
■眼球運動障害:皮質中枢から外眼筋に達する眼球運動の神経経路の,いずれかの部位に病変が起こると,眼球運動は障害される.これは,注視対象から視線が外れる現象となる.
○障害神経:動眼神経,滑車神経,外転神経
○眼球運動障害
核上性眼筋麻痺
中枢性障害(皮質障害:追従運動障害
(脳幹障害:注視麻痺,輻湊麻痺,開散麻痺
注視麻痺:共同運動が障害された状態である.
水平注視麻痺
垂直注視麻痺:Parinaud症候群,
輻湊麻痺
開散麻痺
核間麻痺:MLF症候群
異常神経支配:Duane症候群,
そのた
核性・核下性眼筋麻痺(神経核または神経線維の障害≒末梢性障害
動眼神経麻痺
滑車神経麻痺
先天性
外転神経麻痺
全眼筋麻痺
眼窩先端部
神経筋接合部障害:筋無力症
筋性障害:ミオパチー(慢性進行性外眼筋麻痺,甲状腺眼症),筋炎,など
機械的眼球運動障害:眼窩腫瘍,眼窩骨折,眼窩出血,篩骨洞の炎症,など
■眼球運動異常:単眼運動( duction ひき運動)の異常と両眼運動( version むき運動)の異常がある.一般に単眼運動の障害は神経核以下の病変で,両眼運動(共同運動)の障害は核上性(皮質中枢ないし中間中枢)の病変で起こる.結果は,斜視となる.
斜視 strabismus とは左右眼の視軸が同じ方向(固視点)でない状態(眼位の異常)で,共同性斜視と麻痺性斜視に分ける.麻痺性斜視は通常,眼筋麻痺という.
■異常眼球運動は通常,眼振のカテゴリーとなる.
(詳しくは 視能矯正学の講義で !)

■眼振または眼球振盪 nystagmus
自分の意思とは関係ない不随意性で律動的な眼球の往復運動で,急速相・緩徐相があり,急速相の向きを眼振の方向とする.方向によって水平眼振,垂直眼振,回旋眼振などがある.
律動眼振(jerk nystagmus:jerky 衝動性とも)とは急速相と緩徐相がはっきりしているもので,振子様眼振(pendular nystagmus)とは急速相が無く両者の速度の差があまりないものをいう.
眼位によって眼振の程度に差があり,ある視方向で眼振が停止する(静止位).
発症時期から先天(乳児)眼振と後天眼振に分けられる.乳児期の視力喪失・白子・全色盲によるものは,振子様眼振となる.
なお,病的な動きは固視方向から視線がずれる緩徐相であり,急速相は修正方向である.
- 生理的眼振
最端視眼振:極端な速報視野垂直視での衝動性眼振,極位眼振
視運動性眼振:動くものを見るときに発現する衝動性眼振
カロリック(温度)眼振:外耳道の温・冷刺激により発現,迷路性誘発眼振(温度眼振,電気眼振)
回転による眼振 rotation:回転中眼振や回転後眼振.Frenzel眼鏡
- 病的眼振
- 先天性眼振:
・乳児眼振,
・周期交代性眼振(periodic alternating nystagmus;PAN:一見律動眼振にみえるが時間の経過とともに周期的に眼振の向き(急速相の向かう方向)が逆転する.意外に多いとのこと),
・潜伏眼振(laent nystagmus:片眼の遮蔽で誘発される.開放眼に向かう急速相),
・点頭けいれん(spasmus nutans)
・seesaw眼振
など
- 前庭性眼振:半規管―動眼反射の経路に異常
- 注視眼振:注視方向が維持されず,眼窩の中心に戻る(ドリフトする).
- 反跳眼振:側方視眼位を一定時間(20 秒位)保持した後,眼位を正中に戻した時に認められる眼振.rebound nystagmus
- 輻湊眼振
-
■眼筋麻痺 ophthalmoplegia
麻痺性斜視は,責任部位が外眼筋自体にあるもの(筋性)と神経性とに分ける.
神経性麻痺は核上性,核性,核下(末梢)性に分ける.核上性麻痺は,皮質性障害と皮質下性障害がある.皮質性障害は,破壊性病変では同側性に,刺激性病変では反対側に偏位する.共同偏視である.皮質下性障害は,PPRFの病変では健側への共同偏視と患側への水平注視麻痺を生じる.riMLFの病変では垂直(特に上方)注視麻痺を生じる.
核間麻痺は,側方注視の際の患側眼の内転障害,健側眼(外転時)の眼振,輻湊の保存がみられる.MLF症候群である.
核性・末梢性の眼筋麻痺は,動眼神経麻痺・外転神経麻痺・滑車神経麻痺などとなる.眼窩先端部病変は末梢性障害である.
