一般演題:[統計・疫学2]
5月 14日 11:10〜12:00(第2会場) 【 座長 】 黒川 顕 (日本医科大学附属多摩永山病院救命救急センター) |
演題番号:A065 | 熱傷医療の経済性 −熱傷患者の医療費の分析から− |
志賀 元、原田 輝一、井口 浩一、間藤 卓、森脇 龍太郎、堤 晴彦、小林 正幸、濱邊 祐一* | |
埼玉医科大学総合医療センター救命救急センター、都立墨東病院* | |
【目的】 熱傷患者の転帰ならびに医療費を分析し、cost-benefitの観点から熱傷の医療経済の問題点を明らかにする。
【対象・方法】 過去5年間に埼玉医科大学に入院した97例ならびに都立墨東病院に入院した111例を対象とした。これらの患者の転帰を分析するとともに、診療報酬明細書(以下レセプト)を調査できた109例を対象として、入院医療費について検討した。検討項目は、1)入院医療費:総額および日額平均、2)受傷原因と転帰別にみた入院医療費、3)熱傷面積及び転帰と医療費、4)査定率および診療行為別査定額などである。 【結果】 1)全208例の転帰:死亡48例、生存160例であり、生存例のうち、軽快退院142例、他院転院18例であった。2)保険請求点数は3055点〜1963304点(平均222239点)であり、重症度や入院日数により大きく異なる。3)熱傷面積と医療費(日額)は正の相関を示すが30%以上ではほぼ一定となる。4)50日以上の長期入院患者31例に限ると、入院医療費(総額)は平均522632点で最初の1ヵ月が315927点、2ヵ月目が116251点であった。5)長期入院患者の医療費を日額に換算すると平均4802点で全熱傷入院患者の日額平均4810点と差がない。6)受傷原因(事故か自殺か)と転帰(軽快か死亡か)により4群に分けて入院医療費(総額)の平均値を比較すると、自殺企図・死亡群(7例)が74489点で最も低く、事故・軽快群(73例)229030点、事故・死亡群(14例)342075点で、自殺企図・軽快群(15例)が414470点と最も高い。7)労災と自賠責を除いた保険請求の査定状況:月別請求総レセプトは210件(平均107164点)のうち査定を受けたレセプトは51件(平均213262点)で、高額のレセプトほど査定を受けやすい。8)査定率は3.5%(平均7529点)で、診療行為別にみると、輸液・薬剤58.6%、手術・処置料19.0%、生化学等検査料14.2%などとなっている。9)これらの医療費には、毎日のシャワー浴・包帯交換に要する膨大な医療資材や、MRSA陽性となった場合の、個室管理に伴うディスポ製品などは含まれていない。 【考察】 1)熱傷患者は、a)重症度が簡単表記可能、b)重症度と生命予後の相関が比較的明確、c)一定のプロトコールに従って治療が行われていること、などの理由により、経済性の検討には良いモデルであった。2)現在の医療水準で助け得る患者を失うことがcost-benefit上最も悪い。3)救命されたものの転院を余儀なくされる症例の長期予後は悪い。4)熱傷治療では、保険請求できないディスポ製品などの使用による損益と、保険請求上での査定という二重の損益が生じる。5)MRSAの蔓延、包交などに要する労働力など数字に現れない損益はもっと大きい。6)低医療費政策と医療資源の有効利用とは異なる。7)熱傷ユニットなど、患者を一つの病院に集める医療システムは、経済効率は良いが、当該病院にとっては負担が大きい。 【結語】 病院経営上のcost-benefitと社会的な医療経済の視点からみたcost-benefitは必ずしも一致しない。 |