第35回甲状腺外科研究会
2002年11月21日(木)・22日(金)
番世話人:高見 博

 

 本研究会は創設以来、外科的甲状腺・副甲状腺疾患の診断・治療において,わが国の医学・医療をリードしてまいりました。外科の診療が関与する分野ではどこでも同じでしょうが、この分化した医療社会では外科医だけで対処するのは全人的に患者さんを診ているとはいえません。少なくとも甲状腺・副甲状腺疾患では多くの疾患が内科系、外科系の分野に関与しており、内分泌内科医・放射線科医、病理医、基礎学者などとクロストークすることで、特殊化と普遍性を併せ持った総合診療とダイナミックな有機的研究が可能になると考えております。

 甲状腺疾患の臨床と基礎を取り扱った学会として日本甲状腺学会があります。日本内分泌学会の分科会であり、内科医中心の学会です。国際的にみてもレベルは高く、私も大いに勉強させていただいております。
  しかし、この学会に参加すればするほど、内科系医師だけで腫瘍やバセドウ病を論じていても片手落ちであると考えを強めました。一方、甲状腺外科研究会は専門性の極めた高い学術集会でありますが、限られた同じグループで毎年討論していても効果的ではありません。
したがって、本研究会で初めての試みとして第45回日本甲状腺学会(会長 浜松医科大学第2内科 中村浩淑教授)と浜松で同時開催することを試みました。

 浜松で行うことは私たちにとりましてはかなりの不便を感じました。しかし、幸いにも私は日本内分泌学会と日本甲状腺学会の理事を兼ねていることもあり、内科系の先生方から大きなご理解をいただきました。
  また、日本甲状腺学会の紫芝良昌理事長、中村浩淑会長の大きなご支援、ご協力を戴きましたことは大変に幸運に感じております。ひとつの参加章で隣り合わせの他学会に自由に入ることができるようにしました。

 こうして両学会併せて約700名の参加者が各科にまたがる疾患、たとえば甲状腺腫瘍、バセドウ病、副甲状腺機能亢進症亢進症などについて、討論することができ、かなり大陸横断的なコンセンサスがえられました。従来の、同じメンバーによる同じ視野から見た蒸し返し的な議論とは一味違う僅かかもしれませんが新しい進歩がみられたと考えております。読者の先生方には内科の学会でも、外科の学会でも相手方の先生を演者とした討論会はたくさんあると思われるかもしれませんが、両者が同じ土俵で対等に討論できる機会はあまりないと思います。

 ところで、折角の同時開催ですのでもう少し実りのあることを考えました。その一つに「Telecommunicationによる遠隔診療」があります。今回は「超音波の遠隔診断」と最近急速に発展してきました低侵襲性手術の一つであります「内視鏡下甲状腺切除術」をlive demonstrationいたしました。超音波検査の診断能力は近年、機器の進歩とともに飛躍的に進歩してきましたが、CT・MRI検査と違い術者の技術に依存する部分が多分にあります。在宅医療、緊急診断などにリアルタイムでの的確な診断は今後必要となってきます。また、それに伴い細胞診、術中迅速病理診断によるtelepathology(遠隔病理診断支援)も可能となります。日本では外科病理診断の専門医は少なく、地域によっては必須のシステムとなりつつあると考えております。

  また、手術のlive demonstrationは外科領域では今や決して目新しいものではありませんが、完全内視鏡による甲状腺切除術(腋窩アプローチ)は革新的なものです。私たちは「内視鏡下甲状腺切除術(帝京大学手術室より放映)」の現場を学会場にライブで放映しました。
  外科の先生には手術に対するコンセプトや細かな技術の表裏までをありのままに示し、ありのままの姿で討論をしました。内科系の先生には手術の実際を肌で感じ取っていただき、今後患者さんに手術を紹介する時の一助になっていただければと思いました。
  ともに手術,検査の現場を生で会場に放映するlive demonstrationであるため、その出来加減もさることながら、現場にいる方々の人間模様まで描写できたと考えております。ちなみに巧みに編集したビデオ映写とは臨場感という面では格段に違い、生きた診療を論じるには最高の手段と考えております。これらのライブを行うにあたり、多くの方々の支援については深く感謝いたしております。

 日本甲状腺学会の会員のご参加により、甲状腺の診療・研究に携わる多くの方が一同に参集するため学術効果がより一層高まったことは申すまでもありません。また、本研究会は浜松の地であるにもかかわらず、過去最高の171題の演題が集まり、甲状腺・副甲状腺に従事する、または従事しなくてはならない外科系医師が多いことも分かりました。今後とも専門性を維持しつつ、幅広い視野でそれぞれの疾患を研究、診療していく心構えが必要であると、初心に返り痛感いたしました。

 さて、この甲状腺外科研究会は今年、大きな計画を掲げました。その最も大きい計画は、本研究会が施設代表制から個人会員制に移行することです。
  本研究会が設立された当初は「甲状腺外科」の臨床・研究のレベルは他の外科の分野に比べると未熟であり、参加施設を限定し、その施設には甲状腺外科の発展のために大きなお願いをしてまいりました。幸いなことに、現在の日本における甲状腺・副甲状腺外科は決して世界に引けをとることなく、立派な地位を築いてまいりました。それもこの35年間における諸先輩、諸施設のご努力の賜物と考えております。
  しかし、今後は甲状腺・副甲状腺外科のさらなるレベルアップをめざし、日本外科学会のsubspecialtyの立場を明確にし、専門性を高めるとともにこの分野の臨床を広く浸透・普及していく必要があると思います。
  臨床・研究の根源は個人が基盤になっているわけですから、学術集団の個人会員はあるべき姿と考えます。個人の地位が明確にされ、多くの方々に賛同が得られたならば研究会から学会への移行が検討されます。今後は外科領域において臓器別に切磋琢磨してまいりました各学会との足並みをそろえ、甲状腺・副甲状腺外科の専門性と普遍性を広く認知していただくよう努力いたす所存でございます。