筋性麻痺は,外眼筋炎・筋自体の障害(ミオパチー myopathy ),神経筋接合部の障害,その他がある.
■輻湊麻痺,開散麻痺
核上性(中間中枢)の器質病変による非共同運動の異常という位置付けになる.

■筋性麻痺
- 外眼筋炎または眼窩筋炎 myositis:筋肥大,慢性化すれば線維化.
- 特異的眼窩筋炎
甲状腺眼症による慢性筋肥大(内分泌性ミオパチー)が典型.
- 特発性眼窩筋炎
または,眼窩炎性偽腫瘍 orbital pseudotumor
- 慢性進行性外眼筋麻痺
ミトコンドリア病
- 重症筋無力症 myasthenia gravis
骨格筋の神経筋接合部,アセチルコリン受容体に対する抗体を作る自己免疫疾患.易疲労性 fatigability(休息にて回復)と脱力 weakness が特徴となる.本症の75%が眼瞼下垂を含む外眼筋障害で初発する.経過中90%に外眼筋障害を伴う.
- など
■麻痺の程度
○麻痺:paralysis
○不全麻痺:paresis
○麻痺:palsy → 病名で用いるようだが・・
◎眼球の偏位による病変の特定(病変部の正常機能が障害されたとして考える)
- 斜偏位(例:右眼球は下内側へ,左は上外方へ)は橋の病変,位置は下内側偏位をとった側である(この例では橋右側の病変).一般に後頭蓋窩の病変で微小梗塞,脳幹梗塞,橋出血,小脳出血を考える.斜偏位では上下斜視となり垂直性の複視をきたすが,「焦点があわない感じ」とか「ブレてみえる」などと訴える.
- 共同偏視:被殻出血では病巣をにらむ様に偏視(左被殻出血( ・)( ・).瞳孔は普通大で対光反射正常).小脳出血や視床出血では健側をにらむ(瞳孔は縮小または不同).
- 水平性:偏位側のfrontal eye fieldから対側の橋のPPRF(paramedian pontine reticular formation)までの経路の障害で,天幕上の破壊性病変では病巣側へ,天幕下では健側に偏位することが多いが,痙攣発作など刺激性病変では反対に偏位.
- 垂直性(下向き):脳幹被蓋部の圧迫によるものがおおいが,肝性昏睡など代謝性昏睡でも生じる.視床出血が中脳へ伸展すると内下方へ偏位.
- 垂直性(上向き):痙攣,Cheyne-Stokes呼吸の無呼吸時,脳幹虚血,脳炎,小脳虫部の出血
- 内下方偏視(両目が鼻先を見る様に偏視):視床出血(瞳孔は縮小 )( .)(. )
- 眼球の正中位固定+縮瞳:橋出血( . )( . ).
- 眼球震盪:小脳出血,椎骨脳底動脈循環不全
- 周期性眼球垂直運動:橋出血,(小脳出血)
- 片眼の外下方偏位:動眼神経障害
- 片眼の内方偏位:外転神経障害(頭蓋内圧亢進でも生じ,局在的意義はない)
- 四肢,顔面に動きがない状態で自発的で意図的な眼球運動:閉じ込め症候群,緊張症,偽昏睡,植物状態
- 眼球彷徨(roving eye movement,眼球が左右にうろつく動き):眼球運動に関する神経核(動眼,滑車,外転)と各神経核間の線維連絡が保たれ脳幹機能が比較的保持されていることを示す.大脳半球の障害,両側天幕上病変,代謝異常,中毒など.
- 眼球浮き運動(ocular bobbing,両眼が急速に下方に偏位し,ゆっくり正常に戻る動き):脳幹(特に橋)の障害時にみられる(橋出血,橋梗塞,小脳出血)
- “人形の目”現象:脳幹障害がなければ頭を急速に上下左右に動かすと眼球はその運動方向と反対方向に動く.このような眼球運動を人形の眼現象という.人形の目現象が消失し,頭部とともに眼球が動けば,脳幹や中脳の障害を示唆する.
脳死を判定するためには,全ての脳幹の反応が消失していることを確認しなければならない.脳幹反応検査には人形の眼運動(眼球頭反射)のほかに対光反射,角膜反射,毛様脊髄反射,咳反射,前庭反射,咽頭反射等があり,全て消失していることが脳死の条件となる.
ただし,意識のない外傷患者で頸椎損傷が否定できない場合に,脳幹の機能を評価するために安易にこの検査をおこなうと頸髄損傷を悪化させる可能性があるので注意を要する.
§例題
●右内側縦束の病変で障害されるのはどれか
a 左眼外転
b 左眼内転
c 輻 湊
◎d 右眼内転
e 右眼外転
2010