ヒトでの色の認知は三原色の混合による.これらの混合比が基準光と異なる場合が色覚異常 color deficiency である.
☆色覚障害
「色盲」・「色弱」・「色覚異常」などの言葉が好ましくないという立場から,「色覚障害」・「色覚特性」という呼称が提案されている.「正常色覚」の使用も問題視する立場に対しては「標準色覚」という言葉が提案されている.
ここでは習慣上「色覚異常」とする.
☆色 覚 color vision / Farbsehen
色覚とは,色を見分ける能力である.
◎色覚 ☞☞ 【 確認と追加説明 】
■色覚
錐体には青・緑・赤を担当する視物質を含む三種類があり,光の吸収により波長に応じた明暗信号が生じる.大脳視覚連合野においてこれらの混合比を分析し,色覚が発生する.
この色覚について『色神 color sense ⁄ Farbensinn』と云っていたが,いつの間にか死語になってしまったようだ.
それにしても,赤・緑・青の視物質という表現は極めて危うい.いわゆる L 錐体,M 錐体,S 錐体が,それぞれ 赤・緑・青 を認識する,と考えると大きく 誤解 する.吸収特性の違う三種類と言えば誤解は少ないだろうか.各視物質が担当する波長を吸収するとエネルギー強度に応じた信号を発する.要は錐体1色覚,例えば赤錐体だけ作動して見えている景色は マッカッカではない ,ということだ.
■色覚異常
発生原理 | |||
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長波長感受性錐体(L錐体)の障害 | ⇒ | 1型色覚(第一色覚異常) | protan |
中波長感受性錐体(M錐体)の障害 | ⇒ | 2型色覚(第二 〃 | deutan |
短波長感受性錐体(S錐体)の障害 | ⇒ | 3型色覚(第三 〃 | tritan(希少) |
色覚の認知 | |||
一色のみ(明暗 | ⇒ | 旧:全色盲 | |
二色の混合 | ⇒ | 旧: | |
三色の混合 | ⇒ | 旧: |
種 類 | |||
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1.先天色覚異常 | |||
1)1,2型(L錐体,M錐体)(X染色体連鎖劣性遺伝) 頻度:男性 4.5%,女性 0.2%:色覚異常以外正常 | |||
a.1型3色覚(旧 第1色弱・赤色弱)(13%) | |||
b.1型2色覚(旧 第1色盲・赤色盲)(11%) | |||
c.2型3色覚(旧 第2色弱・緑色弱)(63%) | |||
d.2型2色覚(旧 第2色盲・緑色盲)(13%) | |||
2)3型(S錐体)(7番染色体) 稀 | |||
a.3型3色覚(旧 第3色弱・青色弱) | |||
b.3型2色覚(旧 第3色盲・青色盲) | |||
3)1色覚 頻度:0.003%:異常錐体細胞の種類により異なる | |||
a.錐体1色覚(杆体は正常.S錐体では低視力) | |||
b.杆体1色覚(眼振・羞明・低視力などの症候) | |||
2.後天色覚異常 | |||
疾患・薬物による網膜・中枢の障害 | |||
引用:日本の眼科 2013(8) |
■先天異常
色覚異常の通常では,遺伝性素因に因る病態を指す.
先天性錐体機能不全すなわち,先天赤緑色覚異常(X染色体劣性遺伝)が代表であるほか,先天青黄色覚異常(常染色体優性),杆体一色型色覚(常染色体劣性),青錐体一色型色覚(X染色体劣性)などがある.
基準 | protan | deutan | tritan |
A.異常三色覚(anomaly):いわゆる色弱,障害三色型色覚 anomalous trichromat
三色の混合で等色されるが,混合比が正常三色型色覚とは異なるもの.
1型三色覚(protanomaly)
第一色弱は赤色弱のことで,L錐体の機能が本来のレベルに達しない状態を指す.
2型三色覚(deuteranomaly)
第二色弱は緑色弱のことで,M錐体の機能が本来のレベルに達しない状態を指す.
