遺伝子


図 01 タンパクの合成

  1. 遺伝子 gene

    生体のタンパク質や酵素の合成にかかわる単位となるもの,または,親から子へと遺伝する,あるいは,細胞から細胞へと伝えられる性質(形質 trait)を決定する生体の 設計図.全遺伝情報の揃いがゲノム genome である.ヒトでは常染色体22本と性染色体(XY)が相当する(核ゲノム)

    遺伝物質の本体はDNA・デオキシリボ核酸であり,4種類の塩基の並び方(シークエンス(sequence)/配列)が遺伝子コード(情報)である.ヒトゲノムDNA32億塩基つい 上の遺伝子の数はおよそ万数千,といわれる.遺伝子1個とは1つのタンパク質をコードしているDNAの上の読み枠領域であるが,開始点・終了点のマークを含め プロモータ ⇔ ターミネータ を合わせて1セットとし,1000200万の塩基対で構成される.
    特定の遺伝子の場所(位置) locusという.

    ゲノム本来の意味は,1n(1 配偶子あたり:卵子または精子に含まれる 23 の染色体に相当)に含まれる遺伝情報のことであった.遺伝情報は,細胞核内の 染色体 及び細胞質内の ミトコンドリア 内に格納され,核ゲノムとミトコンドリアゲノムを区別する.

  2. 図 02 核酸

  3. 遺伝子の構造
    1. 基本構造:

      最小単位は,核酸塩基・糖・リン酸の3つの成分で構成されるヌクレオチド nucleotideと呼ばれる単位の繰り返し. 【   核酸  】

      • 核酸 nucleic acidDNA(デオキシリボ核酸)RNA(リボ核酸)
      • 塩基 base:核酸の構成単位となるヌクレオチドを構成する塩基性の分子グループ.プリン塩基はプリン核()を持つ塩基で,アデニン(A;adenine)とグアニン(G;guanine).ピリミジン塩基はピリミジン核()を持つ塩基で,シトシン(C;cytosine)とチミン(T;thymine)
        RNAではTの替わりにウラシル (U;uracil)
        プリン塩基とピリミジン塩基は水素結合によりそれぞれ相補となる(『AとT』が2本の,『CとG』が3本の水素結合)
      • ヌクレオシド nucleoside:塩基と五炭糖の結合体(N-グリコシド結合).それぞれ,アデニンアデノシン,グアニングアノシン,チミンチミジン,シトシンシチジン.
      • ヌクレオチド nucleotide:ヌクレオシドにリン酸が結合(フォスフォジエステル結合)した最小単位.糖同士が 3'5' の位置で結合し鎖状につながり,リボン と云われる.
      • コドン codon3塩基トリプレット の配列でアミノ酸(20)に対応する遺伝情報.
      • 遺伝コード:ヌクレオチドの連続でアミノ酸配列を指定するのが遺伝コードである.
        長さの単位は本鎖の場合 bp(base pair:塩基対)本鎖の場合 b(base:塩基),または nt(nucleotide:ヌクレオチド)
    2. 本のリボンと重らせん構造 : 図 補 水素結合

      4種類の核酸塩基,『AとT』『CとG』とはそれぞれ等量ずつ含まれペア(塩基対)となり,本リボンとなっている.本鎖DNAはさらにねじれて重らせん double helixと形容される.細胞分裂の際には,AT,CGが組んで複製される.相補性 (complementary)である.糖の位置5'3' は方向性,つまり,2本のリボンは逆向きに並んでいる.

      DNA線回折像(1950ころ)重らせんの発見(1953)につながった.
      染色体46本の発見は1956年である.

    3. 図 03 ヌクレオソーム
    4. ヒストン histones と ヌクレオソーム nucleosome

      本鎖DNA はヒストンタンパクに巻き付き,ヌクレオソームとしてクロマチン構造の最小単位となる.ヒストンの塊1個には146~7塩基対DNA が1.67回転巻き付き,ヌクレオソームとなっている.ヒストンは DNA に結合するタンパク質の大部分を占め、ヒストンと DNA の重量比はほぼ 1:1 とのことである.さらに梱包された状態がクロマチンである.

    5. 図 04 クロマチン
    6. クロマチン chromatin

      連のヌクレオソームは,さらにらせん状(solenoid model)に折り畳まれて径30nm のクロマチン線維を形成する.クロマチンは,省スペースの仕掛けだけでなく構造をダイナミックに変化させることで,発生や分化における遺伝子発現を巧妙に調節している,とのことである.異なった種類の遺伝子をそれぞれの組織や臓器で発現させる仕掛け,である.30nm線維は細胞分裂間期での基本構造となる.

