Home INDEX

Information about Food Poisoing caused by E.coli(O157)
病原性大腸菌(O-157)による食中毒の情報

This month(July), epidemic spread of food poisoning caused by E.coli(O157) was reported from all around Japan. Four have reported to be died for this food poisoing. As this type of E.coli(O157) occasionally cause hemolytic uremic sysndrome, this could be a case for Trauma and Critical Care service. There is few information about this serisous food poisoing on Japanese Internet resource. However, some informations were available around the world.

[[English Version is here !]]

今月に入り病原性大腸菌(O157)による食中毒が多発し、4名の死亡者が報道されている.この菌種は、hemolytic uremic sysndrome(溶血性尿毒症症候群)をきたす可能性があり救命救急センターへの搬入も配慮される.残念ながら、日本のInternetの検索ではこの中毒に関する情報は乏しいが、海外ではいくつかの情報源を見いだすことができる.


「病原性大腸菌(E. coliO157」に関する情報を探す!

残念ながら日本のインターネットのサーチエンジンによる検索ではO157に関するサイトは殆ど見つけることができなかったが、日経BPの主催する「DOCTOR's Net」に埼玉医科大学小児科の寺田喜平氏による「病原性大腸菌O157治療マニュアル」が掲載されている。この文章には小児における臨床所見、経過および治療について具体的に記され参考文献も幾つか掲載されている。

インターネットの無数にある全世界の情報源から特定の項目に関する情報を見つけ出すのは容易ではないが、一般に「サーチエンジン」と呼ばれるキーワードで検索のできるサービスが利用される。海外の「サーチエンジン」の一つである「ALTA VISTA」で「E. coli O157」に関する情報をここから検索することができる。


要 約

病原性大腸菌は(E. coli)は次のように分類される

  1. Enterohaemorrhagic E. coli (EHEC) [Hamburger disease]
  2. Enteropathogenic E. coli (EPEC) [Neonatal diarrhea]
  3. Enterotoxigenic E. coli (ETEC) [Cholera-like]
  4. Enteroinvasive E. coli (EIEC) [Shigella-like]
  5. Enteroaggregative E. coli (EAggEC)
  6. Uropathogenic E. coli (UPEC)
  7. Neonatal menigitis E. coli (NMEC)
E. coli O157:H7 はEHEC(Enterohaemorrhagic E. coli)感染症の中で最も頻度の多い血清型(95%)である。
アメリカではEHECによる感染症は「hamburger disease」あるいは「Barbecue syndrome」として知られている


EHEC (O157:H7) 感染症について

< 感染源 >
  • アメリカでの流行では加熱不十分なハンバーガーや滅菌(低温滅菌)されていない乳製品によるものが多い。しかし、日本での感染源については原因食品は同定されていない。どのような食材も衛生的な取り扱いがされなければ感染源となり得る。大腸菌は低温には強く冷蔵、冷凍しても死滅しない。したがって、如何なる非加熱食品は感染源となり得る。
< 感染経路と予防 >
  • 大腸菌は人間を含め哺乳類の腸内常在菌であるから、「動物ー動物」「動物ーヒト」「ヒトーヒト」の間で食物を介して(糞便ー経口)感染する可能性がある。感染を防ぐ方法は、食品を加熱(71℃以上)することと、手指の衛生の徹底することである。如何なる食品(肉だろうと魚だろうと)完全に加熱すれば大腸菌は死滅する。手指の消毒は特に小児を持つ家庭や児童施設で重要であり、5歳以下の幼小児と高齢者には特に注意を要する。
< 頻度と流行 >
  • 初めてE. coli O157:H7が食中毒の原因菌として認識されたのはアメリカでは1982年の流行で、その感染源はハンバーグの挽き肉であった。アメリカのCDC(Centers for Disease Control and Prevention)の報告では全米で年間2万人の感染者があるだろうと推定しているが、頻度に関する本邦の情報は得ることができなかった。報道によると本年度の流行による感染者は1500名を越え、死亡者は4名にのぼっている。
< 診断と検査法 >
  • 診断は糞便からの病原性大腸菌( E. coli O157:H7)の検出による。 O157:H7は Sorbitol-MacConkey (SMAC) 培地により培養されなければならない。この培地では O157:H7 はピンクか白っぽいコロニーを形成する。残念ながら現時点では、現場で迅速に O157:H7 を検出する検査法はない。
< 病原性 >
  • この菌種(O157:H7)は極めて病原性の高い菌種として知られ、その主たる原因は菌の持つ毒素による。極めて少量の菌数で感染が成立すると思われ、4-9日の潜伏期で発症する。
    毒 素
    • O157:H7 の産生する主たる毒素は「shiga-like toxins」 (SLT)で、「Verotoxins」あるいは「Verocytotoxins(VT)」として知られている。この毒素が hemolytic-uremic syndrome(HUS:溶血性尿毒症症候群)の原因となる。
      「Shiga-like toxins」の原型は「shiga toxin」であり、酵素活性を持つ「Aサブユニット」と蛋白よりなる5つの「Bサブユニット」からできている。このBサブユニットが細胞膜の糖蛋白受容体と結合しAサブユニットにより細胞膜が破壊され細胞毒性を発揮する(cytotoxic)。
< ハイリスク >
  • 5才以下の幼小児と高齢者な下記の合併症を来たす危険性が高い。
< 臨床症状と経過 >
  • 初発症状
    小児では初発症状は「だるい」「元気がでない」といった不定愁訴が多く、数日の経過で鋭い腹痛と血性または水様性下痢が始まる。成人では下痢を伴わず不顕性保菌者となることがある。

