第 3 章   放 射 能 の 測 定  

1.計数効率と統計誤差

(1) 計数効率

 放射線測定器では、放射能は一般にcpm (count per minute) すなわち1分間あたりの計数率で表示される。 RIと測定器の間で放射線あるいは蛍光が失われたりする数え落としなどさまざまな要因により、測定された計数率(みかけの放射能)は、壊変率(真の放射能)dpm 
(disintegration   per minute) と比べて誤差を生じる。
 検出された割合を計数効率 (counting   efficiency) とすると、次の関係になる。

                C(みかけの放射能,計数率cpm)
  E(計数効率,%)=                                                                       × 100 
                 A(真の放射能,壊変率dpm) 

 計数効率が100%にならない原因はいろいろあるが、RIの種類によっては、  1回の壊変で必ずしも1個の(測定可能な)放射線を放出するとは限らないことがまずあげられる。 実験室でよく用いられる3H、14C、3  2P、3  5S、4  5Caなどは、1回の壊変で βー線1個を放出するが、
51Cr、125Iなどはそうではない。 
 51Crからは通常 0.32MeVのγ線が観測されるが、このγ線は10回の壊変で1回しか放出されない(確率10%)。 壊変ごとに5keVの特性X線も放出されるが、これはエネルギーが弱すぎて測定器にかからないので計数効率は10%を超えることはない。
 一方、125Iでは、壊変ごとに27.5  keVの特性X線が放出される他、15回の壊変で1回だけ35.5  keVのγ線が放出され(これらは、γーカウンターで測定可能)、残る14回はγ線の代りに内部転換電子が放出される(これは3Hのβ線と同レベルのエネルギーを持った電子線なので、液体シンチレーションカウンターで測定可能)。 つまり、測定可能な放射線の数は、使用する測定器によっても異なるため、計数効率もおのずと違ってくる。 その他、計数効率が低くなるおもな原因としては、次のようなことなどが考えられる(詳しくは後述)。

液体シンチレーションカウンター ……… 蛍光の消失(クエンチング)

γーカウンター …………………………… 放射線が固体シンチレーターを素通りする場合 
                                                                                                自己吸収やサンプル容器による吸収 

イメージングスキャナー     ………………… 放射線が検出器以外の方向に飛ぶ場合 
                                                                                                自己吸収など 

G Mサーベイメーター     …………………… 放射線が検出器以外の方向に飛ぶ場合
                    自己吸収・検出窓の雲母膜等による吸収
                    分解時間に由来する数え落とし
 

(2) バックグラウンドの補正

 放射能の測定の際、自然放射線やノイズによるバックグラウンドというものが存在する。 試料の放射能が低い場合に真の放射能(壊変率)を計算するには、バックグラウンドをあらかじめ差し引いておく必要がある。
 試料の計数率C(測定時間t)からバックグラウンドの自然計数率Cb(測定時間tb)を差
し引いた場合、補正値(正味の計数率)±統計誤差はつぎのように表わされる。
              
   [ 統計誤差について ]                                                             
  

   RIの壊変のような確率過程において、ある一定時間内に計数される量はポアッソン分 布に
  従い、平均値をNとすると の標準偏差が伴う。                                
   測定時間をt分とし、計数をNとするとカウンターは 計数率C=N/t(cpm)を 表示
  するが、この場合、次の統計誤差(標準偏差)を含んでいる。
                                                                          

               

  すなわち、誤差の割合は、                                                          
             
   たとえば、計数率が10,000cpmのサンプルについて、2分間測定を行なったときの誤差
  は0.7%であり、1分間ならば1%、30秒間ならば約 1.4%の誤差が含まれる。 これがたとえ
  ば1,000cpmのサンプルならば、2分間で約 2.2%、1分間で約 3.2%、30秒間で約 4.5の誤差
  を含む。 したがって、Cが小さい場合(放射能が低い場合)は、測定時間tを長めにとる必
  要がある。                                        
   2つのサンプルの計数率をC1、C2、測定時間をt1、t2とすると、その差および比をと
  ってデータとした場合の統計誤差は、それぞれつぎのように表わされる。              
            
