Teikyo-Harvard Program

Rothman教授からのメッセージ

読者の皆さんへ ケネス J ロスマン

 最近私は日本を訪れる機会がありましたが、そこで見た人々や地域の力強さに驚いたばかりでなく、日本で疫学研究が盛んなことにも驚き、かつ大変うれしく思いました。日本は次第に疫学研究の領域でもより大きな役割を果たすようになってきており、遠からず世界の疫学研究で主要な地位を占めるのではないかと思われます。

 今日、世界はますます小さくなり、変化のスピードは増大しています。その結果、健康上の新たな問題が発生するとともに、従来からある問題も深刻化し、人類の健康や社会資源を脅かしはじめています。私たちはこうした脅威に備えなくてはなりません。私はこの教科書で、できるだけ多くの人々に疫学の基本的概念を伝えようと試みましたが、それにはこうした脅威に立ち向かう人々に役立つようにという願いがこめられています。

 疫学的問題に取り組む際、私は常に簡潔直裁な方法による研究計画とデータ解析を好んで採用してきました。同じ理由で、疫学研究では不必要に複雑なデザインや数学的モデルで研究者や読者を振り回すのではなく、基礎となる道筋を押さえることの重要性を強調してきました。多くの疫学の教育カリキュラムでは、学生が率やリスクなど基本的な疫学指標についての初歩的理解すらできないうちに、多変量モデルの使い方を教えています。私は学生たちに基礎となる考え方を伝え、それを疫学研究の計画と分析の際の指針とするよう指導し、さらに読者がより複雑で時に怪し気な手法に出会ったときに、その適否を見抜くことができるような洞察力を持つことができるよう心がけてきました。本書の読者の中には、日本の疫学を担う次世代の疫学者や、彼らと関連領域でともに働く人々が含まれていることと思いますが、そういう方々にとって本書が有用な概念と手法のための確固たる基盤を与えるものとなることを願います。

 私は今年の夏、帝京大学医学部で開催される帝京―ハーバードセミナーに参加し、本書の日本語訳出版を記念して講演することになりました。本書の翻訳とこのセミナーが、日本や各地の疫学者の連携強化に貢献できれば幸いです

 2004年6月21日 マサチューセッツ州 ニュートンにて

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