角 膜強 膜

cornea
sclera

角膜強膜 は,外壁外層として閉鎖空間を作る 線維膜 tunica fibrosaである.
図 01特に角膜は結膜と眼瞼を含めた外眼部として外界と接し,重要な疾患の場である.

A. 角 膜  cornea / Hornhaut

角膜は結膜と共に眼表面 ocular surfaceを構成する粘膜組織であり,眼球壁の部として外界の像を眼内に取り入れる窓口の機能がある.すなわち他の生体組織と違い無血管・透明組織で,表面裏面ともに滑らかな(頂点をほぼ中央部とする)球面となっている.

角膜の横径は1112mm(縦径はその約九割),厚さは中央部で0.50.52mm(光学計測で0.51mm,超音波計測で 0.53mmと認識されている),周辺で0.670.7mmである.
角膜部分の表面積は11.3cm²,質量は1gに満たない.

曲率半径(r)は,模式的には r7.8mmで眼球本体(強膜,r11.5mm)よりも弯曲が強い.曲率は 前面カーブ裏面カーブ(6.6mm) に因り角膜自体は凹レンズになっているが,空気対角膜の屈折率のため眼内に入る光は強い凸レンズ作用を受けることになる.これにより眼球全体の屈折力 約60ジオプトリー強のうち,角膜は分のを受けもつ.

(角膜表面 プラス 49ジオプトリー,角膜裏面 マイナス6ジオプトリー,トータルで プラス 43ジオプトリー)

図 02 図 03 図 04

なお,水平方向と垂直方向では同じ曲率ではなく,般的には垂直方向の曲率が小さい(生理的な角膜乱視である.実際には中央部から周辺にかけてわずか曲率が変わる,バラバラな非球面なんだとか)

▣ 屈折率は 1.335~1.338 で,水の屈折(1.333)よりもやや大きい.Gullstrand の模型眼では,
  前面曲率 r7.7mm,後面曲率 r6.8mm,屈折力 43.05 D,角膜厚 0.5mm,実質屈折率 1.376 ,で設定している.

▣ 新生児:横径は10mm.成人サイズは2年半.

▣ 小角膜: 10mm以下.常染色体遺伝 / 巨大角膜:13mm以上.X連鎖性劣性遺伝.

▣ 加 齢:垂直経線の曲率が大きくなり,倒乱視化する.

角膜の透明性は,次のような特殊な構造・組成・機構による.

1) 涙 膜 precorneal tear film

角膜表面は 涙液層 で被われ,常にぬれた状態にある.涙膜があることで表面が光学的な滑らかさを保つほか,角膜自体の代謝と透明性が維持される.涙膜は次の層で形成する.

①油層:最表層の脂肪層,0.1µm.主に Meibom腺分泌による.
②液層:本来の涙液,水層.78µm
③ムチン層:mucin,粘液層.0.04µm
    主に杯細胞 goblet cellと角結膜上皮細胞から分泌される多糖類(glycocalyx グリコカリックス;糖衣).微絨毛により保持される.

図 05

2) 構 造 structure

組織学的には5層構造である.

  1. 角膜上皮  epithelium

    上皮層としての厚さは約50µmで,57層の角膜上皮細胞(重層扁平上皮)からなる.角膜全体の約10分の1を占め,結膜上皮層から連続したものである.最表層細胞の頂端には,細い突起(微絨毛 microvilli)がある.涙液の保持に重要である.細胞同士は細胞間結合により,涙液 実質のバリアとなっている.

    基底細胞は輪部の上皮幹細胞から供給される.基底細胞は円柱状で,基底部で分裂し表面に近づくにしたがい次第に扁平になり,12週間のサイクルで脱落し,涙に洗われ共に眼脂となる.角膜上皮に欠損ができた場合には,輪部周辺から上皮細胞が移動して欠損部を埋める.上皮の修復は欠損が小さければ数時間で完了する.最も活発に分裂するのは早朝とのことである.多くの知覚神経のセンサーが分布する.

