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【杙創 ???-???x?】41歳/男性

<現病歴> <来院時理学所見> <来院時X線所見> <来院時検査所見> <経過> <コメント> 
【現病歴】

  9:00頃、建設工事現場で作業中足台がふらつき2階(約5m)から転落。殿部より墜落した形でコンクリートから出ていた鉄筋(直径9mm)が左大腿部に刺さり貫通した。救急車到着時には同僚が背部を支え坐位となっており、意識清明、BP 110/70mmHg、PR 66/min、呼吸18/min。現場にレスキュー隊が出動し鉄筋を切断して搬入された。

  覚知  9:10
  現着  9:16
  搬入  9:33

【既往歴】

  25才の時交通事故で右下肢の骨折で手術を受けたことがある以外に特記すべきことはない。

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【来院時身体所見】

 意識清明、BP 140/92、PR 88/min、RR 24/min、体温(腋窩 35.6℃)
 左大腿部ほぼ中央に、直径9mmの鉄筋が、右やや内側上方から外側下方に向けて貫通しており、出血はほとんど見られない。左足背動脈の拍動は良好で下腿、足部に知覚異常は診られなかった。
 上記外傷以外には、頭部、胸部、腹部に外傷はなく異常所見は認められない。

 鉄筋は背側に約10cm、前面に約30cm突出しているため、損傷部の安静、移動および検査を行う上で邪魔となるため、レスキュー隊によりそれぞれ突出部を切断させた。

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【来院時検査所見】

搬入時血液ガス所見

条件: 50% O2 mask
pH 7.464 PaO2 121 mmHg PaCO2 39.5 mmHg BE +5.2 mEq/L

血算
RBC 463 x10^4/cmm
(370-560)
Hb 15.0 g/dl
(11-17)
Ht 44.3 %(33-44)
WBC 10100 /cmm
(3000-9000)
Plt 26.4 x10^4/cmm
(15-36)

生化学
TP 6.5 g/dl
(6.5-8.2)
TBil 0.9 g/dl
(0.1-1.2)
AST 34 U(7-21) ALT 60 U(4-17) LDH 373 U(140-360)
Alp 150 U(100-280) Amy 61 U(62-218) CK 143 U(35-170)
BUN 12.1 U(8-17) Cr 1.1 U(0.5-1.3)
sNa 144 mEq/L
(135-150)
sK 3.6 mEq/L
(3.5-5.3)
sCl 104 mEq/L
(96-107)
BS 145 mg/ml
(60-120)
CRP 0.1 (<0.3)

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搬入時X線所見

 鉄筋は左大腿骨の内側を左前内側より背側に貫通しており、大腿骨そのものには損傷を認めない。しかし、鉄筋の抜去に当たり大腿動脈、膝窩動脈の損傷の有無と解剖学的位置関係を明らかにするため血管造影(DSA)が行われた。

 DSAによると、鉄筋は大腿動脈を背側に圧排し、大腿骨と大腿動脈の間を貫通している。大腿動脈そのものには損傷はなく、血流は良好で血管壁の異常も攣縮も診られず、分岐血管の損傷もなく出血も認められなかった。

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【経過】

 血管造影により、大腿動脈の損傷はなく、貫通している鉄筋は大腿動脈とある程度の距離があることが判明したので、鉄筋を抜去し、止血を確認、創内をネラトンカテーテルで洗浄しペンローズドレーンを挿入し閉創している。

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【 Comment 】

< 杙創 impalement injury >

 鋭的損傷(刺創)のうち、刃物以外の比較的鈍的構造物の刺入した損傷を「杙創:よくそう impalement injury」と言う。杭(くい)、鉄棒など棒状の構造物により、このような構造物の上に落ちたり、爆発により飛来して突き刺さって受傷する。

次のような特徴がある

  • 刃物に比べ刺入物自体が一般に大きい
  • 損傷挫滅範囲も大きい
  • 刺入物は汚れていることが多い

 損傷の程度や重症度は損傷部位によるのでまとめて論じることに意味がない。

刺創全体の原則として、

  • 抜去せずに搬送すべきである
  • 損傷組織の解剖学的位置関係を明らかにしてから抜去する
     特に主要血管との解剖学的位置関係を明らかにする
  • 出血性ショックにあれば、検査よりも手術が優先される
  • 手術にあたっては、「死腔を極力少なくする」ことが肝要
    • 創内を十分洗浄する
    • 創内のデブリードマン(壊死組織の除去)を十分する
    • 止血を確実に行う(動脈性、woozingはやむを得ない)

最近の「杙創」
< CaseT960406 >

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帝京大学救命救急センター
Trauma and Critical Care Center,
Teikyo University, School of Medicine
鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
Hiromasa Suzuki, MD
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