Previous
一般演題:[病態生理]   5月 13日 09:00〜09:50(第1会場)
【 座長 】 島津 岳士  (大阪大学救急医学)

演題番号:A004 雷撃傷における内臓破裂(ラットの腹壁表層損傷を伴う肝臓と脾臓の破裂)
大橋 正次郎、露木 晃、菊池 潔
東京電力病院、外科、研究室
【目的】 法医学の記述に「落雷の直撃では頭蓋骨などの粉砕骨折や内臓破裂をきたすこともあり、他の原因による死亡と誤診されることもある」とある。当院では1997年までの33年間に落雷9件による雷撃傷16名を診療し、DOAと見なされた1名の剖検では内臓破裂を認めなかった。この他に落雷60件による死亡54名と負傷172名を調査し、この54名に剖検例はないので断定できないが、内臓破裂を思わせる記述は認めなかった。今回ラットの放電実験において腹壁の表層性の損傷を伴い、開腹によって上部腹腔内出血と肝臓または脾臓に肉眼的破裂を認めたので報告する。

【方法】 体重200g程度のウイスター系ラット8匹を、ペントバルビタールナトリウム50mg/kgの腹腔内注射で麻酔し体表前面の毛を刈り、血圧は右股動脈へ生食水を満たしたポリエチレン管を挿入し、トランスデューサを介して連続モニターした。呼吸は新生児の血圧測定用マンシェットを季肋部に対応した背部にあて、該部の呼吸運動をトランスデューサを介して連続モニターした。心電図は放電前後に両前肢の針電極からテレメーターで記録した。放電は下顎部と左後肢部のクリップ電極間の腹側に起こる様に、約100kVの波高値の人工雷を両クリップ間に加えた。放電後の腹壁と開腹の所見を比較した。予備実験で腹壁の水分の存在が内臓破裂を起こし易い傾向を認めたので、0.9%の食塩水に浸した梯形の吸取紙を腹壁へじかに張り付け、呼吸測定用マンシェットと共にラットの躯幹へ包帯で固定した。

【結果】 8例とも両電極間の腹側体表面に沿う放電火花に対応して、線状または細いリボン状のI度熱傷を認め、浅い小潰瘍を伴う2例は上部腹腔内出血を伴う肝臓の肉眼的破裂を認め、I度熱傷のみの1例には上部腹腔内出血と脾臓の肉眼的破裂を認めた。残り5例中1例には上部腹腔内出血を僅かに伴うも肝と脾に肉眼的破裂を認めなかった。他の4例には腹腔内出血を認めなかった。モニター上は全例が通電の心肺停止による即死と判定された。

【結論】 この実験的な肝・膵の破裂の原因は、約3000Aの波高値の放電電流の大部分が、腹側体表面に沿う放電火花となって発生する爆風(衝撃波)による鈍的打撲の為と考えられた。

Previous