ぶどう膜の病態

part Ⅲ
 

ぶどう膜炎 各論へ 

§ 炎 症 ( inflammations )

  1. 概 念 general considerations

    ぶどう膜は,網膜・水晶体・角膜等への栄養を運ぶ血管結合組織であり,炎症反応の場となる.

    急性炎症血管拡張と血流の増加,細胞構築の変化(傷害)と血管透過性亢進・(多核)白血球の遊走.
    慢性炎症単球(マクロファージ)系の浸潤,組織破壊,血管新生と線維化(器質化と再構築)

    ぶどう膜炎 uveitis(狭義)は炎症の場に従って,虹彩炎 iritis毛様体炎 cyclitis脈絡膜炎 chor(i)oiditis と呼ぶ.

    臨床的にはぶどう膜組織にとどまらず,硝子体・網膜・視神経・水晶体・角膜・強膜の炎症反応を含めて,炎症の主座が眼内のどの組織にあっても眼球の構造上ぶどう膜炎(広義)として取り扱われている.このことから,近年では『 内眼炎 intraocular inflammation 』との呼称が提唱されている.ただし感染による「眼内炎」とまぎらわしく,定着には至っていない.

     炎症の 般病理
     免疫の 般病理

  2. 症 状

    急性・慢性にかかわらず,炎症を起こした時の眼の反応は限られる.ぶどう膜炎の代表的症状は,眼痛,羞明,流涙,充血である.これらは特に急性の虹彩毛様体炎で典型的に見られ,視力への影響はあっても僅かである.これに対し脈絡膜炎では眼底病変であることから視力への影響が大きい.原田病やBehçet病の眼底型がそうである.いわゆる慢性ぶどう膜炎では,刺激症状は軽度である代わりに視力障害が進行する.網膜への波及では,変視症や暗点をも伴う.加えて硝子体混濁による飛蚊症や霧視を訴えることが多い.

    ※羞明炎症という刺激状態
    ※疼痛叉神経刺激症状
    ※流涙羞明・疼痛などが複合されて起こる.
    ※視力障害いわゆる「霧視」と表現される.
    ※飛蚊症炎症細胞や滲出物による硝子体混濁で自覚する.後部硝子体離が加速されたりする.

    炎症と経過
    発症は,突発性 suddenか潜伏性 insidiousか,両眼 bilateralか片眼 unilateralか,
    経過は,急性 acute(3か月以内)か慢性 chronic(3か月以上)か,再発 recurrentか,全身症状を伴うか,
    年齢,性別,生活歴,出生地,食事,ペット飼育,海外渡航歴,などの情報のほか,ぶどう膜炎が重篤な全身性疾患の部にもなり,時に他科所見に先行したり眼所見が他科診断の確定の決め手になるなど,注意を要する.感冒様症状や,皮膚粘膜所見,循環器所見,関節所見,消化器所見,呼吸器所見,泌尿器所見,などである.

    ぶどう膜炎は治療に抵抗し,基質化した硝子体混濁・黄斑浮腫・網膜の荒廃・網膜離・視神経障害・白内障・緑内障・角膜混濁などを併発し,視力低下を引き起こす重要な疾患であり,単の病態ではなく複数の原因 【 自己免疫反応・外傷・感染・悪性新生物など 】 によって引き起こされる疾患群と考えることが出来る.これらの原因はしばしば,確定が困難であったり除去が不可能であったりするために慢性化がまぬがれない.従って,臨床所見の的確な把握が求められる.

  3. 所 見

    1. )充血;(  症候充血)

      結膜,上強膜の血管がともに拡張する.教科書的には通常,活動性の内眼炎(特に虹彩毛様体炎)のサインとして,輪部での深部血管の拡張(毛様充血 ciliary flush)が重要となる.

    2. )結膜;杉浦徴候

      Vogt小柳原田症候群において観察される,輪部結膜の脱色素のこと(皮膚の白斑 vitiligoと同等の変化)

    3. 図 01

    4. )角膜のサイン;

      • 角膜後面沈着物 keratic precipitates(KPs)

        前房(房水)中の混濁(炎症産物)が,房水の温流(対流)に従って角膜後面を下り沈澱堆積したもの.外見は角膜中心を頂点とする角形に沈澱沈着することから,「**の角」の名がある.

