[[ 教育講演3:『培養表皮移植の基礎と臨床応用』 ]]

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教育講演3:『培養表皮移植の基礎と臨床応用』 

熊谷 憲夫
聖マリアンナ医科大学形成外科


5月14日(木) 14:00〜14:40
司会:小川 豊(関西医科大学形成外科)

  広範囲の重症熱傷患者の治療において、恵皮部の不足のために熱傷創をカバーしきれず死亡する症例も依然として少なくない。この問題点を解決すべく表皮細胞の培養に関する研究が行われ、1975年、Rheinwald&Greenが表皮細胞の大量培養に成功した。その後、シートの状態で培養表皮を移植できるようになり臨床応用への道が開けた。1981年0'Connorらが自家培養表皮の移植による治療例をはじめて報告した。ついで1984年Gallicoらが腋窩に残っていた2cm2大の皮膚から培養した表皮を移植して、体表面の97%以上を受傷した患児2名を救命した。Miracle of test tube skinというタイトルで全世界に報道されたことからも分かるように、この治療法なくしては救命できえなかったものと考えられる。わずかな皮膚からでも広範な熱傷面を閉鎖できることから、重症の熱傷患者にとっては最後に残された治療法といえ、欧米をはじめ本邦でも培養表皮移植による熱傷患者の治療が行われるようになった。 演者は1985年より培養表皮を用いた臨床応用を開始し、熱傷創、皮膚欠損創、熱傷瘢痕、皮膚移植後の醜状、皮膚疾患(先天性巨大色素性母斑、白斑など)、刺青などの疾患を自家ないしは同種培養表皮で治療してきた。治療総数は延べ350例以上に及ぶ。
  従来の皮膚移植と違い薄い表皮のみの移植である。感染創に移植しても生着しない。真皮上に移植すると生着率はよく、肉芽面や脂肪上だと生着率は極端に悪くなる。このため、III度熱傷創を自家培養表皮で治療する際にはまず同種皮膚を移植し、後に同種真皮上に移植する方法が欧米で用いられ、70%以上の生着率をみるようになった。演者もこの方法により85%以上の熱傷患児2例を救命し、移植後の外観も優れていた。臓器移植法案の可決、skin bank体制の拡充により本邦でも重症熱傷患者の治療に同種皮膚を使用する機会も増えてくるものと期待される。それとともに培養表皮の供給体制が確立されてくれば、重症熱傷患者が救命される機会も高まるものと考える。一方、演者の経験から培養表皮は熱傷創の治療以外にも皮膚醜状を治療する手段としても有用な素材であることが分かってきた。 本講演では、培養表皮の特性、創の違いによる移植後早期の表皮の分化・基底膜形成・移植床への影響、長期観察症例での移植部の性状と組織学的結果について報告するとともに、自家および同種培養表皮による熱傷をはじめとする各種疾患の治療法とその結果を供覧する。

 


帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@med.teikyo-u.ac.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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