眼底出血 hemorrhagebleeding

§.概  念

眼底の血管構築は,網膜と脈絡膜である.病理状態では増殖した新生血管が加わる. 【  血管系は こちら
・網膜固有血管からの出血は通常,①網膜出血となる.
・脈絡膜血管からの出血は外傷を含め例外的である.
・脈絡膜新生血管は色素上皮下であるいは網膜下腔へ伸展し,破綻により容易に②脈絡膜出血となる.
・網膜新生血管は主に硝子体腔へ伸展し,破綻により③硝子体出血となる.
なお,網膜出血・硝子体出血などは血液が溜まっている場所を指す.『網膜に出血している』ということで,『網膜から出血している』意味ではない.
また,大量の網膜出血では内境界膜下あるいは後部硝子体膜下に血腫となり,破れると硝子体出血の元になるが,重度の貧血など少数である.脈絡膜出血は血腫状になることもあり,硝子体出血としても拡散することが多い.

■ 眼 底 【  眼底検査は こちら

眼底とは,網膜視神経乳頭脈絡膜の総称である.「眼の奥」として般には検査で見える部位を指すが,「眼球の中」として毛様体や硝子体を含めて病態を論じることが多い.

■ 出 血 【  般病理は こちら

単純に血管の破綻が原因であるが,「出血」として指している対象は血管外に出て溜まった血液 blood の赤色である.赤色とは言うなれば「赤血球の色」である.他方,「血液」の「液(血漿)」も重要で,こちらは「浮腫」の元となる.
「出血」と「浮腫」は extravasationに因る兄弟所見というわけである.

出血は,部位により特徴的な形状となる.

図 01 出血形態 図 02 出血形態2

Aa) は 硝子体出血
Bb) は 網膜前出血
Cc) は 網膜表層(浅層)出血
Dd) は 網膜内層(深層)出血
Ee) は 網膜下ないし脈絡膜出血

を示している.

) 硝子体出血~) 網膜前出血

図 03 硝子体出血1 図 04 硝子体出血2

硝子体出血は拡散することが多い.網膜前出血は内境界膜の下,あるいは後部硝子体膜の下に血腫状の形になる.
いずれも,網膜血管をおおっている.
水平線 niveau にぼー  が赤沈状態を示している(それなりの空間がある)

症例 ③

) 網膜表層出血~) 網膜内層出血

図 05 表層出血2図 06 表層出血1

網膜神経線維層(表層)での出血は,掃いたようなスジ状となる.
左図では,火炎状 という形を示す(乳頭近傍であることに注意)
右図では,乳頭縁の全周に出血が見られるが,個々にみると火炎形の集合であることがわかる.
端的に言えば破綻性出血は表層で,漏出性出血は内層でスポット状となる.

) 網膜下~脈絡膜出血

図 07 網膜下出血

色素上皮をはさんで,その上下では色調が違ってくるが,おおむね血腫として観察される.
螢光造影では脈絡膜蛍光が遮断ぶろっく され,血腫の黒い背景上に網膜血管のみが写っている.

図 08 加齢黄斑変性

色素上皮下の血腫
おそらく,出血性色素上皮離で,ブーメラン型の血色調部分は色素上皮裂孔から見える血腫.

■すなわち出血のかたちは,

網膜面で赤血球が沈降し舟型 boat-shaped あるいは水平線 niveau を呈すれば神経線維層より前(硝子体寄り)’・・・ 硝子体膜-内境界膜,あるいは内境界膜-神経線維層であるのかは難しい ・・・
火炎状 flame-shaped と呼ぶ「すじ状・線状」であれば網膜内の浅層(神経線維層)’
点状 dot あるいはしみ状 blot の形は網膜深層と解釈する.点状出血は毛細血管瘤との鑑別が必要である.
大量であれば網膜下(通常,視細胞層と網膜色素上皮層の間)に血腫を作るが,新鮮な出血が硝子体がわに向かうことは少ない.

図 09 Roth

暗赤色や褐色の膜をかぶせたような外観の時は網膜下色素上皮下の血腫を示す.
出血巣の外観は時間経過で異なる.大量では赤血球が壊れヘモグロビンが失われると黄褐色となり,数か月の経過で吸収される.少量では変色は判然としないまま薄まり吸収される. 

中心が黄白色の出血斑が観察されることがある.Rothろーと 斑である.病理組織では凝固したフィブリンとその周囲の赤血球が証明される.白血病・貧血・敗血症で観察されるが白色部は白血球や細菌ではない,とのことである.糖尿病網膜症等の眼底出血でみられない理由は病態の急性・慢性の違い以外に説得力のある見解はない.

■蛍光眼底造影写真での眼底出血
眼底の血管病変に対する検査として,蛍光眼底造影検査は臨床で重要な位置をしめる.しかし「眼底出血」に関しては,造影検査は出血部から血液と共に造影剤が出てくる状態をみるというような検査法ではない.
では,造影剤に対し画像上,出血はどのように写るのであろうか.その例のつが上図であった.

つまり, ・・・‥…

 出血は段階的に進行するようであるが,普通に言う眼底出血は,進行中・出血持続の状態を示してはいない.溜まった血液 blood を見ているにすぎない.要するに,眼底疾患に止血治療は無い.
段階的とは,例えば静脈閉塞では 2~3か月の経過観察の中で,出血が増強する状態は少なくない.しかし病態的にみてやはり止血治療という表現は適切ではない.

BRVOの自然経過

大量の出血というと,例えば硝子体出血があてはまる.出血は停止しているものの強い混濁で視界が妨げられている訳であるから,混濁除去のための手術か辛抱強く自然吸収を待つか,というのが治療選択となる.
現実に治療に抵抗し視力回復にブレーキとなるのは,浮腫である.

 浮腫 edema って
水が溜まる・・「血液」の「液」である.通常,透過性亢進の存在を示している.眼底疾患では,だいたい細胞間隙に水が溜まる状態が多い.
①感覚網膜内
②感覚網膜と網膜色素上皮との間
③脈絡膜内

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■外傷性の出血
眼外傷は,眼球破裂を起こさないような状況では鈍性外傷 blunt traumaという.このような場合,眼球変形のひずみ具合で眼内の損傷部位が変わってくる.

  1. 硝子体出血あるいは網膜出血

    後部硝子体離をきたして網膜を損傷(裂孔形成など)することが多い.

    図 10 震盪

  2. 網膜下出血あるいは脈絡膜出血

    Bruch膜の断裂と脈絡毛細血管板の損傷による(脈絡膜破裂).視神経周りに同心円状に亀裂を作る.

    図 11 震盪 図 12 震盪
  3. 網膜の混濁(網膜震盪 commotio retinaeBerlin混濁)

    混濁・浮腫は網膜色素上皮と視細胞外節との間の ずれ,あるいは視細胞部分の損傷に因る,とのことである.
    状態により,回復する場合と不可逆的に変性・萎縮に陥る場合がある.
    長期経過では,帯状の網脈絡膜萎縮をきたすことがある.脈絡膜動脈閉塞症候群(三角症候群)である.

  4. 眼球を仲介として眼窩脂肪織のほうへ外力が伝わると,典型では 眼窩底骨折 となるのは周知の通り.

■加齢・老化

血管の故障すなわち加齢変化を増幅させているのが糖尿病・高血圧・動脈硬化であり,さらにストレス・喫煙・高脂血症などが修飾していることになる.

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2021