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【電撃(熱)傷 electric injury (or burn)】

  感電、落雷、電気スパーク、弧光(アーク)などの電気的障害による損傷を電撃傷[electric burn(or injury)]といい、特殊なものに落雷による 雷撃傷[lightning burn(or injury)]がある。

  通常の熱傷との違いは、損傷の大部分がjoule熱により生体内部から発生する熱によって起こる点である。

<電撃傷にかかわる損傷>につては、日本熱傷学会では用語を定義している。

電撃傷の本態は次の3つであると言える。

  1. 電流そのものによる損傷
  2. 生体内でのジュール熱発生による損傷
  3. アーク(arc)やスパーク(flash)の熱による損傷

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電撃傷の症例

< CaseB960801 >

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治療方針とポイント

  1. 蘇生と搬送

  2. 搬入時のチャックポイント

  3. 入院後のチャックポイント

  4. 参考文献

電撃傷の病態

  1. 通電経路組織の損傷

  2. 循環系に対する影響

  3. 神経系に対する影響

  4. その他の臓器障害

  5. 死亡原因

電撃傷に関する基礎知識

  1. 統計

  2. 身の回りの電気の種類と電圧

  3. 感電とは

  4. 生体組織の電気抵抗

  5. 生体組織におけるジュールjoule熱の発生

  6. 離脱電流(let-go current)と膠着電流(freezing current)

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治療方針とポイント

蘇生と搬送

  • 死因のほとんどは現場での心室細動

  • 直後、呼吸筋の麻痺と呼吸中枢の障害により呼吸停止が起こる

  • 電柱など高所では、はじめにmouth-to-mouth人工呼吸、下ろしてから心マッサージを行う

  • 頚動脈触知不能であればできるだけ早く前胸部叩打法を1回だけ試みる

  • 頭部、頸部、胸腹部合併損傷に注意

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搬入時のチャックポイント

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入院後のチャックポイント

全身管理

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局所管理

リハビリテーション

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電撃傷の病態

通電経路組織の損傷

  • 接触部、接地部では電流密度が高く皮膚の電気抵抗高くjoule熱大きく熱傷となる→電流斑、
  • 接触部は圧倒的に上肢に多い
  • 接地部は下肢、体幹に多く、分流するため接触部に比べ損傷少ない
  • 通電による損傷は皮膚より電気抵抗低い皮下組織、筋肉、血管におよび皮下壊死範囲は見た目より広い
  • 筋肉の損傷はjoule熱変性ばかりでなく循環障害、浮腫によるcompartment syndromeによる二次的損傷で壊死範囲が広がる
  • 手関節、肘関節、肩関節など細くくびれた関節部は電流密度が高く損傷を受けやすい
  • 骨、腱など電気抵抗高い組織が多く高熱が発生し損傷が高度となる
  • 高圧電流では、筋肉の収縮により四肢が屈曲し肘関節、肩関節で短絡してアーク放電が起こり胸壁表面の深達性熱傷起こすことがある

  • アーク(arc)やスパーク(flash)の熱による損傷

    • 高圧電流の流れている伝導体では直接接触しなくても、接近することでフラッシュオーバー現象によりアーク放電や線間放電が起こり、このスパークの高熱(3,000〜20,000℃)により熱傷を受ける。
    • アークは10kV当たり2〜3cmの距離を飛ぶとされている。
    • アーク放電による熱傷は、高温だが持続時間は短く浅層II度熱傷のものが多い。
    • 受傷者は跳ね飛ばされることが多い、外傷に注意
    • 通電時間は短く生体内に通電することは少ない

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循環系に対する影響

がある。

  1. 心臓への影響

    • 死亡原因の多くは心室細動
    • 40〜100Hzで最も起こりやすい
    • 皮膚を介して60mA、心筋直接通電100μAで起こる
    • 周波数が高いほど安全
    • 25〜30Vでも細動が起こり得る(濡れた状態)
    • 手から下肢への通電経路で最も発生頻度高い
    • 心室細動、心房細動、副調律、非特異的ST〜T変化が起こり得る
    • 受傷直後から起こるが、8〜12時間後に起こった報告もある
    • 不整脈は治療に反応するが、長期持続することもある

