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教育講演2:『熱傷の呼吸理学療法』 

宮川 哲夫
昭和大学医療短期大学理学療法学科

5月13日(水) 14:20〜15:00
司会:鵜飼 卓(大阪市立総合医療センター救命救急センター)

  近年、広範囲熱傷患者の救命率は改善し、受傷直後の死亡は減少している。しかし、ショック期離脱後の合併症の頻度は依然として高率であり、呼吸管理に伴う呼吸器感染症が生命予後を大きく左右している。重症熱傷では気道熱傷を合併した場合の死亡率は40%、気道熱傷と肺炎を合併した場合は60%とも報告されている。また、気道熱傷の38〜50%は肺炎に移行すると報告されており、肺炎、無気肺などの治療・予防は重要であり、集中的な呼吸理学療法が必要になってくる。熱傷患者の呼吸理学療法には、@リラクセーション、A呼吸訓練(腹式呼吸、incentive spirometry)、B排痰には 体位排痰法(排痰体位、squeezing、percussion、vibration、bagging、咳、huffing、吸引)、気管支鏡による吸引、HFPV(high frequency percussive ventilation)による喀痰排出促進、kinetic bedによる持続的体位変換、吸入療法、C胸郭可動域訓練、D早期離床 などがあげられる。気道熱傷の生理学的変化は@胸郭コンプライアンスの低下、A気管支血流量の増加、B気道抵抗の増加、C死腔の増加、Dサーファクタントの不活性化、E呼吸仕事量の増加、F肺リンパ流量の増加、Gリンパ蛋白の増加、H低酸素血症、I気道内分泌物の増加 などが認められる。痰の特徴として、痰のアルブミン浸出増加、粘稠なball valve様痰が気管支を閉塞させる。このように胸郭が固く、痰が粘稠であり、換気が制限されている場合には、排痰手技のpercussionやvibrationは有効でない場合もあり、我々はsqueezingを中心に施行している。早期の呼吸理学療法の開始時期は2つあり、まず、手術前の受傷早期には手術に備え、無気肺、肺炎などを起こさないように努める。次に、術後の安静による肺合併症の予防のために行う。一般的には、2時間毎の体位変換、気道内吸引と6〜8時間毎の排痰法を行う。手術前の排痰手技は制限されることはほとんどなく、V度の熱傷では疼痛は生じないため十分に施行できる。しかし、術後は制限されることもある。特に植皮術後3日間は皮膚の生着の確認をするため行わないが、、4日目から皮膚の状態が安定していれば、排痰手技は施行することができる。排痰手技では滅菌ドレープで覆った上からsqueezingを中心に施行する。また、vibrationを行うときには滅菌したフォームラバーパッドの上から行う。皮膚移植後の自発呼吸下の患者では、排痰手技の代りに呼吸訓練や咳の介助を行う。換気が少ない場合にはバッグによる加圧換気とsqueezingを併用したり、分泌物が粘稠で困難な場合には気管支鏡とsqueezingを併用し施行している。北米の熱傷センターにおける呼吸理学療法では、気道内分泌物の除去、呼吸音の改善、咳の改善、動脈血ガスの改善、吸気努力の改善、呼吸数の低下、胸郭可動域の改善、挿管数の低下、耐久性の増加などに有効であると報告されている。また、気道熱傷のハイリスク群での死亡率の低下は、積極的な排痰法(頻回の気管支鏡による痰の吸引とkinetic bed)が原因しているとしており、呼吸理学療法の重要性が示唆されている。
  このように早期からの呼吸理学療法を集中的に施行することにより、熱傷患者の呼吸器感染症の低下に役立てれば幸いである。

 


帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@med.teikyo-u.ac.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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