重粒子線治療- 新しい膵臓癌治療の試み

膵臓癌の切除後の5年生存率は全国調査では17.5%と不満足な成績であります。 この現状を打開するために、大動脈周囲や主要血管周囲のリンパ節のみならず神経叢までをも含めた徹底的な廓清術を行う拡大手術が行われる傾向にあり、切除率は向上いたしました。しかし、肉眼的には治癒するのではないかと考えられても、膵癌の裏側の後腹膜に微少癌の遺残が見られる症例もあり、局所再発と肝転移が再発の50%を占め、これが予後を悪くする主要因と考えられております。
微少癌の遺存に対して放射線療法も試みられて来ましたが、従来のX線照射では充分な治療効果をあげつことが出来ませんでした。その理由としては、周囲の消化管、肝臓、腎臓、脊髄など比較的耐容線量が低い臓器と、消化管、胆管、残存膵の手術吻合部を照射野から外すことが困難なため、十分量の放射線を病巣に集中させることができなかったことがあげられます。
一方、重粒子線治療では、高エネルギーX線治療による通常の放射線治療とは異なる特徴があります。(図 a.)

X線は人体を通過してしまいますが、重粒子線では標的に応じた深さで止めるとことが可能で、そこより深部の線量をほぼゼロにすることができます。停止直前に線量が最大となるという特徴を有し標的領域における線量と生物学的効果の両方が通常のX線照射よりも高く大きな効果が期待されます。(図 b)

現在は、治験段階ではありますが、重粒子照射を手術前に行い、それにより病変を閉じこめ、あるいは、周囲の神経浸潤やリンパ節転移を治療したのちに、切除を行うことを始めております。 実際、重粒子線照射が有効でDown Stage
が見られる症例を経験しています。(図c,d,e)