                         
   
  (3) 分解時間に由来する数え落とし

 一般に放射線測定器には1個の放射線を測定するのに必要な時間、すなわち分解時間がある。
分解時間をt(sec)とすると、1個の放射線が入ってきてからt秒の間は、次の放射線が入ってきても数えられない。
 計数率がC(cps;count   per  second)とすると、1秒間の内C×t秒間の間は測定器が働いていなかった計算になるので、補正計数率C0は、

                     C0×(1−C×t)=C  すなわち、 C0=C/(1−Ct)  

 計数率をcpm(count   per   minute)で表わすと、次のようになる。
       

 ちなみに、分解時間を6μs(多くの検出器ではおおかたこれくらいである)とすると、
C=100,000cpmで1%の数え落としになる。 一方、ハロゲン式GM計数管では、分解時間がおよそ600μsであり、C=1,000cpmで1%、C=10,000cpmでは1割もの数え落としが起こっており、高い放射能の測定の際には補正が必要である。

2.物質の濃度の推定

(1)比放射能

 RIのカタログを見ると、放射能(MBq,mCiなど)とその濃度(MBq/mlなど)の他に比放射能(GBq/mmol,Ci/mmolなど)が表示されている。 比放射能は、放射能からモル濃度を推定するための数値である。 つまり、検体の放射能を測定できたときに、既知の比放射能で値を割ることによって、その物質のモル濃度が推定できる。

  例:トリチウムチミジン([methyl -3H]Thymidine)、比放射能 185GBq/mmol 
   のものが、検体 0.1ml中に 111,000 dpm(=1,850Bq)あったとき、チミジンのモル 
   濃度は
        1,850 ÷ (185×109) ÷ 0.1 = 0.1 × 10 - 6                                              0.1μM

 一般に、RIは担体分子をある割合で含んでいて、例えば[methyl -3H]Thymidine は、メチル基が3Hのチミジン分子の他にメチル基が1Hのチミジン分子(非放射性,担体分子)を適当な割合で含んだ、さまざまな比放射能のものが販売されている。
 比放射能の値が高いものは、担体分子が少なく、感度の高い測定に向いているが、先に述べたように放射能は高すぎても測定しにくい(数千〜数万cpmすなわち数十〜数百Bqくらいが良い)ので、最適な比放射能のものを購入するかまたは自分で担体分子を混ぜて最適な比放射能とする。

  例1:数nmol(ナノモル)の物質を測定したいという場合、測定しやすい比放射能は、
   およそ数十〜数百Bq/nmol=数十〜数百MBq/mmol
   
  例2:数pmol(ピコモル)の物質を測定したいという場合、測定しやすい比放射能は、
   上と同様に、およそ数十〜数百GBq/mmol

(2)無担体RIの比放射能

 担体分子が少ない場合、物質の化学的分解を考慮に入れないで考えると、RIの減衰ととも
に比放射能は低下してゆくことになる。
 そもそもRIが担体分子無しだと、どれだけの比放射能を持つのだろうか。 無担体RIの
比放射能は、半減期T1 /  2 から計算できる。

                        6.02×1023×0.693×10-15                     4830
   A(TBq/mmol)=                                                     ≒                                                         
                                               T1 / 2(day)×24×60×60              T1 / 2(day)

           表3−1 RI室で利用されているおもな核種の無担体RIの比放射能
 

核   種 3 14 32 35 45Ca
半 減 期 (day) 4,500 2.10×106 14.28 87.4 165

無担体RIの比放射能

(GBq/mmol)

1,070 2.31 338,000 55,300 29,300

 

