眼 底 の 病 態 |
眼底 eye ground/fundus oculi は,「眼球の中」あるいは「眼の奥」で,
網膜 retina,視神経乳頭 optic disc/papilla,脈絡膜 choroid,及び 硝子体 vitreous,を総称する正面像である.
眼底検査 fundus examination:
網膜は人体の中で血管を直接観察できるほぼ唯一の器官であり,発生上,視神経は大脳白質の一部すなわち中枢神経としての性質を持つ.従って眼底検査とは眼科疾患だけでなく,種々の全身疾患に伴って眼底に現われる病変のチェックをも意味する.このような観点が眼底検査の大きな意義と思われる.
通常の眼底検査の手技には,検者が直接観察するものとして直像検眼鏡または倒像検眼鏡,あるいは細隙灯顕微鏡を用いる方法がある.眼科で眼底検査というと,周辺部はもちろん硝子体・毛様体を含む眼球内部全体を指していることが多い.これら全体を含めて『眼底所見』となる.
♢ 白質:脳脊髄の神経線維の部分.対するのが灰白質で神経細胞体の部分.網膜でいうなら,顆粒層(核の部分)が灰白質に相当し,網状層あるいは線維層が白質に相当する.
♢ fundus:Fundus (Latin for "bottom") is an anatomical term referring to that part of a concavity in any organ, which is at the far end from its opening.
検眼鏡・眼底カメラ:
眼底検査は 検眼鏡 ophthalmoscope で眼底を観察し,眼底カメラ fundus camera でこれを写真に撮る.眼底カメラは客観性・記録性のゆえに通常の診療記録や集団検診などの場に広く普及しているが,写真は解像力に限界があるほか,写されている範囲以外は判らない点が致命的である.ワイドを一発で撮影するカメラは未だ一般的ではないと思われ,これをカバーするために貼り合わせ写真(パノラマ画像化:on mouseover to expand)の技がある.
当シリーズでもいくつかの広角写真を用意した.後極の外に目を向ける練習になれば幸である.
眼底表面網膜の神経要素は透明であり,検眼鏡ないし眼底カメラで直接見えるのは,視神経乳頭・網膜血管・網膜色素上皮ということになる.血管は細く明るい色調が動脈,太く暗い血管が静脈である.血管自体は透明であり,直接見ているのは血液である.
網膜色素上皮の奥に脈絡膜があり,云わば床下となっている.
有色人種(上図↖左colored)では網膜色素上皮はやや褐色がかり,脈絡膜紋様は判然としないが,黄斑の認識は容易である.加齢により,あるいは近視(上図中)では紋様が目立つようになる.豹紋状 tigroid/紋理状 tessellated という.白皮症(上図↗右
眼底の色は照明光・水晶体の色調・網膜色素上皮・脈絡膜の色素(と脈絡膜の血流 ・・・たぶん)に左右される.照明光を当てて帰ってくる光を観察することで,『反射』と言う表現を使う(網膜反射,血管反射 ・・・).
多くの病変は刻々変化するものであるから,時間経過を加味して所見を把握することが求められる.
)dimension
眼球は,角膜頂点が前極 anterior pole,後方の中心が 後極 posterior pole,前後方向が 軸 axisとなる.眼球の腹で円周最大部が赤道 equator,極を通る外周が子午線(経線 meridian)である.これらを眼底部位の大まかな位置表現に対応させると,視神経乳頭・黄斑を含む一帯が後極部,その外側で渦静脈のある部分が赤道部,さらに周辺部(〜鋸状縁部)と続く.
赤道部までを中間周辺部 mid periphery,その先を最周辺部 far periphery/most peripheryということがある.
眼底写真の画角(水平約45〜50°)が,だいたい後極部の範囲をカバーする.
)location
①構造上の眼底中心は視神経乳頭である.これにより病変の方向は,乳頭から耳側・鼻側・上方・下方となり,または時計廻りの時刻を用いる.乳頭から鼻側水平方向(つまり内側)は,右眼では3時方向,左眼では9時方向となる.
病変の大きさや乳頭縁からの距離は乳頭の直径と比較する.乳頭径(DD;disc diameter)である.乳頭径は個人差が大きいが,横径と縦径とを平均し模式的に,
♢ 上右図では乳頭径は横径をとっている.元より大まかな表現であるからイメージとしては差し支えないが,緑内障での陥凹を評価しようとするときに横径では少々不都合である.さらには乳頭境界についてもややこしい. これらは下記参照.
②機能的な眼底中心は黄斑(中心窩)である.すなわち,視野としてとらえるものである.
これにより,上下左右の原点を黄斑で説明することも多い.
眼底検査は,まず視神経乳頭,黄斑部を確認し,血管を観察する.
視神経乳頭は視神経線維が集合し,網膜動静脈が出入りする.
径は1.5mm(〜縦径1.7mm )で,やや茶褐色の色素輪(zone alpha)が周りを囲み,網膜色素上皮・脈絡膜の断端と見做す.乳頭境界 disc marginである.その内側で明るいオレンジ色で神経線維の占める部分が辺縁 neural rim,中央のへこみが陥凹 cup/
通常の乳頭径は 横<縦 であるが,陥凹は 横径>縦径 である.これにより rim幅は下方が厚く,上方,鼻側,耳側の順で薄くなる(ISNTの法則).
網膜内境界膜は Müller細胞由来であるが,乳頭面内境界膜(Elschnig membrane)はアストロサイト由来となる.陥凹部内境界膜はやや肥厚し,central meniscus of Kuhntと呼ばれる.
網膜端では神経線維との間にグリア組織(Kuhnt)が介在し,さらに脈絡膜端との間(Jacoby)では篩板前の神経線維を束ねている(mantle).このマントルの外周は強膜線維が円周状になっている結合組織で,
前篩板部から篩板部の視束周囲の境界組織 border tissueは,典型では視神経乳頭・篩状板の外周に白色の縁取りとしてみえる.強膜輪 peripapillary scleral ring(Elschnig)である.scleral cuffあるいは lip/haloともいわれる.
乳頭 optic nerve headとは強膜輪より内側の領域,ということになる.
★ Elschnigの強膜輪は, 眼底写真 / 境界組織・模式図 ❶ / 境界組織・模式図 ❷ / で.
乳頭境界は,網膜構造の境界でもある.概念的には,➊篩状板部の外周,➋強膜輪の内周,➌網膜・脈絡膜の端,である.
緑内障研究や近視研究の立場では境界のほか,辺縁・陥凹についてもう少し厳密に定義されている.しかし悲しいかな,
乳頭傾斜・強度近視・緑内障などでは型通りにはならない.
通常,乳頭境界は➊篩状板部の外周=➋強膜輪の内周,と解釈する.
a.生下時に於いては,Bruch膜・脈絡膜・強膜が整然と視神経開口部を作っている.成長とともにズレて,脈絡毛細血管板・Bruch膜あるいは網膜色素上皮層の終端がきれいに揃うことはほとんど無い(normal misalignments).
b.脈絡膜あるいは網膜色素上皮の終端部は不規則な色素沈着が起きている.病的な意味は,ふつう無い.たいがい Bruch膜が出っ張っている.
c.➋強膜輪を越えて,つまり乳頭内に➌色素上皮の断端を認めることがある.二重輪 である.
d.➌色素上皮層・脈絡膜の断端が➋強膜輪まで届かずに,強膜が広く見えている部分がある.コーヌス である.
e.主に加齢変化あるいは緑内障性変化として,脈絡毛細血管が萎縮・後退する.
f.緑内障では,神経線維層欠損部の随伴所見として乳頭外郭が萎縮・変色(多くの場合は色素沈着化)する.脈絡膜が萎縮・後退すると輪状コーヌス(この場合は色素消失状)となる.
g.乳頭径をいうときは,計測上の境界を決定しなければならない.緑内障の乳頭評価の立場では 乳頭外縁 という表現を用いる.言い換えれば,外縁とは ➋強膜輪の内周≒辺縁部(rim)の外周,ということになるが,OCT画ではさらに多様性が明らかになって難しいね.