  2. 末梢血管の損傷

    • 通電にともなるjoule熱による損傷
    • 電流密度の高くなる関節部近傍で高度となりやすい
    • 動脈瘤形成、出血、閉塞、狭窄、血栓形成が起こり得る

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神経系に対する影響

  1. 直後の反応(一過性)
    • 意識消失、呼吸停止、運動・知覚麻痺、痙攣、呼吸停止、知覚異常、疼痛
      中枢、脊髄、末梢神経の急性障害によると考えられる
    • 急性期の意識消失は60%前後の高率にみられる
    • 380V以下の低電圧では神経症状の多くは一過性で重大な後遺症は残さない
    • 高圧電流になると長期症状持続するものが多くなる
    • 急性期症状は、興奮閾値の上昇、活動電位の低下、伝導速度の低下など可逆的変化

  2. 遅発性神経障害(時間が経過してから、数日〜数年後)
    • 運動・知覚麻痺、知覚異常、記銘力障害、痙攣、頭痛、発汗異常、血管運動異常
    • 病態は完全には解明されていない
    • ジュール熱による栄養血管の出血、炎症、血栓形成、神経線維周囲の線維化など
    • 出血による血行障害
    • 強烈な筋肉収縮による物理的損傷
    • 組織蛋白の変性
    • 静電気力による組織損傷、などが考えられている
    • 永続的神経障害は,周囲組織の熱による壊死範囲内にとどまる

  3. 外傷後神経症
    • 抑欝、不隠、復職拒否、ヒステリーが見られ、社会復帰を困難にする

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その他の臓器障害

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死亡原因

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電撃傷に関する基礎知識

統計

  • 日本の人口動態統計では、1960年をpeakに減少し、最近は年間60人前後。
  • 死亡事故の半数以上が工場。発電所、送電施設の事故は約10%。
  • 受傷年齢は30代から50代、男性が60%以上

身の回りの電気の種類と電圧

感電とは、「 生体に電気が通電し何らかの反応を示す現象 」

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生体の組織抵抗

生体内でのジュール熱の発生

このジュール熱による変性壊死が起こる

組織損傷に影響する因子

  電圧、電流、組織の電気抵抗、通電時間、交流か直流か、交流周波数、通電経路、個人的感受性

生体組織におけるジュールjoule熱の発生

  • ジュール熱の発生は抵抗に反比例する
  • 筋肉>皮下脂肪
  • 細くくびれたところは電流密度が高い
  • 関節部の損傷が強い
  • 神経、骨格筋など線維の長い細胞膜に破綻が起こりやすい
( Leeら )

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離脱電流(let-go current)と膠着電流(freezing current)

人体に対する電流の作用直流 交流
60 Hz10,000 Hz
男性女性男性女性男性女性
感知電流(少しチクチク) 5.2 mA 3.5 mA 1.1 mA 0.7 mA 12 mA 8 mA
苦痛を伴わない(筋肉自由) 9 6 1.8 1.2 17 11
苦痛を伴なう(筋肉自由)
離脱電流 let-go current>
62 41 9 6 55 37
苦痛を伴なう(離脱限界)
膠着電流 freezing current>
74 50 16 10.5 75 50
激しいショック(筋肉硬直、呼吸困難) 90 60 23 15 94 63
心室細動可能性(通電 0.03秒) 1300 1300 1000 1000 1100 1100
心室細動可能性(通電 3.0秒) 500 500 100 100 500 500
心室細動 確実 上記の値の2.75倍
( 田中ら )

一般的法則

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参考文献

  1. 熱傷用語集。平成8年3月20改定、日本熱傷学会用語委員会 編
    何と編集委員長は 小林 国男 教授である。

  2. 電撃傷(安瀬)、雷撃症(大橋/露木):最新の熱傷臨床-その理論と実際-. 平山 峻、島崎 修次 編、克誠堂出版、pp405-410,1994.

  3. RC Lee, MS Kolodney: Electrical injury mechanisms: dynamics of the thermal response. Plast and Reconstr Surg 80:672-679,1987.

  4. RC Lee, MS Kolodney: Electrical injury mechanisms: electrical breakdown of cell membranes. Plast and Reconstr Surg 80:672-679,1987.

  5. 田中隆二、市川健二:産業安全研究所安全資料:電撃危険性と危険限界、労働省産業安全研究所、1970

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