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パネル1  5月 13日 16:30〜17:30(第1会場)
【 司会 】 菅又 章  (東京医科大学形成外科)
   鈴木 康治  (社会保険中京病院形成外科)

演題番号:P3 思春期に受傷した広範囲熱傷患者の10年間の援助を通して
田辺 幸子、大久保 初美、三ツ井 裕紀子、市橋 みゆき、渡辺 京、守谷 律子、熊谷 憲夫*
聖マリアンナ医科大学病院看護部、形成外科*
【はじめに】 我々は、16才時に、85%熱傷を受傷した女性患者の約10年間にわたる援助を経験した。長期の治療、精神的ケアによって障害を乗り越え社会復帰に至ったが、恋愛感情を機に自己認知の混乱を来した。この問題の解決を図る過程で発達課題の達成の重要性と、広範囲熱傷の長期的な問題について考える貴重な機会を得たので報告する。

【経過および考察】 16〜17歳(創閉鎖と、瘢痕を除去する段階)閉じこもりの患者に対し、同じ障害の患者の協力を得、外出できるようになった。突然の受傷に適応できる発達段階ではなかったので、この患者の存在がキーパーソンとして重要となった。
  17〜21歳(小さな部分の瘢痕除去の段階)家庭内の生活が中心だったが、キーパーソンと伴に活動の場を広げられた。自己の目標設定能力の不足に対し、意思の最終決定を他者に依存することでバランスをとり、社会復帰へ踏み出せた。 23〜24歳(整容的な修正を行う段階)外鼻形成を機に外見的なコンプレックスが排除され、大きな転換期となった。整容面に意識が向き、友人との交流も増した。自己の存在価値と目的を見出し、社会生活が営めていた。
  24〜26歳(細かい部分の修正の段階)社会復帰を果たし、自己同一性が芽ばえたが、異性に対し恋愛感情を持つことを機に精神的に不安定となる。様々な訴えと感情の乱れがあり、面談と外来でのフォローを繰り返した。しかし、訴えが非現実的内容となった為、カウンセラーへの受診を勧めた。これらの状況は問題解決能力の不足による無効なコーピング状態で、受傷前の発達過程の未達成が影響しており、熱傷患者としての自己確立が先行した事で、過去の自分との間で同一性の混乱を来したと考えられる。そして治療の限界が近づいた事が、存在価値と心のよりどころに対する喪失感へ大きく関与していたと考えられる。

【まとめ】 受傷後初期の受容段階では同じ障害を持つ患者の存在が効果的であったが、長期化のなかでは発達の阻害因子となった。また、長期治療の過程では、受傷前の心理的社会的発達の影響を受けるため、段階ごとに問題解決を図りながら発達課題を達成させる事が必要であり、これが充分に行われないと治療の限界が近づいた時、混乱が生じやすいと考える。

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