乳頭周囲は,不規則な色素沈着・脱色素がみられる.
★ α ゾーン:Bruch膜・網膜色素上皮層(RPE)の存在.不規則・不整に変性したRPEは耳側部で確認しやすい.外側は正常網膜,内側は強膜輪あるいはβゾーン.濃淡の色素沈着があり正常眼でも多数例で観察される.
★ β ゾーン: α の内側で,RPEの欠如,Bruch膜の存在.視細胞から脈絡毛細管板も萎縮・欠如(parapapillary atrophy)する.脈絡膜血管は残り,強膜が透ける.正常眼でも25%ほどに認められるが,緑内障ではより高率とされ菲薄rim部の方向に一致する.眼軸伸長とは関連しない.
★ γ ゾーン:Bruch膜及びRPEの欠如.網膜・脈絡膜ともに欠如するが,内境界膜・神経線維層は残存(近視性を含むいわゆる,コーヌスと同等).正常厚の peripapillary scleral flange(境界組織 mantle部の周囲).眼軸26.5mm(臨床的に強度近視とする -8Dに相当)を超えると急激に出現頻度が増えることで,伸長に因るBruch膜の後退とされる.
★ Δ ゾーン:伸展・菲薄化した peripapillary scleral flange.強度の眼軸伸長に因るとされる.Zinnⲻ
★ parapapillary atrophy;PPA:一般には緑内障・強度近視眼での所見を説明する用語のようである.
★ gamma & delta zone ➽➽ 例
★ peripapillary scleral flange ➽➽ 例 境界組織・模式図 ❷
★ grey crescent;neural rim内に存在.二重輪のような組織変化であるが,下耳側方向で60%は両眼に,アメリカにおいて黒人系で27%白人系7%ほどの,出現とのことである.
乳頭内部は,およそ四部に分ける.
① the surface layer:神経線維層で約100万本の神経線維が集合する.
② the prelaminar layer:前篩状板部では,アストロサイトの突起(グリア隔壁)が神経線維をとりかこみ約500〜1,000本ほどの束(神経線維束)を形成する.脈絡膜と神経束とを隔てる外周グリアは,Kuhnt組織から連続するJacoby組織である.
③ the laminar layer:篩状板部では,強膜から連続するコラーゲンの薄板(laminar beam)が多重層になっている.薄板には多数の孔(laminar pore)があり,神経線維束を通す.チューブ状の神経束のグリアチャンネルは篩板内で枝分かれしているとのことである.強膜と神経束を隔てる外周グリアはJacoby組織から連続し,mantle外套となっている.
④ the retrolaminar layer:後篩状板部から神経線維は有髄となり,眼外と解釈する(無髄部までが視神経乳頭ということになる).篩状板後方のグリアは,髄鞘を形成している希突起(乏突起)神経膠細胞(oligodendroglia)である.軟膜に接するmantle部(neural canal)はアストロサイトで構成されている.
乳頭色の一部は髄鞘の色と考えられる.なお,astrogliaが oligodendrogliaの眼内進入を止めて,網膜内では有髄にならないようにしているとのことである.
乳頭の毛細血管網は,①表層が網膜中心動脈系であるが,篩状板部は短後毛様動脈で栄養される.②前篩状板部は脈絡膜血管とZinnⲻ
脈絡毛細管板と違い乳頭部血管は自動調節機能(autoregulation)がある.なお,組織学的には,乳頭部血管内皮に tight junction が認められる.脈絡膜血管の証しである有窓血管はない.このことは血液関門の機能を示唆している.蛍光眼底造影検査において後期で過蛍光となる乳頭縁は,脈絡膜の断端である.血液関門の破綻する病態では,深部蛍光の増強が認められる.
神経線維と網膜中心動静脈が強膜篩状野を通過し眼外(眼窩・脳の中)となる.
乳頭面には眼内圧が,強膜は視神経鞘・脳硬膜と連続し脳脊髄圧がかかっている.つまり眼圧と脳圧は篩状板を介して拮抗する.眼内と眼外を隔てるのは『篩状板』ということである.
視神経の続き:篩状板のその先は ・・・・・
乳頭のチェックポイントは,形状・境界・陥凹・辺縁・色調・高低・血管走行などである.
ⅰ.)形状のバリエーションは多くの写真で確認して欲しい.
近年では乳頭面積が注目されている.白人<ヒスパニック<アジア人<黒人,とのことである.mediumサイズで大凡2〜3mm² である.
ⅱ.)乳頭境界は,➊篩状板部の外周,➋強膜輪,➌脈絡膜の端,ということで定義に従えば ➊≒➋ ではあるのだが,鮮明・不鮮明を言う時おそらく ➌網膜色素上皮層の終端を目印とするのが分かりやすい.
ⅲ.)陥凹は,辺縁部より内側の黄白色部分である.原則として神経線維が存在しないことで,神経線維減少では辺縁の菲薄化と陥凹径の拡大が起こる.陥凹拡大の評価にcup-to-disc ratio
クラシカルには,陥凹は『表面の高さよりも下の部分』と見做す(右図).
『色素上皮,あるいは Bruch膜のレベルより深い部分』と定義する研究者もいる.OCTでは色素上皮端をベースラインまたは基準面(reference plane)として陥凹の位置決めをする手法が多いようだが,再現性や疾患経過比較での安定性はともかく乳頭縁の同定など機械任せは難しい.
ⅳ.)陥凹内部のほぼ陥凹底に相当する蒼白部が pallorである.毛細血管が特に稀薄な部位,らしい.陥凹部が拡大すると pallor-cup discrepancy となる.
(ぱらー:陥凹部との区別は難しい,というか必要あるのか ?)
ⅴ.)色調は,おもに辺縁部の状態である.網膜表層すなわち神経線維層と前篩状板部の毛細血管により橙色が,篩状板により黄色が生じる.
ⅵ.)高低とは,辺縁部の網膜表面の隆起状態と陥凹底の深さである.辺縁部の隆起は時に乳頭浮腫とまぎらわしい.
ⅶ.)そういうことで,乳頭部の正常範囲 within normal limits(WNL)は一概には決めにくい.例えば右図はどうだろうか ?
長径は反時計周りに50度回転しているし,陥凹は篩状板をはみ出してコーヌスに重なってるし,二重輪の様でもあるし・・・・・
ということで,このような長径が垂直でない所見を„傾斜している“と言うことがあるが,そのまま
なお,いわゆる
近視性乳頭変化
として,鼻側辺縁が隆起し黄斑側がフラットな所見を認めることは多い.おそらく視神経は後部ぶどう腫に伴い強膜に対し斜めに付着する格好となる.この場合は„傾斜“の定義に沿っている.
視神経乳頭部病変 disc lesion
網膜血管は乳頭部を中心としてまず上下に分かれ網膜に分布する.動脈は基本的に網膜中心動脈の枝ということになっているが,時に脈絡膜から顔を出している動脈がある. 毛様網膜動脈 cilioretinal artery である.この網膜内層を栄養する脈絡膜血管は(眼数にして)およそ10%ほどに観察される.
中央写真なぞ,かろうじて6時方向の動脈が網膜動脈のようである.他の5本はどっから血流を受けてるのだろう.
そしたら,脈絡膜,すなわち渦静脈へ排出する網膜毛様静脈 retinociliary veinはどうだろう.
これこそ乳頭部の形成異常のカテゴリー,ということで非常に希,ということになっているが,コーヌスを含む乳頭周囲の形態異常を伴う強度近視では,可成り観察される確率が上がる,とのことである.
網膜静脈はどこへ行く ♪♬♪?
(尚,optociliary veinは病理変化shunt vesselである)
♢ optociliary shunt vesselsは網膜循環と脈絡膜循環を接続する乳頭部の側副路で,慢性の網膜静脈うっ滞を示す非特異的な所見である.網膜中心静脈圧の上昇のため脈絡膜へ入り,渦静脈から眼静脈へ還流する経路となる.稀には先天形成異常としてみられる.