3.放射線検出器の種類

 ラジオアイソトープ(RI)と物質との種々の反応のうち、生物学の分野での測定に利用さ
れるおもなものは、電離作用、蛍光作用およびフィルム等の感光作用である。

(1)電離作用にもとづく検出器

a.電離箱
 検出容器の両端に(+)(−)2つの電極をおき、電圧をかけておく。 放射線がこの容器内に入ると、放射線の電離作用によって生じた陽イオンと電子は、それぞれ(−)極と(+)極へ引き寄せられ、電離電流として観測される。 この状態で使われる検出器は電離箱(ionizing  chamber)と呼ばれる。 電離箱は、感度がそれほど高くないので、空間線量率測定用サーベイメーターやポケット線量計等に利用される。

      

図3ー1 印加電圧と電離電流

b.比例計数管
 一方、電極にかかる電圧を高くすると、放射線によって容器内に生じた電子が(+)極へ引き寄せられるときに加速されて、新たに物質を電離するようになる。 さらにその電離作用で生じた電子が次の電離作用を行なうというように、次々に多くの電子を生じ電極へ達するまでなだれのようになるので、この現象は「電子なだれ」とよばれる。 電子なだれによって生じた電離電流は、はじめに放射線によって生じたイオン対の数に比例するので、この状態で使われる検出器を比例計数管(proportional counter)という。 ガスを連続して流しながら測定する、いわゆるガスフロー型計数管としては、PRガス(90%アルゴン+10%メタン)が一般的に用いられる。

c.GM計数管
 電圧をさらにあげると(数百〜1,000V)電子なだれに伴って紫外線が発生し、それによって光電子が容器全体に生じるようになる。 この光電子が元になって次の電子なだれが生じるため、放電状態になる。 しかし、ハロゲンガスやギ酸エチルなどの有機ガスを含む場合には、それらがイオン化されて(−)極に到達し、そこで解離してエネルギーを失い、光電子を放出しなくなるため、放電は1回で消滅する。 したがって1個の放射線によって生じたイオン対の数と無関係に、一定の大きな出力で電離電流が観測できるようになる。 この状態で使われる検出器は、GM計数管(Geiger-Muller counter)と呼ばれる。
 GM計数管では、計数の感度は高いが原理的に放射線のエネルギーは測定できない。 また、1個の放射線の計数にかかる時間(分解時間)が長く、およそ数百μsであるため(有機ガス式で〜150μs,ハロゲン式で〜700μs;比例計数管では数μs)高い計数率で測定すると数え落としが生じ、補正する必要がある。
 GM管をガスフロー型として利用する場合は、おもにQガス(quenching gas の略:98.7% ヘリウム+1.3%イソブタン)が用いられるが、一般には容器内のガス圧を下げ、少量のアルゴンと有機ガスまたはハロゲンガスを満たした封入型が多い。 ガス圧が低いとその分、電圧を下げることができるが、封入型のGM管には寿命がある。 これは有機ガス分子が放電によって分解して減少し、また分解生成物が悪影響を及ぼすためである。

(2)蛍光にもとづく検出器(シンチレーション検出器)

 放射線によって蛍光(シンチレーション)を発する物質をシンチレーターと呼び、固体のまま、あるいは液体・固体中に溶かし込んで用いられる。
 シンチレーション検出器は、放射線のエネルギーを蛍光(シンチレーション)に変換し、さらに光電子増倍管(Photomultiplier,フォトマル)により電気的パルスとして計数するもの である。 パルスの波高はもとの放射線のエネルギーと比例するため、波高選別器を用いてパルスの高さを区切って集計するすることにより、特定のエネルギーの放射線を測定することができる。 この選別の幅をチャンネルと呼ぶ。 従って、エネルギーの異なる放射線を放出する核種が混在している場合でも、チャンネルを最適に設定することによって、特定のRIを測定することが可能となる。 また、多数のエネルギー幅で区切って同時に集計できる分析器を特にマルチ・チャンネル分析器といい、パルス波高分布がグラフとして観察できる。