    図 06 図 07

    角膜上皮は常に温度の変化する外気に接し,またときには汚染された大気にさらされている.ビタミンAの作用により角化しないが,異常な分化により角化症をきたすことがある.コンタクトレンズの装用などでも角膜上皮は常に刺激を受けているが,角膜上皮細胞の悪性化は極く少ない.

    基底層細胞は基底膜を介して Bowman層と強固に接着している.

  1. Bowman(ボウマン)/Bowman's layer/lamina limitans externa (anterior

    組織学的には上皮層の直下に無構造の薄い膜としてみえる.電子顕微鏡では非常に細い膠原線維(主に VII型コラーゲン)が不規則に層状になっていて,実質に連続する.上皮細胞の接着を助けている.上皮細胞あるいは実質細胞の分泌物により胎生期に作られ(primary stroma),その後は傷害を受けた場合でも再生しない.
    厚さは814µm(OCTによる報告(2012)では19µm)

  2. 実質(固有層) stroma/substantia propria

    形状と透明性の維持に,重要な部分である.膠原線維・プロテオグリカン(細胞外マトリクス)と角膜線維芽細胞(実質細胞)で構成され,2.0µmの薄板 lamella枚と紙を重ねたような形(200250層の層構造;層板性緻密結合組織)となっている.厚さは約450µm(角膜の厚みの90% 以上)
    基質の原線維(主に I型コラーゲン)2030nm定の太さで非常に規則正しく配列し,光を直進させるため透明になる(光の波長より小さく配列されていることが,入射光の方向に依らず散乱を少なくするという)ムコ多糖 は吸水性が強く常時水を吸おうとする性質があるが,上皮層と内皮層によるバリア機能により水分量(78)が調節され,透明性が保たれる.

    層構造の間の実質細胞 keratocyteは線維芽細胞系の細胞が押しつぶされた状態になったもので,細胞同士は結合し,次元の網目構造になっている.膠原線維やムコ多糖体の合成・分解に関わるが,角膜に傷がついた場合には活性化されて線維芽細胞となり,膠原線維を新生する.これらは以前からある線維よりも太く,走行も規則的ではないので,その部分の透明性は損なわれ,濁り(乱反射するということ)を生ずる.

    A pre-Descemet's layer (Dua's layer)実質とDescemet膜のあいだに 10.15±3.6µmほどの第6層を確認した(Dua HS et al, American Academy of Ophthalmology. 2013)とか.これから教科書はどうなるんだ 

  1. Descemet(デスメ)/Descemet's membrane/lamina limitans interna (posterior

    角膜内皮細胞の基底膜で,光学顕微鏡的には無構造の膜としてみえる.普通の細胞の基底膜と違い,520µmと非常に厚く丈夫で,加齢と共に肥厚する(出生時3µm50代で10µm以上).内皮細胞との接着は脆く,内皮が脱落しやすい理由になっている.
    電顕上では,格子状構造が認められる膠原線維束(IVのほか,VVIII型コラーゲン)で,胎生期と生後形成されたコラーゲン部とは区別できるそうである.

  2. 図 08

  3. 角膜内皮  endothelium

    内皮細胞は厚さ(高さ)5µm,径が20µm位ある六角柱型の大きな細胞で,角膜の裏面を層で裏打ちしている(単層立方上皮).水を実質から吸い出し前房に戻しているポンプ作用(角膜実質の膨張圧に対抗)のために,角膜全体として定の含水量を維持できる.

    内皮細胞は生体での細胞分裂能はほとんど無い(実験室では分裂しシート状になる,とのこと).加齢とともに密度が減少し,形態が変化し不揃いになる.
    細胞は細隙灯顕微鏡で臨床的に観察できる.通常,スペキュラマイクロスコープという専用の高倍率の装置にて写真撮影と画像解析を行う.房水関門や代謝機能の評価は,細胞密度や角膜厚で推測する.
    浮腫による角膜厚10%増はDescemet皺襞形成に対応し,上皮浮腫では角膜厚700µm超に対応する.