        (ヨーロッパでは,ZürkEhrlich.アメリカでは,Arlt)

        非肉芽腫性の細かい後面沈着物の主要細胞成分は白血球・リンパ球で,多量では沈着・堆積の形になる(前房蓄膿).類上皮細胞・マクロファージが主体の肉芽腫性結節はしばしば沈着堆積の形態をとらず,いくつかのかたまりとなり豚脂様沈着物 muttonfat Kpsという.同様の炎症細胞浸潤は,虹彩・毛様体にも起こっている.回復期あるいは遷延状態では,色素に富むマクロファージが沈着する.

      • 帯状角膜変性 band keratopathy 図 02

        長期に亘る病期の,末期にみられるCa沈着である.

      • Descemet膜皺襞
      • そのた,色素性沈着とくに Krukenberg spindles
    1. )前房・隅角のサイン; 図 03

      • 炎症細胞の増加

        前房微塵 cellsあるいは floatersStaub (Stäubchen)という.炎症細胞(急性期では白血球,慢性期ではリンパ球・マクロファージ,更に古くなると色素細胞)は角膜後面・前房下方へ沈澱する(上記)
        白血球の沈澱は,前房蓄膿 hypopyonとなる.
        粘度の低い hypopyonBehçet病,糖尿病虹彩炎,などで.細胞成分による.
        粘度の高い hypopyon急性前部ぶどう膜炎(HLAⲻB27関連で,強直性脊椎炎,潰瘍性大腸炎,感染性眼内炎やまれに白血病で).フィブリンの増加による.

        前房微塵;これは『ぜんぼうじん』と読みます.古典的な表現で文字数も多いので,敬遠されてるかな.微塵は般的には「じん」で日眼用語も「みじん」を引きずってるけどね.「みじんこ」とか「こっぱみじん」というアレ.前房内微塵と書かれると「みじん」と読む方が無難かもしれない.フリガナを「セル」と付けるのはお勧めしない.「シュタウプ」なら許せる.

        偽前房蓄膿 pseudo hypopyon;白血病,骨髄腫,リンパ腫,仮面症候群,網膜芽細胞腫,など

      • 蛋白の増加

        フレア flareあるいは光梁 Lichtbalkenという.血液房水関門の破綻・透過性亢進を示し,高度の時は温流が停止する.
        蛍光眼底造影の項 を参照のこと.
        フィブリン強い滲出による線維素

      図 04

      • 虹彩前癒着 peripheral anterior synechiae (PAS 

        隅角に結節が出来る(線維柱帯炎)と虹彩表面が肉芽腫結節に引き寄せられて形成される.典型例がサルコイドーシスである.度に全周が癒着することは希であるものの,徐々に進行し,Schwalbe線の位置が隅角底のようにみえる.
        これとは別に,隅角は新生血管が発生し易い場である.

      図 05

      • 前房出血あるいは Amsler徴候

        古典的表現ではあるが,Fuchs'heterochromic iridocyclitis において前房穿刺を行うと前房出血を来たす現象.隅角の新生血管による(ただし,緑内障に発展するようなものではないとのこと).前房穿刺は,わずかな外力で出血するつの例とされる.

      • 隅角の色素沈着

        色素塊(pigment pellet前房蓄膿の跡
        細かい(pigment spray炎症が慢性化すると虹彩色素が散らかる.
        減少:Posner の寛解期

      • 眼圧への関与主に流出抵抗の増大

        線維柱帯炎 trabeculitisでは開放隅角型である.

        虹彩前癒着では閉塞隅角型である.深前房/正常隅角角度のようであるから,うっかりすると見落とすことになる.

    2. )虹彩のサイン; 図 06

      • 縮 瞳 miosis

        叉神経反射による.対光反射も鈍麻する.

      • 結 節 nodule

        肉芽腫性炎症は瞳孔縁(Koeppe)や虹彩面(Busacca)の結節が特徴で,隅角部では線維柱帯表面に肉芽腫結節を作る(サルコイドーシス,PosnerSchlossman症候群,などで)

      • 虹彩ルベオーシス rubeosis iridis

        炎症に伴い,血管内皮増殖因子VEGFが増加する.消炎と共に退縮するものと血管新生緑内障へ進行するものがある.