視神経乳頭 papilla nervi opticiという表現は,組織学的な断面形状のイメージがある.これに対し,眼底所見の中の一か所としての平面的なイメージでは discus nervi optici 視神経円板となる.なぜか英語圏では disc が多いような気がするが,漢字では通常,視神経乳頭が一般的である.
眼底でのモノサシである disc diameter(DD)は眼科用語では乳頭径という.
♢ papilla diameter とは言わない.PD と言うと別の意味の略語になる.
„disc“ or „disk“ ?:
ラテン語の discus とかギリシャ語の δίσκος (diskos) が元(Wiktionaryによる),ということでどっちでもいい,ようである.
Sir DukeⲻElder 著による眼科の古典「System of Ophthalmology」では disc が採用されていて,その所為か,医学界で眼科の『c』は有名な話のようである.では眼科以外では ?
なお,現代イギリス英語は disc,アメリカ英語は disk という説明もある.
さらにいわゆるITの世界では,それぞれの名前に固有名詞がからんで混沌.例えばコンパクトディスクは disc だし,ハードディスクは disk だったり,じゃ DVD は ? フロッピーは ? あ! フロッピーは博物館モノだったな.
網膜表層にはかすかに白っぽく掃いたようなスジがみえる.スジは網膜神経節細胞の軸索突起,すなわち視神経線維である.
中心窩から視神経乳頭への最短ルートが,乳頭黄斑線維である.黄斑耳側では神経線維が上下に分かれて,弓状に黄斑を迂回して視神経乳頭へ向かう.この上下に分かれる水平経線が(耳側)
縫線 temporal rapheである.上下方向に向き合うのは黄斑から2乳頭径ほどで,それより更に外側では並走,というか直線走行となる.
網膜の枠組み構造
網膜は発生上・構造上の特性があり,病理変化を解釈する基となっている.発生の立場では,透明な神経要素(感覚網膜)と,色素を持つ網膜色素上皮とから成る.両者を分けるのが „網膜下腔“ である.一方,
網膜循環の立場では,脳層(内層)と神経上皮層(外層)という分け方をする.右図に従えば,両者を分けるレベルを „中境界膜“ としている.
ⅰ.水平構造
水平方向の構造は,①内境界膜 と 神経線維層,②中境界膜,③外境界膜,④網膜色素上皮 と Bruch膜,によって仕切られた層構築となっている.
ⅱ.垂直構造
垂直方向の構造は,信号プロセシングを行う神経は三階構造を示している.Müller細胞は網膜を縦貫して感覚信号伝達を行う神経接続のための支柱となり,両端は内外の境界膜を形成する.
ⅲ.血管の二重分布
①網膜血管:網膜内層の栄養.毛細血管は内顆粒層の深部にまで存在する.
②脈絡膜:網膜外層の栄養.視細胞部分は無血管となっている.
網膜内の酸素圧は,両者の分布の境界付近で最も低い.この中間帯は watershed areaと表現される(中境界膜に相当).
ⅳ.神経上皮とは光受容細胞を指す.眼科では網膜色素上皮細胞と網膜視細胞を合わせて神経上皮層と云っている.すなわち,網膜10層では網膜色素上皮層,視細胞層,外顆粒層,外網状層,となる.
★中境界膜の位置が問題になるが,外網状層は網膜外層とするのが一般的である.
ⅴ.脳層とは神経回路を指す.内顆粒層〜神経線維層と考えるほうがわかり易いかもしれない.内境界膜は眼球壁内面(虹彩の裏から視神経乳頭まで)を連続してカバーする基底膜である.ということで,脳層がない中心窩にも「内境界膜」は有る.
Gunn's dots Gunn斑(1883) 【on mouseover to enlarge】
網膜病変 retinal lesion
眼底の病変は,網膜色素上皮以外の網膜は透明であるから必ず色調の変化として観察される.色調の基本的な変化は,白または混濁,黄,赤,黒であり,さらに位置関係(色素上皮より奥か手前か,など)で修飾される.
また,眼底表面反射と黄斑輪状反射は平坦性を示す指標となり,神経線維層の萎縮・欠損を評価,あるいは浮腫の存在を疑う手がかりとして重要である(黄斑部の項).
網膜に分布する動脈は,内頸動脈の最初の主要分枝である眼動脈から網膜中心動脈が分岐し,視神経乳頭から網膜内に進入後,網膜細動脈 → 網膜毛細血管 → 網膜細静脈 → 網膜中心静脈の経路で網膜全体を循環し,網膜脳層の栄養を受け持つ.乳頭上で動脈は内径で約100µm,外径で約200µm である.
網膜神経上皮層については短後毛様動脈に依存する.すなわち 二重分布 である.
模式的には,網膜血管は各象限・四方向に分岐する形態になっている.動脈(A;artery)は乳頭でまず上下に分かれ,神経線維層内を走行し二分岐を繰り返して周辺へ分布する.静脈(V;vein)も同様に二本ずつ合流し,神経線維層内を走行して上下から視神経乳頭内に集合する.一般的に網膜面での網膜動脈と網膜静脈の口径比
(arteriole-to-venule ratio:AV比)は,
黄斑をはさむ上下の耳側血管を,血管アーケード
乳頭+黄斑+血管アーケード近辺=後極,ということになる.また,鼻側血管もアーケードということがあるが,実際は直進走行となる.
血管パターンには個体差があるため,生体認証・個人認識(biometrics)が出来る.
網膜血管壁はほぼ透明で血液がそのまま見えている(血柱という).
★血柱:赤血球が流れる軸流と血管壁に沿う血漿の辺縁流のため,螢光眼底造影写真でみる血管内腔のほうが太い.blood column
★血柱反射:血管として見えているのは,管としての言わば円柱レンズを通して見える下部組織と,軸の凸表面の反射像との合成となる.axial reflex
★血管が透明であることを実感することはほとんどないが,よく見ると動脈はもとより静脈を透かして脈絡膜の斑紋が確認できることが多い. 【 写真;さらに画像クリックで拡大 】
対して血液が白濁する病態がある.牛乳を混ぜたようなものだ. 【 写真 】
網膜血管の特性
ⅰ.終動脈であることから網膜面において動脈と静脈は必ず交互に配列されており,動静脈枝の分布形態により分岐後は動静脈交叉部が生じること,交叉部では動静脈の細網線維性外膜が共通であること,毛細血管床は動静脈を持ったユニットの集合となっており隣り合うユニット同士は機能的に独立した潅流単位であること,などが特徴的な網膜血管病変を示す理由となっている.
★終動脈:動脈と動脈の間に吻合を作らない.終末血管.ゆえに,動脈同士・静脈同士の交叉はあり得ない.なお,周辺部においては動脈と静脈との間に吻合が認められている.end artery / terminal artery
★交叉部:眼科用語集では『交差部』であるが,ここでは敢えて「叉」を用いる.「叉」のほうが血管が重なった感じがするので・・・
右図は,交叉部で動脈に影響される静脈流のシェーマを示す.
★交叉部 その2:OCTによる交叉部の観察では,静脈が下を通るのは上記ほど多くはないらしい.平面画像では確認の限界があるため,としている.
ⅱ.臨床症状に関わる基本構造は,終動脈と網膜(毛細)血管の立体的配置である. 【☞ 眼底模式図 】
網膜毛細血管網は基本的には三層構造を示す.すなわち,下右図‘A’は 浅層毛細血管網(放射状乳頭周囲毛細血管(RPC)を含む神経節細胞層血管),‘B’は 中層毛細血管網(内網状層と内顆粒層の境界部付近レベル),‘C’は 深層毛細血管網(内顆粒層と外網状層の境界部付近レベル)を示している.
【(左引用):眼科診療プラクティス 85,2002】 | 【(右原図):Henkind P;Trans Am Acad Ophthalmol Otolaryngol,1969】 |
なお病理組織学では 四層 と認識されている.すなわち,
❶放射状乳頭周囲毛細血管(RPCs):網膜細動静脈と共に神経線維層に存在,
❷表層毛細血管:神経節細胞層と内網状層の内層寄りに存在,最も広く分布,
❸中層毛細血管:内網状層の外層と内顆粒層の内寄りに存在,後極部に分布,
❹外層(深層)毛細血管:内顆粒層の外層に存在,赤道部まで分布.