    7. パッケージング :

      これらのゲノムDNA はヒストンに巻きついた状態でさらに高次な構造へと梱包される,と表現する.細胞が分裂する際には,それぞれのDNAからなるクロマチン糸はさらに凝縮して,太くて短い染色体になる.染色体とは,ヒストン・非ヒストン蛋白に DNA が巻きついた状態,ということになる.

  4. 染色体 chromosome

    細胞内にあり,普段はクロマチン線維として核の中に分散しており,細胞分裂時に凝集して光学顕微鏡的に観察できるようになるひも状のものである. 中央付近でくびれていて(セントロメア),短い部分(p;短腕)と長い部分(q;長腕)とに分かれる.セントロメア領域には有糸分裂の際に紡錘体が結合しキネトコア(動原体)が形成される.
    ヒトでは人種を問わず2346本から成る.ゲノムの実体としてサイズやセントロメアの位置などから A~G に群分けされ,大きいほうから番号が振られている.生命維持の為に重要なのは,より大きい染色体のほうである.
    個々のペア は,父親由来の1本と母親由来の1本から構成される.このうち22対が常染色体(122番)で,正常では相同(大きさ,形,遺伝子の位置と数が同じ)である.23番目の対が性染色体で,男性ではX染色体とY染色体(これらは相同ではない)1本ずつ存在し,女性では2本のX染色体(これらは相同である)が存在する.性別を決定するとともに,その他の機能遺伝子も含まれている.これらにより,
    男性は『46,XY』,女性は『46,XX』と表わす.   追加の絵

    遺伝子は染色体上に並んでいる.通常は対のうち片側が有効であるので23本というイメージで n,ペアで 2n,とも表現される.

    細胞分裂時にはDNAを複製する.体細胞分裂では染色体数は変わらない(2n)が,生殖細胞にみられる減数分裂では染色体数が半減(n)する. これにより,体細胞分裂では二倍体細胞が生じ,減数分裂では一倍体細胞が生じる,と表現する.   細胞分裂

  5. 図 補

  6. 遺伝子の機能

    a.タンパク質を作る.

    タンパク質が作られることを,遺伝子が発現するという.基本的には,体のすべての細胞がすべての遺伝子を持っている.体の各パーツをつくるためにはそこで必要な遺伝子を発現させ,そうでない遺伝子は発現しないように厳密に調節されている.必要な部分の DNA配列(鋳型)mRNA にコピー(転写)され,アミノ酸の認識(翻訳)を経てタンパク質が合成される.各遺伝子には蛋白に翻訳されない転写調節領域が存在し,そこに転写制御因子がつくことによって,各遺伝子の転写が制御される.転写制御因子には促進因子と抑制因子がある.

    図 09 タンパク質図 10 タンパク質

    転写はプロモータで始まりターミネータで終わる.プロモーター部に結合したRNAポリメラーゼは,DNA重らせんをほどきながらDNA上を滑り、本鎖のうち鋳型となる鎖の塩基の配列を読み相補となる塩基配列(mRNA)のチェーンに転写される.

    転写直後の mRNAには遺伝情報の領域(エキソン/エクソン)とタンパク合成を管理・制御する(情報のない)領域(イントロン)が含まれる.イントロンの除去がスプライシングである.プロセシングは開始部と終了部に目印構造を付加することとスプライシングにより,プロセシングが終了した mRNAは核外へ出る.

    図 07 アミノ酸図 08 アミノ酸

    翻訳領域は開始コドンで始まり終止コドンで終わる.AUG=メチオニン,というようにRNAに転写され,ひとつのアミノ酸を決定する3つの塩基セットがコドン codonである.タンパク合成の場がリボソームである.
    リボソームには mRNAが付着し,アミノ酸を持ってくる tRNAがコドンを認識し,おもに rRNAがアミノ酸を連結してペプチド鎖を作る.

    DNA情報からタンパク合成の流れは万物共通,として, セントラルドグマ と名付けられた.

    b.自分と同じものを作る(DNA を複製する.

    図 05 複製1 図 06 複製2

    らせんをほどいて複製を始めるポイントが複製起点である.多数あり,どこからスタートさせるのか,などの制御は解明途中にある.鎖が延びる方向は(5'  3')であるので複製起点から逆方向では短く(フラグメント)合成され最終的に継ぎ合わされる.
    複製は DNAポリメラーゼによるが,同時にエラー訂正がかかる.

    c.変わる.

    修復する.損傷あるいは複製のミスは個体の生存を危うくする.修正に働くのが誤対合修復系である.複雑な修復系酵素に依る.

    図 11 修復

    ・生殖細胞が分裂する時,組み替えがおこる.DNA再編成は環境に適応するような進化のメカニズムに関わる(変異がなければ進化のしようがない)方で,染色体構造異常を起こす元でもある.

図 12 変異  図 13 組み替え

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2024