4.液体シンチレーションカウンター

(1) 原理と測定条件

 液体シンチレーションカウンターは、溶液中にシンチレーターとRIとが混ざった状態で測定する方法であり、試料作成の手間はややかかるが、3Hや1 4C、3 5S、4 5Ca、3 2P等のβ核種の測定器としては最も効率がよい。 液体シンチレーター(シンチ・カクテル)は、ふつうキシレンなどの芳香族炭化水素の溶媒と、2種類の溶質(蛍光剤)とを混ぜ合わせて作られる。
 測定の流れ図を書くと次のようになる。

        βー線(または内部転換電子など)のエネルギー           
                     ↓                                            
        溶媒分子(キシレンなど)の励起と発光(260〜340nm)    
                     ↓                                                                 バイアルの内部 
        第1溶質による吸収(励起)と蛍光(max.  365nm)の発光   
                     ↓                                            
        第2溶質の励起と長波長の蛍光(max.  420nm)の発光       

光電子増倍管(フォトマル)による光の吸収と電気的パルスの発生

同時計数回路によるノイズの軽減

波高選別器によるチャンネルごとの集計
 

 シンチレーション検出器のところで述べたように、放射線のエネルギーと出力パルスの高さは比例するので、チャンネルを最適に設定することで、2つ以上のβ核種を同時に測定できる。 ただし、β線のエネルギー・スペクトルは、先に述べたようにゼロからあるきまった最高値までなだらかな山形の分布をしているために、かなりエネルギーの大きさが違うことが必要である。 たとえば、3Hと1 4Cと3 2Pはβ-線のエネルギーが大きく異なるので、波高選別器でそれぞれのチャンネルに分けて集計することによって、混在しても別々に測定できる。 しかし、1 4Cと3  5S,4 5Caはβ-線のエネルギーがお互いに近いので分別することは困難である。 また、125IなどのEC核種も、内部転換電子やオージェ電子が弱いβ-線と同様に測定できる(3Hチャンネルで測定する)。
 32Pなどの硬β核種はチェレンコフ光を放出するので、シンチレーターなしでも測定できる。
チェレンコフ光は、密度の高い溶媒中で発生しやすく、以下に述べるシングルフォトン計数の条件で3Hチャンネルで測定する。
 液体シンチレーションカウンターは、一般に同時計数を行なっている。 すなわち、光電子増倍管の光電面から出る熱電子による雑音を消すため、光電子増倍管を試料の両側に2本置き、両方が同時に信号を出したときにだけ計数をするしくみである。 シンチレーターからの蛍光は2本の光電子増倍管から同時に信号を出すが、雑音は2本の管から勝手にでたらめに出ているから計数されない。 ところが、チェレンコフ光は蛍光と違って方向性があるため、2本の光電子増倍管には同時に検出されにくい。 そこで、同時計数回路を切ってシングルフォトン計数条件にしたほうが、ノイズも拾うが計数効率がずっとあがる。

(2) 消光(クエンチング)と補正法

 液体シンチレーションカウンターによる測定では、様々な原因により蛍光が弱くなる現象が起こり、これを消光(クエンチング)と呼んでいる。 シンチレーターが着色すると蛍光が吸収されて計数効率が低下する色クエンチングが起こる。 黄褐色で最も著しく、青色、緑色のときは影響が少ない。 また、溶媒分子から蛍光剤分子へエネルギーが移動するときに、他の物質(化学クエンチャー)によって吸収されてしまうことがあり、化学クエンチングという。
 クエンチャーとしては、酸素や酸、溶媒中の不純物がある。 芳香族炭化水素(キシレンなど)は、ほとんどクエンチングがないが、飽和炭化水素・エーテル類・エステル類・1フッ化物などは弱いクエンチングをおこし、水・アルコール類・カルボン酸・アミド類は中程度の、フェノール・アルデヒド類・ケトン・1塩化物・1臭化物は強度の、ニトロ化合物・di以上の塩化物,臭化物・重金属化合物などはさらに強度のクエンチングをおこすことが知られている。
 なお、チェレンコフ光は物理現象に基づくため、化学クエンチングがないという長所があるが、色クエンチングはうけやすい。
 クエンチングの補正法として次の4種類が考案されている。

a.内部標準線源法            
     既知の放射能(A dpm)をもった標準物質を用意しておき、試料の測定後に添加して再測定する。 前後の計数率をC1、C2(cpm)とすれば、求める計数効率Eは、次の式で得られる。

