外科領域真菌感染症のマネジメント
帝京大学医真菌研究センター
山口英世

 近年の医療技術の進歩は目覚ましいものがあるが、その反面、基礎疾患・病態のみならず医療処置自体も危険因子となって様々な難治性日和見感染の発生率を高め、患者の予後に深刻な影響を与えている。そうした問題をひき起こしている代表的な感染症の1つが深在性真菌症(以下、真菌症)にほかならない。
 外科領域に限ってみても、疾患・病態としては悪性腫瘍、多発外傷、広範囲熱傷、高APACHE IIスコア、SIRS、多臓器不全、糖尿病などが、また医療処置としては開腹手術、人工呼吸、血液透析、中心静脈カテーテル、高栄養輸液、尿道カテーテル留置、抗がん剤、ステロイド薬、広域抗菌薬などがいずれも真菌症の危険因子となる。
 これらの危険因子が幾つも組み合わされて易感染状態に陥った患者に好発する真菌症の大半は、消化管内に常在するCandida albicansをはじめ幾つかのnon-albicans Candidaの内因感染による腹腔内その他の部位の侵襲性または播種性カンジタ症である。幸いにも現在国内で臨床導入されているポリエン系やアゾール系の抗真菌薬は、いずれも大半のCandida spp.を有効菌種としており、加えて、近く上市予定の新しいクラス(キャンディン系)の薬剤も強力な抗Candida活性をもつことが知られている。
 このようにカンジタ症の治療に選択可能な抗真菌薬の種類や数は決して少なくないのであるが、感染が進展して重症化した症例はしばしば治療困難となる。このことから、発症が少しでも疑われる場合には直ちに治療に踏み切るべきとのコンセンサスが得られ、診断確実(proven)例に対する標的治療(targeted thrapy)に加えて、疑診(possibleまたはprobable)例に対する経験的治療(empirical therapy)という図式と概念が一般化しつつある。この考え方に立って、目下、真菌症の診断と治療のガイドラインについて試案作りが進められている。この話題を中心に真菌症対策の現状を紹介する。


surgery2@.med.teikyo-u.ac.jp


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