  4. 発生

    水晶体胞が眼杯内に取り込まれた胎生第6週ころ,眼杯周囲の間葉細胞が水晶体胞と表層外胚葉との間に移動し始める.やがて水晶体前面の間葉細胞は角膜内皮細胞に分化する.胎生第8週には表層外胚葉が角膜上皮細胞へと重層化する.上皮内皮間の間葉細胞は膠原線維を作り層板性緻密結合組織としての角膜固有質となる.これは眼杯前縁にて強膜に移行する.

    角膜上皮は表層外胚葉を原基として角膜上皮・輪部上皮・結膜上皮はひと続きになっており,角膜表層を結膜の延長と解釈して角膜部結膜とも表現される.実質・実質細胞・内皮は(広義の)中胚葉(または間葉系細胞,狭義には神経堤細胞)を原基として,結合組織となる前房まわりはぶどう膜と系統が同じである.

上皮側の)境界は Bowman層 の端になる.この外側が 輪部
内皮側の)境界は Descemet膜 とともに Schwalbe で終わる.

図 09

3) 生理・代謝

角膜は無血管であり,機能維持に必要なエネルギーを産生するためのグルコース(ブドウ糖)や酸素の供給の方法は,血管を有する他の組織とは異なる.
角膜で消費されるブドウ糖の大部分(80%以上)の供給源は,前房水からの物理的な拡散と,内皮細胞の能動輸送による.周辺角膜は輪部血管経由の供給という.
酸素は,開瞼時は涙液を介して大気中から角膜上皮に供給される.閉瞼時は輪部血管・涙液・房水中の酸素が利用されるという.

角膜実質は大きな膨化能をもっており,角膜内皮を介して前房水を常に取り込もうとしている(4050mmHgの吸水圧).従って, 正常な透明度のために含水量(78)の維持が必要で,定の脱水機構が存在する.この機能の大半を担っているのが角膜内皮細胞である.角膜内皮は,重炭酸 bicarbonateイオンを用いた能動輸送 active transportにより水を排泄し(内皮ポンプ),実質内の水分を定に維持している.これにより内皮機能障害では角膜浮腫が生じる.角膜実質内に水がたまると,ムコ多糖が膨潤し膠原線維の配列が乱れるために,光が散乱し透明性が損なわれる.

生下時の内皮細胞密度は5,000/mm²,幼児期には3,500/mm²ほどで,成長・面積拡大による密度減少とされる. 10代以降細胞数が減少しながら,60代で2,5003,000/mm² ほどに維持される.
内皮細胞の細胞分裂能・細胞更新は,ほとんど無いと考えられている.加齢や手術侵襲などにより脱落すると周囲の細胞が拡大して欠損部を補い,六角形状も維持される.細胞数の減少が限度を越えると六角形細胞率の減少や大小不同が目立ち,さらに機能を維持・代償できなくなり角膜浮腫を生じる. 追加事項

大きい予備能のため800/mm²位までは機能の破綻はないが,500/mm²以下になると機能不全状態 decompensationとなる.白人に比べて日本人の角膜内皮は般に丈夫で,機能不全を起こしにくい,そうである.
上皮はバリア barrier機能があり,水を通さない.とは言え,
上皮側は涙膜の作用を受ける.開瞼により涙液の蒸発がおこり浸透圧が高張にシフトすることで,実質内から涙液層へ水が移動する.量は全角膜面に於て約6µL/時とのことで,涙膜・角膜厚の安定や透明度の維持に関わっている,そうである.

