私たちの内分泌外科専門外来を

受診されるにあたって

 

──内分泌外科の歩みと最近の動向──

 

内分泌外科というと、すぐに「甲状腺の手術ですね」というほど、臨床面では甲状腺が代表格となっております。また、温故知新という面からみますと、甲状腺切除の試みはヒポクラテスの時代に始まっております。出血が多く「致命的な屠殺行為」といわれていた甲状腺手術が、幾多の試行錯誤の末、手術による後遺症から逆にその生理機能が解明され、安全に行われるようになったのはそんな昔ではありません。先駆者はあの胃手術で有名なビルロートとコッヘルであり、コッヘルは1909年外科医として唯一人「甲状腺の生理学、病理学および外科に関する業績」でノーベル賞に輝きました。新大陸では、甲状腺手術はジョージ・クライル(クリーブランドクリニック)、チャールズ・メイヨー(メイヨークリニック)、フランク・レイヒ(レイヒクリニック)がリードし、現在、アメリカで3大クリニックとして頂点に立っているその基盤を作りました。


本邦では、一般消化器外科は主に形態を基盤に、手術の安全性、根治性を求めて発展してきました。
しかし、内分泌外科では、その臓器がもつ特有な機能の回復、正常化を追求して進歩してきました。すでに昨今いわれていality of life も早くから求められており、それも内分泌疾患ならではの結果だと思います。欧米では内分泌外科学会が設立され久しく、きちんとカテゴリーが確立されておりますが、日本でまだ10年余のキャリアしかありません。ですから、内分泌外科の日本のレベルは残念ながら欧米よりはるかに低く、特に研究面では大きく水をあけられているのが現状です。その原因として、内分泌外科の歴史の違い、医師の認識度の差による症例数の違い、などがあげられますが、それにもましてサイエンス(科学)とアート(技術)をうまくハイブリットさせ、医療総論という概念の基で医療水準を高めていく土壌が日本には欠けていることも関連していると思います。

内分泌外科の対象は甲状腺、副甲状腺(上皮小体)、副腎、膵ラ島腫瘍、カルチノイドなどがあります。以前は甲状腺を除けば比較的珍しい疾患でありましたが、最近ではホルモン測定法や画像診断法が進歩し、症例も増えてきました。また、稀であるゆえに多くの検査を行うというイメージを脱脚し、非侵襲的に効率よく、cost-effective に行うようになりつつあります。治療も患者個々の状況をふまえ、個別化させることで、患者にとって満足度の高い、よりエレガントな臨床を行う風潮にあります。

 

──当院における内分泌外科外来──

 

本院の内分泌外科外来は、主に甲状腺、副甲状腺、副腎の疾患を扱っています。

甲状腺ではすぐにバセドウ病が頭に浮かぶと思いますが、アイソトープ治療が復及してから外科医の手を離れつつあります。やはり主流は腫瘍です。良性腫瘍は年間約200人以上扱っておりますが、そのうちで手術を行うものは腫瘍が巨大なもの、癌化の可能性があるもの、美容上問題のあるものなどです。悪性腫瘍では甲状腺の癌は予後が一般に良いといわれていますが、一部にはすぐに再発し処置に難渋する症例もあります。

そこで、この癌の生物学的悪性度を考えて拡大手術、縮小手術を選択しています。その判定には術前の腫瘍の進行度などの他に、細胞診所見、分子生物学的検索を行っております。特に、分子生物学的検索は細胞診で採取した数100個の癌細胞を用いて、少量のDNAでも数百倍に増幅できるPCR(Cpolymerase chain reaction)で分子量21,000の蛋白をコードするras遺伝子検索をしています。患者個人の個別化された治療を取り入れた結果、むやみな拡大手術は減少し、根治性を損なうことなく頚部運動機能などを温存するという、相反する面の相対的評価の向上に役立っていることは確かです。現状では癌の手術の入院期間は約1週間で、退院翌日より仕事はできます。声がかすれる、でにくくなる、食べにくくする、などという症状は進行癌で意図的にその部を切除せざるをえなかった症例を除き殆どありません。

副甲状腺(上皮小体)機能亢進症は、原発性と腎性に大別できます。原発性副甲状腺機能亢進症は再発性腎尿管結石、骨・関節痛などを主訴として、それぞれ泌尿器科、整形外科、内科などより紹介されてくるものが多いです。日本では比較頻度が少ないのですが、医療サイドの認識不足もあるようで、高齢者の骨間接症状の中にはかなりこの症例が含まれていると思います。最近の画像診断の進歩の恩恵をもろに受けており、超音波、CTMRIで腫瘍の局在診断は約85%可能となりました。入院期間は1週間以内です。腎性副甲状腺機能亢進症は長期血液透析患者にみられ、透析による高度の繊維性骨炎をおこし、骨・関節痛に苦しんでいる患者を対象としています。当外来は原発性、腎性ともに日本の中では症例の多い施設としてトップクラスにランクされています。腎性の手術は副甲状腺全滴・自家移植という新しい術式を用いて、術後の自・他覚症状改善も著しく、患者から感謝されています。すべての患者は術後、透析施設でケアーされ、かつ大きなハンデキャップを背負っているため、医療には細心の心遣いが必要であり、それが各地の透析センターから紹介を受ける結果となります。副腎疾患は外科的高血圧を示す症例が対象になります。本疾患はまさに最近進歩したホルモン測定法と画像診断法に依存しており、その結果手術適応も的確になり、手術も安全、侵襲も少なくなりました。過剰ホルモン分泌の是正が目的であり、副腎個々に焦点を合わせるより全身疾患としてホルモンの及ぼす影響をとらえていく必要があります。

最後に、内分泌外科ではホルモンのコントロールを目的としているため、全身疾患の一部分症として考えていかなければなりません。さもなくば、過剰ホルモンによる併発症を見過ごしてしまうからです。考えていた以上に該当する患者が多いことに気ずかれると思います。生活の質が向上し、より高度な健康を求めるようになれば、欧米のようにさらに患者は増えることでしょう。

 外来日は水曜午前で、月曜午後は予約制です。