    血性の下痢(出血性大腸炎Hemorrhagic colitis):
    血性の下痢となるのは病原性大腸菌感染の10%に満たず、非血性の下痢や無症候のことすらある。

    発 熱
    発熱な殆どなくあっても微熱で通常5日から10日の経過で回復する。

<特異的合併症>
  • HUS(hemolytic uremic syndrome):溶血性尿毒症症候群
    小児ではHUSを発症し腎不全、脳梗塞、意識障害、痙攣を来たすことがある。これらの一連の病態は微少血管内皮障害と解することができる。したがって、血管内溶血、血小板減少症、DIC、腎障害、脳血管障害にともなう脳症、痙攣などが考えられる。急性脳症は岡山県邑久町での死亡例の死亡原因となっていた。

  • TTP (thrombotic thrombocytopenic purpura):血栓性血小板減少性紫斑病
    TTPでも脳梗塞を起こし得る。TTPは高齢者に多くみられる。.
  • こうした合併症は感染者の 2%-7% に起こるとされている。
< 治 療 >
  • ほとんどの患者は抗菌剤の投与や特異的な治療なく5〜10日の経過で回復することを認識する必要がある。

  • 抗菌剤
    抗菌剤の投与により疾患の経過が改善した証拠はない。抗菌剤の使用によって死滅した菌から毒素(SLT)が放出され、HUSの発症を惹起する可能性がある。従って、抗菌剤の投与は推奨されない。

  • 止痢剤
    投与すべきでない。下痢を止めてはならない。

  • 輸液管理
    大量の水様性下痢による脱水に対して、適切な輸液管理をすることがどの患者に対しても最も重要な治療であると思われる。

  • HUS の治療
    ICUでの全身管理が望ましい。回復までの1〜2週間、輸血や血液透析を要することがある。アメリカではICUにおけるHUSの死亡率は 3%-5% である。抗凝固療法はHUSの病態生理から妥当な治療法と思われる。しかし、血漿交換や濾過などの血液浄化法は毒素の除去効率を考えると効果に疑問が残る。

  • HUS の予後
    HUSの約1/3は何年にも渡り腎機能障害を残し、一部は長期透析療法を要する。残りの8%の患者でも高血圧、痙攣、失明、麻痺などの長期にわたる合併症や腸切除に伴う障害を伴う。 (引用)
  • 抗毒素治療
    SLTに対する特異的抗毒素によりHUSが予防できる可能性があるが、いまだ治験の段階である。この参考文献はここに掲載されている。


Home Page
帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine

鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
Hiromasa Suzuki, MD

Copyright Notice