      • 虹彩後癒着 posterior synechiae

        滲出物・結節による.瞳孔縁で水晶体と癒着した状態をいう.瞳孔全周の癒着も容易に起こり,瞳孔遮断(seclusio pupillae)となる.この結果,後房圧が上昇し(絶対的瞳孔ブロック)虹彩が隅角に押し付けられると,房水の排泄が止まり眼圧が上昇する(続発閉塞隅角緑内障)
        後房圧の上昇で虹彩が盛り上がった状態が膨隆虹彩(iris bombé)である.

        図 07 図 08

        瞳孔領の水晶体前面が膜様滲出物でおおわれることがある.瞳孔閉鎖(occlusio pupillae)である.
        滲出・フィブリンが更に厚くなると,偽白内障(cataracta spuria)となる.

      • (後天)萎縮:

        虹彩紋理・虹彩窩・捲縮輪の不明瞭化

    3. )水晶体のサイン;

      表面には虹彩後癒着の跡などの色素が付着しやすい.
      慢性化したぶどう膜炎・異色性虹彩毛様体炎では,併発白内障をきたす.

    4. )毛様体のサイン;

      • 低眼圧:房水分泌の低下のため.非特異的な所見の

      • 高眼圧:房水流出抵抗の増加のため.上記各種虹彩癒着による場合を除外して,サルコイドーシス trabecular sarcoidosisの可能性が大. その他では PosnerSchlossman症候群,ヘルペス性虹彩炎, HLA᠆B27関連ぶどう膜炎, 異色性虹彩毛様体炎(Fuchs), など.
        また,ごくまれに房水産生が増加することがある(hypersecretion glaucoma)

        或るぶどう膜炎専門クリニックの統計では,特発性ぶどう膜炎(29.3),サルコイドーシス(13.3),帯状疱疹(6.9)HLA᠆B27ぶどう膜炎(6.9),結核(5.9)PosnerSchlossman症候群またはサイトメガロウイルス(CMV)ぶどう膜炎(5.3)であった. 診断時眼圧の中央値は35mmHgであった(Br J Ophthalmol 105(5), 2021)

         secondary inflammatory glaucomainflammatory glaucomaについてalso known as uveitic glaucomaと言い替え説明をしている論文がのサイトにヒットする.ぶどう膜炎と続発緑内障のような意味らしい.だがしか~し,ラテン語名で glaucoma inflammatoriumとすると 急性閉塞隅角緑内障 glaucoma acutum inflammatorium (der akute Glaukomanfall)のことなんだけど,査読はどうなってんだ.いい加減になったもんだ.英語名は定義が違う‥なんてこたぁないよね.

      • 毛様体浮腫:炎症反応.水晶体が前進浅前房化,近視化,

      • 滲出 あるいは snow bank:毛様体扁平部,あるいは鋸状縁での線維芽細胞増殖と新生血管,グリア細胞増殖を示す炎症反応の.当該部は血液関門の脆弱性が示唆されている.
        特に ring状あるいは土手 bank様に膜ができた状態が,毛様体炎膜(毛様体炎性硬皮)cyclitic membraneである.増殖組織であるから収縮する性質により牽引性離をきたす. 前部増殖性硝子体網膜症 anterior PVR である.

      図 09

    5. )硝子体のサイン;

      • 硝子体混濁:前房内と同様に炎症細胞・炎症産物が浮遊する.細胞が集合すると肉芽腫様所見となる.
        びまん性,雪ダマ状,真珠の首飾り状,羽毛状,膜状,ひも状,ベール状,顆粒状などと表現し,網膜との距離によっては飛蚊症の原因となる.意外に強いかすみ感を訴えることがある.
        新生血管破綻による硝子体出血も起こり得る.
      • 後部硝子体離:加齢現象の加速,ヒアルロン酸・膠原線維の融解・変性・収縮,などに因る.

