波長 380 nm ⇔ 780 nm の電磁波を視細胞の感光色素が吸収し,その反応が脳へ伝達され光感覚 light sense を生じる.錐体視細胞の光覚と杆体視細胞の光覚がある訳で杆体の専売(死語ですかね)ということはないが,光感覚を起こす最小の明るさ(光覚閾)で表わすことで杆体機能を指すことになる.
網膜の感受性は,①光の波長,②網膜の部位,③網膜への照射面積,④刺激の持続時間,⑤順応状態,などに左右される.
視環境の明るさ変化への対応が「順応」である.すなわち,ある明るさの環境から,それよりも暗い環境に順応することが「明順応」,より明るい環境に順応することが「明順応」となる.
■順応
明順応:明所での網膜感度の適応.杆体は飽和してしまうが,錐体の感度を下げて適応する.
明順応とは,視物質の減少/水平細胞の加算回路の解除
→ 感度の減少となる.
暗順応:暗所での網膜感度の適応.錐体は感度が上がらないが,杆体が感度を上げ適応する.
暗順応とは,視物質の再生/水平細胞の加算回路による増幅
→ 感度の増強となる.
暗順応時の時間経過による光覚閾値の低下を示した曲線が,暗順応曲線(dark adaptation curve)である.網膜の部位によって暗順応曲線は異なる.中心窩では,明から暗に移って 2~3分以内に閾値が低下したのち,5~10分で一定値に達する(右図 a‐b
通常の暗順応曲線は両者の合成で,実線の曲線が記録される.a→dの切り替え点が Kohlrausch 屈曲(K点;kink ⁄ Knick)である.二相に分かれた曲線のうち,第一相は錐体が関与した過程とみられ主として錐体視物質の再生を示し,第二相は杆体が関与した過程すなわち杆体視物質の再生を示すとされる.
2か所の屈曲点が観察される.α-point(Kohlrausch屈曲点) と β-point である.
加齢により閾値は上昇する(A → D).
【引用:眼科Mook No.3,1978】
✓▣ | K点以降の錐体系感度は一定値とされていたが,中心窩以外の部位では低下していくとのことである.色覚閾も同様に上昇する.杆体系の存在しない中心窩に於ては上記の通り.杆体系の順応に対応することから,杆体系が錐体系を抑制しているとされる.この抑制は水平細胞を介する現象と考えられている. |
✓▣ | 波長感度曲線の研究で中心窩と鼻側20° (周辺)の部位において,それぞれ555nm付近(錐体系)と500nm付近(杆体系,すなわちPurkinje現象)をピークとして,明順応時の光感度は 中心>周辺,K点出現直前で 中心≒周辺,暗順応時では 周辺のみの記録となった.周辺部では明順応状態でも杆体系が作動していること,暗順応で杆体系感度が錐体系感度を上回るタイミングはK点以前におこり,K点は杆体系感度変化を示すとする報告がある. |
以上のように視環境は,周囲の明るさによって働く視細胞が異なる.
①光覚閾
杆体の最大感度(最小閾値)は,10⁻7〜10⁻6ミリランバート
(3×10⁻7 cd/m2 )付近である.
錐体の最小感度(最大閾値)は,107ミリランバート付近である.
②暗所視[あんしょし] scotopic vision
照度0.01ルクス以下あるいは輝度 0〜10⁻3 cd/m2 (または,<0.034 cd/m2)の環境で,杆体のみが作動する.杆体視のため色の判別はできないが,光に対する感度は明るい場所の数万倍から10数万倍に高まる.
中心窩(正しくは中心小窩)の錐体は全く働かないため感度はそれ以外の部位よりも低く,中心相対暗点の状態となる.たとえば,夜空で星を見ようと直視すると消えてしまい,視線をわずかにそらすと見えてくる(averted vision).
杆体は,最小閾値⇔100ミリランバートをカバーする.
視覚実験の条件として勧告されている輝度は,0.001 cd/m2 である.
③薄明視[はくめいし] mesopic vision
0.01~1ルクスあるいは 10⁻3~100 cd/m2 (または,0.034 ~ 3.4 cd/m2)の環境で,杆体・錐体の双方が作動し中間順応視と言ったりする.夕暮れ時や夜間照明下での見えがこれに当る.
0.1 asb の背景輝度において中心窩周囲の感度を測定(profile perimetry)すると視野中心部の沈下が消え,ゆるやかな凸カーブが記録される.
