第35回甲状腺外科研究会 |
本研究会は創設以来、外科的甲状腺・副甲状腺疾患の診断・治療において,わが国の医学・医療をリードしてまいりました。外科の診療が関与する分野ではどこでも同じでしょうが、この分化した医療社会では外科医だけで対処するのは全人的に患者さんを診ているとはいえません。少なくとも甲状腺・副甲状腺疾患では多くの疾患が内科系、外科系の分野に関与しており、内分泌内科医・放射線科医、病理医、基礎学者などとクロストークすることで、特殊化と普遍性を併せ持った総合診療とダイナミックな有機的研究が可能になると考えております。 甲状腺疾患の臨床と基礎を取り扱った学会として日本甲状腺学会があります。日本内分泌学会の分科会であり、内科医中心の学会です。国際的にみてもレベルは高く、私も大いに勉強させていただいております。 浜松で行うことは私たちにとりましてはかなりの不便を感じました。しかし、幸いにも私は日本内分泌学会と日本甲状腺学会の理事を兼ねていることもあり、内科系の先生方から大きなご理解をいただきました。 こうして両学会併せて約700名の参加者が各科にまたがる疾患、たとえば甲状腺腫瘍、バセドウ病、副甲状腺機能亢進症亢進症などについて、討論することができ、かなり大陸横断的なコンセンサスがえられました。従来の、同じメンバーによる同じ視野から見た蒸し返し的な議論とは一味違う僅かかもしれませんが新しい進歩がみられたと考えております。読者の先生方には内科の学会でも、外科の学会でも相手方の先生を演者とした討論会はたくさんあると思われるかもしれませんが、両者が同じ土俵で対等に討論できる機会はあまりないと思います。 ところで、折角の同時開催ですのでもう少し実りのあることを考えました。その一つに「Telecommunicationによる遠隔診療」があります。今回は「超音波の遠隔診断」と最近急速に発展してきました低侵襲性手術の一つであります「内視鏡下甲状腺切除術」をlive demonstrationいたしました。超音波検査の診断能力は近年、機器の進歩とともに飛躍的に進歩してきましたが、CT・MRI検査と違い術者の技術に依存する部分が多分にあります。在宅医療、緊急診断などにリアルタイムでの的確な診断は今後必要となってきます。また、それに伴い細胞診、術中迅速病理診断によるtelepathology(遠隔病理診断支援)も可能となります。日本では外科病理診断の専門医は少なく、地域によっては必須のシステムとなりつつあると考えております。 また、手術のlive demonstrationは外科領域では今や決して目新しいものではありませんが、完全内視鏡による甲状腺切除術(腋窩アプローチ)は革新的なものです。私たちは「内視鏡下甲状腺切除術(帝京大学手術室より放映)」の現場を学会場にライブで放映しました。 日本甲状腺学会の会員のご参加により、甲状腺の診療・研究に携わる多くの方が一同に参集するため学術効果がより一層高まったことは申すまでもありません。また、本研究会は浜松の地であるにもかかわらず、過去最高の171題の演題が集まり、甲状腺・副甲状腺に従事する、または従事しなくてはならない外科系医師が多いことも分かりました。今後とも専門性を維持しつつ、幅広い視野でそれぞれの疾患を研究、診療していく心構えが必要であると、初心に返り痛感いたしました。 さて、この甲状腺外科研究会は今年、大きな計画を掲げました。その最も大きい計画は、本研究会が施設代表制から個人会員制に移行することです。 |