        炎症細胞リンパ球,好中球,マクロファージ ・・・・・

        炎症産物サイトカイン,線維増殖・新生血管の発生,透過性亢進の結果 ・・・・・

        硝子体炎本質はぶどう膜炎による硝子体混濁であるが,感染性眼内炎での病態が主(ただし網膜傷害の意味を込めるとすると眼内炎と聞くほうが緊急性がありそう)

    6. )網膜・色素上皮・脈絡膜のサイン;

      炎症産物すなわち滲出性混濁を起こし,循環障害が加わる.色素上皮の障害が強く網膜の漿液性離をおこす代表は原田病,網膜の滲出性混濁(白血球浸潤+虚血)や出血はBehçet病,周辺部から進行・拡大する壊死性混濁・血管炎はヘルペスウイルス網膜炎,後極に好発する壊死性混濁・血管炎はサイトメガロウイルス網膜炎,など.網膜血管炎(静脈炎・静脈周囲炎)はサルコイドーシスなど.
      黄斑浮腫(類囊胞,あるいは囊胞様黄斑浮腫 cystoid macular edema:CME)は網膜血管の透過性亢進の結果であり,所見としては非特異的である.血管炎や出血所見など,疾患により網膜と脈絡膜で所見の比重が違う.視神経乳頭では,反応性ときに原発性に充血浮腫(発赤腫脹)がみられる.

      脈絡膜新生血管を生じることがある.

      • Edmund Jensenretinochoroiditis juxtapapillaris乳頭隣接網脈絡膜炎:眼トキソプラズマ症の型 

      • つまるところ,ぶどう膜炎とは網膜血管炎や乳頭血管炎を包括したりする.
        (ただし,「ぶどう膜炎で網膜血管炎や乳頭血管炎を伴う」とは言うが,「網膜血管炎や乳頭血管炎はぶどう膜炎の種」という表現は残念ながら般的ではない ・・・・・)

    7. )蛍光眼底造影所見;

      ぶどう膜炎ではなんらかのかたちで血液眼関門が変調をきたすため,炎症の程度を知る指標となる.上記 のような網膜の浮腫や混濁部で,強い過螢光を示すことがわかる.視神経乳頭部に於ても病態により深部過螢光(脈絡膜系の透過性亢進)や表層過螢光(網膜血管系の透過性亢進)を認める.

    図 10 図 11
    図 12 図 13
    1. )検査所見;

      大ぶどう膜炎の検査項目には,Behçet病ではHLA-B51,IgAの上昇,原田病ではHLA-DR4/DR53,髄液中の細胞増多,サルコイドーシスではツ反の陰転,アンギオテンシン転換酵素(ACE)値の上昇,HLA-DR52などが補助診断となる.
      部の前部ぶどう膜炎ではHLA-B27との相関がみられる.
      CD4陽性Th細胞は般に(原田病のほか,Behçet病・サルコイドーシスなどでも)増加する.減少のときはAIDSを疑う.

    2. )性差;

      男性女性:Behçet病,強直性脊椎炎,
      男性女性:サルコイドーシス,若年性関節リウマチ,

    3. )片眼か両眼か;

      片眼両眼:多くの感染性ぶどう膜炎,PosnerSchlossman症候群,HLA᠆B27関連ぶどう膜炎,
      片眼両眼:大ぶどう膜炎,若年性関節リウマチ,

  4. 分  類

    ぶどう膜炎の分類には幾つかの方法がある,以下にその代表的なものをあげる.

    1. )位置による解剖学的分類

      図 15 uveitis

      ① 前部ぶどう膜炎 anterior uveitis
       虹彩~毛様体を中心としたもの.虹彩炎・虹彩毛様体炎・毛様体炎.
      ② 中間部ぶどう膜炎 intermediate uveitis
       毛様体~網膜周辺部,もしくは硝子体炎の形となる.
      ③ 後部ぶどう膜炎 posterior uveitis
       網膜・脈絡膜・視神経
      ④ 汎()ぶどう膜炎 panuveitis
       眼球全体の炎症反応
      ⑤ 強角膜への炎症波及を伴うものがある.すなわち,
       sclerouveitis=scleritis+uveitis,または 強膜炎:
       keratouveitis=keratitis+uveitis,または 角膜内皮炎:発生上,ぶどう膜と角膜内皮は共通の原基であり連鎖して炎症の場となる.
       角膜ぶどう膜炎:おもにHSV,他にCMV.眼圧上昇を伴いやすい.角膜ヘルペスの重症型で,実質型・内皮炎・虹彩炎・線維柱帯炎の複合と考えられている.

