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【電撃傷 ???-???x?】21歳/男性 []

<現病歴> <来院時理学所見> <来院時検査所見> <経過> <コメント> 

【現病歴】

  9:30頃、電気施設検査中に配線(交流6600V)近く20cmに近づいたところ右手から左手にかけてしびれ感を感じ、1分後に意識消失して転倒した。職場のものが救急車を要請し搬入された。救急車到着時には、意識清明、BP 152/94、HR 126/min

  覚知  9:45
  現着  9:48
  搬入  10:07

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【来院時身体所見】

  意識清明、BP 140/80、PR 126/min、RR 30/min
  両手掌の母指球に電撃症による熱傷創(III度<1%)
  知覚障害、運動麻痺などは認められなかった。

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【来院時検査所見】

血算
RBC 529 x10^4/cmm(370-560) Hb 16.1 g/dl(11-17) Ht 47.7 %(33-44)
WBC 9300 /cmm(3000-9000) Plt 29.2 x10^4/cmm(15-36)

生化学
TP 7.7 g/dl(6.5-8.2) TBil 0.5 g/dl(0.1-1.2)
AST 23 U(7-21) ALT 16 U(4-17) LDH 436 U(140-360)
Alp 179 U(100-280) Amy 48 U(62-218) CK 101 U(35-170)
BUN 13.9 U(8-17) Cr 0.9 U(0.5-1.3)
sNa 145 mEq/L(135-150) sK 4.0 mEq/L(3.5-5.3) sCl 104 mEq/L(96-107)
BS 152 mg/ml(60-120) CRP 0.1 (<0.3)

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【経過】

 右手より左手にかけての通電であるため心筋障害の可能性があること、初期に意識消失を伴い頭部にも通電があったことが疑われること、また受傷部が手でありIII度熱傷と思われる皮膚損傷があることから手関節など深部組織の損傷も考慮されるため経過観察入院となった。

 入院後のECGでは特異的なST・Tの変化は見られず、CK・LDHともに8/2にも正常範囲(135U,266U)にあり心筋障害は否定された。また、両手とも知覚運動障害なく近医で熱傷創の治療を受けることとして同日(第2病日)退院となった。

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【 Comment 】 <電撃傷について>

 この症例は軽症の電撃傷(electric injury)と言える。

 受傷時、高圧電源には接触していないとされているが、高圧電流の流れている伝導体では直接接触しなくても、接近することでフラッシュオーバー現象によりアーク放電や線間放電が起こり、このスパークの高熱(3,000〜20,000℃)により熱傷を受ける。これを閃光熱傷(flash burn)またはアーク熱傷(arc burn)といい両手の熱傷創はこれによるものと思われる。閃光熱傷は主にスパークの高熱による表在性の熱傷であるが、両手間を通電したことは明らかで、受傷時意識障害を伴ったことなどから頭部への分流もあったものと思われ、狭義の電撃傷と言える。

 体幹を通電する電撃傷では不整脈や心筋障害を考慮する必要がある。心室細動、心房細動、副調律、非特異的ST〜T変化が起こり得る。通常、受傷直後から起こるが、8〜12時間後に起こったする報告もあるので、24時間は経過観察が必要である。

 電撃傷が他の熱傷と異なる点は、その本態が通電組織のjoule熱による組織内部よりの発熱による損傷な点である。したがって、表面に見える熱傷創よりも深部組織の損傷を評価する必要がある。特に、四肢関節部は電流密度が高くなり電気抵抗が低い組織(腱、骨など)が多く損傷を受けやすい。また、筋組織の損傷によるcompartment syndromeとrhabdomiolysisの可能性を考慮する必要がある。

チェックすべきは、

  1. 心筋障害に対して
    • 24時間は心電図をモニターする
    • 心筋障害の酵素学的検査(CK,LDH,WBCなど)

  2. 深部組織損傷に対して
    • 運動知覚障害があるか
    • 周囲の浮腫腫脹が進行しないか
    • 血管創傷(血栓による血流障害など)がないか
    • 骨格筋障害の酵素学的検査(CK,LDH,AST,myogrobineなど)
    • compartment syndromeの危険性がないか
などである。これらの病態を考えると24〜48時間の経過観察で、何等徴候が見られなければ外来治療可能と考えられる。

 また、電撃傷では数日〜数年後に起こってくる遅発性神経障害のあることが知られている、この病態と原因は完全には解明されていないが、通電電流の大きさによると思われるので、軽症で初期に深部組織の損傷を示す徴候が何等見られなかったものに起こるとは考えにくいが、患者には退院時にその可能性を説明すべきである。

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帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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