3型三色覚(tritanomaly)
青黄色弱
B.二色覚(anopia):いわゆる色盲,二色型色覚 dichromat
元の意味は,三原色のうちの二色,赤あるいは黄色と青との混色によってすべての色と等色が可能であるもの.いずれかの錐体が欠如したものと考える.
1型二色覚(protanopia):第一色盲は長波長感受性視物質がない(赤色盲).
赤は可視スペクトルの端にあり,ほかの 2 種類の錐体の視感度とは重複が少ない.よって,比視感度は短波長にシフトし赤側の端の光に対する感度がない.赤が黒っぽくなることで区別が難しくなる.
2型二色覚(deuteranopia):第二色盲は中波長感受性視物質がない(緑色盲).
スペクトル内の緑ちかくは, L錐体(赤)およびS錐体(青)の視感度とは部分的な重複があり,スペクトル全体に対してほぼ正常に近いレベルの視感度がある.ただし,個々の色の区別は困難となる.
3型二色覚(tritanopia):第三色盲は短波長感受性視物質がない(青黄色盲).
S錐体の視感度はほかの2つの錐体と重複が少なく,第三色盲の人のスペクトルに対する視感度の喪失はより深刻なものとされる.
C.一色覚:いわゆる全色盲,あるいは一色型色覚 monochromat
教科書的には通常の色覚異常と同様に停止性,ということであるが,長期的には緩やかに萎縮が進行し,遺伝子変異を基にする遺伝性網膜ジストロフィの範疇と考えられている.
杆体一色覚:rod monochromatism
全色盲の典型で,強い羞明と色覚の欠損がある.すなわち低視力(0.1前後),眼振,昼盲(明順応障害)を示す.暗所視(低照度)では正常者と同等の視力を示すが,明所視では昼盲となり羞明を呈する(従って視力不良となる).眼振は振子様眼振で,明所視で増強する.近見時には減少する.錐体系ERGのレスポンスはない.Purkinje現象は生じない.Panel D᠆15検査においてscotopic軸に記録される.
なお,眼底は正常所見とされ,組織学的には錐体が無いわけではなく,総数や形状・機能が問題のようである.本来の錐体色素が欠如し,ロドプシンに置き換わった錐体(rhodopsin cone)とされる(定型杆体一色型色覚).
非定型杆体一色型色覚として,残余色覚が認められ視力も0.3~0.7ほどを確保する本症のグループがある.組織学的に錐体数の減少がないということで,視細胞レベルよりも上位の神経伝達障害とも考えられている.
杆体一色覚患者の50~80%に黄斑低形成が合併する.視細胞エリプソイドゾーンの欠失や視細胞層の萎縮,網膜内層の遺残がみられる.眼底自発蛍光によると,症例により網膜変性を示唆する多様な所見を示すとのことである.
全人口の 0.003%ほどとのこと.常染色体劣性遺伝形式でCNGA3,CNGB3,ACHM1などが原因遺伝子として報告されている.
錐体一色覚:cone monochromatism
視力は良好で,眼振や羞明がない.杆体は正常に機能しているので,Purkinje現象が観察される.
a.赤-緑錐体一色覚
・第一色覚型:緑錐体のみ機能
・第二色覚型:赤錐体のみ機能(きわめて希
b.青錐体一色覚
青錐体は視力が悪く,吸収極大波長は420nm 付近にある.暗所視ではピークが510nm 付近へ移動するから,逆Purkinje現象となる.
明所では青錐体だけ,暗所では杆体だけしか機能しないため,一色覚となる.しかし 錐体と杆体の両方が機能する薄明視においては,比視感度ピークが420nmの青視物質ヨドプシンと510nm の杆体視物質ロドプシンにより波長を弁別し,二色覚となることがある.
赤-緑錐体が不良品であることから,中年以降に黄斑変性に移行する可能性があるとのこと(通常の色覚異常は黄斑変性を発症することはない).
■遺伝
臨床上問題になるのは赤緑異常であり,その他はまれなものである.異常の程度は,生涯変わることはない.