これにより,赤道部では神経線維層〜神経節細胞層と内顆粒層〜外網状層の2層に,周辺部では表層毛細血管網の1層構造となり,鋸状縁までの1乳頭径の部分は無血管である.
★ | 網膜内では中心窩のほか,動脈周囲の約120µm幅,網膜外層,鋸状縁,に無血管域がある.胎生期の血管形成にあたり,増殖因子と抑制因子とのせめぎ合いを示す,とされる. |
★ | 網膜循環障害(透過性亢進・毛細血管閉塞)の立場では,黄斑浮腫において圧迫閉塞をきたしやすい❹の部分は視細胞軸索と双極細胞・水平細胞とのシナプス部に相当し,視力への影響が大きいと説明している. |
ⅲ.動静脈の交互配置は
中心窩周囲の血管配列
にも当てはまる.さらに上耳側・下耳側領域とも黄斑耳側2.5乳頭径ほどの範囲で交互配置の規則性が維持されている.ここが縫線部血管で構造的には毛細血管の連絡はあるものの,機能的には上耳側領域⇔下耳側領域で血流の連絡はない.これにより分水嶺 watershed/ridgeと呼ばれる.
右図で
縫線部 は上耳側動脈に対し下耳側静脈がかみ合い(interdigitation),平均的なパターンではないと分かる(そういえば,乳頭面の血管も ヘン.
ⅳ.以上により,潅流単位という解釈,動静脈交叉部や縫線部の存在,などが説明できる.
血管拍(搏)動
網膜血管に於て,正常状態でみられるのは静脈拍動である.正常者で80%ほどに観察される.網膜静脈圧は眼内圧より1〜2mmHgほど高いに過ぎないため,動脈流入の圧迫を受けやすい.収縮期圧(いわゆる最高血圧)に応じて静脈が押されるための,陰性拍動である.
眼底血圧
眼底動脈に於ては,眼動脈血圧を反映すると考えられている.眼底血圧は上腕血圧の50%強(55乃至65%)で,
60〜80 ∕ 30〜50
静脈圧は1∕3程となる.
循環調節 (引用1~5:日本の眼科 84(4),2013
細動脈は動脈壁内の平滑筋層が厚く,血管緊張の程度により全身血圧が変動し,組織への血流供給が決定される.網膜循環についての調節機構は以下の様に説明されている.
血管病変 vascular lesion
血管病変といえば網膜循環障害すなわち,虚血・出血・浮腫・炎症・血管新生,などである.中心になるのは,閉塞病変と透過性亢進である.
また,血管自体の変形(狭窄・拡張・蛇行)は重要な所見であるが,先天性を含めた正常範囲の境界判断は,極めて困難である.
動脈-静脈の血管径や走行パターンは血管病変の解釈に欠かせないが,動脈-静脈の分岐パターンと共に,例外は多い. 【 ☞ 血管走行異常 】
くらいになると,先天蛇行 tortous とか 過剰血管 hyperⲻvascular と言うのは簡単だが ・・・・・
写真左では上耳側動脈にからんだ小静脈(新生血管ではありません)が,写真中では三分岐動脈が ・・・・・
更には『なりすまし』か『すり替わり』の如き詐欺血管まで ?
血管アーケード内が黄斑部,視神経乳頭・耳側血管アーケードを含む中心部一帯が後極部である.
黄斑 macula luteaは,周囲が厚く内部は薄くなっており(眼底写真や)検眼鏡で1乳頭径強の輪状反射 ring reflexを認める.網膜内(視細胞のほか双極細胞や神経節細胞)にキサントフィル(天然色素)を含むこと,(やや丈が高い)色素上皮細胞にメラニン(個人差・人種差あり)・リポフスチン(加齢変化)を含むことで暗褐色〜暗黄色を示す.特に中心窩(錐体軸索内=Henle線維層)にはキサントフィルが集中している.フルオレセイン蛍光眼底造影写真上で中心窩が暗く(dark macula という)写るのも,これらの色素が„フィルタ“となり蛍光輝度を暗くしていると考えられる.
中心窩 fovea centralisは,中央の径300〜350µm(⌀1°)の範囲の最も薄い部分で, „凹み“により小窩反射 foveolar reflex がみられる.正常固視点として,乳頭中心から3乳頭径耳側にある(≒4mm;約15°離れ,0.8mm;約3°下がる).
網膜反射・輪状反射や小窩反射は加齢とともに不明瞭となる.
G:網膜神経節細胞 H:Henle線維層 N:内顆粒層 |
おおよそ輪状反射の内部が黄斑である.
視細胞から伸びる軸索は外網状層で斜め,従って放射状の配列になっており,
Müller細胞は網膜の支えとして中心窩部では特殊な円錐形(Mcc; Müller cell cone)になっている(底面が内境界膜に対応する.
★中心窩無血管帯(FAZ)の大きさは,健常者で径0.2〜1.08mm と,大きな幅があるとのことである.
加齢により拡大する.血管密度の減少のためとされる.
★Müller cell coneは黄斑円孔や網膜上膜での病態に大きく関与する.
網膜厚は,中心小窩部分で最も薄く150〜200µm ほどである.中心窩周囲で 約250〜300µm である.
基底膜である内境界膜は一般には中心窩周囲で1.5µm(1,500nm)ほどの厚みといわれる.中心窩内では 約10
解剖学的な区分表現に従えば,中心部網膜 area centralis は,
a:中心小窩 foveolaは錐体視細胞とMüller細胞のみの部分で,径
錐体細胞数 約20,000
b:中心窩 foveaはだいたい輪状反射に一致する径約2,000µm,このうちの径約500µmの内部が無血管(FAZ).輪状反射の内側は錐体数優位,外側は杆体数優位.
c:傍中心窩 parafoveaは外周径約3mmの範囲で,Henle線維層 を形成し,中心窩縁では神経節細胞密度が最も高い(8列).
d:周中心窩 perifoveaは外周径約6mmの範囲で,杆体視細胞が最も多い部分.
となる.
臨床でいう『黄斑部』とは,ややあいまいである.
『中心窩 fovea centralis』は解剖名での『中心小窩 foveola』,
『黄斑 macula』は解剖名での『中心窩 fovea』内,
『黄斑部 macular area』は図での外周円乃至は血管アーケード内で解剖名では『中心部 central area』,そして血管アーケードを含んで『後極部 posterior pole area』といったところであろうか.
300µmは,角度にして⌀1°に相当する(計算の根拠).そうすると,1乳頭径(1.5mm)
なお『黄斑部』について,„直径1.5mm の部分“(この場合,中心窩≒黄斑部)とする記述と,„直径5〜6mm 以内の部分“
左 図:まれに,中心窩が大きく回旋していたりする.カメラのトリックではない.耳側縫線はどうなってるのだろう.中心窩位置の目安はおおよそ,乳頭下縁レベルである.
中央図:輪状反射が無く暗色調が不完全な黄斑を認めることがある.中心窩と思われるところに動脈分枝と見られる血管が重なっている(この症例写真は黄斑低形成 hypoplasiaの合併による形成異常).なお,毛様網膜動脈も認められる.
右 図:まれに,黄斑が水平より上がっていることがある.撮影時に回旋がかかっている訳ではない.Mariotte盲点はどこに検出されるのだろう.
黄斑病変 macular lesion
黄斑網膜は神経要素・毛細血管・硝子体の構築上,特殊な部位である.機能的には視力を確保するための構造であろうが,一旦発症した病理とすると視力には不利に作用すると言わざるを得ない.
重要な黄斑部病変は,黄斑浮腫,硝子体-網膜境界病変,Bruch膜-脈絡毛細血管板病変である.
最周辺では神経要素が消え鋸状縁を作り 毛様体扁平部・無色素上皮 へ続く.網膜色素上皮は毛様体色素上皮となる.