▣角膜内皮移植
日本国内で培養ヒト角膜内皮細胞(hCEC)注入療法を実施した偽水晶体の角膜内皮機能不全患者11例11眼を対象に、治療5年後の安全性および有効性を前向き観察研究で評価した。その結果、10眼に正常な角膜内皮機能が見られ、平均中心角膜内皮細胞密度(ECD)は1257±467個/mm²だった。平均最高矯正視力(logMAR)は術前の0.876から0.046となり、10眼に有意な改善が見られた。(Ophthalmology 128(4), 2021)

4) 知 覚  その他の神経

叉神経第枝が(長後毛様体神経を介して)分布しており,反射性まばたき運動(瞬目反射),反射性流涙,知覚性瞳孔反射の求心路となっている.神経線維は,強膜との境界部では有髄であるが,角膜内へ12mm進入すると無髄となる.実質内を通り Bowman層を貫き上皮へ分布する.
周辺部よりも中心部に於て生体内で最も知覚が鋭敏な組織で,神経終末は皮膚の300400倍の密度とのこと.痛覚・冷覚は敏感であるが,温覚の存在については,はっきりしていない.角膜知覚神経は生理機能の維持に重要で,神経障害は麻痺性角膜症の原因となる.
また,毛様体神経節からの交感神経線維が短毛様体神経を経て輪部付近で神経叢となり,角膜実質内に分布する.しかし,交感神経の角膜における役割についてはよくわかっていない.

B. 輪 部  limbus

図 10

角膜と強膜の移行部 corneoscleral junction輪部 である.断面では,透明な角膜と白い強膜の接続が右のように弧状になっている.
角膜と強膜の曲率の違いで,輪部には 強膜溝 external scleral sulcus ができる.
(隅角での強角膜接続部,あるいは実質の組織学的な弧状移行部を internal scleral sulcus という.)

輪部の問題は,主に結膜上皮と角膜上皮にとって重要である.

  1.  どこが輪部か
    1) 解剖学的には,Bowman層の終端と Schwalbe線を結ぶ線(つまり角膜)から強膜岬に立てた垂線(つまり強膜)との間を指している.
    2) 組織学的にはBowman層の端の部分で重層上皮の形態が変わり,輪部上皮となる.
    3) Bowman層がある部分が 角膜Bowman構造の消えたところから 輪部.すなわち,輪部は角膜に非ず.

  2.  輪部の重要性
    1) 角膜周辺部に栄養
    2) 内部に房水流出路がある
    3) 幹細胞 stem cellsが存在する
    4) リンパ管が存在する
    5) 免疫応答の場
    6) その他

  3.  輪部上皮は,610数層の重層扁平上皮である.杯細胞は無い.重層円柱上皮である結膜上皮層から移行したものである(輪部結膜).上皮下には固有層があり,血管・リンパ管を通す.
    毛細血管は角膜上皮に移行する部分すなわち Bowman層のふちでUターンしている(毛細血管係蹄).つまり,ここから角膜側には血管は存在しない.

  4.  Langerhans細胞があり,抗原提示細胞として免疫応答に関与する.Trantas斑や Mooren潰瘍などの炎症の場として重要とされる.Trantas斑には好酸球が集まっている.

  5.  上方部分では,強膜と結膜組織が1mmほど角膜にせり出し,弦月 lunula corneae(falx of cornea)という.甲状腺異常やドライアイに関連して不思議な限局性の上皮障害をきたす場になっている.

  6.  眼表面のうち,異形成上皮や扁平上皮癌などの腫瘍変化を起こし易い部位である.特異な細胞周期があるため,とされる.

▣ 角膜新生血管:角膜は無血管組織である.低酸素状態や各種炎症・機械的刺激により角膜内に血管が侵入してくる.
 ・表層 ⇐ 辺縁毛細血管係蹄網から.いわゆるパンヌス.
 ・深層 ⇐ 毛様血管系から.

【 輪部血管 】

図 11

幹細胞 stem cellsVogtpalisades of Vogt

球結膜上皮と角膜上皮との間にある輪部には,日々増殖・更新する角膜上皮細胞および結膜上皮細胞の素となる 幹細胞 stem cellsが存在する.この部分に致して薄褐色の色素が放射状・しわ状に配列する.palisades of Vogtである.皺構造の存在は輪部機能を推測するモノサシになるとのことである.断面(組織像)でも山谷が出来ており,幹細胞の環境になっている.ここより外側が結膜構造である.

