経済から医療へのゲートウェイとして

渡邉雄一さん (MPH2年コース修了)

私には保健医療や公衆衛生の分野での資格や実務経験が全くありません。大学を卒業後、政府系の経済機関で調査研究職をしていました。海外派遣で米国の大学院に留学中、ちょうどリーマン・ショックが起こり、未曾有の経済不況によって、多くの中間層が貧困層へ転落していく光景を目の当たりにしました。一方で、米国の経済学教育・研究の現場は複雑な理論モデルを解くことに終始していて、理論が現実をどれだけ説明できるのか、社会に有効な処方箋を提示できているのか、違和感を抱きました。

たまたま留学先の大学が医学や公衆衛生で有名であったことから、そこの学生や研究者らとの交流を通じて、学問的知見が実際に人間社会へ還元される重要性を再認識しました。そして、医療そのものには携われなくても、医療を取り巻く環境整備や社会経済システムの構築、制度設計などに研究の視点から貢献できないかと考えるようになりました。帰国後、医療・公衆衛生と経済学との接点を模索し、SPHの門戸を叩きました。

在学中にはコアとなる疫学や生物統計学をはじめ、行動科学や医療経済・政策学などを体系的に学ぶことができ、課題研究では「予防接種の医療経済評価」という全く初めての領域に取り組む機会に恵まれました。山形大学医学部で行われた実習では、現地のゲノムコホート調査で収集された膨大な生データ(健診結果や生活習慣アンケート、栄養素項目など)を使って、短期間のうちにリサーチ・クエスチョンを設定してデータ分析を行い、結果をまとめて発表まで行うという貴重な経験をさせていただきました。また、指導教員の行っている研究プロジェクト(手術医療の効率性分析)にも参加させていただき、データ分析や論文執筆の一端をお手伝いできたことも非常に貴重なトレーニングになりました。

卒業後は、医療経済学の分野での博士号取得を目指して日々奮闘中ですが、将来的には臨床の専門家や政策担当者らと協働して、研究・教育面で医療や公衆衛生の現場を下支えしていければと考えています。

PageTop