      図 16 図 17
    2. )臨床所見と組織像による分類

      組織像と細隙灯顕微鏡による沈着物の臨床所見から分類したもの.
      炎症産物は眼内のいろいろな部位  角膜内皮上,線維柱帯上,虹彩面,硝子体中,網膜面,網膜血管周囲  に沈着する(沈着物 プレシピテート precipitates)

      肉芽腫性ぶどう膜炎(granulomatous uveitis )
      マクロファージ・類上皮細胞・巨細胞・リンパ球による肉芽腫が形成される,大きい黄白色の結節性沈着物が特徴.
       (マクロファージが類上皮細胞になり,癒合すると多核巨細胞となる)
      角膜では 「豚脂様 mutton fat」,虹彩では「Koeppe結節 や Busacca結節」,硝子体では「雪だま状 snowballs」「真珠の首飾り状 string of pearls」,網膜血管に添うと「ろうそくのしずく candlewax drippings」と形容される.

       ☆discrete type類上皮細胞が,結節を形成しているもの.周囲にリンパ球・形質細胞が薄く取り巻く.例;sarcoidosis
       ☆diffuse type類上皮細胞・リンパ球・形質細胞がびまん性に増殖しているもの.例;原田病(VKH病)・交感性眼炎
       ☆そのたcatscratch disease, leprosy, leptospirosis, Lyme disease, multiple sclerosis, syphilis, toxoplasmosis, toxocariasis, tuberculosis, etc

      非肉芽腫性ぶどう膜炎(nongranulomatous uveitis)
      白血球・形質細胞・リンパ球の浸潤で,肉芽腫は形成されない.小さく,より白い角膜後面沈着物が特徴.
      主に急性の前部ぶどう膜炎の形をとり,前房所見が激的(強いフレア,フィブリン析出,前房蓄膿)であっても予後は比較的良好の事が多いが,眼底変化が加わると視力予後はこの限りではない(例;Behçet)

       ☆そのたankylosing spondylitis, juvenile idiopathic arthritis, rheumatoid arthritis, など

    3. )病因による分類

      免疫関連によるもの(80)と感染によるもの(20)が大部分である.

      1.  外因性ぶどう膜炎:直達性外傷によるもの

        ・外傷(化学薬品や放射線を含む鈍性外傷)あるいは手術操作すなわち組織の損傷(眼血液関門が破壊され炎症反応が起きる)
        ・細菌感染による化膿性炎症
        ・異物侵入(鉄イオンや銅イオンに毒性がある),など
          (菌血症による炎症は,眼内炎として別に扱う)
          (交感性眼炎は,外傷が契機ではあるがここには含めない)

      2.  内因性ぶどう膜炎
        ①感染性ウイルス・細菌・原虫などの病原体の眼内感染(血行性

        )ウイルス感染
          ヘルペスウイルス科(単純ヘルペス HSV,水痘-帯状疱疹ウイルス VZV,エプスタイン-バールウイルス EBV,ヒトサイトメガロウイルス CMV,など)
          ヒトTリンパ球向性ウイルスI型,風疹ウイルス,ムンプスウイルス,など
        )梅毒スピロヘータ
        )結核・らい
        )細菌・真菌ヒストプラズマ・アスペルギルス・カンジダ
        )原虫トキソプラズマ
        )寄生虫トキソカリア(いぬ回虫症),オンコセルカ(糸条虫症)

        ②非感染性(免疫異常または自己免疫による

        )原田病,交感性眼炎
        )サルコイドーシス
        )Behçet
        )水晶体起因性ぶどう膜炎(lens-induced uveitis)
        )全身疾患によるぶどう膜炎
         ⅰ.膠原病・・
         ⅱ.腫瘍悪性黒色腫,転移性腫瘍(肺癌‥男性,乳癌‥女性)
              血液腫瘍性病変の眼内浸潤(悪性リンパ腫,白血病,多発性骨髄腫
              仮面症候群,がん関連網膜症