鋸状縁を跨いで Müller細胞の基底膜と硝子体線維の一体化した部分が,硝子体基底 vitreous baseである.
血液循環から見ると,前部分節と後部分節の接点となる.網膜最周辺1.5mm は,無血管となっている.
臨床的事項 clinical concern
支持装置の Müller細胞により鋸状縁部分は強固になっている.
また,硝子体膜との癒着をつくる病態,網膜内層が萎縮する病態,網膜色素上皮〜脈絡毛細血管板・脈絡膜萎縮となる病態,などがある.
周辺部病変 peripheral lesion
視神経乳頭部病変 【 return 】
ⅰ.表層が混濁すると 境界不鮮明 blurred marginとなる.視神経線維・軸索流のうっ滞と,循環障害による浮腫によるものである.通常,腫脹・隆起 swellingを伴う.一次的 primaryな病変の場で言えば神経線維であるか血管性であるか,になる.機能障害がないときは „偽“を冠する.偽視神経炎が例であるが,どうしてどうして難しい・・・・・
ⅱ.色調は主に毛細血管の病態が反映される.混濁・腫脹があるとき強い毛細血管拡張を伴えば 発赤浮腫,毛細血管拡張が少ないときは 蒼白浮腫 となる.拡張する毛細血管は,いわゆる RECs領域である.原因が想定されるとき蒼白を „虚血“ ということがある.虚血浮腫が例である.
毛細血管あるいは血流の減少では褪色 pale disc化 する.すなわち萎縮 atrophyである.視神経線維(視束)の萎縮が先行するとグリア増殖を伴い,神経線維の透明度がなくなり黄色味となる.蠟様萎縮が例である.
ⅲ.陥凹 cuppingの楕円は,生理的には水平方向の径の方が大きい.緑内障では垂直方向の径が大きくなる.陥凹の評価がC/D比である.例えばC/D比の左右差が0.2以上の非対称では緑内障を疑う.
陥凹が拡大すれば辺縁がやせるのは言うまでもない.辺縁は視神経線維で出来ていることから,神経線維の萎縮と陥凹拡大は表裏一体となる.陥凹底には篩状板が見える.ということで „凹“ 即ち „深さ“ の認識も不可欠である.
ⅳ.通常,辺縁 rimの菲薄化というと病状の進行に因る陥凹径の変化と連動することになるが,陥凹拡大とは無関係に上方〜鼻側の rim幅が変則的に薄く,同時に神経線維層の表層反射が乏しい眼底に遭遇することがある.バリエーション幅が大きい分,丁寧な観察を要する(→ 乳頭部先天異常.
ⅴ.血管走行は陥凹の形状変化と共に,重要なチェックポイントである(→ 緑内障.
しばしば静脈拍動が観察される.また眼球の圧迫で,誘発することができる(→ うっ血乳頭.
乳頭部循環では,静脈系はすべて網膜中心静脈へ流入する.ここに循環障害が生じると脈絡膜へ合流する側副路ができる.optociliary vein である.
ⅵ. 【 蛍光眼底造影検査 では 】
ⅶ. 【 乳頭部の症例写真 では 】
血管病変 【 return 】
ⅰ.血管の変化として定型は,動脈(A)では細くなり 静脈(V)では太くなる.即ち,AV比 が小さくなる.動脈変化は直線走行・口径不同〜狭細・血管壁の混濁(反射亢進),静脈変化は拡張・蛇行である.
各種の病態によって毛細血管のダメージが加わる.毛細血管の変形は,血管瘤〜拡張と内皮細胞増殖すなわち新生血管形成が基本形である.
・動脈の蛇行:全身疾患との関連は賛否ある.
・静脈の拡張・蛇行:高血圧,糖尿病,循環器疾患,膠原病,などでの切迫閉塞.頸動脈狭窄などでの慢性虚血では拡張のみ.
・毛細血管瘤:血管周皮細胞の消失 → 血管内皮細胞の増殖による.網膜循環障害の基本パターンであるが,糖尿病網膜症が典型ということになっている.血管内皮細胞増殖といえば新生血管そのものであることで,毛細血管瘤とは血管新生の病態に含めてよい.
・血管新生 → こちらで
・形成異常(走行異常 →
ⅱ.血管の病理(網膜循環障害)は,虚血・出血・浮腫・炎症・血管新生,などである.中心になるのは,
閉塞病変 と 透過性亢進 である.
【 ☞ 病理 では 】
★出血 (hemorrhage) → 網膜病変 の 項 で
★血管閉塞 (occlusion)
閉塞は血管内皮傷害を基として血栓が形成されて起きる.元の管腔はグリア(おそらく Müller)細胞によって埋められ,白線化する.終末血管であることから,支配領域は容易に虚血になる.虚血網膜の問題は新生血管が発芽することである.通常,内皮細胞の増殖機転は静脈側で起きる.
疾患的に見ると閉塞は 血栓・塞栓 による.動脈閉塞は両者で発症し,静脈閉塞は血栓による.
閉塞の原因
① 動脈硬化・・・
乳頭部の動脈(まれに網膜動脈で)は,硬化性変化により内腔狭窄をおこす.実際に眼動脈が閉塞するような状況は,心(心房細動や弁膜症による血栓)⇆内頸動脈(血栓やアテローム物質)が責任部位となることが多い.
静脈閉塞は,交叉部(網膜面)や並走部(乳頭内)で静脈内血栓が生じることによるが,動脈硬化による影響が元である.
② 高血圧症・・・
自動調節の限界を超えるような血圧の変化では,血管攣縮と血管内皮の損傷がおこる.
血管攣縮が即ち虚血であり,内皮損傷がすなわち透過性亢進である.これらの変化は,網膜血管<脈絡膜となる.
③ 糖尿病 ・・・
血管閉塞をおこす代表疾患.毛細血管レベルでの閉塞が主である.
④ 炎症 ・・・
感染性血管炎と非感染性血管炎がある.
感染は,菌(梅毒,結核など),ウイルス(ヘルペス,サイトメガロなど),真菌による.
非感染とは,膠原病などによるぶどう膜炎の病型の一つ.
⑤ そのた
乳頭面では血管の屈曲が強い.血流が変化し,内皮細胞が傷害され血栓ができやすい.
★透過性亢進 (hyperpermeability)
正常な眼底血管は透過性が抑えられていることで組織圧が維持されている.血管透過性亢進の結果が„浮腫“である.浮腫とは„組織間隙に溜まる体液“ということであるが,網膜は間質成分が少なく浮腫に対する予備能力が乏しい.その上,浮腫が生じた際に効率よく浮腫液の回収が出来るようにはなっていないらしい.これにより,少量の水分貯留でも所見が出やすく,特に黄斑浮腫を生じ易いと考えられる.さらに,成分が濃縮され沈着あるいは食細胞に取り込まれた所見が硬性白斑になる.
網膜血管に透過性亢進があれば網膜浮腫や網膜内の類囊胞となり,組織間隙が離解しやすい外網状層を中心(〜内外の顆粒層)に貯留する.黄斑部では囊胞様浮腫あるいは網膜剝離の形をとる.脈絡膜血管(実際は網膜色素上皮)の透過性亢進では,網膜下(視細胞層と網膜色素上皮層の間=網膜剝離)に漏出液が貯留する(これも浮腫と言う).
網膜浮腫 | → | 感覚網膜がふやけている(おもに網膜血管の透過性亢進 |
→ | 滲出性網膜剝離がある(おもに色素上皮の透過性亢進 |
透過性 permeability を規定しているのは,血液関門 のバリア機能である.バリア機能の破綻が透過性亢進すなわち,漏出である.これはフルオレセインナトリウムにより評価できる.眼底写真で関門機能をみるのが蛍光眼底造影検査ということになる.
臨床では滲出・漏出を厳密に区別することは殆んどない.関門の破綻が軽度のときは水分と電解質(漏出)が,高度になるとタンパクが加わる(滲出).低比重でも時間経過で濃縮されれば高比重になってくる(敢えて言うと,滲出液が漏出する,漏出液が滲出する,というような表現も許されていたりする).
