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一般演題:[症例報告]   5月 14日 09:40〜10:30(第2会場)
【 座長 】 木所 昭夫  (順天堂大学附属浦安病院外科)

演題番号:A053 化膿性脊椎炎を合併した広範囲熱傷の1例
江頭 通弘、迎 伸彦、中村 正也、西田 温子
北九州総合病院 形成外科 
  重症熱傷患者はいわゆるcompromised hostの状態にあるため,感染症は必発であり,容易に敗血症に進展しやすい。しかも全身状態の回復が思わしくないと慢性化し,身体各所での局所感染治療にも悩まされることになる。今回我々は,経過中に化膿性脊椎炎を併発し,急速な進行で下半身の完全麻痺を来した重症熱傷症例を経験したので報告する。

【症例】 症例は56歳男性。平成9年1月7日焚き火をしていて着衣に引火し,頭頚部,背部,両手,両下肢にDDB〜DB65%(BI 55)の熱傷を受傷した。1月10日から4月28日までに計8回の植皮術を施行し創面はほぼ閉鎖できたが,経過中に出血性直腸潰瘍,化膿性足関節炎,急性胆嚢炎,腎不全,MRSA肺炎等様々な合併症を来たし,全身状態の回復は思わしくなかった。7月13日両下肢の知覚がないとの訴えがあり,Th10レベル以下の完全麻痺を来していることが判明,CT,MRIによる精査の結果,Th5−6,8−9間の椎間板を中心とした化膿性脊椎炎と診断された。解剖学的位置や全身状態から菌の同定のための生検や積極的な外科的治療が行えず,他の部位での排菌状況からMRSAによるものと判断し,抗生剤による保存的治療を選択した。

【考察】 MRSA脊椎炎の特徴としては,1)compromised hostに多い 2)何らかの疾患の治療中に発生し,抗生剤が投与されている 3)膿,血液の他に胸水,喀痰からもMRSAが検出される などがあり,保存的治療が原則であるが,それに対して抵抗性で神経症状を合併し,椎体の破壊が著明である場合に外科的治療が施される。
  本症例でも,重篤で多彩な感染症を背景に,血行性に脊椎へ感染し発症したものと考えられるが,診断を得た時点ですでに神経症状が末期であったことは,治療上の反省点であると同時に,重症熱傷における深在性感染症の診断の難しさを認識させられた。

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