1 asb の背景輝度では中心窩が突出・頂上となる山型が記録されることから,錐体が優位に作動している環境であることを示している.
視覚実験の条件として勧告されている輝度は,0.05 cd/m2 である.
④明所視[めいしょし] photopic vision
1ルクス以上あるいは 100 cd/m2 ~ ∞ (または,>3.4 cd/m2)の明るい所では,錐体が働く明順応状態にある.明所視では物の色も形もはっきりと見える.
錐体は,10⁻2ミリランバート⇔最大閾値をカバーする.
視覚実験の条件として勧告されている輝度は,100 cd/m2 である.
なお,視野検査(Goldmann視野計など)の背景の輝度( 31.5asb≒10cd/m2 )は明所視状態にあたる.
■『ルクス』・『ミリランバート』・『cd∕m2』
ヒトの居る環境の光の量は照度として扱い,単位は「ルーメン毎平方メートル」( lm/m2 )である.目に入る光の量は輝度として扱い,単位は「カンデラ毎平方メートル」( cd/m2 )である.ここで(完全拡散面として),
ルクス(lx)=lm/m2=ラドルクス(rlx)=0.1ミリランバート=アポスチルブ(asb)= 1/π cd/m2.そうすると,
ルクス(lx) アポスチルブ(asb) | ミリランバート | cd/m2 | |
---|---|---|---|
0 | 10-6 | 3×10-7 | (暗所視) |
10-3 | 0.0003 | ||
0.003 | 0.001 | ||
0.01(10-2) | 10-3 | (薄明視) | |
0.03 | 0.01 | ||
0.1 | 0.01(10-2) | ||
1 | 0.1 | 0.3183 | (明所視) |
3.14 | 1 | ||
10 | 1 | 3.183 | |
31.4 | 10 | ||
10万(105) | 104 | ||
∞ | 106 |
直射日光は10~15万lx ,曇天の屋外が1~3万lx ,雨天では1000 lx ,平均的オフィスや教室の机上面では500 lx(精密作業での推奨照度は750~1500 lx),沈んだ夕日で10 lx ,満月で0.1~0.5 lx ほど,月のない星空では0.001 lx 以下とのこと.
■「光度 luminous intensity」と「視感度 luminosity factor」
光度,すなわちあかるさの感覚は,波長(または色)によって変わる.これを視感度という.比視感度 spectral luminous efficiency は,最高感度を1
太陽光エネルギーが最も強いのも 550 nm 付近である.効率が良いように視物質が進化した,と解釈されている.
標準比視感度は多数の測定値の平均により国際的に規定され,明所視標準比視感度と暗所視標準比視感度がある.明所視では,ヒトの最大視感度(錐体系輝度チャンネルのピーク)は波長 555 nm の 683 lm∕W,暗所視での最大視感度(杆体系ピーク感度)は波長 507 nm の 1725 lm∕W.
明から暗へ明るさが変化した時の感度の波長移動が Purkinje現象 である.薄明視環境では錐体と杆体は同時に働くが,杆体感度が優位になり緑色系は明るく浮き出て見え,逆に赤色系は黒く沈んで見える.
一般に標準比視感度というとき,明所標準比視感度を指す.分光感度は角膜上の感度であり,網膜上の,まして錐体視物質の感度を直接表わすものではない.水晶体の着色や黄斑色素による影響の計算やらで,3錐体の計算式・測定法が工夫されるのだとか.これにより輝度チャンネル依存の応答をみているのか,色差チャンネルの応答を含むのか変わってくるのだそうだ.
☀ 近年,比視感度は 『分光視感効率』 といっている.
視物質;rhodopsin ロドプシン や iodopsin ヨドプシン の復習は,こちらで. ■絶対閾値 杆体は,理論的に 1photon の光量子に反応すると考えられている.また,完全暗黒中でもある程度の応答電位を生じている,のだとか.これを暗雑音といっている.わずかなphotonを認識するために,レチナールに仕掛けがあるそうである.
■日常の「明るさ」
定義
(こんな説明だったかな?? 誰か調べてください ・・・)
光は,どれだけの量(光束 = ルーメン)が空間に放射されるかで光度という単位になり,どれだけの量が面に当たるかによって照度の単位になり,どれだけの単位密度で反射されるかにより輝度という単位になる.