図 12 図 13

角膜上皮の恒常性維持については,輪部からの細胞移動+角膜基底部での細胞分裂角膜表層の細胞脱落,という図式で考えることができる.この考えを発展させ例えば,ドライアイでは【移動(→)+分裂(→)<脱落(↑)】の病態,麻痺性角膜炎では【移動(→)+分裂(↓)<脱落(→)】となる病態,との説明も提唱されている.

VIII型コラーゲン:Descemet膜に含まれ,上皮増殖に適した細胞外マトリクスの維持に必要,とのことである.

▣ 角膜上皮幹細胞疲弊症(limbal stem cell deficiency):輪部(角膜上皮幹細胞)の大きなダメージや角膜輪部炎limbitis,あるいは角膜上皮幹細胞が過剰に消費されることで生じる.結膜上皮が角膜内に侵入し,角膜表面が血管を伴った結膜組織に被覆されることで,角膜混濁や瞼球癒着をきたす.原因となる疾患には,先天性のものとして無虹彩症や強膜化角膜,外因性のものとしてアルカリ腐食や熱傷,内因性のものとして StevensJohnson症候群や眼類天疱瘡,そのほか特発性のものがある. 角膜上皮の角化(扁平上皮化生)には PAX6遺伝子の発現異常が関連する.

limbus とは edgeあるいはborderという意味も含むことで, 角膜でもない強膜でもない 中間帯を指すのだそうです(元はキリスト教 ).ただ眼科としては角膜と強膜との移行部として応, 輪部 と言ってます.角膜上皮と結膜上皮都の移行部は 輪部 として角膜輪部の約1mm内側になってます.
なお,解剖学では角膜縁 limbus corneae といいます.

C. 強 膜  sclera / Lederhaut

強膜は角膜とともに眼球の最外壁を構成する強靱な膜(密性結合組織)である.
図 14 主要な機能は,眼球の形を維持し内部組織を保護することと,眼内への血管や神経への通路となり,また外眼筋(四直筋と斜筋)はその腱によって強膜に付着し,眼球運動の際のベクトルの作用部位である.

角膜実質と同質の組織ではあるが血管に乏しく,膠原線維は角膜と違い太さがまちまちで,走行も不規則である(交織性および層板性緻密結合組織).また弾性線維も多くみられるほか,わずかな線維芽細胞を含む.外壁としての機能に加え,水を通す性質がある.正常含水量は 65% ~ 75% である.
内面の大部分を覆うのは脈絡膜で,上脈絡膜腔あるいは脈絡膜外腔を介して脈絡上板 lamina suprachorioideaと密着している.ここには脈絡膜からのメラノサイトが侵入しており,lamina fuscaと呼ばれる.外側は Tenon膜を介し周囲組織と接し,クッションとなる脂肪組織とともに眼窩に埋め込まれ自由に眼球運動ができる.
表層はうすく繊細な弾性組織の層で血管が分布し,実質の栄養をつかさどっている.この部が上強膜 episcleraである.強膜の色は脂質の沈着により,加齢とともに黄色調を帯びる.

図 15

眼球後部強膜には 視神経 が接続しており,中を視神経線維が径1.5mmの束として貫通している(後強膜孔). ここでは,内方(脈絡膜側)半分~分のの強膜(の延長の膠原線維や弾性線維)の薄板が,多孔性の多重層となって視神経を通過させている.() lamina cribrosa scleraeである(篩状板をぬけると眼外,という訳だ).強膜とは異なり,篩状板部には篩状板細胞が詰まっている.
篩状板に連続・移行する部分はクモ膜下腔の終端になっている.peripapillary scleral flangeである.外方半分~分のは,そのまま視神経鞘に移行する.視神経鞘(硬膜鞘)は脳硬膜 dura materに続いている.
おおよそ直筋の付着部から前部は球結膜でおおわれ,輪部で角膜上皮と球結膜上皮が移行する(輪部は球結膜の付着部,という表現もある)

▣  強膜厚は視神経接続部付近では1.01.35mmほどで,赤道部,特に直筋付着部の後方では0.30.4mmと薄い.直径は約24mmで,垂直径は水平径より5%ほど小さい.
越智貞見(1917)によると日本人では,外眼軸24.22mm (男24.37,女23.83),横径23.81mm,縦径23.79mm,となっている.