        ③上記 腫瘍関連の炎症(ぶどう膜炎の13%とのことである)は独立させて考える分類が多くなっている.
      3.  薬害性炎症

        免疫チェックポイント阻害薬 による汎ぶどう膜炎

  5. 疫 学 
  6. 各 論 
  7. なれの果て ~ 眼球の萎縮

    眼球萎縮 atrophia bulbi長期間のぶどう膜炎等の結果,眼内液の産生が低下し眼球の縮小したもの.眼内の構成組織成分は保存・識別しうる状態.
    眼球癆 phthisis bulbiぶどう膜炎のほか,手術侵襲を含む外傷により眼組織構造の傷害・破壊があり,組織修復・機能回復ができないまま長期間の経過で強角膜が肥厚し眼球の縮小・瘢痕化したもの.内部は網脈絡膜・硝子体に石灰化・化骨化をきたし疼痛の原因となる.
    *化骨 ossification網膜色素上皮細胞の化生,石灰化.

    これらにより最終的には,視覚障害への対応 が求められる.

  8.   precipitates は「プレシピテート」ですがドイツ語式に言う人は「プレチピタート Präzipitat(e)」となります.書く時は複数形ですが,読む時はしょせん日本語です.
      mutton-fat はなぜ「豚脂ラード」なのでしょうか.そもそもはドイツ語圏で生まれた表現だそうです.ドイツ語の原義はハムすなわち豚肉のあぶらのことだそうです.ドイツにはひつじは居ないのだとか,イギリス人はひつじ好きだとか で,英語表記のときに「豚」「羊」にすり替わった,とのことです.ドイツ語を訳した「豚脂」のほうが先輩で,既得権により後輩の「mutton-fat」に「豚脂」を当てはめたということでしょうか.「mutton-fat」が動物のあぶらのことなのか という点でも調べる必要があるかも知れませんが,さて.
      虹彩の英語表記は iris です.ギリシャ語は ίρις だそうです.
      毛様体の英語表記は ciliary body ですが,毛様体炎となると cyclitisciliary はラテン語由来,cyclitis はギリシャ語由来(κύκλος+ĩτις )なんだとか.どうして
      脈絡膜の英語表記は choroid ですが,脈絡網膜症だと chorioretinopathy とか,網脈絡膜症だと retinochoroidopathy とか,状況によってiが有ったり無かったり.おおもとのギリシャ語は chorioeides (χοριοειδής) だそうです.これに拠りi付きがホントなんだそうです.
      Krukenberg spindles はむしろ虹彩色素上皮の変性ととらえるのか PDS(Pigment Dispersion Syndrome,PG(Pigmentary Glaucoma,PEX(Pseudoexfoliation Syndrome,などで特徴的(必ずしも特異的ではない),と.
     Behçet は日本語・カタカナは「ベーチェット」です.もとはトルコ語で,「ç」は「チェー」と読むそうですョ.「h」はいわゆる長音ではなく声門摩擦音という発声なんだとか.

と,いうことで,おわり. 

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所見の定量化・グレーディング

全世界的に情報の共有を目指し,各所見の評価スケールが試みられている.

  1. 前房細胞
  2. 前房フレア
  3. 硝子体混濁

免疫特権

これらにより,眼内はいわゆる免疫反応・炎症反応が抑制されたあるいは寛容の状態にある.これが免疫特権 immune privilege である.毛様体上皮細胞,網膜色素上皮細胞,網膜血管内皮細胞が関門を形成して,全身性の免疫系が働きにくい構造になっている.眼内の抗原を認識したAPC(抗原提示細胞 antigen presenting cells)は炎症抑制型に変換され,血流にのって脾臓へ移動する.ここでクラスⅠMHC関連のTリンパ球を活性化し,レギュラトリーまたはサプレッサーT細胞は炎症反応を抑制する.前房関連免疫偏位 ACAID である.眼組織内ではMHC分子の発現が低く,房水中に免疫抑制物質(TGF᠆βα᠆MSH,VIP,CGRPなど)が豊富である.さらに,定のFasリガンド発現がある.ただし,閾値を越えるような強度炎症では抑制がかからないことも解かっている.炎症抑制は眼組織の保護という反面,免疫抑制は感染に弱く病原体の侵入を許す(たとえばHSV・VZV……MHCクラスⅠ分子の発現を抑制し,細胞障害性T細胞の攻撃を逃れる)事態にもなる. 図 18

また,基底膜ないし基底膜様に配列された細胞間結合(血液眼関門を含む)により眼球内空間を分節に区分けすることができる.水晶体虹彩隔壁より前の部分を前部 anterior segment,後ろを後部 posterior segment として炎症部位をとらえる考え方である.
ぶどう膜は連続する組織構造であるにも関らず,炎症が広範囲つまり常に汎ぶどう膜炎として経過するとは限らないのである.すなわち,ぶどう膜炎の形態的所見の多様さを示している.