♢ 感覚網膜全体としては90%以上の含水量とのことである.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10411642/
★側副路 (collateral vessel)
側副路は,循環障害に対する代償あるいは正常化しようとするプロセスである.本来,潜在的にそなわった機能であるが,健常状態では生涯,臨床的意義を示すことはない.
動脈-動脈,動脈-静脈,静脈-静脈の3パターンがある.一般的なのは網膜静脈閉塞の際に形成されやすい静-静脈シャントである.
ⅲ.網膜毛細血管透過性亢進の発生の場は,表層血管と深層血管とがある.端的には表層血管が原因になるのは硬性白斑,深層血管は囊胞様浮腫・滲出剝離と関連する.透過性亢進による網膜浮腫のほか,虚血による浮腫がある.この場合,主に神経節細胞の混濁・膨化である.
これらにより,浮腫とはいくつかの
病態 を包括する.
ⅳ.脈絡膜血管の循環障害:
ほとんどが網膜色素上皮・外血液網膜関門の機能障害として遭遇する.
これ以外は敬遠しておこう.
ⅳ.潅流(灌流)か,環流か,還流か
網膜病変・一般 【 return 】
神経線維層欠損:定型的には緑内障での神経線維層の萎縮・欠損所見となるが,高血圧網膜症でも(恐らく軟性白斑の跡として)観察されたりする.しかし,なぜか糖尿病網膜症での軟性白斑は,白斑消失後の神経線維層萎縮が分かりにくい.
赤色病変:通常は 出血 hemorrhage ∕ bleeding と考えてよい. 【☞☞ 出血 は 】
出血のかたち は,
①網膜前出血(即ち,神経線維層より前/または表面・表層):貯留部位は,後部硝子体膜と内境界膜との間,および内境界膜と神経線維層との間である.内境界膜の上か下かの鑑別が必要になることがあるが,空間がないと薄く面状に広がり,網膜血管は血液で隠される.しばしば赤血球が沈降し舟型 boatⲻshapedあるいは水平線 niveauを呈する.凝固しにくいためとのことである.
②網膜浅層出血:神経線維層の形(神経要素は水平構造になっている)により,火炎状 flameⲻ
③網膜深層出血:内顆粒層から外網状層内(神経要素は垂直構造になっている)により,点状 dotあるいはしみ状 blotを呈する.点状 punctateの所見は毛細血管瘤との鑑別が必要である.
④網膜下出血:視細胞層と網膜色素上皮層の間,あるいは網膜色素上皮の下で,それぞれ暗赤色や褐色の膜をかぶせたような外観の血腫を示す.
ざっくり云って,破綻性出血では表層出血,漏出性出血では深層出血となる.網膜前出血は硝子体出血として扱うこともある.しかし硝子体出血は網膜出血の延長では無い.
時間経過で出血巣の外観は変化する.大量では赤血球が壊れヘモグロビンが失われると黄褐色となり,数か月の経過で吸収される.少量では変色は判然としないまま薄まり,吸収される.
●「出血」とは血管内の赤血球が血管外の網膜組織内に存在する病態である.すなわち,溜まった血液 blood を指している.血管自体,血液,血流(循環)のいずれかが原因で起こる.
病態の理解のために重要なのは出血源で,固有血管からの出血であるのか,新生血管からであるかで大きく違う.網膜固有血管からの出血は種々の病態で起こる.脈絡膜血管からの出血は難易度が高い.網膜新生血管は通常,合併症としての意味合いが多く,脈絡膜新生血管は疾患本態であることが多い.
上のように「眼底出血」の診断に重要であるのはパターン認識であり,深くは脈絡膜出血,多いのは網膜出血,浅くは硝子体出血までを含む.小は点から大は血腫まで赤い成分は赤血球であり,出血 bleeding と言っても持続性・進行中の状態をさすのではない.あくまでも,溜まった赤いモノを見ているにすぎない.出血という病態表現で重要なことは,今まさに血が噴き出しているというようなものではないということである.実際,出血中に遭遇する確率は限りなく小さい(ゼロではないが,内視鏡で目撃するような消化管出血の比ではない).かくして,出血が止まったということと血(赤色)が消えたということも別の事となる.
眼底の血管病変に対する検査として,蛍光眼底造影検査は臨床で重要な位置をしめている.こと「眼底出血」に関し,造影検査は出血部から血液と共に造影剤が出てくる状態をみるというような検査法ではない.
では,血中の造影剤に対し画像上,出血斑(血管外の赤血球)はどのように写るのであろうか.
●他の赤色所見
出血以外では,血管の変形(特に毛細血管瘤は点状出血と紛らわしい),裂孔もしくは円孔が考えられる.毛細血管瘤はたいがい糖尿病(で可であるが,病理上は網膜血管の一般的基本反応)だし,裂孔は網膜剝離の原因としての網膜裂孔あるいは円孔,加齢あるいは外傷による黄斑円孔がある.
中心窩が赤い病態に cherry red spotがある.周囲網膜の白濁のためである.
黄白色病変:重要な白色病変は白斑 white patch で,軟性白斑 と 硬性白斑 がある.
a.軟性白斑 soft exudate(あるいは綿花様白斑 cottonⲻwool patch(es),またはspot(s))は,前毛細血管細動脈の閉塞による網膜虚血を反映している.毛細血管床の虚血によって網膜神経線維(神経節細胞の軸索)が横断され,停滞した軸索流が膨化・白濁として観察されたもの(cytoid body;細胞様小体)である.
数か月の経過で消失し,痕として網膜や神経線維層の萎縮を残す,急性の病変である.
軸索の膨化は一般には浮腫であり、また exudate と言うが、透過性亢進を元とする滲出物ではない.
軟性白斑は,網膜表層に所見の場がある.混濁は,網膜血管の上にかぶさってみえることがある.
陳旧化した所見として幅の狭い神経線維層萎縮を認めることがある.高血圧網膜症でよく起きるような気がする.
*cherry red spot 桜実紅斑:
網膜(中心)動脈閉塞では眼底網膜(全体)が浮腫状に混濁する.この場合の„浮腫“も組織傷害による神経細胞の変性を表している.網膜動脈の栄養範囲である脳層が虚血混濁することで,中心窩には神経線維層を含む網膜脳層が無いため,眼底の赤い色が残る理屈である.なお,網膜全体が軟性白斑でおおわれたものと言えなくもないが,たぶん適切ではない.
*軟性白斑を呈する疾患:
糖尿病網膜症,高血圧性網膜症,網膜静脈閉塞,膠原病(SLE),インターフェロン網膜症などの閉塞病変.高安病,眼虚血症候群,外傷性網膜血管症(Purtcher),etc.
虚血があれば白濁・壊死をきたす,と理解してよい.しかし白濁するにはある程度の網膜厚が必要である.ということで,軟性白斑は後極部に観察される.周辺網膜は薄いので,混濁としては見えないのである.また軟性白斑が消えても,血行が回復したわけではない.蛍光眼底造影 を行えばこの部分は造影されず,暗く写ることで血行障害が証明されることになる.造影写真で透過性亢進による淡い過蛍光を「軟性白斑」と言っては不可ない.
b.硬性白斑 hard exudateは,網膜血管(特に深層)の透過性亢進により血漿の漏出が起こり,その吸収過程で濃縮された脂質ないし類脂質(リポタンパク)が沈着したり,マクロファージに貪食されたものである.この漏出こそ„浮腫“であり,すなわち沈着物は慢性に経過している浮腫の存在を示している.主に外網状層近辺の貯留であるが,大量のときにはしばしば網膜下にまわる.
硬性白斑は外網状層に所見の場がある.視細胞軸索で構成され細胞間隙が広いこと,最寄の毛細血管が少々遠いため吸収に時間がかかる,と説明される.特に黄斑浮腫で吸収期にみえてくる硬性白斑は特徴的で,外網状層線維の配列(Henle線維)に従って放射状に並ぶ.星芒状白斑(star figure ∕ starⲻshaped pattern 星芒斑)である.