杆体一色覚:常染色体劣性遺伝.CNGA3,CNGB3,GNAT2 の突然変異が原因となる.
青錐体一色覚:X染色体劣性遺伝.赤・緑色素が発現せず,ほとんどが青錐体である.
1型色覚・2型色覚:X染色体劣性遺伝をする.よって,色覚異常者は男子で20人に1人である(5%・・色弱4%/色盲1%)のに対し,女子ではその十分の一以下(0.3%程度といわれる)である.女性保因者の頻度は約10%になる.
1型色覚は男子の約1%ほど(色盲:色弱=1:1,
2型色覚は男子の約5%ほど(色盲:色弱=1:5, とか ?
3型色覚:
3型色覚は男子人口の約 0.001%ほど ? とかで,ごく希なものといわれている.
青色素をコードする遺伝子は第7番染色体上(7q22‐qter)にある.
赤・緑色素をコードする遺伝子はX染色体長腕上(Xq22‐q28)にある.赤・緑視色素遺伝子は系統発生的に新しく,ともにX染色体の近傍に位置しているため遺伝子交叉・変異を起こしやすい.
ロドプシン遺伝子は第3染色体にある.
★検査
★助 言★
説明すべきことは,色覚や色覚異常について,学校や日常生活での注意事項,それに職業選択に際しての注意点である.先天的な感覚の異常であるため自覚していることは少ない.しかし正常とは異なった色の判断により第三者には奇異とも思える言動をすることがあり,これを知能が遅れている,あるいは不真面目,不謹慎,情緒障害などと誤解され,ひどく傷つけられることがある.少なくとも家族は理解しておく必要があるし,教育の現場にも理解を求めておくとよい.進学・職業適性について,一般的には色を直接扱う仕事,色合わせや変色の判定,などは一見できているようでも大きな失敗をする可能性があるので勧められない.色の判断が補助的なものであれば,強度でもOKとしてよい.ただし異常であることを自覚し,時には間違った判断をする可能性があることをわきまえている必要がある.一般的な色覚検査の成績から個々の職業の適否を論ずることはできない.最近は制限がゆるめられる傾向にある.色覚異常への対応は診断よりもその後の説明,カウンセリングが重要である.(引用 今日の治療指針2001)
★患者家族のリスク★
発端者の両親
色覚異常男性の父親は色覚異常でも変異保因者でもない.
家族内に2人以上の罹患者がいる場合は,罹患男性の母親は絶対的保因者である.
もし家系内で発端者が唯一の罹患者であるならば,母親が保因者であることは間違いない.なぜなら,新生突然変異は赤緑色覚異常において報告されたことがないからである.
男性罹患者の母親は,保因者である.
ホモ接合体の女性の母親は,娘の色覚異常の原因となっている.
女性保因者はめったに色覚異常の問題を抱えていない.しかし軽度の異常が色覚検査で見つかることがある.一部の女性保因者は,不均衡なX染色体不活化の結果として色覚異常をもつことがあるかもしれない(浸透度).
発端者の同胞
発端者の母親は変異の保因者であるため,妊娠ごとに変異が受け継がれる可能性は50%である.
変異を受け継いだ男性の同胞は罹患する.変異を受け継いだ女性の同胞は保因者となる.
もし発端者がホモ接合体の女性ならば,その女性の姉妹は各々保因者であるリスクが50%あり,色覚異常であるリスクが50%である.
発端者の子
発端者の男性は,娘全員に変異を伝え,その娘は保因者となる.息子には変異を伝えない.
ホモ接合体の女性は,彼女の子全員に変異を伝える.息子は罹患し,娘は保因者となる.
発端者の他の家族:発端者の母方のおばは保因者である可能性があり,そのおばの子孫は,性別によるが,保因者か色覚異常罹患者となる可能性がある.
■後天異常
遺伝的素因によって起こる先天性色覚異常を除いたすべての色覚異常のことである.この場合こそ,色覚障害(deficiency)と言うほうが妥当かもしれない.重要なことは,本来は正常な色覚でありながら,疾患によって二次的に起きた色覚異常という点である.角膜から大脳皮質までのどの部位も原因となる.すなわち,水晶体,網膜,視神経疾患のほか,大脳性色情報処理障害,心因性色覚障害,色視症,加齢に因る生理的な色覚変化も含める.