                                                                                      
 手間がかかるが正確な方法で、この目的に使用される標準物質も市販されている。
 

b.チャンネル比法            
     クエンチングがおこると、出力パルス高の分布は、エネルギーの弱い側へ移動する。 
パルス高分布のある範囲に2つのチャンネルをずらして設定すると、それぞれのチャンネルでの計数はパルス高分布の移動に伴って変化するので、その比をクエンチングの指標とすることができる(図3−2)。
 実際には、放射能が同じでクエンチングの程度の異なる10本程度の標準試料をあらかじめ用意し、それぞれについて計数効率とチャンネル比を求めてグラフにする。 この校正曲線を利用して未知試料のチャンネル比から計数効率を求める。 この方法の欠点は、試料の放射能が弱いときに、各々のチャンネル比が精度よく求められない点である。


      

     図3−2 クエンチングの変化とそれに対応するチャンネル比の変化

c.外部標準線源チャンネル比法
     その欠点を解決するため、あらかじめ、試料の外から 一定強度のγ線源(137 Cs など)で照射することにより、シンチレーター中にコンプトン電子を発生させ、チャンネル比を求める方法である。 コンプトン電子でも、試料から放出されるβ線と同様に、クエンチングによってパルス高分布が変化するので、試料の放射能が弱い場合でもクエンチングの程度が精度良く求められる。 現在市販されている液シンは多くがこの方法を採用しており、記憶された校正曲線から自動的にdpmが算出される。

d.効率トレーサー法       
    最近はマルチ・チャンネル分析器をもち、パルス波高分布(すなわち、見かけのβ-線のエネルギー・スペクトル)が表示できる機種も登場し、原理的 には、bの方法を多チャンネルに拡張した補正法も行なわれている。 この方法では、未知核種の定量も可能であるが、bと同様に試料の放射能が弱いときには精度よく求められないため一般的な方法とはいえない。
 

(3) 試料の調製法

 一般的なシンチレーターの処方を表3−2に示す。 標準シンチレーターの場合、キシレンにDPO(ジフェニルオキサゾール;PPOともいう)を4g/lの濃度で、さらにPOPOP(フェニルオキサゾリルフェニルオキサゾリルフェニル)を0.1g/lの濃度で溶解する。 POPOPはキシレンに溶けにくいが、温浴振とうするか室温で1昼夜以上撹はんすると溶け、特有の紫青色の蛍光が観察される。 これを褐色瓶に入れ、冷暗所に保存する(強い光があたると、バックグラウンドが上昇することがある)。
 試料の調製は次の3種類に大別できる。

a.均一法(homogeneous   counting)
 脂溶性の試料は、標準シンチレーターに均一に溶かし込んで測定する。 自己吸収はなく、理想的な調製法である。 一方、水に可溶な試料では、溶解補助剤を含んだ親水性シンチレーター(5%未満の水分を保持できる)を用いて測定できる。 また、組織などは可溶化剤(4級水酸化アンモニウム類,市販品は Hyamine,  NCS,  Soluene,  Protosolなど)をメタノール溶液 として加える場合がある。 可溶化剤は強アルカリのため、化学ルミネッセンスという化学反応に基づく発光がみられるため中和する必要がある(これは後述の乳化法で可溶化剤を用いても同様である)。 ただし、補助剤や可溶化剤は一般にクエンチングが強く、計数効率は低い。