免疫反応の概要

※関与細胞:
 a.白血球系;リンパ球(T・B),単球・マクロファージ,好塩基球・マスト細胞・血小板
図 19  b.組織細胞;抗原提示細胞(T細胞),炎症性T(CD4+Th1)細胞
※抗原の認識:
※免疫寛容の喪失:
※自己免疫と交叉抗原:
APCs:antigen presenting cells,抗原提示細胞.
マクロファージや樹状細胞は,抗原タンパクを取り込み・分解処理し,その結果生じたペプチドをMHC分子の上に提示する.硝子体中にも存在する.
MHC:major histocompatibility complex
TCR:T cell antigen receptor
※costimulatory molecules:共刺激分子群
抗原提示細胞とT細胞上に発現する連の分子群で,伝達される共刺激シグナルはThの活性を左右し,その後の免疫応答にも大きな影響を与える.
IL:interleukin
IFN:interferon
ICAM:intercellular adhesion molecule
LFA:lymphocyte functionassociated antigen
VCAM:vascular cell adhesion molecule
LTB:leukotrienB
C5
RANTES:Regulated on activation, normal T cell expressed and secreted
RANTESはCC chemokine/intercrine に属し,好酸球に強い遊走能がある.T細胞・顆粒球・マクロファージ・線維芽細胞・mesangial cells・腎尿細管上皮細胞などが遊離する.塩基好球からヒスタミンを遊離,好酸球を活性化し,単核球とメモリーT細胞に対して NF᠆κB 依存的な走化性を示す.ヒト遺伝子部位は17q11-q21 と言われる.
CD15:adhesion molecule

免疫抑制物質

αMSH:melanocyte stimulating hormone:
日焼けで皮膚を黒くする.眼内では色素上皮がMSHを分泌する.α᠆MSH受容体のあるものが免疫制御T細胞を誘導する.
CGRP:calcitonin geneⲻrelated peptide:
カルシトニン遺伝子関連ペプチド.血管作動性神経伝達物質の.免疫抑制の液性因子
B7分子:共刺激分子
Fas ligandT細胞をアポトーシスに導く.補体反応を抑制する.角膜内皮や色素上皮細胞に存在するCD95.
Fas module
GITR ligand
IL᠆1ra:interleukin 1 receptor antagonist:IL᠆1に対するインヒビター.
IL᠆1が関与する炎症性疾患で,IL᠆1raとの均衡の破綻が病態の端を担う.
SLEや関節リウマチ(RA)で高値.
MIF:macrophage migration factor:
TGF᠆β:tansforming growth factor:β1やβ2.
免疫抑制の液性因子
VIP:vasoactive intestinal peptide:
ACAID:anterior chamberⲻassociated immune deviation(前房関連免疫偏位:アケイド
前房内へ抗原を入れると,液性免疫は発生するが細胞性免疫は抑制される.前房内のTGF᠆βα᠆MSH,VIP,CGRPなどによる.虹彩毛様体からは免疫抑制物質(B7᠆2のこと ?)が分泌.レギュラトリーT(Tr細胞;サプレッサー)細胞によって炎症性T細胞が抑制される.
免疫特権の例とされるが,細胞性免疫の抑制は全身性に発生する特徴がある.
硝子体あるいは網膜下腔も同様の特性がある,とのこと.
※色素上皮細胞:虹彩,毛様体,網膜
活性化T細胞抑制能がある.免疫調節因子 CD86,TGF᠆β,CD8,IL᠆10などによって活性化T細胞は抑制T細胞へ変換される.
※角膜内皮細胞:CD95L
 ・B7᠆H3はACAIDにより全身性免疫寛容を誘導する.
 ・GITR Lは制御性T細胞を誘導する.
 ・Fas LとB7᠆H1はT細胞をアポトーシスを誘導する.
図 20

2021

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