[[ 教育講演1:『真菌感染症の問題点について』 ]]

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教育講演1:『真菌感染症の問題点について』 

山口 英世
帝京大学医学部微生物学

5月13日(水) 11:20〜12:00
司会:小濱 啓次(川崎医科大学救急医学)

  重篤な真菌感染症の発生率は依然として増加傾向にあり、その予防・治療対策は易感染患者の医療管理のうえで益々重要となっている。国内で問題となっている真菌感染症の原因菌は、いずれも日和見菌であり、感染の成立には生体の免疫能低下または皮膚・粘膜上皮バリアの欠損が必要条件となる。こうした条件は、様々な内科的または外科的疾患、および医療処置によってもたらされる。とくに後者は、現代の高度化した医療と直接的に関連しているだけに、その問題は深刻かつ複雑であるといわざるを得ない。
  一般に集中治療を必要とする患者は、真菌感染のリスクが高いとされ、そのなかで最も大きな問題となるのが重度熱傷患者である。これらの患者では、侵襲型または播種性のCandida感染症の発症率がとくに高い。C. albicansをはじめ幾つかのCandida spp. は、ヒトの常在菌としても知られるが、健常者からはさほど高頻度で分離されるわけではない。しかし易感染患者においては、入院期間が長引くほど分離率が上昇し、それに比例して発症例も多くなる。
  重度熱傷患者が真菌感染とくにCandida感染に対して高いリスクをもつ理由は、熱傷自体が機械的バリア機構の喪失(局所皮膚組織の欠損、消化管粘膜の欠損、萎縮など)および全身的免疫機能の抑制(CD3/CD4/CD8 Tリンパ球の減少、食細胞の貪食機能低下、IL-2産生の低下など)にある。それに加えて、こうした患者に処置される血管カテーテル挿入、長期の気管内挿管、非経口栄養法(中心静脈栄養)、広域抗菌薬投与なども感染の進展・増悪を促進する。したがって患者に対する特別な治療的ならびに予防的配慮が必要となる。前者に関しては、早期に適切な治療を開始するのに要求される信頼性の高い診断法が不可欠であり、現行の血清診断法よりもさらに優れたDNA診断などの新しい方法の開発・導入が今後の重要な課題となる。
  治療薬としては、国内ではamphotericin Bやアゾール系薬剤など5剤が臨床に導入されている。しかしいずれの抗真菌薬も有効性や安全性の点で限界があり、より有用性の高い新規薬剤の早急な開発が期待されている。
  Candida感染症症例の大半は、腸管などに常在する本菌の内因性感染によって発症したものと考えられる。したがって生体防御能の低下につながる前出の様々な危険因子を可及的に除去することが有効な予防手段となる。そのほかCandida感染を増悪する要因として、近年細菌とくにPseudomonas aeruginosaの混合感染が患者の予後に大きな影響を与えるとして問題視されているところから、同時に病原細菌へも適切に対処することもまた重要である。
  以上述べたように易感染患者での重篤なCandida感染症をはじめとする真菌感染症をめぐって現在数々の問題に直面している。その解明と克服を目指して多くの研究グループが精力的に検討を進めており、われわれの基礎的研究を含めて現況を紹介する。

 


帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@med.teikyo-u.ac.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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