外科感染症研究会
生体反応からみた外科感染症予防

東京大学医学部附属病院 手術部 齋藤英昭
 
 術後感染症発生は細菌汚染の程度、手術侵襲・手技、宿主防衛能で左右される。このうち、宿主防衛能には様々な免疫システムが関与し、これらの免疫システムは術前の状態や手術侵襲自体によって影響を受ける。そして、免疫システムは多彩な術後の生体反応を引き起こし、ときに侵襲局所や全身の生体反応を抑制して感染症を招来する。本講演では、低栄養、術前好中球の接着異常、さらには治療因子としての抗生剤や特殊栄養成分を焦点に、生体反応からみた外科感染症予防について述べたい。
 低栄養では術後感染性合併症発生頻度が高いが、低栄養では局所ケモカインやサイトカイン産生の低下、末梢好中球の接着分子発現の低下が生じ、流血中好中球の炎症局所血管内皮細胞への接着やその後の滲出が抑制されて、滲出好中球数が減少し、さらに滲出好中球の貪食能も低下する。このようなマクロファージや好中球などの機能は、細胞内シグナル伝達で制御されており、実際、低栄養時には白血球のチロシン活性化やERK活性、さらにはNFkB活性などが異常になっている。このシグナル伝達機構異常はごく短期間の栄養補充で改善する。
 一方、術前低栄養などがなくとも術後感染症が発症する患者では術前の好中球のCD31発現低下や滲出能亢進を伴わない接着能亢進がみられる。このような好中球動員異常の検討によって、術後感染症発症のリスク判定や新しい術後感染症予防対策の開発が期待される。 
 また、治療因子として、抗生剤の種類による細菌感染時の好中球の細胞死、すなわちネクローシスやアポトーシス、が影響をうけることも明らかになっている。さらに特殊栄養成分補充投与は手術患者での感染発生率を減少し、入院期間を短縮するが、特殊栄養成分のひとつグルタミンは、マクロファージ、好中球の機能を維持、亢進させる。また投与脂肪酸のn-6/n-3比が免疫担当細胞のシグナル伝達機構を制御し、侵襲時のサイトカイン産生や接着分子発現、アポトースなどの生体反応に影響する。
 以上、生体反応からみた周術期管理による外科感染症予防について述べる。


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