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会長講演: 熱傷と栄養 −21世紀への展望−

小林 国男
帝京大学救命救急センター

5月14日(木) 13:30〜14:00
司会:藤井 徹(長崎大学形成外科)

  広範囲熱傷は生体に加わるきわめて大きい侵襲であり、栄養失調症(PCM)は本損傷に特徴的な病態の一つである。熱傷ショック期を乗り越えた患者は痩細り、感染を合併して死に至るのが1960年頃までの一般的な経過であったと思われる。その頃から重症熱傷患者に対する栄養治療の重要性は欧米を中心に広く認識され、今日まで重症熱傷治療の一つの柱として栄養管理の研究改善が行われている。私が熱傷患者の治療に取り組みだした1980年頃には、わが国で栄養管理に興味を持つ人はまだ少なかったが、その当時の主題は如何にして多くの熱量を投与するかであった。その後、栄養基質の過量投与は生体に負荷を与えてむしろ有害であるとの考えが定着し、適正熱量を糖、アミノ酸、脂肪のバランスのとれた栄養基質で投与するようになっている。分岐鎖アミノ酸に富む侵襲時用アミノ酸なども市販され、栄養管理の目的をPCMの予防と考えれば、ある程度目的を達成できる段階にきたと言える。今後は一層の蛋白代謝改善を目指して、成長ホルモンやIGF-1などで代表される栄養基質以外の活性物質によるNutritional Modulation が臨床で行われようになるものと思われる。
  重症熱傷患者は皮膚の損傷によることのほか、免疫能の低下から易感染性になることが知られている。最近、Bacterial Translocation の概念が導入され、現在広く実施されている経中心静脈栄養法に代わって経腸栄養法が推奨される傾向にあるが、目的の一つは感染性合併症の予防にあることは言うまでもない。高血糖が感染のリスクを高めることはよく知られているが、ある種のアミノ酸や魚油などの特殊な脂質の投与が免疫系に大きく関与することが明らかとなりつつある。外科栄養学はこれまでのPCMの予防改善ばかりでなく、感染性合併症の予防など積極的な重症患者治療法としての一翼を担う方向にある。
  21世紀には新しい栄養治療の知見が熱傷治療の臨床に応用され、超早期手術の導入や人工被覆材の改良など局所治療法の進歩と相まって、広範囲熱傷患者の治療成績がさらに向上することが期待される。


帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@med.teikyo-u.ac.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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