7回帝京・ハーバードシンポジウム

2009626日(金)・27日(土)/帝京大学医学部附属病院 大講堂)

 

『ヘルシー・ホスピタル: 患者、医療者、社会が作る安心と信頼の輪』

The Healthy Hospital: Maximizing the satisfaction of patients, health workers, and the community

 

WHO2000年に「ヘルスシステムの達成度で世界一」の評価を与えたように、これまで日本は世界一の平均寿命と健康寿命を国民皆保険、受診の自由、そして相対的に少ない医療費で実現してきた。しかし世界に誇るこうした日本の医療と健康が、今大きな危機に瀕している。医療費は毎年上昇を続け、急速な人口の高齢化に伴い国民の有病率は高まり、医師患者関係の変化と医療技術の発展は医療に対する患者の要求や需要を増大させ続けている。

この需要の増大に対し、医師をはじめとする医療者の供給は厳しく抑制されてきたため、今医療者の疲弊は深刻なレベルに達し、それによる医師患者関係の悪化、医療事故、さらに医療訴訟につながっている。その結果、事故や訴訟の危険の多い産婦人科、外科、小児科等から医師が離れていき、それらの専門科を中心にした医師不足のため、数多くの病院が閉鎖を迫られ、地域医療の崩壊が急速に進行している。

こうした厳しい医療状況の最中である本年5月、帝京大学医学部は新しい病院を開設する。では今帝京大学医学部とその新しい病院には何が求められているのであろうか。医療機関として患者へのサービス、患者に満足される病院になることを目指すのは言うまでもない。しかしその実現が、単にそれに携わる医療者に献身を求め、医療者の犠牲を前提にするものであっては、決して長続きしない。医療者が健康で満足して働ける環境であってこそ、患者が満足するサービスを提供することができる。そのために個々の診療場面で、あるいは病院という組織で何が必要か、何ができるかを考えなければならない。しかし先に見てきたように、問題は大きく社会全体に背景がある。我々は個人の努力、大学や病院という組織の努力を惜しむものではないが、やはりその努力と併せ、社会全体として日本の医療の在り方を考えていくことが必要であり、そのために世界に知恵と情報を求めていくことが有用である。

帝京大学は1993年以来、米国ハーバード大学と提携し、学生や教員の交流、合同シンポジウム、セミナー等を開いてきたが、今回この帝京ハーバードシンポジウムの第7回目を、帝京大学の新病院の開院を記念して本年6月に開催する。テーマは「ヘルシー・ホスピタル」である。病を持って訪れる病院が「ヘルシー」というのは違和感があるかもしれないが、病院で病を癒し、健康を回復する過程と結果で患者が満足し、それを支える医療者も健康で満足して働き、病院の組織あるいは地域や社会全体の医療体制が持続的に発展できる健全なものである必要がある。WHO1986年オタワ宣言で、ヘルスサービスの再構築を訴えた。そこでは健康増進は個人、地域、医療職、医療機関そして行政の責任であり、健康を守り増進させるヘルスケアシステムの構築のためにそれらが共同で働くことの必要性を述べている。また健康増進のための医療保健以外のセクターの参加、社会的、政治的、経済的、物理的環境の整備を求めている。加えて、保健医療科学の強化と専門職の教育訓練の改善が強調されている。この考え方を取り入れ、このシンポジウムのテーマを「ヘルシー・ホスピタル:患者・医療者・社会が作る安心と信頼の輪」とした。

具体的な討論は3つのレベルで行われる。第一は医師と患者のレベルである。問診に始まる医師と患者の会話は診断の基本であるが、治療においても治ろうとする患者の主体的な努力を支え引き出すのは、医師と患者の会話が基本である。従来の医学教育で不十分であった医師の患者との会話の教育について論ずる。また旧来の知識伝達的な教育から、より患者の問題に即した実践的な教育が模索されているが、その実例として、ケースメソッドやシミュレーション教育を紹介検討する。

第二のレベルは病院組織である。帝京大学の新病棟は世界最先端の病院IT設備を備えている。この分野で先行するハーバード大学ブリガム病院やソウル大学の専門家を加え、これからの病院システムを議論するが、それは単に医療の効率化だけではなく、患者満足度を高め、医療者が自信を持って医療を行えるよう支えるためのシステム構築を考える。また病院システムの議論にはITだけでなく、患者の流れの分析と効率化、医療事故の分析と防止等々も含まれる。

第三のレベルは地域及び社会である。2008年北海道洞爺湖で行われたG8サミットは、保健政策が大きな柱であった。そこでは日本はある意味先進例としてその経験を提示するとともに、直面している新たな課題が話し合われた。現在、ハーバード大学と帝京関係者でこのG8会議の事後検証と今後の課題提示が話し合われているが、それを中心に、今大きな問題になっているわが国の医師配置と臨床研修制度、一度破綻してから復活した英国国営医療の現状、米国の新しい支払いシステムPay for PerformanceP4P)なども取り上げる予定である。

 

医療保健の現状に関心を持ち、その改善と発展を望むすべての人々の参加を期待する。

 

【日程】

第1部2009626日(金)午後

1.開会:冲永佳史 帝京大学学長、

2.基調報告: 矢野栄二

3.レベル1:「医師と患者」

 

第2部2009627日(土)午前

1.  レベル2:「病 院」

2.  新病院施設内覧

 

第3部2009627日(土)午後 

1.レベル3:「地域/社会」

2.記念講演:日野原重明 聖路加国際病院理事長

3.総括討論

 

【演者】※敬称略、現在検討中のものを含む

帝京大学:

矢野栄二、中田善規、中尾睦宏、竹内武昭、澤 智博、佐藤幹也、大嶽浩司、野村恭子、渋谷健司他

ハーバード大学

Ichiro Kawachi,  Daniel Raemer, Richard Siegrist, Gregory Fricchione, Lucila Ohno-Machado, Michael Reich

 他:

Elizabeth Hunt(ジョンズ・ホプキンス大)、Ju-Han Kim(ソウル大)、 Adam Oliver(ロンドン大学) 、石川ひろの(滋賀医大)

 

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