b.不均一法(heterogeneous   counting)
 濾紙に吸着させた試料や、かきとった薄層ゲルを、そのまま標準シンチレーターに浸漬して測定したり、コロイド状シリカ等でゲル状に懸濁させ測定する方法である。 自己吸収がおこるため、精度の高い放射能測定にはむかないが、かなり無理がきき応用性に富むことから、よく用いられる。 特に、セルハーベスターやブロッティング操作でRIを濾紙(ガラス繊維濾紙を用いると後に透明化する)に吸着させ、十分に乾燥後、標準シンチレーターを加えた系では、自動的な絶対濃度測定はできないものの、かなりの計数効率で測定が可能である。
 この場合、3Hを吸着させた濾紙をまげて入れた場合や裏返して入れた場合でも、計数に差は生じない。 なお、乾燥の過程を経ずに、次に述べる乳化シンチレーターを不均一法に用いた場合、計数効率が低くなるほか、含水量によっては測定ができない条件があるため注意する。

c.乳化法(emulsion   counting)
 水分を含む試料を乳化シンチレーターを用いて測定する。 非イオン性の界面活性剤が乳化剤として含まれ、水をミセル構造とする。 ミセルの大きさは10nm前後であり、 3Hのβ線の飛程に比べて十分小さいことから自己吸収による影響も無視できる上、均一法に比べてかなり多量の水をシンチレーターに入れることができるため、水溶液試料の測定では最も一般的な方法である。 乳化剤としては、Triton-X100 が有名で、標準シンチレーターに対し、2:1の割合で混ぜたものは水を最大30%程度まで乳化させることができる。 ただし、水分が5%未満の場合、乳化がおこらず2層に分離し測定できない。 試料容量が少ない場合には、乳化シンチレーターの量を減らすとよい。
 

    
                                     表3−2 液体シンチレーション・カクテル一覧

a. 標準シンチレーター(脂質を溶かす均一法、あるいは不均一法用)
   

溶  媒 第 一 溶 質 第 二 溶 質
キシレン PPO                          4-6g/l

POPOP                0.1-0.2g/l

またはジメチルPOPOP    0.2-0.5g/l

またはbis-MSB           0.3-1.0g/l

キシレン PBDまたはブチルPBD 7-10g/l PBBO        0.4-0.7g/l

  備考:このほか、溶媒としては、トルエン、プソイドクメンなどが用いられる。 
        また、2種類の溶質を高濃度溶液にしたものも市販されている。

b. 親水性シンチレーター(ごく少量の水を含むことができる、均一法用)
                                                                                

溶  媒 溶解補助剤 溶質(第一,第二) 水保持量
キシレンなど 0.6 l

メタノール

エタノール

セロソルブ

メチルセロソルブのいずれか 0.4  l

PPO   6g/l,POPOP   0.1g/l

 

<5%

またはPPO   6g/l,ジメチルPOPOP    0.2g/l

<5%

またはブチルPBD  10g/l <5%

 

c. 乳化シンチレーター(水溶液乳化法用)
                                                                               