Henle層は乳頭側で厚く,耳側で薄い.360°均等に光芒が出る事は少なく,透過性の変化に応じてあるいは血流量に従って沈着の濃淡が片寄って現われる.
沈着物は濃縮し,あるいは貪食細胞に取り込まれた浮腫液の存在(または遺残)を示している.したがって,透過性亢進を示す病的血管を中心として浮腫が生じ,浮腫の縁に環礁状に硬性白斑が配列することが多い.その外観から„輪状網膜症“という.
融合状にべったりとした所見が,蝋(蠟)様白斑 waxy exudateである.長期間の滲出や浮腫が強いもので,多くの場合,網膜下腔への貯留となる.
*硬性白斑を呈する疾患:
糖尿病網膜症,Coats病,高血圧性網膜症,腎性網膜症,視神経網膜炎などの滲出変化.
蛍光眼底造影 を行えば,硬性白斑の近傍で蛍光色素の漏出部が証明される.しかし,沈着物=硬性白斑そのものに造影剤が付着し発光することはない.
c.
ドルーゼン
drusen は網膜色素上皮細胞基底膜とBruch膜・内膠原線維層との間にドーム状に沈着・蓄積した,網膜色素上皮由来の代謝廃棄・多形性物質 extracellular debris である.
検眼鏡的には,乳頭部網膜中心静脈径の半分(63µm)より小さいと硬性,大きいと軟性とする.
硬性ドルーゼン
hard drusen
は黄色の小型の境界鮮明な形状のものである.
軟性ドルーゼン
soft drusen
は境界がやや不鮮明で融合して大小の不正形となったものである.
①黄斑にみられるパターン,②周辺に見られるパターン,がある.まれに③広範囲に認める.単独では視力障害は少ないが,長期経過で網膜外層の萎縮をきたし,軟性ドルーゼンは加齢黄斑変性(AMD)の前駆状態としてriskyと見做す.なお周辺部に観察されるドルーゼンはほぼ硬性ドルーゼンのようである.
(元はドイツ語,英語圏でもそのまま使用される)
d.そのほか,
グリア(Müller細胞・星状膠細胞)や線維膜または新生血管を含む増殖組織,滲出した炎症細胞による混濁(ぶどう膜炎),網膜色素変性や高度近視の萎縮変性巣も重要である.小さい網膜有髄神経が軟性白斑様にみえることがある.
黒色病変:黒色あるいは褐色病変は通常,網膜色素上皮や脈絡膜の色素沈着 pigmentation を示す.色素異常は原発性にせよ続発性にせよ,網膜色素上皮病変ならびに脈絡膜病変で観察される.
先天性でみられる所見は,肥大 hyperplasia や 色素母斑 naevus である.
多くは続発性の反応所見で,網脈絡膜萎縮とか網脈絡膜変性という.このような場合,色素が散乱する.よって,色素沈着 hyperⲻpigmentationと 脱色素 deⲻpigmentationとは共存・隣接して観察されることになる.原発病変について検討することになる.
網膜外層(神経上皮層)は細胞間隙と見做される,浮腫や深層出血が生じる場がある.浮腫が生じると cystoid space と言ったりする.結果,硬性白斑が沈着する部位(外網状層〜外顆粒層)となる.OCTに拠ると,当該部位を中心とした高反射像により硬性白斑沈着を示すことができる.
黄斑病変 【 return 】
a.眼底の血管病変では,容易に黄斑浮腫を来たす.
黄斑浮腫の形態には大きく三種類がある.①硬性白斑,②類囊胞変性,③網膜剝離,である.
①硬性白斑:軽度な浮腫では放射状の神経要素(外網状層)に沿って硬性白斑が配列する.星芒状白斑である.
高度になると網膜下に沈着性の大きな白斑となる.蠟様白斑である.この場合,網膜はび漫性にもしくは黄斑から離れて透過性亢進の強い病変があり,浮腫が黄斑にまで波及する状況である( ☞ 白斑 に戻る).
②中心窩の網膜浮腫は網膜内(Henle線維層)に貯留空間を作り,類囊胞となる.この場合,中心窩周囲の毛細血管が特異的に拡張・透過性亢進を来たす病態である(囊胞様黄斑浮腫 ☞ 蛍光眼底造影での 解釈とシェーマ).
③進行が急速な場合,網膜下に貯留し滲出性網膜剝離となる.この場合,通常は脈絡膜がわに病変があるが,状況によっては網膜血管の透過性亢進でも剝離をきたし得る.
b.Bruch膜-脈絡毛細血管板病変
①色素上皮剝離,②脈絡膜新生血管,③ドルーゼン,④種々のジストロフィ,など
c.視細胞-網膜色素上皮病変(外層萎縮
①種々のジストロフィ,②遷延した網膜下液貯留,など
d.網膜病変
①近視性あるいは加齢変化としての網膜変性もしくは網膜分離,など
e.硝子体-網膜境界病変
①黄斑前膜,②硝子体牽引症候群,③特発性黄斑囊胞,④黄斑円孔,など
f.いわゆる ‚黄斑出血‘
原因として,まず脈絡膜新生血管を疑う.例外はあるが ・・・・・
g.毛細血管閉塞
中心窩周囲は ‚末梢型‘ の毛細血管パターンである.潅流圧が不足すると毛細血管は閉塞し,無血管野が拡大する.
注釈
●ジストロフィ:遺伝的に決定された内因(原発性 primary)で,ゆるやかに萎縮・退化・変性がおこる.進行性,両眼性,左右対称性を示す.
●変性:加齢,炎症,循環障害などの外因(続発性 secondary)で,萎縮・変性がおこる.本来は機能障害を含めるが,眼底で小さい変性巣では機能変化の確認がとれないのはよくあること.加速された退行変性とも解釈できる.
後部硝子体は,網膜との接着が強い部分がある.
①視神経乳頭周囲,
②黄斑周囲,
③網膜血管周囲,
④赤道部~周辺部,である.
①②③は,Müller細胞基底膜と硝子体線維とが接合していることに因る.
♣ 後部硝子体皮質前ポケット
後極部血管アーケードに囲まれた約3乳頭径ほどの領域には,液化腔が存在する.黄斑網膜の表面には薄い硝子体皮質が後部硝子体膜(ポケット後壁)となっている.
黄斑前膜や黄斑円孔の形成は,ポケット後壁が病変の場となると考えられている.後部硝子体剝離では,高率にポケット後壁が網膜面に残るらしい.
網膜新生血管はポケット後壁を足場として,視神経乳頭・アーケード血管から硝子体中へ発育する.その定型が,増殖糖尿病網膜症ということになる.
♣ 反応の場としての関与
a.硝子体細胞:マクロファージ系細胞で,網膜面近くで活性化する.
b.サイトカイン など:VEGF・VPF,TGF-β,などの発現.
血管新生angiogenesis(増殖)は発生過程や創傷治癒過程では必須の反応であるが,完成された眼内では基本的に悪性の反応である.図式的には,低酸素状態で基底膜の損傷と血管新生促進因子の分泌がおきる.虚血網膜が発する増殖因子の標的は,視神経乳頭,血管アーケード,毛様体,虹彩,隅角部である.網膜面では網膜内の毛細血管構築が変わる部分,視神経乳頭ではぶどう膜と網膜循環の接点となる部分,ぶどう膜では後毛様動脈系循環の接点といった共通項があるようにみえる.これに硝子体が加わる.増殖した血管内皮細胞は,遊走→管腔形成へ至る.すなわち,既存血管(特に静脈側)から生えたものである.
ⓐ増殖網膜症 や ⓑ脈絡膜新生血管 では血管内皮増殖・線維芽細胞増殖が中心となり,線維血管膜 fibrovascular membraneを形成する.これらの血管の増殖反応は,網膜では硝子体方向へ,あるいは脈絡膜から網膜下へ向かう方向のベクトルが同じという共通点がある.ときに,脈絡膜血管が網膜血管に接続したりする(加齢黄斑変性).
