一般演題:[気道熱傷]
5月 13日 09:50〜10:30(第1会場) 【 座長 】 井砂 司 (東京女子医科大学形成外科) |
演題番号:A008 | 気管気管支の全周性肉芽形成により呼吸不全死した気道熱傷の1症例 |
岸川 政信、林 明宏*、森 一功**、丸岩 昌文、田中 博也,、坂本 照夫、加来 信雄 | |
久留米大学高度救命救急センタ−, 同大学外科*,同大耳鼻咽喉科** | |
症例は52歳 男性。 平成9年2月23日、火災現場で飲酒状態でいびきをかいて寝ているところを救出され、近医へ搬送。顔面2%のDDBを含め合計11.5%の熱傷(Burn Index 8.5)と気道熱傷を認めたため、気管内挿管後、当センターへ受傷の約2時間後に搬入となった。 搬入時、意識レベルJCS 1、脈拍107、血圧134/76mmHg、体温35.6度。RBC 565x104、WBC 14100、FIO2 1.0での動脈血ガス分析はpH 7.249、PaCO2 38.9 mmHg、PaO2 504.9 mmHg、BE -9.9。気管支鏡検査では喉頭から気管・気管支にかけて煤が付着し、粘膜の発赤腫脹および糜爛を認めた。 第3病日より気管気管支に偽膜の形成を認め、第6病日より偽膜の脱落が見られ始めた。壊死粘膜の脱落後は易出血性で、気道出血による凝血塊が気道を塞ぐエピソードが数回起ったため第9病日に気管切開術施行。第16病日に顔面、両手、右下腿の熱傷部デブリードメントおよび植皮術を施行。この頃より、気管の全周性肉芽形成が目立ち出し、人工呼吸器管理下においてもPaCO2が上昇し始め、1ヶ月後より、PaCO2は60mmHg を越えるようになった。第 48病日にPaCO2 144 mmHgと急上昇したため、PCPS(経皮的心肺補助装置)を緊急装着した。この時点では気道内の炎症性肉芽による全周性狭窄が気管全体、および右主気管支、中間気管支と左主気管支に進行して認められた。また喉頭鏡下には、左右の声帯が癒合したかに見え、声門は確認できなかった。第 51病日、cricotomyによるtrough作成術を行った上で気切孔部の気管から両主気管支にシリコンダイナミックステントを挿入。翌第52病日には左主気管支末梢側に金属ステントを追加挿入。これらの処置により呼吸状態は一旦改善し、PCPSを第55病日に離脱できた。ところが右主気管支末梢側の肉芽による狭窄が進み、第57から59病日にかけて、同部に対し合計3本の金属ステント挿入を余儀無くされた。しかし、左右気管支の金属ステント部、及びその末梢側の狭窄を改善できず、気道内圧を50cmH2Oまでかけても1回換気量が200mlを保てなくなったため、第67病日よりHFJVを併用、一旦は換気量を1000mlまで得ることができるようになった。しかし、重篤な肺炎を合併。ステロイド パルス療法を施行したが、気管支の炎症性狭窄と肺炎は改善せず、第80病日頃より、PaCO2は再び130 mmHg以上の高値をとり、第83病日に死亡。解剖の結果、気管狭窄部はシリコンダイナミックステントにより狭窄を免れていたが、左上葉枝が完全閉塞、左ステント末梢部の狭窄、右ステント部の狭窄を認めた。それらよりさらに末梢の気管支では喀痰の貯留を認めたものの気管支粘膜はほぼ正常に近かった。本症例において致命的であった気管支の全周性肉芽の成因とその治療について考察する。 |