次のような点を特徴とする.
障害の程度は病変と共に変化し,原疾患の軽重程度と並行する.
後天異常は,一眼(患眼)におこる.原疾患によっては両眼発症もあるが,左右眼で異なる.
全身薬剤性などでは両眼性がある.先天性色覚異常では原則両眼性である(例外あり).
後天異常では,色覚の変調に自覚がある.
正常であった(はずの)以前の状態との違いに気づく.
色覚以外の視機能障害,あるいは器質的障害を伴う.
検査は先天異常に準じた色相混同軸により,青黄異常,赤緑異常,暗所視型,混同軸不明,などに分類する.
★後天青黄色覚異常(blue-yellow defect
多くの網膜・脈絡膜・視神経の疾患に認められる.先天第三異常に似る.
網膜全体の感度が低下した時に青要素が障害されやすい,と説明される(薄明視現象 mesopisation .同時にコントラスト感度の低下も起きる).
・中心性漿液性脈絡網膜症,網膜色素変性(錐体ジストロフィ,白点状網膜症 ・・・),網脈絡膜循環障害(糖尿病網膜症,高血圧網膜症,腎性網膜症 ・・・),加齢黄斑変性,などなど
・うっ血乳頭,常染色体優性視神経萎縮,緑内障 ・・・・・
★後天赤緑色覚異常(red-green あるいは orange-cyan defect
視神経,特に視交叉より中枢の疾患に認められる.視力の低下した状態のほうが,より定型的な赤緑異常を示す.
視神経での伝達ユニット(RG系,BY系)は共に障害されるが,その中で赤-緑の低下が目立つ,と説明される.
・球後視神経炎(エタンブトール神経炎を含む),遺伝性視神経萎縮(Leber型),中毒性視神経症(タバコ弱視),視神経萎縮,視交叉病変,脳腫瘍 ・・・・・
・時に遺伝性黄斑変性(Stargardt病,錐体ジストロフィ,コロイデレミア ・・・・・
★検査
・主に,色相配列検査法に依る.社会適性判定の意味合いがある.
・Amslerチャートにも 中心暗点や後天色覚異常に有用なデザインのものがある.
■物理的・心理的要素に因る色覚異常(色視症chromatopsia)
物理的要素によるもの.
網膜前出血による赤視症,白内障手術後の青視症,フルオレセインによる黄視症,など
心理的要素によるもの.
一定しない.色視野の異常,らせん状視野,同心性視野狭窄(管状視野)などを伴うことで評価する.
薬物中毒
クロロキン,ジギタリス,
サントニン
■色覚の成熟
短波長の認識が遅れて完成する,らしい.
■加齢に因る色覚異常
色相の弁別能は10歳代後半から20歳代が最も良い.それ以降,青黄軸の識別が不良となる.
水晶体の着色や黄斑部の着色,縮瞳などが影響するという.
青錐体系の処理システムの変化は,標準色覚表後天異常用(SPP2),Lanthony's New Color Test,青錐体系感度の測定で確認できる,らしい.
■大脳病変に因る色覚異常と色失認
■第四色覚異常
4 種類の錐体保有者のことかい ?
■色順応
同じ色を見続けていると,その色味が次第にあせて見える.持続してみていると明るさへの感度も変わるが,特に色味(hue,
₪☞ John Dalton(1766⁓1844)
化学教師 Dalton先生は色覚異常だった.弟も同様で,色の見え方が他人と違うことに気付いたのは20代半ばだったとのこと.その観察記録が『Extraordinary facts relating to the visin of colours:with observations. Memoirs of the Literary and Philosophical Society of Manchester 5, 28-45, 1798』として発表された.なんと先天色覚異常の初めての報告だそうである.
これにより色覚異常を daltonism (ドールトン病)と呼ぶ.
2023