実践的な院内感染対策(CDCガイドラインを参考にして)

県西部浜松医療センター
感染症科
矢野邦夫

最近、院内での結核感染や針刺し事故によるHCV感染など数多くの院内感染が報道されている。その影響もあってか病院感染対策の重要性が認知されてきた。多くの病院では既にICD(Infection Control Doctor)が活動を始めているが、解決すべき問題が莫大であることを知り、呆然としているのが現状である。また、病院感染対策を向上させようとする努力がコスト増につながり、病院の経済を圧迫してしまうという問題にも直面している。確かに、厳しい不景気である昨今の病院経済を考えると、それらの実行が困難であるのも事実である。
従来より病院感染対策の向上のためには相当額の費用を要すると思われてきた。それは保険請求できない器材の購入が必要であることが多く、そのまま病院コストの増加につながったためである。この様なコスト高への不安により病院感染対策は遅々として進まなかった。しかし、最近の病院感染対策へのEBMの導入により、この様相は一変した。すなわち、病院感染対策の向上によってコストが大幅に削減できることが明らかになったのである。経験的あるいは習慣的におこなわれてきた感染対策を見直せば、無駄で意味のない対策の中止が可能となる。病院感染対策は病院全体における対策であるため、小さな見直しであってもかなりのコストが削減される。そして、無駄な対策の中止によって得られた費用を必要な対策に用いるといった「費用の再配分」が可能となる。病院の感染対策を向上させるためには、経済効率を考えなければ成功しない。そのためには感染対策にEBMを持ち込む必要がある。
本講演では県西部浜松医療センターでの病院感染対策を例に挙げてCDCガイドラインを紹介したい。病院感染対策を強力に押し進めるために実行すべきことは、@病院経済を常に認識して経済効率を追求しつつ、AEBMに基づいた科学的な対策を立案し、Bそれらの対策が病院全体で確実に実施できるように職員にその対策の必要性を説明して理解してもらうこと、であると思われる。