溶媒  溶質(第一,第二) 乳化剤 水保持量
キシレンなど  65-70%

PPO   4g/l

POPOP    0.1g/l

ポリオキシエチレンオクチルフェニルエ-テル

(Triton X-100)など  35-30%

5〜30%

  備考:溶媒,溶質,乳化剤を混合したものが Insta-Gal,  Aquasol,  ACSUなどの名で
       多数市販されている。
 

(4) 試料容器(バイアル)と試料量

 標準バイアルは、容量20ml(ラージバイアル)または容量7ml(ミニバイアル)珪ホウ素(低カリ)ガラス製で、アルミ箔のパッキンつきである。 これは、300〜500nmの波長の光をよく透過し、また、天然のRI(4 0Kなど)の含量が少ない。
 ポリエチレン製のバイアルも市販されていおり、バックグラウンドがさらに低いが、キシレンに対して浸潤性があるため洗浄しにくく、廃棄物が多量に発生し好ましくない。 ただし、チェレンコフ光を測定する場合は、ポリエチレンバイアルのほうが適している。 これは、標準バイアルよりもポリエチレンバイアルのほうが透過できうる短波長側の限界が短く、チェレンコフ光(シンチレーターの蛍光よりも短波長側)が計数されやすいためである。
 初期の液体シンチレーションカウンターでは、バイアル容量のおよそ半分ほどのシンチレーター試料がないと正確な計数ができなかったが、現在使用されている機種ではラージバイアルで2ml以上、ミニバイアルで 0.5 ml以上あれば問題なく測定できる。 新型の機種では ラージバイアルでも 0.5 ml以上あればよく、バイアル内に、シンチレーター試料のはいったポリ製のマイクロチューブを入れて測定しても正確に(dpmまで)測定できる。 有機廃液を減らすためにも、シンチレーター量は試料に合せて必要最小限にすべきである。

5.γーカウンター

(1) オートウェル

 γ・X線放射核種は試料の自己吸収の影響が少なく、試料の調製が容易なので、オートウェルγ−カウンターによる測定がよく行われる。 これは、井戸(ウェル)型の固体シンチレーターに試料のはいった試験管を自動的に差し込んで測定するもので、固体シンチレーターとしては NaI(T l)
すなわち少量のタリウムを含むヨウ化ナトリウムの単結晶シンチレーターが用いられている。

 測定の流れは次のようになる。

γ・Χ線のエネルギー
(低い場合) (高い場合)
  ↓   ↓
主に光電子の発生 主にコンプトン電子や電子対生成による電子の発生
  ↓   ↓
井戸型固体シンチレーターの励起と蛍光の発生

光電子倍増管(フォトマル)による電気的パルスの発生

波高選別器で分けて集計
(マルチチャンネル分析器があると、分布全体の様子がわかる)

 
 γ・X線の透過力はエネルギーが小さいと弱くなるので、弱いγ・X線を放出する125Iなどでは自己吸収や管壁による吸収が無視できなくなる。 従って、試料の形状・液量や試験管の種類は一定にしておくことが望ましい。 また、多サンプルを同時に測定する機種は測定時間が節約でき能率は高いが、ウェル(検出器)が小型になるため、γ・X線が固体シンチレーターを素通りする割合が増え、計数効率は低くなるという欠点がある。
 γ線や特性Χ線のエネルギーは核種ごとに決まった値をもち、線スペクトルを示すが、シンチレーターの蛍光を励起するのは、二次的に生じた光電子やコンプトン電子・電子対生成による電子であるため、蛍光波長分布(パルス波高分布)は実際には連続スペクトルを示す(図3−3)。 そのうちピークとなるのは、光電子によるもので光電ピークと呼ばれる(1回の壊変で同時に2つのγ線を放出する場合は、光電ピークが重なって、2つのエネルギーの値の合計のところにサムピークと呼ばれるピークができる)。


      

                          図3−3 γ線によるパルス波高分布

(2) アニマルカウンター

 動物臓器など、大きな試料の測定用に作られたγカウンターで、オートウェルと同様、固体シンチレーターをそなえたシンチレーションカウンターの一種である。 マイクロスフェアを用いた動物実験など、高レベル測定用に調整(特注)したものであり、血流解析ソフトウェアも付属している。 また、マルチチャンネル分析器があり、複数γ核種の同時測定が可能である。

