      増加・新生するのは線維成分・血管成分・細胞成分である.その構成は線維芽細胞,星状膠細胞その他のグリア,血管内皮細胞,マクロファージ,網膜色素上皮細胞,平滑筋様細胞,等である.

  2.  眼炎ophthalmitis / ophthalmia

    通常,眼内炎 endophthalmitis といえば感染性眼内炎 infectious endophthalmitis のことで,細菌・真菌・寄生虫・原虫などが原因となる化膿性(ときに増殖性)炎症を指す.いわゆる ぶどう膜炎 uveitisのカテゴリーでの混濁の主役は,病原体のほか炎症性の細胞成分と漏出成分ということになる.
    硝子体は,菌にとって格好の培地を提供する.うっかりすると眼内の組織破壊が進行し全眼球炎 panophthalmitisという形で失明に至る.

     外因性(外感染)では眼外傷や内眼手術の合併症として,
     内因性(内感染あるいは転移性)では外科手術後の IVH感染や時に体内の何処かにある膿瘍(無症候性だったりする)による菌血・敗血症から発症する.

    IVHintravenous hyperalimentation.中心静脈栄養法あるいは経静脈高カロリー輸液.
     真菌(特にcandida)が取り付く.

    硝子体炎vitritis
     ぶどう膜炎あるいは感染性眼内炎での病態.感染性では眼内炎というほうが緊急性が感じられる.硝子体混濁が前面にあるぶどう膜炎では硝子体炎とすると静かな響きになる.

    ぶどう膜炎という場合は非感染性のものを指すことが多い(内眼炎という)

    (穿孔性)眼外傷後に発症する交感性眼炎 sympathetic ophthalmia は非感染性・非化膿性である,念の為.

    眼炎外眼で使うと,特に重症の結膜炎を指すことになる.

  3.  全身疾患との関連

    糖尿病代謝障害により後部硝子体剝離を誘発しやすい (増殖変化があると硝子体剝離が容易に進行する
    II型コラーゲン異常Marfan症候群EhlersDanlos症候群などで硝子体変性が進行(剝離の危険因子

§ 治 療

高度で吸収されない硝子体出血・混濁や眼内炎には 硝子体手術 を適応する.
その他,原疾患があればその治療に従う.
視力障害のない生理的飛蚊症については,積極的な治療の適応はない.

§ そのた
  1. 網膜病変  硝子体  網膜病変 としてのスタンスで 硝子体 そのⅡ 

  2. 硝子体異物
    穿孔性外傷によって起こる.
    金属片では,鉄では眼球鉄症 siderosis を,銅では銅症 chalcosis を生じる.
    ガラス片や石片では強い反応はきたさない.
    細菌感染では硝子体膿瘍を生じる.

  3. 硝子体膿瘍
    眼内炎と同義に使う.

  4. 硝子体内浮遊物あるいは囊腫(囊胞)
    そこそこにマレ.硝子体血管(次硝子体)遺残  硝子体囊胞   ☞☞  水晶体直後網膜直前

  5. 寄生虫肉芽腫症
    犬蛔虫 toxocara canis が代表   ☞☞  通常は ぶどう膜炎(眼内感染) として対応

  6. 化骨
    眼球癆の経過中に発生.疼痛の原因.

と,いうことで,おわり. 

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2023

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