図 16

眼内への血管(右図 a b)は,網膜には網膜中心動静脈として視神経線維とともに乳頭部・篩状板で眼内へ出入りするが,脈絡膜・毛様体・虹彩への動脈は毛様()動脈となって眼球後方では乳頭周囲から(後毛様動脈),前方へは各四直筋に沿って走り,付着部前方で強膜を貫通し虹彩動脈輪を形成する(前毛様体動脈)
ぶどう膜からの静脈は眼球赤道部のやや後方で強膜を斜めに貫通して眼球外に出る.渦静脈 vortex veinである.模式的には各象限ごとに4(右図 c)あり,合流しながら上眼静脈 superior ophthalmic veinに入る.毛様体血管叢からの部は房水静脈と共に輪部強膜内で血管叢となり上強膜静脈 episcleral vein 前毛様体静脈となる.

渦静脈眼底で確認できる渦静脈は赤道部の目安である.

▣ 発生:角膜より遅れて膠原線維が発現する.

なお房水の 排出経路 に於て,Schlemm(強膜静脈洞 sinus venosus sclerae)から上強膜静脈ヘのルートは主経路として,毛様体筋から強膜経由は副経路として,臨床的に重要である.

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細隙灯顕微鏡 slit lamp microscope透光体を観察するための仕掛け.

スペキュラマイクロスコープ鏡面顕微鏡
①内皮細胞密度(cell density:CD値):中央部で少ない.2,000以下が異常値,400500以下になると透明性が維持できない.単位;細胞数/mm²
②変動係数(細胞面積 coefficient of variant in cell size:CV値):大小不同の程度で,大きさのばらつきを示す.0.35以上が異常値
③六角形細胞の出現(6A)率:正常形状の割合で,形のばらつきや脱落を示す.50以下が異常値.単位;%

● モーリス Mauriceの格子説:
膠原線維の太さ・配列間隔の均性と波長との関連により,透明性を説明した.

● 角膜厚 central corneal thickness

  1. 正常範囲は,基本的に人種差に依存する.アフリカ系アメリカ人<白人 と認識されている.本邦ではこの中間とされる.
     データの比較では母集団と測定手段がネックとなる.
     角膜厚で問題なのは,眼圧測定での誤差要因のためである.厚いと(見かけの)眼圧は高く,薄いと低く測定される.
  2. 図 17 図 18
  3. 性差
     本邦では,女性<男性 とされている.
  4. 年齢変化
     ➊(Doughty MJ et al:Central corneal thickness in European (white) individuals, especially children and the elderly, and assessment of its possible importance in clinical measures of intra-ocular pressure. Ophthal Physiol Opt 22:491‐504, 2002.)
     ❷(Galgauskas S et al:Age-related changes in central corneal thickness in normal eyes among the adult Lithuanian population. Clin Interv Aging 9:1145‐1151, 2014.)
     高齢では薄くなる.これは眼圧の推移に矛盾しない.
  5. 日内変動
     閉瞼(就寝時)により厚くなる.これは午前中の高眼圧に矛盾しない.活動時間中,5%程変動するとのこと.
  6. 眼軸長
     長いと薄くなる.ただし高眼圧に眼軸の伸長(近視化)が関連するとのデータがあり,菲薄化と矛盾する.
  7. 屈折度
     近視では薄くなる.これも高眼圧化するデータと矛盾する.
     遠視で薄くなるとの発表データもある.
  8. 角膜曲率
     関連しない.なお曲率半径が大きく(flatに)なると薄くなるデータも厚くなるデータも発表されている.
     眼圧が低く測定されるというflat角膜で薄く(vice versa)なれば都合が良いのだが..
  9. 図 19

● 紫外域は290nm2%,300nm25%,400nm95%以上通過する.これらは加齢により,右下図のように変化する.
上皮障害が電気性眼炎(雪眼炎/光眼炎/紫外線眼炎)である.
赤外域の透過は2,500nm以下の短波長が通過する.