 
6.イメージングスキャナー

 RIのデンシトメーターのようなものであり、ガスフロー型測定器である。 薄層ゲルあるいはメンブランなどに分離されたRIの密度を、1レーンずつ同時測定するものである。 レーンのどの位置で放射線が飛んだかは、電気回路によって256分割して測定する。 PRガスを利用した比例計数管であり、分解時間が短い。
 3Hの測定に際しては、検出部をできるだけゲルに近づけたほうが位置分解能が上がるだけでなく、計数効率も良いが、接触させて検出部を汚染させないように注意する。
 32Pの場合は、β-線が斜めから検出器へ飛び込むのを防ぐため、コリメーターを使用する 必要がある。
 レーンを少しずつずらして測定することにより、2次元のスキャンも可能であり、専用のソフトウェアも付属しているが、測定にかなり長時間を要する。

7.ラジオ液体クロマトグラフィー

 高速液体クロマトグラフィーにシンチレーション検出器を付属させたもので、検出器のセルを交換することにより、液体または固体シンチレーターが利用できる。
 CaF(フッ化カルシウム)固体シンチレーターのセルを用いると、全サンプルを回収可能だが、RIの吸着が起こりやすいため長期間は使用できない。 また、CaFは若干水溶性であり、酵素などにに毒性を示す場合もある。 公称で、14Cを40%以上、3Hを3%以上の計数効率で測定できる。
 流路をスプリッターで2つに分け、片方を回収用フラクションコレクターにつなぎ、もう片方を液体シンチレーターと高速混合して自動測定した場合、公称で14Cで65〜95%、3Hで15 〜55%の計数効率で測定が可能である。 使用する液体シンチレーターは、試料とすみやかに混合されるものを選定し、流速やセルの容量等の条件を決める必要がある。 また、グラジェントやステップ溶出の場合は、途中でクエンチングの程度に変化が起こることもあるので、必要ならば補正する。

8.ラジオガスクロマトグラフィー

 ガスクロマトグラフィーに、前処理用の酸化還元管とGM計数管とを付属させたものであり、比較的低分子の生体成分の分析に適している。 分離後の3Hあるいは14C標識化合物を含む ガスを、酸化還元管中で加熱して3H2ガスおよび14CO2ガスとしたのち、Qガスと混合して 計数する。 計数効率を上げるため5本の計数管が並んでおり、時間差の補正を行なったのち加算するようになっている。 計数効率は3Hで約20%以上、14Cで約40%以上で ある。


 
9.個人被曝モニター

 個人被曝線量の測定にはフィルムバッジが常用される他、ポケット線量計・半導体線量計等も併用される。

(1) フィルムバッジ

 フィルムバッジは写真フィルムを適当なケースに入れて着用し、フィルムの黒化濃度により被曝線量を測定するもので、これは機械的に丈夫で小型軽量である。一ケ月間の被曝線量を測定し、個人の被曝歴のデータを得る。
 測定できる放射線は、Χ・γ線および500keV以上のエネルギーのβ-線であり、0.1mSv以 上の被曝が測定できる。

(2) ポケット線量計および半導体線量計

 作業中に被曝量が確認できるものに、ポケット線量計や半導体線量計がある。
 いずれも、約100 k eV以上のエネルギーのγ線の測定が可能であり、強いγ線源やβ+線源を用いる実験の際には、フィルムバッジと併用するのがよい。
 ポケット線量計は小型の電離箱で、片方の電極に小さな検電器をつけたものである。 使用前に専用充電器を用いて、指針がゼロ近くになるように電圧をかけておき、目盛を読み取る際には明るい方向へ真横から見る(ななめにすると指針が変化する)。 最小目盛は5mremす なわち50
μSvであり、最大目盛は100 mremすなわち1mSvである。 ポケット線量計はショックに弱く、また長時間使用すると自然放電がおこるので注意する。
 半導体線量計はデジタル表示で見やすく、最小目盛は1μSvのものと 0.01μSvのものがある(後者は環境放射線も測定できる)。 電池駆動式なので、使用後はスイッチを切り忘れないようにする。
 1 2 5Iが測定できる半導体線量計もあり、約30keV以上のX・γ線が測定できる。 ヨード化実験などの時に併用するとよい。 最小目盛は1μSvである。
 

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