◐ 増殖網膜症 proliferative retinopathy
一般に血管新生を促進させる状態は,炎症と低酸素(虚血)である.網膜虚血では,糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞,眼虚血症候群が三大原疾患である.この中で最も高度な虚血状態及び血液関門の破綻をきたすのが糖尿病によるもので,活動性の高い増殖病変である.
◑ 新生血管黄斑症 neovascular maculopathy
臨床的には網膜病変のながれで解釈するが,新生血管発生の場は原則として脈絡膜である
(脈絡膜新生血管).
◐ 血管新生緑内障 neovascular glaucoma / rubeotic glaucoma
虹彩ルベオーシスや隅角ルベオーシスは眼内新生血管の好発パターン.
◑ 毛様体新生血管
低眼圧になる.
◓ 血管新生因子 【 ☞ 病理 では 】
血管新生因子は複数ある.片や硝子体や網膜色素上皮細胞には抑制因子が存在し,生理的には血管新生は起こらない.血管内皮増殖因子VEGFは網膜ではグリア細胞・網膜色素上皮細胞から放出され,網膜の維持に働いている.
XVIII型コラーゲンは基底膜に強く発現し,血管新生を制御している.これらの恒常性がくずれることで器官発生に異常をきたし,疾患に於て血管新生が誘発されると考える.
脈絡膜新生血管では,おもに網膜色素上皮細胞とマクロファージがVEGFを産生するらしい.他方,ドルーゼンは慢性炎症の存在を示し,ドルーゼンの構成成分(補体などの集合体)は増殖因子産生の刺激となる.炎症で遊走されたマクロファージはドルーゼン処理に作用するが,一方で新生血管発生を促進させる.
網膜新生血管では,血管内皮細胞・Müller細胞・神経系細胞にVEGF活性の元があるらしい.
網膜色素上皮細胞は,体細胞の中で代謝の最も活発な組織のひとつである.
機能
・視細胞間と色素上皮間の接着,水移送
・血液網膜関門と栄養の授受
・レチノール(vit A)その他の視細胞代謝(外節の貪食,など
・色素 ・・・・・・・ メラニン顆粒(遮光
・・・・・・・ リポフスチン顆粒(代謝産物,すなわち加齢
・サイトカインの分泌 ・・・・・ VEGF,FGF,TGF-β,PDGF,インターロイキン,インターフェロン
VEGF:血管内皮増殖因子(脈絡膜の発生維持機構において直接的な役割を担っているのは,RPE から脈絡膜側へ分泌されるVEGFである.
TGF-β,プラスミノーゲンアクチベータインヒビタ-1 (PAI-1)など:血管新生抑制因子
・「グリア」としての位置づけがある.
視細胞と網膜色素上皮との接着
❶神経網膜は網膜色素上皮に押し付けられている.
①硝子体静水圧(約 1mmHg.
②硝子体➡脈絡膜の膠質浸透圧差(約12mmHg.
③網膜色素上皮細胞のポンプ作用(水移送.
要するに硝子体から外へ向かう水の移動と共に,網膜下腔は陰圧となっている.
❷細胞間隙に接着成分が存在する.
❸視細胞外節と色素上皮細胞とは,かみ合う構造になっている.
色素上皮細胞の増殖・化生と遊走
・神経網膜が変性や炎症で萎縮・荒廃すると,色素上皮細胞が増殖して色素沈着をつくる.
・脈絡膜新生血管が生じると,色素上皮細胞が増殖して„囲い込む“ような形をとる(これにより血管新生を抑制するらしい).
・裂孔原性網膜剝離のとき,色素上皮細胞が硝子体中へ散布されることがある.
硝子体中へ遊走した網膜色素上皮細胞は線維芽細胞状に変化(化生╱上皮間葉転換)する.あわせて,
増殖因子に反応した感覚網膜内のグリア細胞も線維芽細胞化することで進行する病態が„増殖硝子体網膜症“である.
・実験的な増殖では周辺細胞のほうが活発だそうである.黄斑下細胞は光ストレスで弱っているのかな.
加齢,メラニンとリポフスチン,ドルーゼン
●加齢 aging
物を見る⇒光を浴びる,という宿命により,生直後から進行する一連の成長〜成熟〜老化のプロセスを包括する.
●形状・遊走
本来の六角形であるのが不整形細胞が増えるとのこと.脱落した細胞の穴埋めの時にいびつになる,と説明される.
増殖した色素上皮細胞は網膜内に遊走する.
●メラニン melanin 黒色素
チロシンというアミノ酸からできる.加齢と共に減少する.
色素として光の吸収や散乱防止,紫外線を防御する.光曝露による活性酸素を中和する.
●リポフスチン lipofuscin 脂褐素
加齢と共に増える残渣・沈着物(消耗色素)で,メラニンの代謝産物や貪食された視細胞外節が消化されずに色素上皮細胞内に残ったもの.青色領域(430nm)を吸収することで光曝露により活性酸素を発生し,細胞傷害性に作用する.多量のリポフスチンは萎縮(dry)型加齢黄斑変性(地図状萎縮)の危険因子である.
リポフスチンは
自発蛍光(FAF)を発する.この特性が網膜色素上皮細胞の病態の情報になることで,加齢黄斑変性の早期変化や網膜色素変性の進行状況などを把握するモノサシとして期待される.
色素上皮細胞が放出しBruch膜に蓄積した代謝物や脂質が
ドルーゼンである.大型ドルーゼンは滲出(wet)型加齢黄斑変性(線維血管膜の増殖→線維性萎縮)の危険因子である.
視細胞色素
●キサントフィル xanthophyll
黄色のカロチン類(カロチノイド)で,黄斑色素と呼ばれるのはルテインとゼアキサンチン・メソゼアキサンチンの2種.中心窩には主にゼアキサンチンが集まり,その周囲にルテインが分布する.短波長に対するフィルタ効果(吸収ピーク460nm),抗酸化作用(ラジカルの消去)など,保護作用と考えられている.
フィルタ効果の代償として、バイオレットライトはルテインをダメージする.喫煙・加齢により減少する.
青色光を励起光とするFAFでは,蛍光阻止blockegeとして作用する.
同類のアスタキサンチン(赤色)は非常に強い抗酸化作用があり,ルテイン・ゼアキサンチンとも容易に血液網膜関門を通過する,とのことである.
緑黄色野菜,トウモロコシ,多種のフルーツおよび花の中にも存在する天然色素.卵黄の色も決定する.黄斑の名の元であるが,ヒトでは体内で合成できず,食物として摂取する.
カロチンCarotinは独逸語系,カロテンcaroteneは英語系の表記.
加齢変化は,視機能を損なわないレベルの生理的所見である.
いわゆる,正常範囲を規定することは重要ではあるが,眼底所見は数値化がならず,所見の把握が主観に左右されるのは日常茶飯である.
これらを踏まえて !
(1) 網膜表面反射・血管反射検眼鏡所見・眼底カメラ所見とも,表面反射がにぶくなり,特に輪状反射が消える.中心小窩反射も不明瞭となる. (2) 脈絡膜所見網膜色素上皮・脈絡膜のメラニンが減り,赤味を帯びる. (3) 視神経乳頭周囲乳頭周囲は萎縮・色素脱出し,輪状にうすい色調を示すことがある. (4) 黄斑部網膜色素上皮とBruch膜間に沈着した網膜色素上皮由来の分解代謝産物が蓄積し,hyaline(硝子)様物質として黄白色の塊を作る. ドルーゼン drusenである. (5) 写真
●右図・上は,①豹紋状眼底,②輪状反射の消失,③網膜表面反射の消失,など. (6) 動脈硬化眼底血管の動脈硬化は,細動脈硬化である. (7) 組織変化神経細胞に脂質・リポフスチンが溜まる.血管硬化のほか毛細血管閉塞が起きる.視細胞核が本来の外顆粒層の範囲を超えて外網状層やら視細胞層へはみ出す所見がみられるとのこと.基底膜の肥厚は例外ではないらしい. |
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