図 20

● ムコ多糖(最近はグリコサミノグリカン glycosaminoglycanと云うらしい )
動物の結合組織や体液中に存在する,アミノ酸を含むヘテロ多糖類.保水成分や組織の接着成分として,透明性の維持に重要となっている.

・ケラタン硫酸コンドロイチン硫酸角膜
 その他,デルマタン硫酸,など.
 生体内ではタンパク質複合体のプロテオグリカンとして存在
・ヒアルロン酸硝子体
 他のプロテオグリカンと共存

コラーゲン
角膜では I型80%,III型10%,V型. 強膜も類似(太さはばらつく).Bowman層は I型と III型.基底膜は IV型.
硝子体では II型が主,Bruch膜では弾性線維部には VI型・膠原線維部には I型 と III型・基底板部には主に IV型と V型が確認されている・・・
角膜コラーゲンのターンオーバーは1年ほどのゆっくりとしたもの,とのことである.

● コラーゲンの年齢変化:架橋が増え,圧縮・伸展に対する強度が増す反面,曲げに対して弱くなる.篩状板についても,たわみやすく陥凹を作りやすくなる理由のひとつとされる.

● 神経麻痺性角膜症叉神経第枝の障害により知覚低下をきたした状態で,上皮障害が遷延化する.知覚障害の原因には,内眼手術後やコンタクトレンズ装用,点眼薬による中毒,薬品や熱による火傷,糖尿病,脳外科系疾患による中枢性等がある.

● そのた,角膜上皮細胞の接着性低下・脱落亢進は,ヘルペス等の感染・糖尿病・上皮変性症で生じ,再発性上皮剝離をきたす.
移動障害はヘルペス等の感染・神経麻痺・化学火傷で生じ,遷延性上皮欠損となる.
分裂・増殖の障害は点眼薬の保存剤成分・点眼麻酔薬・放射線暴露で生じる.

● 角膜創傷治癒
角膜を構成する細胞には,角膜上皮細胞,角膜実質細胞,角膜内皮細胞がある.創傷を受けたあとの反応が創傷治癒である.ここで,細胞増殖による組織の再生が重要であり,影響を及ぼすのが 増殖因子 growth factorである.正常で無血管であるのは,VEGFが抑制されているため,とか.

・フィブロネクチン上皮細胞の伸展・移動・接着
EGF (epidermal growth factor)主涙腺から分泌される.涙液中の濃度は19 ng/mL
TGF (transforming growth factor)上皮細胞で作られる.
KGF (keratinocyte growth factor)角膜実質細胞で
・aFGF (acidic fibroblast growth factor)酸性
・bFGF (basic fibroblast growth factor)塩基性
VEGF (vascular endothelial growth factor)
☆ サイトカインについては こちら

erosion;びらん/糜爛:上皮層の欠損.

ulcer;かいよう/潰瘍:Bowman層さらには実質の露出.

gerontoxon;老人環:輪部に沿う輪状の白濁.通常,下方から生じ,やがて全周にわたる(上下から生じるが,上方は弦月の存在のため分かりにくい).強膜縁との間に薄い透明部(Vogt)の存在が特徴である.脂肪環との日本語もあるようだが,血中脂質値との関連はない.

keratoconus;円錐角膜:組織分解酵素の発現亢進と実質細胞の減少がある,とのことである.Bowman層膠原線維の代謝異常に因り菲薄・脆弱化し,lamella構造がずれる.眼圧に因り前方凸となる.
膠原線維同士の接着を強くし(架橋crosslinkを増やし)強度を高め,同時にフラット化させる手法がクロスリンキングである.進行予防のエビデンスがある.
LASIK(laser(-assisted) in situ keratomileusis)後の同所見は keratectasia 角膜拡張症という.